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前世の少女は語る――ユウ君②
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中学生になりたての春、あの日は豪雨だったっけ。部活も休みになったから、早めに帰ってきていて。家の中も停電していた。
『……』
雨雲はそのままで夜になっていく。雨の勢いは弱まってきたけど、家は暗いまま。私は居間のソファでうずくまっていた。まだ誰も帰ってきていないから。親からの連絡はあったけど、それでも不安になってしまう……弟からの連絡がなかったのもあって。
『!』
やっとだった。ユウ君から連絡がきた。塾の日なのは知っていたけど、待機してたんだって。
『……駅まで迎えにいこうかな』
あの子、傘も持ち歩いてそうだけど念の為。私は傘を二本持って、家から出ようとしたけれど。
『――っと、姉さん?』
『え』
ドアを開いた途端に、ユウ君が現れた。現れた違う、丁度帰ってきたタイミングだったんだ。彼も驚いていたけど、私だって驚いた……帰りが早いのもあって。
『ただいま帰りました……あ、送ってもらったんです。同じ塾の子の親に』
『そ、そうだったんだ。うん、おかえり』
それは有難い話だった。私はそれは良かったと思ったけれど。
『……。その、女子の親に』
『そうなんだ。お母さんあたりがお礼の電話するよね。私も感謝したいけど』
ユウ君は間を置いて、だった。私は一瞬不思議に思うけど、ああ、ユウ君男子だけでなく、女子にも人気あるなって。友達増えたもんね。そのおかげだよね、そんなに濡れなかったの。
『……はい』
最低限の返事だった。ユウ君はなんだろね、なんか目をそらしているけど。
『冷えてるよね。お風呂、すぐに沸かすから。着替えておいで?』
『……』
返事もしなくなってなった。顔も見ることすらもなく。彼は私の横を通り過ぎていった。
……ユウ君、この頃? ううん、もっと前からかな。敬語なのもだけど、こう、なんだろな。よそよそしいというか……距離を置かれているというか。
『……そういうもの、なのかな』
ユウ君は背が伸びた。大人っぽくもなった。交遊関係も広がっている。
『……私たちは』
――血のつながりがないから。本当の姉のように、というのも限界があるのかもしれない。私もそう、そろそろ正しい距離感を学ぶべきなのかも。いつまでも『可愛いユウ君』のままでなんて……。
『それでも、大事な弟なわけで!』
そうだよ、私にとっては血のつながりがなくたって。そうなんだ、ユウ君は弟なんだ。
どんなことがあろうと、私はユウ君の味方だよ。
そんな感じで廊下で意気込んでいたんだけど……物音がした。階段の方を見ると――。
『……』
無表情で。無言で。こっちを見ていたのは――ユウ君。どうして、どうして何も言わないの。どうして、そんなに昏い顔をしているの?
……って、私の独り言に引いたのかな。私はへらりと笑ってみた。
『……』
ユウ君は本当に何も言わない。それどころか、完全に私から背を背けた。視界にも入れたくないかのような。
『……ユウ君?』
彼を呼ぶ声が震えてしまう。ユウ君の肩がぴくりと動くけど、ついには部屋に戻っていってしまった。不安に駆られた私は追いかけてドアをノックしても、うん、返事はない……。
怒らせたのかな。呆れられたまではわかるけど、どうして怒ったのか……本当にわからない。ユウ君がわからない……。
その後、両親が戻った頃には……ユウ君は部屋から出てきた。いつものように迎えている。豪雨のこともあったから、それも交えつつも。
私に対しても……普段通りに。会話もやりとりもそう……何事もなかったかのように。
私はそれに安心してしまったんだ。それから――まともに会話が出来なくなるのが、長く続くなんて。
知る由もなかったんだ。
『……』
雨雲はそのままで夜になっていく。雨の勢いは弱まってきたけど、家は暗いまま。私は居間のソファでうずくまっていた。まだ誰も帰ってきていないから。親からの連絡はあったけど、それでも不安になってしまう……弟からの連絡がなかったのもあって。
『!』
やっとだった。ユウ君から連絡がきた。塾の日なのは知っていたけど、待機してたんだって。
『……駅まで迎えにいこうかな』
あの子、傘も持ち歩いてそうだけど念の為。私は傘を二本持って、家から出ようとしたけれど。
『――っと、姉さん?』
『え』
ドアを開いた途端に、ユウ君が現れた。現れた違う、丁度帰ってきたタイミングだったんだ。彼も驚いていたけど、私だって驚いた……帰りが早いのもあって。
『ただいま帰りました……あ、送ってもらったんです。同じ塾の子の親に』
『そ、そうだったんだ。うん、おかえり』
それは有難い話だった。私はそれは良かったと思ったけれど。
『……。その、女子の親に』
『そうなんだ。お母さんあたりがお礼の電話するよね。私も感謝したいけど』
ユウ君は間を置いて、だった。私は一瞬不思議に思うけど、ああ、ユウ君男子だけでなく、女子にも人気あるなって。友達増えたもんね。そのおかげだよね、そんなに濡れなかったの。
『……はい』
最低限の返事だった。ユウ君はなんだろね、なんか目をそらしているけど。
『冷えてるよね。お風呂、すぐに沸かすから。着替えておいで?』
『……』
返事もしなくなってなった。顔も見ることすらもなく。彼は私の横を通り過ぎていった。
……ユウ君、この頃? ううん、もっと前からかな。敬語なのもだけど、こう、なんだろな。よそよそしいというか……距離を置かれているというか。
『……そういうもの、なのかな』
ユウ君は背が伸びた。大人っぽくもなった。交遊関係も広がっている。
『……私たちは』
――血のつながりがないから。本当の姉のように、というのも限界があるのかもしれない。私もそう、そろそろ正しい距離感を学ぶべきなのかも。いつまでも『可愛いユウ君』のままでなんて……。
『それでも、大事な弟なわけで!』
そうだよ、私にとっては血のつながりがなくたって。そうなんだ、ユウ君は弟なんだ。
どんなことがあろうと、私はユウ君の味方だよ。
そんな感じで廊下で意気込んでいたんだけど……物音がした。階段の方を見ると――。
『……』
無表情で。無言で。こっちを見ていたのは――ユウ君。どうして、どうして何も言わないの。どうして、そんなに昏い顔をしているの?
……って、私の独り言に引いたのかな。私はへらりと笑ってみた。
『……』
ユウ君は本当に何も言わない。それどころか、完全に私から背を背けた。視界にも入れたくないかのような。
『……ユウ君?』
彼を呼ぶ声が震えてしまう。ユウ君の肩がぴくりと動くけど、ついには部屋に戻っていってしまった。不安に駆られた私は追いかけてドアをノックしても、うん、返事はない……。
怒らせたのかな。呆れられたまではわかるけど、どうして怒ったのか……本当にわからない。ユウ君がわからない……。
その後、両親が戻った頃には……ユウ君は部屋から出てきた。いつものように迎えている。豪雨のこともあったから、それも交えつつも。
私に対しても……普段通りに。会話もやりとりもそう……何事もなかったかのように。
私はそれに安心してしまったんだ。それから――まともに会話が出来なくなるのが、長く続くなんて。
知る由もなかったんだ。
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