脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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動いていた彼女。

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 閑散とした私の社交の場。学園の外れまでやってきました。私たちは途中で調達したご飯をテーブルに並べようとしていました――。

「……あ、あの殿下? よろしいですか?」

 小走りにやってきたのはブリジット様でした。彼女は後ろ手に組んで、上目遣いで殿下を見つめています。

「お、ブリジット様。どうした?」

 殿下も朗らかに対応されています。にこやかですわね……。

「た、楽しそうだなーって。私もご一緒していいですか? というか、お弁当も多めに作ってきちゃっていて。殿下に召し上がってほしいなって、思いながら作ってたらつい……」

 えへへ、と彼女は顔を綻ばせていました。うう……可愛い。これはひとたまりもありませんわね……。

「……そうか、悪いことしたな」
「え。いや、悪いこととかじゃくて」

 殿下は真剣な表情をしていますが、ブリジット様はそうじゃない、と言いたげでした。彼女の狙いはそうではないのだと。

「君の自慢の料理、級友達に振る舞ってあげたらいい。皆、喜ぶぞ?」
「……え。いえ、違うんです。私、殿下に喜んでほしんです! 一緒に過ごしたくて……!」

 殿下の素っ頓狂な反応に、ブリジット様は大声を出して反応していました。言っちゃったと彼女は両頬に手をあてています。

「……そうか。でもすまないな。俺はアリアンヌと過ごしたいんだ。彼女と二人きりで」

 殿下ははっきりと仰りました。

「……わかりました。今は諦めます」

 でも! とブリジット様は続けます。

「他の時間は――私と過ごしてくださいますか? ねえ、殿下……先月お逢いしましたよね? 父の紹介で……なのに、どうしてですか?」

 ブリジット様の声は震えていました。

「どうして……私とはお逢いになってくださらないのですか!? 逢瀬も上手い理由をつけて、いつも断ってきてばかり……!」

 涙目になりながら、彼女は訴えているのです。

「……?」

 ……いえ、お待ちになって? 先月、三月の時点でお二人は出逢ってましたの? 父、王族というお立場を通して? 

「……」

 私の背筋は凍った。そこまで話が進んでいた。ブリジット様は水面下で動いていたのだと。しかも殿下は――一切それを匂わせなかった。私の預かり知らないところで、こんなにも状況が動いていただなんて。

「聡明なる殿下でしたらおわかりですよね? 私と過ごす時間が――どれだけ有益なものか」

 ブリジット様は自身の愛らしさに留まらず、打算的なアプローチも試みていました。殿下と私だけに見せる――にたりとした笑い。

「……殿下」

 以前の婚約破棄も決め手は国交によるものでした。さすがに国のこと、それも父君を介してのことともなると、殿下の意思だけではどうにもならないのでは。私は彼を仰ぎみましたが。

「え、そんなこと言われても」

 殿下は……殿下はきょとんとしていました。

「なっ……!」

 ブリジット様はわなわなと体を震わせていました。この反応はないだろうと。

「――申し上げておくか。ブリジット様、俺の婚約者はアリアンヌだ。それでいて、未来の王太子妃でもある。彼女と過ごす時間こそが――俺にとって大事なものだ」
「で、でも殿下!? 陛下も父も、私たちの婚姻こそがって!」

 そう、そこまで話が進んでしまっている。殿下の気持ちがどうであろうと関係もなく――。

「ブリジット様」
「……あ」 

 凍てつくような視線に冷ややかな声――これはブリジット様に向けられているもの。

「――俺は邪魔をされるのが大嫌いなんだ」
「……」

 殿下の言葉を受けて立ち尽くすブリジット様。私までも震え上がりそうなもの……いえ。

「……殿下、さすがにお言葉が」

 煩わしいと思われても、私は言わずにはいられなくて。良縁相手というのもありますが……相手にそこまでかける言葉でもないと。私の方を見た殿下は黙られるも。

「……む。申し訳なかった、ブリジット様。御不快な思いをさせてしまった」

 殿下は受け止めてはくださった。

「俺の気持ちは変わらない。もう偽りもしない。俺の唯一は『彼女』だ」

 ――これは変わらぬ主張であると。

「……あはは」

 突然笑い出したのはブリジット様でした。それから笑顔は失せ、睨みつけてきた相手は私で――。

「……何、いい気分なの? ……良かったね、『今回』は相手してもらってるようで! いつもは……あんなに、あんなに私に夢中だったのに……!」
「ブリジット様……?」

 今回……? いつもは……? 興奮のあまり、彼女は自身が口にしたことに気づいてらして? 

「……っと」

 私の視線に気づいたのか、ブリジット様は気まずそうに目をそらしていました。

「……ブリジット様」

 いつぞやはあなたからでしたわね……果たし状。ここいらでちゃんと話をしましょうか。

「――放課後、お付き合いくださいませんこと?」
「……は?」

 は? ときましたか。ええ、嫌な感情が隠しきれてませんわよ。ですが、来ていただきませんと。

「私の部屋にいたしましょうか。ボヌール邸にお招きしますわ。それとも、こちらの場所の方がよろしくて? ――『以前』のように」
「……あはは、いい性格してるよね――アリアンヌ様って」

 顔を歪ませながらも、特に反対されることはありませんでした。承諾いただけたということですわね。

「……それと、こっちの馬車で向かわせてもらうね? だって気まずい思いして? ……なんで馬車に閉じ込められなくちゃいけないの」
「……ええ、かしこまりました」

 私に敬語を使うことなどない、もう遠慮することもないといったところでしょうか。

「……なあ、俺も付き添ってもいいか?」
「殿下……」

 ええ。あなたも気になる内容でしょうね。ですが、これは――。

「申し訳ございませんわ。彼女と『個人的』な話がしたいのです。心配には及びませんわ。平和的に話し合いしてみせますから」
「む……」
「どうか二人きりにさせてくださいませ」
「むう……」

 殿下は最後まで賛同されませんでしたが、それでも私は彼女と話し合いの場を設けること、そう決めたのでした。

 私たち三人はこの場で解散することになりました。殿下もご一緒にと思いましたが、彼は一人残って考えたいとのことでした。

「……邪魔だなぁ」

 去り際に聞こえてきた殿下の言葉――風と共に消えていった。


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