脳筋悪役令嬢の華麗なる恋愛遊戯~ダンジョン攻略駆使して有利に進めてみせます!~

古駒フミ

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今は穏やかなる眠りを

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 快適な列車の旅。卿が気を利かせてのご手配の個室。こちらにいるのは私たちだけですわ。

「……」
 
 高速で流れる窓の景色を眺める私。ああ、どんどん遠ざかっていくはレヴァンタジア。

「すうすう……」

 私の肩にもたれかかるは――イヴ。今度こそ熟睡できているようですわ。快眠は大事ですもの……妙な照れはありますが、このままにしておきましょう。

「ぐぬぬ……」

 目の前に座っている殿下は、その、歯を食いしばっておいでですわ。執拗にこちらを睨みつけていて。

「ああ、君じゃない……イヴ殿め、イヴ殿めぇ」

 殿下、イヴを睨みつけていてよ……筆を止めてまで。あなた、先程までは熱心に書き連ねていたではありませんの。

「殿下。イヴ、うなされていますから……」
「ふんっ」

 気の毒に。殿下はぷいっと顔を背けられましたわ。

「――イヴ殿とは恋に落ちなかった、か」
「!?」

 私、噴き出しかけましてよ! 淑女として持ちこたえましたけれど! ほらな、と殿下は確信を得られたようでした。その通りではありますわ。

「ふふん、友愛止まりか。この俺でもそうだからなぁ」

 殿下は鼻を鳴らされていましたが。

「この俺でも……なんだよなぁ」

 目が遠くもなっていました。気持ち涙目でもあり。私はただ、どうしたら良いのかというのと、居たたまれなさで……。

「イヴ殿との結末を迎えて――このまま何事もなく、か」
「殿下……」

 殿下が危うんでいること、私にもわかったのです。

 そう、それは私にまとわりついてきた疑問――疑惑。そして、向き合わなくてはならないこと。
 ――誰が『アリアンヌ様』を手にかけたのか。

「……ふう。俺もブリジット様も同じだ。『君』にも『彼女』にも――そのようなことはしたくない」

 殿下、言葉をぼかしてくださったのですね。私とて、あなた方がそうするとは思ってない。イヴもそう。イヴだけではない、そもそも全員が――。

「……」

 ……これはおそらく、私だけかもしれない。おかしいと思っているのは。

 どうしてなのか。どうして――その時、目撃していなかったのか。その時の記憶の詳細がないのか。明らかにアリアンヌ様の背中は押されたのに。
 記憶を有している殿下、ブリジットも――その辺りから見ていた私もそう。

 ――そこだけがばっさり、記憶から抜けてしまっている。

「アリアンヌ」
「!」

 殿下、ずっとこちらを見ていたようでした。私は今になって気づいたのです。

「今度こそ守るからな」
「殿下……」

 ああ、そうでしたわね……ブリジットだってそう言ってくれました。
 私たち、絆を築いてきましたものね。

「ありがとうございます、殿下」

 もうあの時のようにはさせませんわ。心構えもありましてよ。

「うん、その意気だ」

 殿下も力強く頷いてくださっている。

「――さて」

 殿下、優しくも微笑んでくださっている。心和やかに――。

「……本当に友愛止まりなんだよな? な? なっ!?」

 和やかがどっか行きましたわ。殿下、何度も確認してくれるではありませんの。

「殿下……あなた、自信満々に仰っていたではありませんの」
「いや、強がるし? だってさぁ、アリアンヌぅ? イヴ殿には優しいだろ……?」
「私が優しいというよりは、イヴが優しいからこそ、でしてよ」
「その理論、俺にも通じない? 俺も優しいよ?」
「殿下ももちろん優しくもありますが――」

 殿下、完全に手を止めていますわね。休憩にでもなればと思いつつ……休憩になってますの? ああ、イヴもまた、うなされていて……。

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