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ヒューゴ殿と許婚
しおりを挟む「――突然でしたでしょうに、本当にありがとうございました」
帰りの馬車の中、深々と頭を下げてきたヒューゴ殿。何度も頭を上げるようにお願いして、ようやく。
「……そうですね、お話しておいた方が良さそうですね」
ヒューゴ殿は顔を上げられ、彼と目が合う。
「よろしいですの?」
私を信頼してくださるの……お話してよいの?
「ええ。というか、事情も存じてもないでしょうに、ご助力いただいたわけで」
「それは……あまりにも深刻そうでしたから」
あれだけ必死でしたもの。だから私は深く考えることもなく手を貸したに過ぎない。まあ、神運転手の方あってのことでしたわね。ヒューゴ殿、彼にも礼を言ってましたわね。
「深刻、そうですね。彼女と私、いかにもな男女でしたでしょうに」
「それは……そうですけれど。でも、ヒューゴ殿でしてよ?過ちを犯すことなどないでしょう?」
これだけ自身を律しているあなたが、でしてよ?それに私、あなたを信頼もしていましてよ?さあ、目でも伝えますわ。伝わりますように。
「……はは」
ヒューゴ殿は小さく笑った。なにかおかしなこと、ありましたから……?彼は、すみません、そう言ってから話し始めて。
「……彼女、私の幼馴染であって――許婚だったんです」
「……」
「駆け落ちして長いのですが、ついに見つかってしまいまして。私の家まで強制的に連れて来られて。謝罪目的、そして復縁でしょうか」
「そうですの?」
ええと……ええと?私、『そうですの?』とか返してますけれど?頭はぐるぐる回っていますけれど……?
ヒューゴ殿に許婚……許婚! いえ、彼は伯爵家のご令息でしてよ。いて当然でしたでしょうに。ゲームでは出てない情報ではありましたわね?
「親が決めた相手……昔からの付き合いでして」
「ヒューゴ殿……」
ヒューゴ殿、思いに馳せておいでなの?そういえば、ブリジット様に救われていた、とも。今は一緒にいない婚約者、それは別れがあったから……彼女には本命の殿方がいたから。
ヒューゴ殿。あなたにとっての彼女は――。
「長年の付き合いでもあり、昔から本当に――」
あのご婦人こそが、あなたの――。
「――苦手でした」
「え」
なんて?……失礼、なんと仰いまして?ああ、ヒューゴ殿、うんざりしたお顔ながらも続くようで。
「さっきまではまあ、しおらしい態度でしたけれど。いつもは全然違いますので。高飛車で気が強くて。しかも向こう、姉妹がたくさんいるんです。集団で絡んでもきて……はあ」
「……」
あ……覚え、ありますわ。この態度、表情、痛々しいまでに覚えがありますわよ。初期のヒューゴ殿ではありませんの……!
ここで新事実ですわ! アリアンヌ様と似ていたと、通じるものでもあったのかしら?それであんなにもトゲトゲしい態度だったと?うう……複雑ですわ!
「あ……違うんです」
ヒューゴ殿、気まずそうですの?こちらをしきりに気にしてますわね?
「?」
おかしなこと。今のあなた、周回効果かしら?普通に接してくださるでしょうに。初期のあなたとは違いましてよ?ああ、とことん気にしてらして……。
「ふふ、ヒューゴ殿。それでもですわ。あなたにとって、大切な方でしたでしょう?」
あなた、本当に必死でしたから。彼女を逃がそうとして――幸せまでも願っていて。
それに……ですわ。
「……」
ご家族との関係、悪化もするでしょうに。それでもあなたは幼馴染の彼女を助けようとしたのですから。
「――両親のこと、気にしてますか」
「……ええ、まあ」
私、わかりやすいのですわね。逆にヒューゴ殿を気にさせてしまったかしら……。
「相手は辺境伯の息女、良縁でもありました。ですがうちの両親、すでに次の相手も考えているとかで……私の落ち度ではないとも」
――向こうが勝手に駆け落ちをしたからと。今回の辺境伯家のからの申し出も乗り気ではなかったと。
「そうですの……?」
それを信じきって良いものか。私が気にしないようにと、そう言ってくださっている気もしていて。
「……辺境伯?」
胸がざわりと。突然、どうしたことでしょう?
……いえ、今はヒューゴ殿に集中しましょう。
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