【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

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ショタも好き、でも君たちが好きすぎる

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――獣人の子どもたちを全員救い出したあと。

施設のさらに奥、檻が並ぶ通路の向かいには、魔法省へと繋がる転移ゲートが設置されていた。
拘束した職員の証言をもとに、確認のためベアトリス中尉がゲートをくぐる。
その先は、魔法省内部のとある一室。すでに第一班が待ち構えており、首謀者を含む八名の職員が取り押さえられていた。

安全が確保されたことを受け、俺たちは拘束した二名の職員と獣人の子どもたちを連れて転移ゲートを通過。
魔法省で第一班と無事に合流を果たした。

こうして拘束された職員は合計十名。そのうちの一人――首謀者は、なんと魔法省特務研究局の長官だった。

ベアトリス中尉が一同を見渡し、厳しい声で罪状を読み上げる。

「――罪は山ほどあるぞ。王命違反、誘拐、拉致、不法監禁、職権乱用……並べれば夜が明けるだろう。
首謀者も共犯者も、等しく罪人だ。
全員、国家の名を汚した裏切り者として拘束する。覚悟しておけ」


表向き、特務研究局は魔導具の技術開発や防衛用魔法の研究を担う部署にすぎない。
しかし、長官はその影で――倫理の境界線を平然と踏み越え、国家が公に許さない研究を進めていた。関わった職員の中には、無意識のうちに規則違反に加担していた者もいた。

長官は魔法省内では「技術開発と軍事魔法応用の天才」として尊敬される学者官僚であり、その才能を疑う者はいなかった。
しかし、若いころから倫理観には欠け、野心だけが尖った人物だった。

彼の頭の中には常に計算が渦巻いていた――人間とは相容れないが並外れた力を持つ獣人を、どうすれば自分の思い通りに動かせるか。
従順な駒にするためなら手段を選ばず、失敗しても次の策を即座に練る。
国家がそれを軍用兵器として認めれば、歴史に名を刻むことができる。

冷静な表情の奥には、他者には理解できない執着と欲望が潜み、誰も気づかぬうちに、次の実験や策略が頭の中で形を成していたのだった。

研究室の一角には、人目を避けるように隠された部屋があった。そこには、あの実験施設へ直結する転移ゲートがひっそりと設置されていた。

職員たちは、このゲートを使って出入りし、獣人の監視や実験を行いつつ、持ち回りで日常業務をこなしていたことが明らかになった。

あとはすべて、国王の判断に委ねられることになるだろう。
首謀者である長官は――あくまでも「これは国家のためだ」と己の正当性を崩さないに違いない。

一方で、事情を知らずに片棒を担がされてしまった職員たちは、情状酌量の余地があるのだろうか。
そのあたりは正直、俺には分からない。ただ、すべては王の采配次第ということになる。

それでも、少なくとも今は――獣人の子たちを救えた。
胸の奥に、小さくとも確かな安堵が広がる。
同時に、全てが終わったわけではないという感覚が、心の片隅にじんわりと残っていた。

最終的に保護された獣人の子どもは、全部で十四人。
そのうち施設で隔離されていた――魔獣化していた子とリーヤは、安全が完全に確認されるまで、城の地下牢で手厚く保護されることになった。
地下牢と言うと物騒な響きだが、実際には温かいベッドが用意され、食事も十分に供されている。

残りの十二名は、広めの客室でのんびりと過ごしていた。小さな手でぬいぐるみを握りしめる子、窓の外を眺めては静かに笑う子――安心しきったその表情を見て、俺は胸の奥から安堵がこみ上げた。

すべては王様の計らいによるものだ。
こんなにも穏やかな空間を、彼らに用意できる王の器の大きさに、俺は改めて感嘆した。


「……終わったな」

やるべきことはまだ山ほどある。けれど俺は、居室のソファに沈み込むように腰を下ろした。
あの施設まで、整備なんてされてるはずもない森を三時間以上も歩き詰め。全身にまとわりつく疲労感は、もはや笑えないレベルだ。

