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結婚式。
しおりを挟むまた、意識を手放してしまっていて。私は立ったままで目覚めました。
月の明かりだけが室内を照らす、清浄なる場。私はここがどこだかわかったのです。
ここは――教会。装飾に見覚えもありました。幼い頃、母に連れてきてもらったことがあって。いつかここで式をあげるのよ、と。そうですわ、王城内にある教会なのでしょう。王族の方々が式をあげられてきた場所。
でも誰もいない。神父さんも参列者も。
「――ああ、本当に綺麗だ」
目の前にいる殿下と私だけ。
「なんてこと……」
殿下はこの国の婚礼衣装。私の姿も容易に想像がついてしまうのです。髪も結わえられていて、ベールもかかっていて。私の衣装もまた純白のドレスでしたから。
「――結婚式だよ。君が眠っている間、準備は進めさせてもらった」
お付きの方か……はたまたアリアンヌ様によるものか。
「もうここまで進めているんだ。まあ、自分でやったんだけどな」
はにかむのは殿下。彼は左手薬指をかざしていた。しっかりと大粒の宝石の指輪が存在していて。いえ、御自分で? ここは彼女の協力があってかと思いきや。
「……あとは俺に託すとさ」
「……!」
殿下は切なさそうに言っていた。そうなのです……アリアンヌ様の存在は遠く、いえ、もう感じられないかのようで。あれだけ近いと思っていた彼女が……もう。
「――あとはだな、俺から君へ」
殿下に手をとられ、一瞬ではめられたのは結婚指輪。
「ああ……」
ええ、彼が本気になればこのくらい造作もないことだったのでしょう。ただ戯れていただけだったと。
「病める時も健やかなる時も―末永く君と過ごすことを誓うよ」
私たちの薬指で光る揃いの指輪。ええ――紛れもない結婚式なのでしょう。
「……」
私は……誓えない。アリアンヌ様のこともそう……それもだけど、こんなだまし討ちのような。
殿下がまた遠くに思えてならない。あなたのこと、ようやく理解できると思ったのに。
「……はあ、そうかぁ」
私が誓わないこと、あなたならご理解いただけているでしょう? わざとらしく肩を竦めていますけれど。
「――俺なりの誓い。俺はな、正しく民を導いていくことを誓う。良き王になるとも誓うよ。君に時に発破かけられながらもだ」
それは彼の心からの言葉。誓いといえましょう。
「……あの狂王はとことん見抜いていたのかな」
「……?」
ここで狂王が出てきますの? いえ……確かに彼は言っていたのです。
「ああ、素晴らしき王で在り続けよう。でも、ごめんな? ――俺、君のことは譲れないんだ」
それが狂王が指摘してきたこと、何にも代えがたい願いだと殿下まで。だからこそ、このような強行に及んだのだと。
「俺と結婚しよう。そしてずっと。共に生きていこう」
「……いいえ、殿下」
私は呑めない、呑めないのです。いくらあなたのお言葉であっても。後方に下がって隙を狙おうとしたのですが――。
「……!」
――目を奪われてしまった。彼の真摯な表情に。こんな表情は見たこともなくて。
「――愛している、ユイ」
愛している――恋情を伴ってなんて言われたこともなかった。それにも心を奪われそうで。
そう、たったの一瞬、その一瞬の間にだった。
ベールはあげられて、私は――殿下に口づけられていた。
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