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イヴの選択
しおりを挟む「――さて、本題に入りましょうか」
食事も中盤に差し掛かった頃、雑談で盛り上がっていた最中でした。私の心境はというと、ようやくかといったところでした。卿の話術にイヴの相槌、とても賑やかな場でありました。それでも! 本当に、本当に気になっていましたのよ!?
「イヴ、私から話しましょうか?」
「いいえ、僕からで。僕だってずっとお伝えしたかった」
試すような卿に、イヴは自分からと。隣にいる私に伝わってくる、彼の熱。
――アリアンヌ様、と私を呼ぶ声。
「僕、養子に入ることにしたんです」
「養子……ですって」
「はい」
耳を疑いたくもなりました。嘘だとも思いたかったです。いいえ、嘘なんてない、イヴは迷いもなく言ってのけましたから。
それが、イヴがレヴァンタジアにやってきた理由だったのですね。彼が赴いたのは――この国の重鎮、マジェスティ卿の養子になる為と。
巻き戻り直後でこんなにも進展しているだなんて……いいえ。
私はハッとしました。そうです、イヴは以前、一か月ほど休暇届けを出してました。その時から動いていたと考えられるのです。
「私も承諾しましたよ。愛した人の子でもあり――彼に将来性も見たから」
「そうですのね……」
卿もお立場がある方ですもの。ただ愛した人の子だけならば、養子の話をこうも受けはしないことでしょう。
「若輩者ですけれど、僕は励んでいきます」
イヴもまた、その言葉をしかと受け止めていたのです。
「イヴ、あなた……」
この国の重鎮の養子になる――彼は貴族になる。そうまでしたのは。
「何だってやってみせる――『あなた』との未来を望めるのなら」
「……」
アリアンヌ・ボヌールは貴族の令嬢。それに釣り合う為にイヴ、あなたは――貴族の身分を手に入れようとしたのですね。
「――そういうことだそうで。私は席を外させてもらいますよ。職務を溜め込んでおりましてね?」
飄々とした卿はさっと立ち上がられ、流れるように退室していきました。
「って、お待ちになって!?」
私が止める間もなくでした。ええと、今……イヴと二人きりに。
「――僕は本気です」
「!」
手は触れ合わなくとも、肩が。私たちの肩は触れ合う距離で。
「ずっと、ずっと想ってきたんだ」
「……イヴ?」
「……思っていたんだよ、どうして僕じゃないんだって」
――置いてきた書に、思いを重ねてきたと。イヴはそう告げるのです。
「朝起きたら、不思議な本があって。そこにあったのは僕の想い。でも、それがなくても僕にはずっと残っていた――重なって残り続けていたんだ」
くっついていた肩は離れ、私はイヴと向き合う形に。
「なんで僕じゃないんだろうって。誰よりもあなたのことが――」
「……」
続きの言葉は前にも聞いたもの――。
「好きなのに……愛してきたのに」
戯言、冗談でもない。イヴの真剣な思い。
「……知ってしまったから。卑怯な手を使ったけど、あなたが、『ユイ』が――」
イヴはここで言葉と詰まらせていた。ええ、そうですわね――『私』が消えてしまうことを、あなたは盗み聞きしてしまったから。
そうやってあなたを追い詰めてしまった。私がそのような手を使わせたようなものだった。
「……もう無理なんだ。本当は、他の男と一緒なだけでもおかしくなりそうだった。笑いかけるだけでも」
イヴをこんなにも思い詰めさせてしまった。
「広場でのデートの時も。両親公認なのも。異国で仲睦まじく暮らしているのも……」
ヒューゴ殿、オスカー殿、シルヴァン殿の時のこと。イヴはずっと見守っていた。いえ、イヴの言葉はそうではない。傍で――見続けていた。見せつけられてきたのだと。
「王太子妃として、あんな男に嫁ぐなんて……!」
そして、エミリアン殿下のこと。私が友愛といって、殿方と絆を紡いできた裏で。
「そうやって我慢し続けた先で――『あなた』がいなくなるなんて……!」
イヴはこんなにも苦しそうにしていた。
限界が来ていた。
彼が『あの話』を聞いてしまったから。知ってしまったから。
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