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優しくて見た目も好み、そんなライバル。
しおりを挟む翌朝の登校時、私は学年が違うイヴと別れた後。
「おはよー、アリアンヌ様」
「まあ、オスカー殿。ごきげんよう」
後ろからオスカー殿が。教室までご一緒することになりました。
「そうそう、昨日の課題なんだけどさ――」
いつものように、世間話をしようとしていた時。オスカー殿の口は止まっておりました。彼の視線の先、それを私が辿ると――。
「……!」
私達の教室の前、担任教師と話し込んでいる『彼女』。周りの生徒からも注目されている彼女は――。
『――なんて、美しい子だろう。俺の理想そのものだ……』
かつてオスカー殿もそう、称していた。彼女は――ブリジット様。
「……あ、オスカー様?」
その美しい少女が、オスカー殿へと振り向く。
「あっ! 君はこの前の――」
オスカー殿もまた、彼女のことを知っているようで。親しみを込めて手を振っていた。そうでしたわね、あなたが話していたこと。あなた方は――絡まれていたブリジット様を助けだした。
「同じ学園だなんて……夢みたい」
頬を真っ赤にしながら、顔を覆うブリジット様。私も可愛いと思えたのですから、他の殿方はひとたまりもないことでしょう。ああ、彼女が駆け寄ってきました。
「オスカー様、お逢いしたかったです……!」
その白魚のような手で、彼の腕に触れようとして――。
「……やめてくれ!」
顔を歪めながら。少女の手を拒んだのは――オスカー殿でした。体を震わせ、息を荒げながら、彼は。
「オスカー様……?」
ブリジット様の手を払いのけていたのです。払われた彼女は茫然としていました。
「……あ」
オスカー殿は、自身の手を見つめていました。今になって、ご自身がしたことを理解したようです。ただ、言葉にはならないようで……。
「……」
見ているだけで苦しい。この重苦しい空気をどうにかしよう、私が動こうとした時でしたが。
「……ごめんなさい、オスカー様」
健気に、うち震えながら。ブリジット様は言いました。揺れる瞳、浮かぶのは涙。そんな彼女は、オスカー殿に寄り添おうとしています。
「急で……びっくりしちゃいましたよね。私がただ、あなたに触れたいからって。でもね、嫌な思いもさせたくないから……だから、今は触れないから」
ブリジット様は責めることなどしない。どこまでも添おうとする。
「いつか、あなたに触れられたらいいな……」
「こっちこそごめん。俺、ひどいことしたのに……君は優しいんだね」
ひたむきなブリジット様を、オスカー殿もまた見つめています。こちら……完全に二人の世界ではなくて? 先生まで見入っているではありませんか……。
そこで鳴ったのは予鈴。助かりましたわジャストタイミングですわ!
「――さあさあ、チャイムが鳴りましてよ? 私はアリアンヌ・ボヌールと申しますの。よろしくお願いしますわね?」
私は手を叩き、場を仕切らせていただきました。乗ずるものは乗じますの。
なにはともあれ、私達は教室に入ることにしました。やはりというか、ブリジット様に釘付けな皆様。お気持ちはわかりますわ……!
「はい。皆、席に着いたね。本日から通う事になりました。他国である――」
先生が黒板の前で説明をしてくださっています。ええ、大国の出身ですわね。それも王族の方であると。引き続きブリジット様と――。
「ご紹介に預かりました。私はブリジット・バリエと申します。こちらの国には来たばかりですが、大好きになれそうです。みなさんと仲良くなれたら嬉しいです。よろしくお願いしますっ」
ぺこりと挨拶したブリジット様。ああー、可愛いですわぁ……って! デレデレしている場合ではなくてよ。待って、『バリエ』ですって……? 苗字が違ってませんこと? それに、聞いたこともありますわ、確か――。
「彼女……バリエ商会のお嬢様じゃない?」
「バリエ商会? 有名なの?」
生徒の一人がそう口にしました。隣の生徒は疑問をぶつけています。
「うちでいうと、リゲル商会くらい」
「すごいっ!」
ええ、そうですわね。私もすごいっ! と声にしてしまいそうですわ。我が国の大商会と規模は同じといえるでしょう。身分は平民なれど、大富豪ともいえますわね。
そう、王族でも貴族でもなくて――。
『……もうさ、駆け落ちとかしてさ! 家のこととか何もかも放り投げたい!』
『はは……ふと、思っただけ。しがらみ、本当にそれだなって。軽々しく付き合ったりできないわけだし』
これはオスカー殿のお言葉。彼の本音。ええ、ブリジット様も自由にというわけでもないでしょう。相手に慎重になるのは、誰にでもいえること。ですが……貴族より自由ではありませんか。
「……」
オスカー様は微笑んだまま、ブリジット様を見ています。
見た目も好みで。守ってあげたくなるような可憐さで。オスカー殿の――痛みをも受け入れようとしてくれる。
「……えへへ」
ブリジット様も彼の視線に気づかれたようです。彼女は幸せそうに笑んでいました。
「……」
私の背中の冷や汗は止まってくれません。顔も引きつったままです。
ブリジット様。あなた、ヒューゴ殿狙いではありませんの? 前回はそうでしたわよね?
そんな――オスカー殿を愛しそうに見つめるなど。
「ふふふ……」
私から零れたのは笑い。ああ、隣の席のあなた、ごめんあそばせ。不気味でしたわね。
ええ、誓ったではありませんか。乗り切ってみせると。臆している場合ではありませんわよ、私!
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