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オスカー殿、旅立つ。
しおりを挟むようやく回復しました。私は無事、登校することが出来ましたの。
「皆様、ごきげんよう」
久々の教室でしてよ。まばらに返ってくる挨拶。クラスの中心にはブリジット嬢。いつもの光景ですこと。
「ブリジット嬢。素敵な贈り物ありがとうございました。愛用させていただきますわね」
「……こちらこそ、です。ありがとうございました」
ブリジット嬢からも誕生日当日、従者の方を通じていただいておりましたの。病欠で遅くなってしまいましたが、お礼が言えて良かったですわ。
「――あら? オスカー殿はいらっしゃらないのです?」
いつもの朝の風景かと思いきや、オスカー殿の姿がありません。私が口にすると、ブリジット嬢はあからさまに不機嫌になりました。
「休みです……誰かさんのせいじゃない? あんな嵐の仲、途中で帰ったのも――」
そこまで言うと、ブリジット嬢は口に手を当ててました。あ、といった具合に。
「お休みですって……?」
オスカー殿もまた、体調を崩されたというのでしょうか。それは、あまりにも申し訳がなさ過ぎて。
「おはようございます、アリアンヌ様。それとブリジット? 本当のことを話さないのですか」
「……ヒューゴ様? 何がかなぁ?」
本を手にしながら挨拶してくれたヒューゴ殿。彼はブリジット嬢を窘めていました。彼女は甘えるように誤魔化しているようです。
「体調不良ではありません。長期旅行と言っていました。それはそれでいかがかと思いますが」
「ありがとうございます、ヒューゴ殿……? ええと、旅行ですって……?」
教えてくださったので、ここはお礼を。ですが、私から疑問が離れてくれません。その、健康そうで良かったですが……旅行ですって? この時期に? 公務でもないのでしょう?
「私も連れてってくれれば良かったのに」
ブリジット嬢は口を尖らせてしまっています。ギョッとしたのは私くらいで。
「ブリジットったら。ま、あれだけ仲の良さを見せつけられたらね?」
「婚前旅行ってかー?」
周りは彼女に賛同しているではありませんか。それを受けて恥じらうのはブリジット嬢でした。満更ではなさそうです。
「もう、みんなったら……照れちゃうんだから」
体をもじもじさせるブリジット嬢を目にして、級友たちはときめいていました。その気持ちはわかりますわ。花も恥じらうとはこのこと。
「オスカー様、どこに行ったのかなぁ……まさかと思うけど」
あなた、なんて顔をなさっているの。一瞬ではありましたが険しい顔つき、私だけが目撃してしまいましてよ。ええ、他言はしませんわ。
「……大丈夫だよね、うん、大丈夫」
ブリジット嬢は何かを焦っているようでした……。
数日が経過し、オスカー殿は戻ってきました。両手にはたくさんのお土産がありました。
「ただいまー!」
教室に気持ちの良い挨拶が響きました。オスカー殿はとても明るい笑顔です。眩いですわ。
「……ねえ、オスカー様? まさかだと思うけど」
本来ならば飛びつく勢いでしたでしょうに。ブリジット嬢は頬をひくひくさせていました。彼女は土産を見て何らかを悟ったようです。
「そうそう君の国! いやぁ、長旅だったけど楽しかった!」
「ふ、ふうん? 私がいくらでも案内してあげたのに?」
底抜けの明るさのオスカー殿に、ブリジット嬢は後ろでを組んで迫ります。
「ええー、悪いよ。あ、こちらもさ。君のおじい様が持っていってって。ブリジットにも会いたがってたよ」
「へ、へえ……おじい様に。へえ……私抜きで」
周囲の生徒達は浮かれています。親族への挨拶になりますからね。ですが、当のブリジット嬢は顔をひきつらせたまま。なら何故、自分を連れていかないのかと。納得がいってないようです。
「ほら、配るからさ。席に適当に置いてくねー」
「お土産もサンキュだけどさ、話も聞かせろよっ」
「うん、もちろん」
オスカー殿は男子生徒に肩を組まれるも、笑顔で受け入れる。そうでしたわね……男性相手なら平気でしたものね。私一人が動揺してしまいましたわ。
オスカー殿はブリジット嬢の国に訪れていた。道中ヒッチハイクで向かっていたようです。やはりコミュ力の塊ではありませんか。そんな長旅を経て彼が会いに行ったのは、ブリジット嬢の祖父――バリエ商会の長だったのでしょう。
「……」
目的はわかりませんわね。ブリジット嬢との仲とか……なら、ご一緒でよいでしょうに。
「アリアンヌ様、はい」
「あ、ありがとうございます」
私の席にもやってきました。洗練された包みに入ったお菓子たち。仕事ぶりが伺えるもの。
「――放課後、いいかな?」
「ええ」
オスカー殿がこっそりと話しかけてきました。私は承諾しました。
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