脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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殿下が秘めてきたこと。

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「……変わらないのか」
「変わりません」
「頑固だな」
「頑固ですわよ」
「……俺も人のこと言えないけどな」
「……?」

 殿下はここで切り上げられました。彼にしてはあっさりと引き下がったような? 

「――話せなかったんだよな。辛かったな」
「……いえ」

 染み入るようなお声でした。私を慮ってくださるもの。私自身も心が軽くなったかのように思えます。

「……俺もだな。約束、だからな」

 殿下は躊躇しつつも、それでも話そうとしてます。彼は体を離そうとしていました。

「……軽蔑されるような話だ。君のような事情とは違う」

 自嘲めいた言葉と共に。

「受け入れますわ、殿下」

 私はそうはさせませんわよ。私からたどたどしくも彼に抱き着いたのです。私より大きな体躯、それでも今度は私の方が包んであげたくなったのです。微かに笑った殿下は。

「――シルヴァンの話をしようか」

 何故。一瞬そう思いかけるも、ええ、彼の話も無関係ではない。私は殿下の言葉を待ちます。

「……彼の父君にな、俺は殺されかけたんだ」
「!」

 私は衝撃をくらうも、ええ、殿下の話を聞きましょう。

「父君と面する機会があった。幼き俺を一目みて――何かを感じ取ったのだろうな。人の顔はこここまで青くなるものか、当時の俺は呑気に考えていたが……本当に呑気なことを」

 懐かしむように、それでいて懺悔をするかのように。

「父君は一晩で描き上げた。それから俺を糾弾した。『絵が真実の姿を映し出した。この者は人の皮を被った――悪しき存在である』と。だから生かしておけないとな」
「……!」

 あの温かな画風の彼が……? 殿下を見ただけでというけれど、そこまで駆り立てられたのは? 

「『狂王』のモチーフは俺だ。俺でもあり――前世の俺でもある。俺は同じ名前、姿で生まれ変わったんだ」
「……殿下」

 ああ、イヴ。わかりましてよ。掠れたタイトル、それは――狂王エミリアンであると。

「ここではないアルブルモンド――創造の世界と君は言っていたが、俺はこちらではない、実在するアルブルモンドで生まれたんだ」
「まあ……」

 こちらが遊戯の世界ならば――殿下の前世は実在したアルブルモンド、世界の民であったと。この遊戯の世界に彼もまた、生まれ変わったのでしょう。私同様に。

「遥か昔、長き時代に渡って治世していた、君臨していた。暴虐の王でもあるエミリアン。力を得て不老となった王」

 ――暴虐の王。ええ、結衣の頃の夢ですわね。私は誰かの目を通して、彼の蹂躙ぶりを見てきました。彼は心のままに国を統べ、民を踏みにじってきたことでしょう。

「……まあ、とある賢者によって討たれたんだけどな」
「賢者と仰いますと」
「ああ、そうだよ。譲り受けたわけじゃない……強奪したんだ。狂王はな、欲しいものはなんでも手中に収めないと気が済まないんだ」

 殿下が横目で見たのはあの魔法陣。秘術も何もかもそうやって、でしたのね。

「……それが狂王。俺は他人とは思えなかった。俺もな……わかるんだ。それに、時に同化しているようで……自分でもあるかのようで」

 私は今、殿下に縋られていることでしょう。私は彼の背中を撫でました。私は自身のことも重いと思っていても――殿下はどれほどのことを抱えられてきたことか。
 前世の彼は優れた君主であれど――多くの罪を抱えていることでしょう。そう、罪を。

「……殿下、あなたは罪を償われてきたのでしょう? ――『贖罪の路』で」
「……君は知っていたのか」
「……はい。私の知り合いが、まででご容赦ください」

 本当は何もかもかもしれません。ですが殿下は言及されることはありませんでした。あくまで私にまつわることだったのでしょうか。

――贖罪の路。大樹の元にあった赤い裂け目のことです。
 私はとある知り合いによって教えられたのです。そこは大罪人が罪を償う為、転生前の禊として送られる場所であるのだと。どれだけの悠久の時間か。推し量れないほどの苦痛を。

「今のあなたはエミリアン様です。陽気で明るくて、調子にも乗りやすくて。威厳もあれど親しみもある。私が見てきたのはそんなあなた」

 私は彼から体を離しました。もとより抱き着いていたのは私だけでしたから、離れるのは容易。
 ……ああ、殿下の名残惜しそうな視線を感じますけれども。そこは、それ。私は地面に置いていたリュックからある物を取り出したのです。基本こちらで保管しておりますものね。

「殿下、受け取ってくださいませ」
「……ええと、今?」
 
 殿下、何が何やらでしょう? といっても、受け取った彼は包みを開けてはくれました。

「……ええと、またこれ?」

 レアアイテムでしたわね。ええと、私もそうは思いますけれども。ここまで推すか――プラプラ人形、でしてよ? といってもね? 

「……いや、これは」

 古ぼけた年季が入ったようなもの。こちら最初期のものとなりましてよ。貴重なる一品。殿下は懐かしそうに見ていたのです。

「……子供の頃、持っていたものだ。表情に乏しい弟も、これをみては笑っていたな」
「ええ……」

 聞いたことはあります。今は離れて暮らしてらっしゃる弟君のことを。弟君もそう――何よりもあなたが。

「殿下こそ笑ってらしたのでは?」
「……?」

 彼は手足を動かすのをやめました。ただ、私を見ているのです。

「私、思うのです。差し上げていたプレゼント、あなたが本当に欲しいものだったって。かつての狂王ではない。あなたが……今、こうして目の前にいるあなたが欲しかったもの」

 私だってそう。殿下を見つめさせてください。

「俺は……嬉しかったのか。今の俺が……喜ぶようなもの」
「ええ……今のあなたが好きになったもの。ちゃんとあるのです」

 殿下は再びプラプラ人形をいじっていました。なんですの、もう。本当は喜んでいたのではありませんか。


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