135 / 442
人は言う、逆婚約破棄と。
しおりを挟む私が学園に登校すると、予想通りといえましょうか、噂は広まっておりました。
「……」
ええ、私は殿下から婚約破棄された身。覚悟は決まっていますわ。汚名が晴れただけ有難いではありませんの。
「皆様、ごきげんよう!」
さあ冷笑だろうと嘲笑だろうと! どんと来いでしてよ! 笑うならば笑いなさい! 私は力任せにドアを開きました。
「あ! アリアンヌ様だ!」
「おお、アリアンヌ様!」
……? ……?? 思っていたのと反応が違いますわね。こんなにも目を輝かせながらも、私の周りに集まってきますの?
「ごきげんよう。あれ、新聞見てなかった?」
オスカー殿が普段通りに来られました。ともかく私は頷きました。
「ほら、コロシアムのこと。俺がバリアーってしたでしょ?」
バリアーって。オスカー殿は両手を突き出して、バリア―と。軽々しくも仰ってますわね。
「いえ、バリアーって……バリアーですけれども。こう、神々しいものでありませんでしたこと? 栄光なるフェル家によるものであると」
「そう、それ! それがさ、妙にハマっちゃったっていうか。――無実の令嬢を守ったのは、王家の盾だって。正しき者を守った守護神だってさぁ……」
オスカー殿は照れています。ええと、大体把握しましたわ。
私は密かに安堵しておりました。私の大暴れのことよりも、オスカー殿の加護の方が広まっているようです。ですが、それも時間の問題でしょう。私の大立ち回りの目撃者もいるのですから。ああ、どう説明しましょう……いずれバレる前に、言い訳を考えておきませんと。
「オスカー殿の守護によって守られたと。そう大々的に取り上げられていますのね」
世間の認識はそうですわね。ああ、このまま通ってくださらないかしら。オスカー殿が前面でよろしいではありませんか!
「そういうこと! 新聞見てみて、まじでアリアンヌ様かっこいいからさ!」
「そんな。格好良いのはあなたでしょうに。私を守ってくださったのですから」
「そういうこと言うんだから……」
どこかむくれながら、それでいて顔が赤くなっているオスカー殿。私の発言によるものですが、こう、気まずいですわね……。
「っと、なにしてんだよ。オスカー! お前の手柄なんだからさ、もっとドヤれってー」
「そうだぞ、そうだぞ。ほら、あれやって、あれ!」
あっという間にオスカー殿はたかられてしまっています。親しい男子生徒たちによって。そして、オスカー殿。急かされてバリア―してますわね、バリア―って。
「アリアンヌ様、大変だったね。あの婚約者、あ、元婚約者か。ひどいことされて」
「ご心配ありがとうございます。殿下もお考えがあってのことなのでしょう」
慰めてくださるのは、嬉しいこと。私もこうして級友に囲まれるのは新鮮ですし、くすぐったくもありますわね。
「っていってもね、守護神つきのアリアンヌ様でしょ? 神がかっていたし、冤罪でもあったわけで。こうも言われているんだって――逆婚約破棄!」
「逆婚約破棄……ですの?」
逆婚約破棄……逆? 私は頭を巡らせました。頭から離れてくれませんわ。そんな私はさておいて、皆様盛り上がったままです。オスカー殿、まだネタにしていますわ。そのへんになさっては?
「でもさー、首謀者と実行犯たち。捕まってないんだよなー」
「!」
私の胸はざわつきました。思えばヒューゴ殿たちは捕まえたとは言ってませんでしたわ。あとは軍に任せたのでしょうけれども。
なんでしょう。まだ事件が解決してないと、そう思えてならないのは。
「……あの、ブリジット嬢はまだ容態が優れませんの?」
そう、彼女の姿が見えません。まだ回復しきれてないのでしょうか……。
「ブリジット? 普通に来ていたけど、職員室に行ってくるって」
と、教えてくださいました。
「ありがとうございます。そう、ご無事でしたのね……」
私は胸を撫で下ろしました。
「――みんな、おはよう?」
ちょうどのタイミングでした。静かにドアを開けたのはブリジット嬢。彼らも迎え入れます。楽しそうに笑うのはブリジット嬢。ああ、本当にお元気になられたのですね。
予鈴が鳴りました。私も席に着席しましょう――その前に。
「ヒューゴ殿。お礼が遅くなってしまいましたわね。あなたのご尽力、深く感謝致しますわ」
予鈴もあってか読書を中断されたヒューゴ殿に話しかけました。あなたにもお礼を言えましたわ。皆様あってのことでしたもの。
「いえ、お気になさらず。個人的にイラってきたので。本当にそれなので」
おざなりに言いますのね。ですが、ヒューゴ殿。
「そちらもですが……あなたが信じてくださったこと、心強く思いましたの」
殿下一派の中、あなたが味方でいてくださったから。感謝してもしきれませんわね。
「……」
「ヒューゴ殿?」
「……そちらも気にしないでください。席に戻られては?」
「ええ、かしこまりました」
ヒューゴの殿は顔を背け、再び本を開いていました。ええ、そうですわね。戻りましょう。
席に戻り際、目があったのはオスカー殿でした。彼はなんでしょう、肩を竦めておりましたわね。それから拗ねているご様子。その……いえ、これ以上はやめておきましょう。
「あら?」
着席した私は、机の中にある何かに気がつきます。取り出してみると、それは手紙でした。宛先は私の名、間違いないようですわね。
「家に帰ってからにしましょうか」
落ち着いて読むことにしましょう。送り主は――ブリジット嬢!
「……」
こっそりブリジット嬢を見ると、私は彼女と目が合いました。口パクで『開けて?』と。ええと、今すぐにでしょうか。私は教科書を盾にして拝見することにしました。
「なっ……!」
愛らしい文字でこう書かれていました――果たし状と。
0
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?
榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した
しかも、悪役令嬢に。
いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。
だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど......
※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました
瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。
そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。
【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!
白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、
この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。
自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。
ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、
それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___
「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、
トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘!
そんな彼女を見つめるのは…?
異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる