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彼は人気者。
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さあ、七月に入りました。夏の始まりでしてよ。学園ではすっかり、軽やかなお姿の皆様。夏服がよくお似合いでしてよ。
学園は魔力によって冷房も効いておりますの。これも、大樹の力の恩恵ですわね。ええ、寒がってなどいませんわ、恩恵に対してそんな。
「うう……」
ぶるっと震えてしまいました。さあ、学年が違うイヴとも別れましたし、教室にさっさと入ってしまいましょう。
「ごきげんよう、皆様」
私から挨拶をすると、ぽつぽつと返事が返ってきました。ある時期に比べれば、前進してましてよ。
「……」
それにしても静かな朝ですこと。私は教室の中央を見ました。前までは、賑わっていたところです。級友達がそこに集まっていましたから……『彼女』と話をしたくて。
ブリジット・ジェルネ。大国の王女にして聖女。そして、我が国の王太子の現婚約者であられますわ。私は元の方でございます。破棄された方でございます……!
殿下との正式な婚約発表後、ブリジット様は休学されることに。来年の殿下の卒業をもって婚姻となりますのに、今の時期とのことでした。準備やご事情があるのでしょうね。
ブリジット。かつて結衣が共に過ごした少女と同じ名前。姿も似ておりますが、私とは面識がないご様子。それどころか……まあ、色々ありまして。
ええ、色々ありました。ですが、改めて彼女の凄さを実感します。彼女一人がいるだけで、教室内が華やぐということ。皆、笑顔が溢れるということ。それが、ブリジット様の素晴らしさであるのでしょう。
「……っと、アリアンヌ様? すみません、ご挨拶が遅れまして」
私に気づいたのは、教室の隅の方に座っていた男子生徒。夏服をきっちりと着こなした彼は、読書中のようでしたが、立ち上がりました。
「おはようございます、アリアンヌ様」
「ごきげんよう、ヒューゴ殿」
彼はヒューゴ殿。私がエンディングを迎えた相手でいらっしゃいます。といっても、友愛。甘い関係ということもありません。
「そうだ、アリアンヌ様。この前の本で――」
「ええ、良書を薦めていただいて――」
ヒューゴ殿が私の元へやってきたので、そのまま雑談をしていました。なんと、手にした本も貸してくださると。有難いですわ!
「――おはよう、みんな」
よく通るお声。晴れやかな笑顔で教室に入ってきた彼は、一斉に注目されます。
「って、遅刻じゃないよな? なら、おっけーってことで」
悪びれもなく言う彼の名はオスカー・フェル。武勲を立てた男爵家の令息であらせられます。
「よっ、オスカー! いんや、ギリギリだし? 遅刻だ、遅刻」
「そうそう。叱られちゃえー」
来て早々、生徒達に絡まれていますわね。続々と人が集まってもいます。
そんな人気者である彼。サラサラの黒髪も遊ばせていますわね。背丈と体格もあって、爽やかな笑顔が似合う彼。制服はヒューゴ殿同様、きちんと着られてます。上のボタンまで留めていますの。何気にそうなのですね。
「っと、ヒューゴもおはよう。アリアンヌ様もごきげんようっ」
「ごきげんよう、オスカー殿」
朝から気持ちの良い挨拶ですわね。私、笑顔になりますわ。
「ええ、おはようございます。オスカー……今の内に席に着きなさい。先生が来られる前に」
「はいはーい」
ヒューゴ殿もその流れで、席に着きました。意外と話がわかりますものね。ご本人が夜間、学校に忍び込むところもありますし。オスカー殿も嬉しそうに席を着いておりますわ。
あ、ちょうど予鈴が鳴りました。ええ、セーフですわね、セーフ。
私も着席し、オスカー殿をちらりと見ました。後、すぐに視線は前に戻しております。バレてません、バレてませんわ。
「……」
オスカー・フェル殿――攻略対象の一人。
とても人当たりの良い方ですわ。慣れない環境の私に普通に声をかけてくれたのもそう。クラスで孤立していた時もそうでしたわね。彼は中立であろうとしてくれました。私としても、好ましい方であります。
ええ、好ましい方ではあるのですが……。
「!」
視線を感じる方に、向いてみると――オスカー殿と目が合いました。それから彼は小さく手を振っていました。私も振り返してみました、笑顔で。ちゃんと笑顔になっていたかしら……。
「ははっ」
オスカー殿は小さく笑いました。その、殿方相手でも愛らしいとは思いましたが……。
『うん、それもあるけれど――――あなたの伴侶選びもあるって』
『……良い機会だなって。お近づきになれたらって』
ああ……そうでしたわ。そ、そう言って、わ、わた、私の腰を抱き寄せたではありませんか……! 私の父も言ってなかった、ならばオスカー殿も父君にしてやられたのでしょうか……?
「ぷっ」
思い出し赤面している私を見て、オスカー殿は笑われました。……私を見て。教師が来られたので、さすがに前方に向きを戻してはいましたわね。
おっと、隣の女子生徒に絡まれてますわね。小突かれそうになるも、オスカー殿は笑顔で回避してます。頬を膨らめる少女の肩に触れるのはオスカー殿。女子生徒は満更でもなく、はにかんでいます。あまりにも手慣れたご様子に、私、実況してしまいましたわ。
オスカー殿、あなた。なんともまあ……フレンドリーの化身ですの?
