203 / 442
ダブルデート当日、殿下の狙いは。
しおりを挟む
ついに迎えたのは約束の日。俗にいうダブルデートですわね。私は邸の玄関にてお待ちしておりました。
『――アリアンヌ、ここらで勝負をつけるのよ。お母様の必勝ワンピースを着用なさいな!』
と、意気込む母によって私は仕立てられました。以前にも着用したことがある母の勝負服に、メイド達による渾身のヘアメイクでしてよ。もとより殿下が格式ばった服は控えるようにと仰っていました。適していることでしょう。
「――お迎えに上がりました」
「……!」
シルヴァン殿が参られました。彼もまた軽やかな装い。前髪もきっちりと上げてもいませんわ。見慣れない姿で……。
「……」
黙ってしまったのはシルヴァン殿もそう。私たちは互いに視線をそらしたまま、ずっとそうなりそうでしたが。
「……殿下もブリジット様もお待ちです。さあ、こちらへ――」
馬車を近くまで控えさせていたようです。私も彼の案内についていくことにしました。
馬車に乗り込むと既にお二人は乗車されていました。隣同士かと思えばそうではなく、彼らは向かい合って座っています。それでも見つめ合っていて良い雰囲気ではありますこと……ええ。
「……おおう、アリアンヌ。ささ、君はこっちだ。シルヴァンはあっちー」
「ええ、かしこまりました」
私の存在に気づくと殿下は誤魔化し笑いをしていました。手招きされた私は殿下のお隣に座ることになりました。シルヴァン殿も彼女の隣へ着席しています。
「……ほんと、いつもと雰囲気違う。シルヴァン様素敵です」
「はは、お褒めにあずかりまして光栄です」
体をすっかり委ねきっているブリジット嬢に、シルヴァン殿も満更ではないのでしょう。彼から笑顔が溢れていますわね。悪い気はしないといった感、出てますもの。
「ぐぬぬ……」
殿下はまさに見せつけられているといっていいでしょう。歯を食いしばってますわ……。
「……」
焦るのは殿下だけではありませんわ。私とて人のことは言えないのです。望む形は友愛であれど、かといってブリジット嬢との仲を祝福するわけにもいかず。
「ぐぬぬぬ……」
殿下……そこまでですの? 私も私ですが、私以上でしてよ? 隣から漏れだす負のオーラに圧されていましてよ?
「……ええ、そうですわね。皆様、本日は楽しみですわね。仲良く四人で回りましょうね? 仲良く、ね?」
私は名案だと手を叩きました。これぞ後腐れもないでしょう?
「お、おう。そうだな、アリアンヌ! 四人で仲良く、だな」
「ええ、殿下!」
まあ、殿下が賛同してくださったわ。正直、一番心配だと思ってごめんなさいませ!
「四人だって? 私……こっそり抜け出したいなぁ?」
ブリジット嬢は隣のシルヴァン殿に耳打ちしています。思いっきり聞こえてましてよ?
「はは……お二方の仰ることですから。皆様で楽しく回りましょう?」
「えー……でも、シルヴァン様がそう仰るならぁ」
シルヴァン殿も笑ってはいても、それとなくいなしていました。といっても、頬を膨らませているブリジット嬢を可愛いといった表情で見てはいます。
「ぐぬぅ……」
殿下は呻いてばかりです。ブリジット嬢も承諾してくださったのです。まさかですわよね……殿下?
そう予想しておりましたのに。予測ついていましたのに……!
「……殿下、あなたという方は」
「あー……してやられましたね」
人で賑わう都の広場にて、『私たち』は……取り残されてしまいました!
