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脳筋パーティー
しおりを挟む此度のダンジョンは――洞窟タイプのものでした。定番のものでありますわ。どんよりとした空。ダンジョンに潜ることになりますから、雨が降っても支障はないことでしょう。そう、雨……。
「……思い出しますわね」
ヒューゴ殿の時のことですわね。彼の時は雨に見舞われていましたもの。雨季でもないのに、連日の雨模様でしたわ。そう……その時の空気感と似ている気もしてなりません。
「お疲れ様」
と、私が浸っていた頃、名無し殿が飛竜の頭を撫でていました。本物のように労わっていたのです。あら、微笑ましいですわね。
「ありがとうございました、名無し殿」
彼の御力添えもあって、私たちは空中にあるダンジョンに到達できました。これから潜ることになりますわね。
「こっちこっち」
ブリジット様が手招きしていました。彼女たちが利用しているルート、こちらのダンジョンが入口となっているようです。なんてこと、私は存じてませんでしたわ。まだまだ奥深いですのね、ダンジョンって!
「……そうだな、俺も大人になろう、うん。なんかフラグ立ちそうだなー、とか。ライバルになりそうだなー、とか考えていても仕方ないよな、うん!」
後方からやってきた殿下、御自身を納得させているようでした。その、殿下? あなたが渋られていた理由でしたの?とにかくにこやかになられてましたから、吹っ切れたのでしょうか?
「ってことで! 名無し殿、頼りにさせていただこう! 手始めに探査スキルをお願いしようか!」
吹っ切れてますわね。お願いする気満々ですわ。ですが……私も同様の願いですわ。イヴがいない今。私はもちろんですし、殿下もブリジット様も所持していないようですわね。
「……すまない。私も所持していない」
「名無し殿……?」
な、なんですって……? あれだけダンジョンに精通していらっしゃるあなたが?
「……申しておこうか。私はスキルの所持量が多くないんだ。持ちたくても、拾得したくてもままならなくて」
気まずそうに仰ってますわね……御本人ではどうにもならないと。
そういえば。私たちの腕時計に術をかけたこともありましたが、あちらは違うということかしら。私の脳裏に浮かんだのは例の双子。彼らのアイテム効果なのかもしれませんわね――とはいえ。
「そうでしたの。それでもあなたは昇りつめましたのね」
私は素直な気持ちを口にしました。すごいではありませんの。武もそうですし、直視できませんが鍛えられた肉体もそう。知識量こそ誇れるもの。私は尊敬する思いを隠しはしません。
「……」
「……失礼しましたわ」
名無し殿はこちらを見れど、黙られたまま。ええ……まあ、御本人は気にされていることでしたわね。私もこれ以上は言及は遠慮しましょう。
「……」
「……」
名無し殿……黙られたままですわね。私も沈黙してしまいましてよ?
「……ふーん?」
「ところで殿下? 殿下ってなにか所持してらっしゃるの?」
あの、殿下? 観察されているようでいてよ?そのさなか、ブリジット様が質問していますわね。
私は思い出しました。殿下――賢者殿から譲り受けたゴニョゴニョの秘術がありましたわね。ただ、彼を苦しめてきた前世由来になってしまいますが……。
「……うん、そうだなぁ」
思案はされたものの、にこりと返した殿下はこう答えたのです――。
「俺のスキルもないんだな!」
……伏せておくということでしょうか。いざという時は、上手く隠して使用なさるのでしょうね、殿下ですもの。彼は続けます。
「強いていうなら……武、かな? 守れる強さというものだ!」
殿下、どこまでも自信に満ち溢れていますわね! 殿下、それがあなたのお答えというのでしたら、私も乗じましょう。
「ええ、殿下! 素晴らしいですわ! 良き強さかと存じますわ! 私も負けてはいられませんわね!」
「……私も勉強させていただいた。戦う強さもまた、誇れるものだと」
私たち、戦闘特化ですわね。ええ、鍛えてきたものですもの。あはは、と笑い合ったのでした。
「……脳筋パーティだぁ。私が支えないと!」
ブリジット様が一人、絶望した顔をしていました。ええと……ブリジット様? 張り切ってはおられるようですが……。
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