それなのに――クーもアヴィもガウルも、まるで「その辺をちょっと散歩してきました」くらいの顔で平然としている。
しかもアヴィなんて、脇腹をザックリ刺されたばかりだってのに、
あのあと、ちょっと休んだら何事もなかったようにスタスタ歩き出したのだ。

……ほんと、筋肉ターミネーターかよ。

――いや、違うな。
アヴィの性格を考えれば、俺に余計な心配をかけまいと、わざと平気なふりをしていただけかもしれない。
ともあれ、城に戻ってすぐ、治癒師にきちんと治療はしてもらった。

ヒーラーとして、俺がついていながら何もできなかったなんて、不甲斐なさすぎる……。
俺は背筋を伸ばし、改めてみんなに向き直った。

「……みんな、今日はほんとにありがとうな。今回の件で、俺はヒーラーとしての自覚が全然足りなかったってことがよくわかった」

顔を上げて、三人の顔を順に見渡す。

「だから、まずは自分をもっと知ろうと思う。魔法についても、これからちゃんと勉強していこうと思うんだ」

ヒールしか使えない無力な自分を責められ、魔法の勉強なんてロクにしてこなかった日々。
両親に「やっても無駄だ」と嘲られ、その視線から逃げるように森をぶらぶらして過ごしていたツケが、今、回ってきた気がする。

けれど。
もしあの頃に森へ行っていなければ、ガウルとも出会えなかった。
そしてガウルがいなければ、アヴィやクーと一緒にいる今もなかったはずだ。

無駄に思えたあの日々も、こうして仲間に繋がっている。
だから俺はもう、過去を後悔するだけじゃなく、これからを変えていこうと思う。

「……また迷惑かけるかもしれないけど、これからもよろしくお願いします」

かしこまって頭を下げる俺に、アヴィは小さく息を吐き、柔らかく微笑んだ。
「……はい。こちらこそ。あの後――ご主人様がひどく落ち込んでいるように見えたので……正直、少し安心しました」

その横で、ガウルが腕を組んだまま視線をそらしつつ口を開く。
「……別に、今までずっとそうやってやってきたんだ。お互い様だろ。――まぁ、あんたがそう決めたんなら好きにすればいい」

最後にクーが、いつもの調子でニコニコと口を開いた。
「オレ、ユーマの全推しだからさ! 全力で応援するね♡」

「……お、おう……ありがとな」
あまりにもまっすぐ言われて、思わず視線を逸らす。胸の奥がくすぐったくて、でもちょっとだけ温かかった。

「でも勉強ってさ~、なんか肩凝りそうだよね。疲れたら、オレが膝枕してあげるからね♡」

アヴィも微笑みながら、さらりと口を添える。
「じゃあ僕は……いつでも添い寝してあげます」

その横で、ガウルが少し照れくさそうにぼそっと。
「……じゃあ俺は、菓子でも差し入れてやるか」

俺は思わず苦笑してしまった。
「いやそれ、完全にお子様フルコースだろ!」

するとアヴィが目を細め、意味深な笑みを浮かべながら小首をかしげる。
「大人向けフルコースがいいですか……?」

「お子様でいいです!!!」

――ほんと、こいつらと一緒だと、うかうか落ち込んでる暇もないな。

みんなふざけた調子で笑っていたけれど、たぶん――あえてそうしてくれているんだろう。
大丈夫だ。まだ心は折れていない。
これから先、少しずつでも前を向いて歩いていけばいい。
そう思う。





***

翌日、知らせが届いた。

地下牢で保護されていたリーヤが目を覚まし、さらに魔獣化していた子の呪いも完全に解けて、元の獣人の姿に戻った――と。

執事さんの案内で、俺はアヴィと共に石造りの階段を降りていく。
冷たい空気が肌を撫でる中、一番手前の牢の中に彼はいた。

小さな角と、長く垂れた耳。ブーバルス種の特徴だ。
薄茶色の前髪の隙間から覗く大きな瞳が、不安と怯えで揺れている。

ベッドに腰掛けていたリーヤは、最初、こちらに警戒の視線を向けてきた。
けれど次の瞬間――アヴィを見つめたその表情が、驚きに変わる。

「……リーヤ。僕だよ、分かる?」

鉄格子の前でアヴィがしゃがみ込み、穏やかに声をかけた。
リーヤは小さく息を呑み、ゆっくりと立ち上がる。

「……もしかして、“お兄ちゃん”?」
「そう……。あの頃とは、ずいぶん姿が変わってしまったけれど……」

その瞬間、リーヤの瞳から、堰を切ったように涙がこぼれた。

「……っ、もう会えないと思ってた」
「僕も。……リーヤが生きていてくれて、本当に良かった」

アヴィの声は震えていて――それが、リーヤの肩をさらに揺らした。

胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
リーヤがどんな思いで、あの施設で耐えていたのか。本当のところなんて、俺には到底わからない。

