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最後のお相手……?
しおりを挟むイヴは追放はされていないものの、私を追ってくる形で隣国へ来ました。前のようにつきっきりということは早々なくとも。
「アリアンヌ様、ありがとうございます! 僕もね、作ってきたんだ!」
自室に訪れてきたのはイヴ。仕事終わりに迎えにきたイヴと共に、帰宅してきたのです。こちらのお裾分けを渡した直後、イヴの手作りを受け取ることに。中身はお惣菜でした。
「まあ、ありがとう。では、一緒に食べませんこと?」
「というと思って、ご飯も炊いて持ってきたんだ。パンもいくつかあるよ」
オスカー様には負けないし、とイヴは手慣れた手つきでテーブルに並べてます。
「まあ、イヴ。いつの間に持参してましたの?」
「えへへ」
テーブルクロスや花瓶に生けられた花々。華やぎますこと。その後も互いの近況を語り合い、楽しい夕食の時間を終えるのでした。
本題ともいえましょうか、好感度並びに次のルートについて。作戦会議としゃれこみましょうか。
「じゃあ、開くね?」
食卓から小机へ。そこに置かれたのは分厚い本。ええ……増々厚くなってますわね。イヴ、こちらに書き込むことで記憶を保ってもいるようですから。必然なのでしょうか……ええ、必然と?
「シルヴァン殿……」
彼の好感度の状態に変化がありました。茶色の薔薇を持っているのは想定出来ましたが、器の姿もまた、変わっていたのです。
包帯のようなものでがんじがらめだったのに、それはもう解かれていて。彼の心が露わになったようでした。
「……うん、溢れてるねぇ」
「ええ、まあ……」
イヴの指摘通り、中の液体は溢れ出たままです。絶えず流失したまま。倒れるということはなく、バランスは保たれたままですわね。
「シルヴァンさんとも迎えて。もう、最後の一人なんだぁ……奴っていうのはあれだけど」
「……イヴ?」
イヴは王太子殿下を思い浮かべて、苦虫を噛み潰したような顔をしています。の割には、どこか明るくもあって。
「最後まで我慢します。だって、殿下が終わったらでしょ? やっと解放されるんだって」
「……」
そう……なるのですわね。私は上手く言葉には出来ず、声を発せられず。
私はイヴに伝えずじまいだった。四人攻略した私は――本来の持ち主、アリアンヌ様にお返しすることになっているって。それは、私の転生が誤っていたからだと。それを……イヴは知らないままだった。
伝えられないのです――あなたがセレステの生まれ変わりだったとしても。
「――ええ、そうですわね。残すは殿下ですわね?」
イヴは聡いし、鋭いから。少しの不安も動揺もすぐに見抜かれそうで。
「……アリアンヌ様」
……ほら、少しの沈黙でも。イヴの瞳は揺れ動いている。私は何てことないと微笑むしか出来ないけれど。イヴが強く出られないとわかった上で、私はこうしている。
イヴ……イヴ君。あなたの本来の主が戻ってくるから。そう思うしか……。
「しばしお付き合いくださいませ、イヴ?」
「……はい。仰せのままに」
イヴは微笑んでくれました。憂えていたのもおそらく、私の杞憂でありましょう。
時はまた巻き戻っていき、エミリアン・セラヴィ・ドゥラノワ様が攻略対象となる日々へ。六月も中旬にさしかかっていますから。
元王太子のエミリアン様は出奔しました。なんでも――婦人を追ってだとか。ブリジット嬢というのが有力説ですわ。
そして――私を拒んできたのですよね? あらゆる状況であっても、『婚約破棄』というカードを用いて。優しくしてくださるその裏で、私を陥れようとしていたなんて。
「……」
信じる、信じない。ひとまず、殿下が毎回律儀なまでに婚約破棄をしてきたのは確か。そうすることで、確かに進展しやすくも……いえ、考え過ぎですわね。
「……うん、エミリアン様だね。本来の婚約者……本来のお相手」
イヴが呟く。彼の言う通り、元々は婚約者ですわね。アリアンヌ様が本来結ばれるべき相手……喜ばしきお相手。
「友愛といっても、それが続いていくんだ――ずっと」
「……ええ」
私が望むべき、そして出来得るのが友愛という関係。エミリアン様相手ならば尚更でしょう。ただ、イヴの言葉が――重くのしかかってきました。
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