「ああ、なんてこと……」
私は目が眩みそうですわ……ええ、殿下のせいで。彼は上手くはぐれていきました。もちろん、ブリジット嬢を連れて。あれだけ嫉妬を向けてましたもの、そうしたくなってしまったのでしょう。
「……御身は大事に至らないでしょうが」
今の私たちもそうですが、殿下ならもっと護衛の方を潜ませているはずです。王家直々でもありますもの、余程のことはないかと存じますが……。
「いえ、追いかけましょう!」
万が一ということもありますもの。お姿を見て安心したいのもありましてよ。シルヴァン殿も頷いてくれました。ただ――。
「――アリアンヌ様。あなたの御身も大事ということ、ご理解くださいませ」
「え、ええ……」
私と彼の距離が近づく。シルヴァン殿は私を守るかのように体を寄せています。
「……」
彼の体温が伝わってくる。私の心は波立つばかりで――。
『――アリアンヌ、ここらで勝負をつけるのよ。お母様の必勝ワンピースを着用なさいな!』
と、意気込む母によって私は仕立てられました。以前にも着用したことがある母の勝負服に、メイド達による渾身のヘアメイクでしてよ。もとより殿下が格式ばった服は控えるようにと仰っていました。適していることでしょう。
「――お迎えに上がりました」
「……!」
シルヴァン殿が参られました。彼もまた軽やかな装い。前髪もきっちりと上げてもいませんわ。見慣れない姿で……。
「……」
黙ってしまったのはシルヴァン殿もそう。私たちは互いに視線をそらしたまま、ずっとそうなりそうでしたが。
「……殿下もブリジット様もお待ちです。さあ、こちらへ――」
馬車を近くまで控えさせていたようです。私も彼の案内についていくことにしました。
馬車に乗り込むと既にお二人は乗車されていました。隣同士かと思えばそうではなく、彼らは向かい合って座っています。それでも見つめ合っていて良い雰囲気ではありますこと……ええ。
「……おおう、アリアンヌ。ささ、君はこっちだ。シルヴァンはあっちー」
「ええ、かしこまりました」
私の存在に気づくと殿下は誤魔化し笑いをしていました。手招きされた私は殿下のお隣に座ることになりました。シルヴァン殿も彼女の隣へ着席しています。
「……ほんと、いつもと雰囲気違う。シルヴァン様素敵です」
「はは、お褒めにあずかりまして光栄です」
体をすっかり委ねきっているブリジット嬢に、シルヴァン殿も満更ではないのでしょう。彼から笑顔が溢れていますわね。悪い気はしないといった感、出てますもの。
「ぐぬぬ……」
殿下はまさに見せつけられているといっていいでしょう。歯を食いしばってますわ……。
「……」
焦るのは殿下だけではありませんわ。私とて人のことは言えないのです。望む形は友愛であれど、かといってブリジット嬢との仲を祝福するわけにもいかず。
「ぐぬぬぬ……」
殿下……そこまでですの? 私も私ですが、私以上でしてよ? 隣から漏れだす負のオーラに圧されていましてよ?
「……ええ、そうですわね。皆様、本日は楽しみですわね。仲良く四人で回りましょうね? 仲良く、ね?」
私は名案だと手を叩きました。これぞ後腐れもないでしょう?
「お、おう。そうだな、アリアンヌ! 四人で仲良く、だな」
「ええ、殿下!」
まあ、殿下が賛同してくださったわ。正直、一番心配だと思ってごめんなさいませ!
「四人だって? 私……こっそり抜け出したいなぁ?」
ブリジット嬢は隣のシルヴァン殿に耳打ちしています。思いっきり聞こえてましてよ?
「はは……お二方の仰ることですから。皆様で楽しく回りましょう?」
「えー……でも、シルヴァン様がそう仰るならぁ」
シルヴァン殿も笑ってはいても、それとなくいなしていました。といっても、頬を膨らませているブリジット嬢を可愛いといった表情で見てはいます。
「ぐぬぅ……」
殿下は呻いてばかりです。ブリジット嬢も承諾してくださったのです。まさかですわよね……殿下?
そう予想しておりましたのに。予測ついていましたのに……!
「……殿下、あなたという方は」
「あー……してやられましたね」
人で賑わう都の広場にて、『私たち』は……取り残されてしまいました!
「ああ、なんてこと……」
私は目が眩みそうですわ……ええ、殿下のせいで。彼は上手くはぐれていきました。もちろん、ブリジット嬢を連れて。あれだけ嫉妬を向けてましたもの、そうしたくなってしまったのでしょう。
「……御身は大事に至らないでしょうが」
今の私たちもそうですが、殿下ならもっと護衛の方を潜ませているはずです。王家直々でもありますもの、余程のことはないかと存じますが……。
「いえ、追いかけましょう!」
万が一ということもありますもの。お姿を見て安心したいのもありましてよ。シルヴァン殿も頷いてくれました。ただ――。
「――アリアンヌ様。あなたの御身も大事ということ、ご理解くださいませ」
「え、ええ……」
私と彼の距離が近づく。シルヴァン殿は私を守るかのように体を寄せています。
「……」
彼の体温が伝わってくる。私の心は波立つばかりで――。
0
あなたにおすすめの小説
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる