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プレゼント効果。
しおりを挟む教育の日々に追われる中、私は殿下にお呼ばれされました。ええ、プレゼントをお渡しするチャンスでしてよ。なんとしても渡しましてよ。
「じきに参られます。お待ちくださいませ」
「ええ、かしこまりました」
いつものように応接室に通され、私は待機をしていました。シルヴァン殿が控えていてくださっています。本当に……お見事ですわね。彼の笑顔は鉄壁そのもの、崩れることはなくてよ。
「あら……?」
不躾承知ですが、私の目に入ってきたもの。それはシルヴァン殿の胸元にあるもの、ネクタイピンでした。上等なそれはダンジョンの宝箱に入っていたものです。しっかりその日の内に彼が持っていきました。
「……ああ、こちらでございますか? その節はお世話になりました。愛用させていただいております。殿下のお傍にいる為にも上質なものを身に着けませんと」
シルヴァン殿は嫋やかな笑顔でそう仰ってます。私もまた笑顔で応じます。内心は売らなくて良かったのかと思ってはおりますわ。ただ、他のものは売って資金にあてているかもしれませんわね。それも彼の事情を思えば、私自身は納得したものなのです。
「――俺だ、入るぞー?」
殿下のお声ですわ。公務が一区切りついたようです。シルヴァン殿に迎えられ、彼は入室してきました。私も立ってお出迎えしませんと。
「ごきげんよう、殿下」
「いいって。俺も座るし」
私が中途半端に腰を浮かしている状態で、殿下は隣に座られました。私も座り直しましょう。
「――それで、だ。アリアンヌ……何か渡したいものがあるんだろ?」
そうした理由で呼んだのだと。殿下は肩を竦めながら仰ってますわ。お見通しのようでした。殿下が呆れたご様子なのも、彼自身が遠慮していたのに結局は渡そうとしていることですわね。
「殿下、その通りでございます。どうか受け取るだけでも。何卒お願い申し上げますわ」
殿下はご承知、ええ、ご承知ということでお渡ししましょう。
「どうかお願いいたします……殿下?」
何としても受け取ってくださりませんと。殿下………そうなりますの? そうなってしまいますの?
ああ……何故ですの!? 何故、あなたが対象になった途端、空になっていますの!?
さらに、でしてよ? 目を凝らしてみてみると、微妙に傾いているというか。あまりの軽さに……液体の少なさに浮いているような……ああ!
「……」
ここが自室でしたら絶叫してしまいましてよ。公の場だから笑顔で堪えておりますけれども。
「お……おう」
殿下は引きつり笑いをされてますわね。どこか圧を感じられているような……? 私の気のせいですわね。
「さあさ、殿下。お受け取りくださいまし!」
定番のプラプラ人形に、世界の珍味。どぎつい配色の寝間着……は、初めて拝見しますわね。ええ、殿下にどんどんお渡ししましてよ。
「おお、ありがとうな。嬉しいぞ?」
「……」
殿下……殿下?
その、一定の調子でありますわね? 返答もええ、同一でしてよ? ……殿下?
「……ああ」
お喜びになってないのかしら……? 実は殿下にとって好ましくないものであるのでしょうか。だからこそご遠慮されていたのだと。仕様上、これで好感度が上がるとしても、それでも……。
「アリアンヌ……あのな?」
考える私を見ているのは殿下。彼は優しい声でいて、明るく私に話しかけてきました。
「実はな、反応に困っているんだ!」
「……!」
ガーン、と。私は多大なる衝撃をくらいました。困らせていましたの……!?
未だに衝撃を受けた私に対し、殿下は『でもな』と続けられます。
「……贈り物は嬉しいんだ。君からのものなら……なんだって嬉しい」
「殿下……」
殿下は怪しさ満点のアイテムを、指でそっと触れています。慈しむ眼差しは嘘とは思えないものでした。
「だよなぁ、シルヴァン?」
と、ここで何故シルヴァン殿に振りますの? 彼も笑んではいるものの、困っているのは明白です。
「だってさぁ、お前だってさぁ、プレゼントもらってるんだろぉ?」
「……殿下、申し訳ございません。私にはよく存じないことでございまして」
「またまたぁ、そのネクタイピン! お前なら高いとかって買わないもんだろ! あとはだな、高級万年筆も書き心地が良いとかって――」
「殿下?」
殿下はまだまだ羅列しようとしていましたが、シルヴァン殿に笑顔で制されていました。怒り気味ですの……? というか、ネクタイピンだけではありませんでしたのね?
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