「……っと」
バツ印の烙印も押されてますが、この日々を無駄にはしないように。もちろん、オスカー殿に対してもそうなのです。
前世でのプレイ時、攻略失敗をしていたオスカー殿。従姉の早口アドバイスがあっても、把握しきれていないオスカー殿。あなたの人となりも知っていこうではありませんか。
学園は魔力によって冷房も効いておりますの。これも、大樹の力の恩恵ですわね。ええ、寒がってなどいませんわ、恩恵に対してそんな。
「うう……」
ぶるっと震えてしまいました。さあ、学年が違うイヴとも別れましたし、教室にさっさと入ってしまいましょう。
「ごきげんよう、皆様」
私から挨拶をすると、ぽつぽつと返事が返ってきました。ある時期に比べれば、前進してましてよ。
「……」
それにしても静かな朝ですこと。私は教室の中央を見ました。前までは、賑わっていたところです。級友達がそこに集まっていましたから……『彼女』と話をしたくて。
ブリジット・ジェルネ。大国の王女にして聖女。そして、我が国の王太子の現婚約者であられますわ。私は元の方でございます。破棄された方でございます……!
殿下との正式な婚約発表後、ブリジット様は休学されることに。来年の殿下の卒業をもって婚姻となりますのに、今の時期とのことでした。準備やご事情があるのでしょうね。
ブリジット。かつて結衣が共に過ごした少女と同じ名前。姿も似ておりますが、私とは面識がないご様子。それどころか……まあ、色々ありまして。
ええ、色々ありました。ですが、改めて彼女の凄さを実感します。彼女一人がいるだけで、教室内が華やぐということ。皆、笑顔が溢れるということ。それが、ブリジット様の素晴らしさであるのでしょう。
「……っと、アリアンヌ様? すみません、ご挨拶が遅れまして」
私に気づいたのは、教室の隅の方に座っていた男子生徒。夏服をきっちりと着こなした彼は、読書中のようでしたが、立ち上がりました。
「おはようございます、アリアンヌ様」
「ごきげんよう、ヒューゴ殿」
彼はヒューゴ殿。私がエンディングを迎えた相手でいらっしゃいます。といっても、友愛。甘い関係ということもありません。
「そうだ、アリアンヌ様。この前の本で――」
「ええ、良書を薦めていただいて――」
ヒューゴ殿が私の元へやってきたので、そのまま雑談をしていました。なんと、手にした本も貸してくださると。有難いですわ!
「――おはよう、みんな」
よく通るお声。晴れやかな笑顔で教室に入ってきた彼は、一斉に注目されます。
「って、遅刻じゃないよな? なら、おっけーってことで」
悪びれもなく言う彼の名はオスカー・フェル。武勲を立てた男爵家の令息であらせられます。
「よっ、オスカー! いんや、ギリギリだし? 遅刻だ、遅刻」
「そうそう。叱られちゃえー」
来て早々、生徒達に絡まれていますわね。続々と人が集まってもいます。
そんな人気者である彼。サラサラの黒髪も遊ばせていますわね。背丈と体格もあって、爽やかな笑顔が似合う彼。制服はヒューゴ殿同様、きちんと着られてます。上のボタンまで留めていますの。何気にそうなのですね。
「っと、ヒューゴもおはよう。アリアンヌ様もごきげんようっ」
「ごきげんよう、オスカー殿」
朝から気持ちの良い挨拶ですわね。私、笑顔になりますわ。
「ええ、おはようございます。オスカー……今の内に席に着きなさい。先生が来られる前に」
「はいはーい」
ヒューゴ殿もその流れで、席に着きました。意外と話がわかりますものね。ご本人が夜間、学校に忍び込むところもありますし。オスカー殿も嬉しそうに席を着いておりますわ。
あ、ちょうど予鈴が鳴りました。ええ、セーフですわね、セーフ。
私も着席し、オスカー殿をちらりと見ました。後、すぐに視線は前に戻しております。バレてません、バレてませんわ。
「……」
オスカー・フェル殿――攻略対象の一人。
とても人当たりの良い方ですわ。慣れない環境の私に普通に声をかけてくれたのもそう。クラスで孤立していた時もそうでしたわね。彼は中立であろうとしてくれました。私としても、好ましい方であります。
ええ、好ましい方ではあるのですが……。
「!」
視線を感じる方に、向いてみると――オスカー殿と目が合いました。それから彼は小さく手を振っていました。私も振り返してみました、笑顔で。ちゃんと笑顔になっていたかしら……。
「ははっ」
オスカー殿は小さく笑いました。その、殿方相手でも愛らしいとは思いましたが……。
『うん、それもあるけれど――――あなたの伴侶選びもあるって』
『……良い機会だなって。お近づきになれたらって』
ああ……そうでしたわ。そ、そう言って、わ、わた、私の腰を抱き寄せたではありませんか……! 私の父も言ってなかった、ならばオスカー殿も父君にしてやられたのでしょうか……?
「ぷっ」
思い出し赤面している私を見て、オスカー殿は笑われました。……私を見て。教師が来られたので、さすがに前方に向きを戻してはいましたわね。
おっと、隣の女子生徒に絡まれてますわね。小突かれそうになるも、オスカー殿は笑顔で回避してます。頬を膨らめる少女の肩に触れるのはオスカー殿。女子生徒は満更でもなく、はにかんでいます。あまりにも手慣れたご様子に、私、実況してしまいましたわ。
オスカー殿、あなた。なんともまあ……フレンドリーの化身ですの?
「……っと」
バツ印の烙印も押されてますが、この日々を無駄にはしないように。もちろん、オスカー殿に対してもそうなのです。
前世でのプレイ時、攻略失敗をしていたオスカー殿。従姉の早口アドバイスがあっても、把握しきれていないオスカー殿。あなたの人となりも知っていこうではありませんか。
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