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逆らえないって思っていたのに。
しおりを挟む春休み最終日。私の骨も休めて良い日でありますが、男爵領に向かっておりました。さすがに新学期前ですから、イヴには休みを与えました。
やってきましたは、男爵領。あの廃屋は変貌を遂げておりました。詰めの作業をオスカー殿の方で進めてくださったようです。
「ごきげんよう、オスカー殿」
「……おはよう」
「完成しましたのね。お見事ですわ」
「……うん」
オスカー殿は心あらずですわね。先日の件を引きずっておられるのでしょう……。
「……この前はありがとう」
と、オスカー殿が切り出されました。
「……はあー、なっさけな。俺、前からあの人達には何も言い返せなくて。抵抗……だって出来なくて」
オスカー殿は空を仰ぎながら、そう口にしていました。頼まれごとも結局やったし、とも。
「抵抗、出来ていたではありませんか」
「……」
あなたは私を庇ってくれた。相当勇気が必要だったことでしょうに。
「あんなので……?」
「あんなのとは何です。充分ではありませんか」
「……はは。不思議だ」
力なく笑うのはオスカー殿。
「もう逆らえないって思っていたのに……なんでだろ」
彼は私の瞳を見つめて、そして。
「――アリアンヌ様がいてくれたからかな」
「……オスカー殿」
はにかんでいました。私もまた、その目からそらせず。
しばらくは見つめ合ったままでしたが、そらしたのはオスカー殿の方から。
「……。今日、時間もあることだし。案内するよ」
彼は何事もなかったかのように、そう提案してきました。今はまだ……核心には触れられませんのね。
「ええ、お願いしますわ」
私もその誘いに乗ることにしました。そうですわ、今の内にプレゼントを渡しておきましょう。
「オスカー殿、こちら。どうぞお受け取りくださいまし」
「プレゼント? うん、ありがと」
すんなりと受け取ってくださったわ。これはよきこと。
「――へえ、万年筆。書き心地も良さそうだね。普段使いに……そうだ!」
オスカー殿はご機嫌になったようです。それから、明るい顔を私に向けてます。
「アリアンヌ様、アリエスじゃん?」
「ええ、そうですわね」
「そうだ、そうだった。うわぁ、楽しみ」
「!」
オスカー殿はご満悦そうでした。やった、とまで仰ったのですから。私の思い違いではないはず、あなたも喜んでくださるのだと。ああ、私、小躍りしそうですわ。
「あとはだなー、同じクラスになれたらいいけど」
「きっと、同じクラスになりますわよ」
私が確信めいたよう言うと、オスカー殿は驚かれました。それでいて、興味津々でもあります。
「なにそれ、予言?」
「ええ、そうですわ。的中しましてよ」
「……はははっ、なにそれすごい」
私達は同じクラスになる。本当は知っていたから言えたことですが、ご容赦くださいませ
。
確認した好感度も器の半分ほどに。オスカー殿と親しくなったと思って良いのでしょうか。
幸先が良いこと。私の気持ちも上向きになっておりました。
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