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忙しいなかのご褒美タイム
しおりを挟む本日は殿下に城にお呼ばれしていました。いつもの応接間での語らいと思っておりましたが――。
「あー……公務疲れたよぉ、アリアンヌぅ」
「ええ、お疲れ様でございました」
私は今、何をしているのでしょう。
ベッドに座らされ、私の膝の上で微睡むのは殿下……殿下! ここは……殿下の私室!
「……」
そうです、私はといいますと――。
「はあ……ご褒美タイム。癒されるなぁ……」
殿下の頭を膝の上に乗せ……フリーズしていますわね。現状の把握は大事ですわ。なんたる現状……! ああ、殿下……私の髪もいじってあそばせていますわ……!
「日々ストレス溜まるからさぁ……ああ、本当は毎日でもこうしたいのになぁ……」
「まあ、殿下ったら……」
「いや、本当に。ねえねえ、アリアンヌ?毎日呼んでいい?邸に訪れてもいい?」
「まあ、殿下ったら……」
「目、こっわ……」
あらやだ、殿下。私、嫋やかに微笑んでいただけなのに。そんなに表に出していましたかしら?
「まあ、膝枕は誰にも譲らないんだ。婚約者特権だからな!」
殿下、得意顔になって主張をしていて。
「ふふん、イヴ殿にも出来はしまい……」
ま、イヴにマウントをとりますの?私、じっと見ましてよ?殿下、『なーんて、な』と誤魔化すように笑ってますけれど。
「あーやだやだ……イヴ殿に限らず、シルヴァンとかさ」
「!」
急にシルヴァン殿。私の心臓は飛び跳ねました。こ、この話の流れは! 私に疑惑の目を向けながら、殿下は語るのです。
「……あやつさぁ、なんかさぁ?猫のぬいぐるみ、部屋に飾っていたからさぁ?揶揄ってみたらさぁ?」
猫のぬいぐるみ。高級志向のシルヴァン殿、それら以外に好まれるのが猫関連のものでした。私は猫好きなのですわねー、と呑気に拝聴してましたのに。
「頬染めて、贈り物です……だってな! どこぞの令嬢からの贈り物なんだろうな?なぁ、アリアンヌぅ?」
「……」
……ええと、ダンジョンでご一緒した日。嗅ぎつけられたシルヴァン殿に、プレゼントの中身をその日で渡すことになりましたわね?渡した覚えがありましてよ。
「でれっでれだな! おかしいなぁ?シルヴァンとは友愛関係ではなかったのかなぁ?奴に限らず、オスカー殿とかもかなぁ、この分だと?」
「い、いえ……」
殿下、臣下の態度に思うところがあったのだと。オスカー殿まで巻き添えをくらってしまっていて。私、冷や汗かきましてよ……。
「というか! どうせ皆でダンジョン行ってきたんだろう?あーあ、いいな、いいなー!」
殿下、膝の上で駄々こねられるの、地味に痛くてよ。
「……ダンジョン」
殿下の戯れはここまで。彼はすっと体を起こし、私の隣に座られたのです。そこからは真摯なる表情。
「話は聞いている。『賢者』なる者が現れたと。大事にもなるところだったな」
「……。ええ、殿下」
殿下……正確には彼の前世ですわね。前世の狂王と賢者の因縁、私も存じてますわ。それに巻き込まれた冒険者もあわや……といったところでした。
「被害者たる彼らの記憶は無かった。それに……助けた英雄たちの存在までも、な?伏せられていたんだ」
「まあ、そうですのね」
その後。私たちもですし、名無し殿もそうでした。名乗り出ることはなかったのです。こちらとしては令嬢の大暴れは露見したくもなく、皆様も同じてくださったのだと。いえ、皆様は名乗り出て良かったと思いますが、彼らも望んではないようでした。
そう、あの事件は解決したはずです。本日もダンジョンは変わりなく。
あの賢者の姿もすっかり消え失せていて――セレステのような、あの者の。
「……」
ああ、なんてこと。今でも、あの時の感触が――。
「……!」
突如。私は殿下に抱き寄せられていました。
「どうしたんだ、アリアンヌ?」
「いえ……疲れが、でしょう」
私の弱さに殿下は気づかれたのか、それあっての抱きしめでしょうか。ですが、私はこうとしてしか答えられず。
「……そうか」
今は、今は見逃してくださったのか。不問とした殿下は、私の背にそっと手をあてていたのです。
「本当によくやったな……けどな、あまり心配もさせないでくれな?」
「殿下……」
耳元に語りかける、労わりのお声。殿下、私たちが関与しているのは御存知なのでしょうね。ええ、無理をしたのはそうですわね。
「はい……」
その御心に対し、素直な心で返答したのでした――。
殿下はまた公務に戻られるということで、夕方、城を発ちました。殿下こそご無理を――お立場上、難しいでしょうが。
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