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遠慮なく訪れますわよ?
しおりを挟む日も暮れました。さあ、帰る時間です。オスカー殿は、領地の入口まで見送りにきてくださいました。
廃屋は――解体することになりました。解体後、元のものを再利用しつつ組み立て直すということに。オスカー殿は寂しそうにしておられましたが、納得もしていました。思い出はなくならないと、そう仰ってもいました。
「……本日はありがとうございました」
「いえいえ。こちらも楽しんでおりましたもの」
こんなにも肉体を動かせたのですもの。かいた汗も尊いものでしょう。
本日はこれでお別れとなりますが、また後日の訪問もとりつけておりましてよ。まだ学ぶことがあると言っておきましょう。そういうことにしておきましょう。
「……オスカー殿。遠慮しないでくださいましね」
私は馬車に戻る前に、彼を見た。わりとよそよそしくあった彼。学園での砕けた態度からすると、寂しさもあるものでした。
「……ですが」
オスカー殿はやはりというか、遠慮がちでした。きっと……そうですわね。あなたは、私が公爵家の令嬢、アリアンヌであると。気づいておられますわね。というか、名前も呼んでましたし。
「……ううん、いっか」
オスカー殿は考えておられましたが、表情が明るくなりました。
「……あのさ、アリアンヌ様。聞きたいことがあるんだけど!」
あ、はっきりと呼ばれましたわ。オスカー殿が私に尋ねてきました。
「春休みって言ってたし。学園に通う、それもアリエス学園。合ってる?」
「ええ、その通りですわ」
「だよね。殿下も通っていらっしゃるし。あなたが通うならそこかなって」
「ええ」
推理されてますわね。合っていましてよ。
「……多分、同学年だと思うし。今から練習だと思えば……うん、いけるいける」
オスカー殿はぶつぶつ呟いています。まるで自身に暗示をかけているような……。
「いける!」
何かがいけたようです。オスカー殿は開眼されていました。そして掴んできたのは――私の両手ではありませんか。『あ!』と叫んだのはイヴ。その後の彼は抑えているようです。
「本当にさ、無理のない範囲でいいので。つか、普通に遊びに来てくれるだけでも嬉しいし!」
「まあ……」
手はぶんぶん上下に振られておりますが、嬉しいことを言ってくださるのね。本当に喜ばしいこと。
「……視察でも観光でも、どっちでもいい。俺、嬉しいんだ。この地に訪れてくれて。だから、遊びに来てくれるだけで、全然……」
手の激しさはおさまりましたが、その代わりに強く握られるようになりました。震える声のオスカー殿。あなたは相当苦労をされているようですわね。
「また参りますから。約束とてしていますからね? 遠慮なく訪れますわよ?」
「……うん」
私が笑うと、オスカー殿も眉を下げて笑った。どこか上手く笑えてないそのお顔。私は本当の彼を垣間見えたと、そう思いました。
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