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イヴの『父親』
しおりを挟む「知り合いか?」
「ええ……まあ」
知り合いも知り合いですわ。とはいえ、イヴの父ですと言うには人の目があり過ぎて。警備の方も交えつつ、事情も伺った方が良さそうですわね。
「……私も拘束しますわ。あなたもご案内お願いできまして?」
「う、うん」
私がいいならと、ブリジット様は先導してくださることに。殿下も拘束したまま、私も加わりましてよ。
「くっ……この馬鹿力共め!」
父は悪態をつきますけれども、ここは堪えましょう。注目も浴びつつありますが、それもまた堪えましょう。ああ、じたばた暴れますのね。私たちはものともしませんわよ。
「あれ……?」
先に行っていたブリジット様、彼女の足が止まりました――ある人物が現れたから。
「あ……マジェスティ卿。ごきげんうるわしゅうございます」
目の前からやってきた男性、私たちの父親くらいに年齢の方。若々しくもあり柔和な顔立ちでもありました。ブリジット様、名前も呼んでらしたわね。お知り合いなのかしら……。
「これはこれは、バリエのお嬢様。それに――」
男性が目を向けたのは――イヴの父君でした。
「て、てめえ……」
私たちに向けた以上のもの。これほどまでにないくらいの――憎悪。イヴの父は拘束している私よりも目の前の男性に向けて、睨みをきかせていました。
「……また、やらかしたようですね――イヴ、あなたの息子が悲しみますよ?」
「くっ……」
男性の口から発せられたイヴの名。殿下もブリジット様も目を見開かれていました。察したことでしょう、イヴの父であるということを。
「……なに、心配することはない。また賭博で負けたのでしょう?だが、安心してくれないかな――こちらで返済しておきましたから」
賭博……借金でもあったのでしょうか。だからこそ盗みに手を染めましたの?でも、こちらの男性が返済をしたようでして。
「なっ……」
イヴの父君からしてみれば助け船でしょうに。彼の顔は歪んだままでした。屈辱といったようにもみてとれます。
「やんごとなき方よ、離していただけませんか? ――未遂でしょうし」
「……ふむ」
殿下の正体にも勘付かれているのかしら? 私の杞憂? 殿下は考え込まれていますわね。
「……貴公こそ、この国の重鎮であろう。処遇はお任せしようか」
殿下は拘束を緩めました。私も……ええ、ここはそうすることにしましょう。
「貴公に任せた方が――屈辱のようだ」
「……」
私、拘束を強めてしまいましてよ?殿下、ニヒルな顔をしてますわね。イヴの父君も唇を噛み締めているではありませんか。
「ほら、離すんだ。な?」
ほら、と殿下に催促されましたわ……。
ええ、お立場のある方ならば、ここは判断はお任せするということですわね。
「かしこまりましたわ」
私も腕を離すことにしました。
「話が早くて助かります――なに、警備のところには連れて行きませんから。あなたのアジトまで送り届けましょうか」
「ふん!」
イヴの父は一瞬の隙をついて、私たちから距離をとりました。そこから一気に走りだしていったのです。俊足ですこと……もう彼の姿が小さくなっていきましたわ。
「はは……速い速い」
男性……マジェスティ卿ですわね、彼は苦々しく笑っていました。
「まあ……活動拠点は抑えているからね。さて」
逃走する男を目で追った後、卿は私たちに体を向けたのでした。
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