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殿下のお傍よりも。
しおりを挟む「……お待ちになって」
「うわっ」
私は先行く彼に追いつきました。シルヴァン殿、そこまで驚かなくても。まあ……本気走りした分、息も荒くなっておりますが。
「私も参りますわ」
「……っ」
シルヴァン殿、あなたは葛藤しているのでしょう。あなたが困ることになっても、私はあなたを一人にはしたくなくて……。
「はあはあ……」
「終わったか……」
街から外れるほど、魔物の残党は残っていた。私たちは邪魔だてする魔物らを狩りつくし、周囲にいないことを確認した。私は手に馴染む鉄の棒をそこらに立てかけました。
「くそっ……」
シルヴァン殿は駆けだしていく。向かう先は孤児院でしょう。私もまた、彼を追いかけていく。
走って、走り続けて。辿り着いたのは――孤児院。
「大丈夫か!」
息を切らしながら、シルヴァン殿は勢いよく扉を開いた。
「……まあ、シルヴァン。そして――」
マザーと慕われる老人を中心に、子どもたちは固まって震えていました。ああ、恐ろしかったことでしょう……。
「無事で良かった……よく、耐えたな」
「うわぁぁん、シル兄ちゃん……!」
彼らは決壊しました。慕っていたシルヴァン殿の姿を見て、駆け寄っては抱き着いてきます。
「ええ……頑張りましたわね」
私にも数名抱き着いてました。私もそう、彼らの頑張りを讃えたかったのです。
泣き疲れて眠った子供たちを、往復して寝室まで運びました。これで全員ですわね。
「……ありがとう、な」
「いいえ、お安い御用でしてよ」
私にお礼をいうと同時に、シルヴァン殿は足元に目線をやっていました。私は大丈夫だと足を小さく振りました。すっかり痛みも飛んでましてよ。
「……俺、何も考えてなかった」
シルヴァン殿は壁にもたれて俯いていました。
「側近なのに……エミリアン様のお側に行かないで」
自嘲気味でもあるようです。シルヴァン殿がお見かけした殿下のお側に行かなかったのは、確かなことですが。
「――今、俺がこうしていられるのは……エミリアン様のおかげなのに」
とても悔いているシルヴァン殿が、どこまでも辛そうで。
「……」
私はシルヴァン殿の隣に移動し、彼のように壁に寄りかかりました。
「それが最近揺らいでいる」
「え……?」
私は日頃のあなたを見ていたから、そう思えておりましたのに。想定外の返答ともいえました。
「いや、殿下は恩人だよ。俺を救い上げてくれた――『約束』だってしてくれた」
約束。かつてのあなたが殿下に確認していたこと。あなたにとって――代えがたいもの。
「普通の約束――この国をよくしてくれって。エミリアン様は快諾してくださった」
「……殿下が」
「そう。そんな方……それなのにな」
隣から視線を感じ、私は横を見た。驚いた……シルヴァン殿がこちらを見ていたとは。
「最近、エミリアン様が遠く思えてならない。だけど、それだけじゃない。俺が、俺自身の在り方が……」
「……シルヴァン殿?」
こんなにも彼と見つめ合うことはありませんでした。彼がこんなにも訴えるかのように、私を見つめてくることなど。
「……。馬車の手配済ましてくる」
――とんでもないことを口にする前にと。シルヴァン殿は先に下りていきました。
「……」
強固なる絆があるのは確かなこと。けれども、それだけではない。一枚岩ではなさそうですもの。シルヴァン殿が――離反していた時期も目にしております。
「……」
私も、私もそうでした。殿下を見つけたというのに――私はシルヴァン殿を放ってはおけなかった。
「……この気持ちは」
良い関係を築けているから。それは『友愛』という関係のはずなのに。そのはずなのに。
都に降り立った魔物の衝撃が冷めやらず。軍の警備は強まっています。もう五月にも入りました。運命の日は着実に近づいています。
私にも出来ることならと休日はダンジョン、平日でも夜中にこっそりとダンジョン。少しながらでも貢献できるのならと、魔物の討伐に励んでおりました。
日々も過ぎていき、魔物の襲撃も減ってきたと耳にしています。この調子で鎮静化してくれたらと思っておりました。
そう、何事もなく。
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