脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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二人で昼食会。

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 翌日となりました。入学したばかりの私たちの日々、今日が始まるのだと思っていましたのに――。

「――ねえ、聞いた? 突然の『転入生』!」 

 興奮しながら飛び込んできた婦人によるニュース。私たちの教室は一気に話が広がっていきました。

「え……」

 転入生――私が思い浮かぶのはあの少女。ブリジット嬢――ブリジット様と、二つの顔を使い分ける彼女。ですが、この時期ですの……もっと遅いはずでしたでしょう? 

 私は心の準備が出来てなかった。もっと後だと思っていたのだから。

「……」

 これまで共に出掛けたり過ごしたりと、婚約者であろうとしてくださった殿下。でもそれが――彼女の登場で一気に覆ってきていた。それがこれまでの恒常だったから。

「すごい美少女だったぁ……しかも、しかもだよ? レヴァンタジアの王女様なんだって!」

 そう、『ブリジット・ジェルネ様』。王族というカードをきってきた。

「ああ……」

 胸が苦しい。忘れてくれないのはあの……公開処刑のような婚約破棄。大国の王族をとった殿下や国に切り捨てられたあの時。
 今回もきっとそうしてくることでしょう。有利になるのだから、彼女がそうしないわけがないのだと。

「……!」

 花の香りが漂ってきた。淑やかに開かれる教室の扉。こっそりと覗き込むそのお姿は庇護欲を駆り立てるもの。誰しもが――彼女を見て心を奪われるかのよう。

「――初めまして、みなさま。私、ブリジット・ジェルネと申します」

 その声にも魅了される。その声でねだられ、愛でも囁かれたならば――堕ちないことなんてありまして? 

 あの殿下も夢中になった――『ライバル』。それこそがブリジット・ジェルネなのです。

「……」

 私もまた喉をごくんと鳴らしていました。本当になんて愛らしいの。でも。そうだとしても。

「……私は引けないのです」

 あっという間に生徒たちが彼女に集っていた。中心で笑っている彼女を、私は眺めながらも気を引き締めていたのです――。




「……?」

 これは異変というのでしょうか。
 休み時間になっても殿下が現れることはありませんでした。いえ、朝の段階から来なかったのですから、その時におかしいと思うところでしたか。

「――おーい、俺が来たぞー!」
「!」

 時は昼休み。陽気にやって来られたのは殿下。ええ、来られましたわね。お昼の誘いといったところでしょうか。

『俺自身はこんなにも――君に惹かれていたのに。君を好きになっていたのにな』

 殿下が確かにくださった言葉。それが偽りだとは思ってはおりません。それでもブリジット様はあまりにも魅力的過ぎるから。それで恋に落ちないなんて保障もないでしょう? 私はただ、気持ちで負けないくらいしか――。

「アリアンヌ?」
「!?」

 びっくりしました……眼前に殿下がいらっしゃったのですから。かなり顔が近くにもなってますわ。

「……俺が来たんだぞ?」

 あ、可愛い。小首を傾げて、ちょっとムッとしてらっしゃる。いえ……それどころではありませんわね。

「私に御用でよろしいでしょうか……? お越しに来られて申し訳ございませんわ。どうなさいましたの?」
「む」

 私は姿勢を正して殿下と向き合いました。あら……まだむくれてらっしゃいますの? 

「そんな堅苦しくしてくれるなよ。用もなにも、逢いたいから逢いに来たに決まってるだろ」
「え」

 殿下は何を仰ってますの……? ああ、また教室から歓声が上がってましてよ? 

「なんてなっ。用はあるんだ。昼に誘いに来たんだ」
「私、ですの……?」

 あ、つい聞き返してしまいましたわ。殿下はまたしても口を尖らせて、それでも笑顔になられました。

「まったくもう! そうだよ、アリアンヌだよ。俺愛用の例の個室に――」

 私でお間違いないようですが、その……例の、ですわね? あの、食堂の一室にある、婦人をよく連れ込まれていたという例の……例の個室。

「……俺の婚約者が怖いのなんの。そうだっ! 天気も良いことだし、『君』の愛用している場所にするか! 途中で調達したりしてなっ」

 私に怯えるも一転、殿下は晴れやかな表情で提案してきました。私の愛用――お茶会の場ですわね? 温室近くにあるテラスのことでしょう。

「それは楽しそうですわね」

 素敵なご提案だと思いました。殿下も『だろ?』と嬉しそうにしています。

「……ずっと羨ましかったんだよなぁ。君たちがワイワイ食べてるの」
「え」

 殿下はこっそりと伝えてきました。ええ、まあ……区切りがついたところで昼食会を開いてはいましたわね。それを殿下はご覧になってましたの? 

「……。今度は私もご用意しますわね。お弁当にでもしましょうか」
「お、いいなそれ! 俺も教わるかなー……シルヴァンあたりに。イヴ殿だと胃袋掴んでそうだけど……イヴ殿、俺のこと汚物を見るような目で見てくるからなぁ」
「い、いえ? イヴがそのような不敬を働くことなど」

 そのようなこと……ええ、ないはずでしてよ。表にも出さず……いえ、本当は殿下を尊敬しているのだと。ええまあ、時々『奴』呼ばわりをしてはいますわね……。

「ま、今はいいか。じゃ、行くとするか。まずは購買だな」
「はい」

 ええ、楽しそうですこと。私も立ち上がり、殿下と共に向かうことにしたのです――。


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