脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯～ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます！～

憂うオスカー殿。

　入学の日まで迫っておりました。教育の合間に男爵領を訪れています。復旧も進んでおりました。

「……ヒューゴ殿はお元気かしら」

　男爵領にかかりきりで、ダンジョンからは遠のいておりました。前にギルドを覗いてみましたが、ヒューゴ殿のお姿はなく。彼も忙しいのでしょうね、ええ。

　本日も男爵領へ。


「――いつも悪いなぁ、なんか」
「いえいえ、遠慮なさらないで」

　復旧作業の休憩中、私は欠かさずプレゼントを渡していました。ええ、段階はきちんと踏んでましてよ？　割れてしまっては困りますし、怖ろしいですし。

「あ、これ助かる。ちょうど切らしていたんだ」

　今回渡したのは修理道具たち。すぐ使うことになりますが、包装はしております。他にも筋トレに良さそうなもの、武器の手入れ道具。お肉の詰め合わせ……なんのお肉かしら。さておき、多種多様なものをお渡しできました。

『うわー、捗るわぁ。隙間時間に出来そうでいいよな』
『俺もだけどさ、みんなも喜びそう。分けてもいいかな？』
『うまそう。大量にあるし、チビ達にもふるまっていいかな？　もちろん、アリアンヌ様たちもご一緒に』

　と、反応もいただきました。オスカー殿、皆様のことも考えておいでなのね。私は感心しました。

『……あ、なんかこれいいかも。落ち着くというか、闇を感じるというか。いいな、これ』

　ええと……オスカー殿？こちら、不思議なプラプラ人形の亜種ですわね。色味が暗めでしてよ。よろしいのです？　闇を感じるのが良いのですの……オスカー殿？
　プレゼント効果もあって、オスカー殿と打ち解けるようになったと思えます。好感度も底辺状態からも脱しました。今ならば。

「オスカー殿。こちらもよろしければ」

　私が渡そうとしたのは――レア宝箱から出たものです。

「……ごめん。なんか高そうなオーラがするっていうか。そこまでは申し訳なさすぎて」
「……失礼しましたわ」

　オスカー殿はこうして、レアなものは遠慮されます。中を見る前からですわね。
　ヒューゴ殿の時ももう少し仲が良くなっていた時でしたし、まだ早いのかもしれませんわね。

「いんや？　本当にさ、嬉しいんだよ。俺も何か贈り物できたらなぁ」
「いえいえ、お気遣いなさらないで。私があげたいだけですから」
「……そう？」

　オスカー殿はじいっと私の方を見ています。どこか警戒もされているよう。配分、偏ってしまいましたわね。疑われて受け取り拒否は避けたいものです。

「――さて。ラストスパートかけますかぁ！」
「ええ！」

　休憩時間もこのへんで終わり。私達は再開することにしました。私達から距離をとっていたイヴも既に作業に入っていますわ。急ぎませんと。


　ふう。本日の作業もここまで。廃屋だったそこも、建物として復活間近です。

「本当にありがとう……アリアンヌ様、イヴ君も」

　オスカー殿は感慨深そうに眺めていました。特別な思い入れがあるのでしょうか。

「……ここさ、食事処だったんだ。でもって、たまり場」

　オスカー殿が呟かれました。彼は続けます。

「……楽しかったよ。訓練の帰りとか、みんなで訪れて。でも最近になって店主が……いなくなって。誰もいなくなって」

　そうでしたの……そのようなことが。

「……皆、そうやっていなくなっていく。ここだけじゃない。空き民家、結構あっただろ？　……皆、愛想をつかして出て行ってるんだ」
「……そんな」

　空き民家。空地。確かに目にはしました。男爵領、栄えあると耳にしていましたのに、実情は違うのだと、目の当たりにはしてきました。だからって……。

「俺は当然だと思っているよ。だって――」

　オスカー殿が言いかけた時。足音がしました。

「きゃははは、オスカー？　あんたぁ、何やってるの？」
「というか、捜したんだけど？　こっちが頼んだこと、やってくれてるのぉ？」

　甲高い笑い声と共にやってきた婦人達。私達は振り返りました。その声もお姿も覚えがあるもの――フェル男爵家のご婦人方。オスカー殿の義理の姉妹にあたる方々。

「ぷっ。薄汚れた格好だこと。私達を見習えばいいのにぃ」
「もうお姉様ったらぁ。可哀そうよぉ……それに、オスカーにはお似合いではなくて？」

　くすくすと扇子を片手に笑う彼女達。豪華なドレスで着飾る彼女らに対し、オスカー殿は汚れた作業着。対比となっておりました。

「……っ」

　オスカー殿は手を強く握って――耐えておられました。彼は言い返すこともありません。
　……オスカー殿。あなたの思い出の場所でしょうに。どうして、何も言わないのです。そんなにも耐え忍ぶというのですか。

「……オスカー殿」

　何故、あなたの瞳はそんなにも揺れ動いているのです。そんな、泣きそうな顔をなさっているの……？　

「あんたなんて、領主よりもそうやって？　下働きの方がお似合いなんじゃない？」
「きゃはは、そうそう！」

　馬鹿にしているのですね。それでもオスカー殿は……。

「――ええ、お似合いでしょうね」

　私は黙っていられなくなった。笑顔のまま、そう言い放った。

「……」

　オスカー殿は俯き、姉妹達は私を訝しんでいます。というか、今になって私の存在に意識が向いたのでしょうか。

「たとえ、どれだけ汚れようと。民に寄り添い、民を思う。そんなオスカー殿こそ、次期領主に相応しいと思いますわ」
「……」
「私も見習いたいところですわ。民があっての領地ですもの。ね、オスカー殿？」
「……」

　私はオスカー殿を見ました。オスカー殿は顔を下に向けたまま。

「な、なんなの。どこぞの令嬢か知りませんけどねぇ……！」
「お伴も連れずに？　男と二人きりとか？　程度が知れていませんか？」

　今度は私に対しても難癖をつけてきた。気分は良くないですが、事を荒立てることも――。

「……失礼だよ、二人とも。アリアンヌ様のこと、そんな風にいうなよ」

　絞り出すような声。オスカー殿は俯いたままながら、姉妹達にそう向けてました。

「なんなのよぉ、オスカーのくせに……！」
「待って、姉様！　この方、アリアンヌって……まさか」

　オスカー殿の言葉に憤慨していたのに、姉妹達は顔を見合わせました。私が公爵家の人間と知ると。

「た、大変失礼致しました！　ところで……オスカーと仲がよろしいのでしょうか？　ええ、是非仲良くしてやってくださいませ！？」　
「私達、出掛けますので？　このへんで失礼させていただきますね？　ごめんあそばせ？」

　態度を急変させ、足早に去っていった。着飾った彼女達、このまま夜遊びに繰り出すのでしょうか。