けれど――少しだけなら想像できる。
リーヤにとって、アヴィはきっと心の拠り所だった。
その支えを無理やり奪われ、出口のない闇の中に閉じ込められる苦しみを。

……だからこそ、アヴィと再会できた今だけは、せめて安心して泣いてほしい。

これ以上、俺が口を挟む必要なんてない。
アヴィとリーヤの再会を、ただ見届けること――それが俺にできる精一杯だった。

視界がにじんで、鼻の奥が熱くなる。
俺は袖でそっと目元を拭いながら、隣の牢へと歩を進めた。

隣の牢に目を向けると、鉄格子にへばりつくようにして、ひとりの少年がこちらを覗きこんでいた。
ティグリス種らしい白と黒のしま模様の尻尾を、猫みたいにぶんぶんと大きく揺らしている。
そして俺の姿を見つけるなり――ぱっと顔を輝かせた。

「オイラを助けてくれたヤツだ!」

無邪気な笑顔が、牢の薄暗さを一瞬で吹き飛ばすように広がった。

あんな目に遭っていたというのに、底抜けに明るい。
それが俺の“ソウルリトリーバル”の効果なのか、もともとの性格なのかはわからない。
――けれど、こうして呪いが解けて、笑えるようになったのなら、それで十分だ。

「……ごめんな。もう少ししたら、他のみんなとも合流できるから」

俺がそう声をかけると、少年は鉄格子にかぶりつきそうな勢いで頷いた。

「うん! 別にいいよ、ここ快適だし!」

(いや牢屋が快適ってどういうことだよ……)

思わず心の中で突っ込む。
確かに“保護”という名目で、ふかふかのベッドは置かれているし、空調も整ってるし、温かい食事だって出てるだろう。

けれど彼は、まるで常宿にでも来たみたいに大きく伸びをすると、そのまま猫のようにベッドにごろんと横になった。
シマシマの尻尾をふわんと揺らし、両手を胸の前で小さく丸める。欠伸とともに犬歯を覗かせ、指先をくいっと折り曲げる仕草は……完全に虎っ子ネコ科モードだ。

(……いや順応早すぎだろ! 完全にくつろいでるじゃねえか!)

――ああ、なんだこの破壊力。
虎耳とシマシマ尻尾つきショタが、ベッドでごろごろしてるとか、俺の中の“愛でたい本能”に直撃すぎるんだが……。
頼むから、これ以上俺のショタコン耐性を試さないでくれ。俺は決して“危ない意味”じゃなく、ただ、尊いものを尊いと拝みたいだけなんだ……!

そんな様子を、どこか微笑ましく見守っていた――つもりだったのに。
ふと気づけば、いつの間にか背後にアヴィが立っていて、肩へそっと手を添え、そのまま軽く抱き寄せられる格好になっていた。

「……ご主人様。もうこれ以上、“伴侶”は増やさないでくださいね」

ドキリと心臓が跳ねる。
アヴィの笑みは形だけで、その瞳は氷のように冷えていた。――やましいことは何もしていないのに、なぜかキャバクラの名刺を握られて問い詰められた気分になった……。

「いや、違うって! これ以上“筋肉嫁”増やしてどーすんだよ!! ただ可愛いから見てただけなんだって……!!」

「……可愛いから?」

アヴィの声がひどく静かになった。
その一言だけで背筋がゾクリとする。
(やばい。やばいやばいやばい。完全に地雷踏んだ)

「……ご主人様。言い訳は後でゆっくり聞きます。……あの二人にも、事実は正しく共有しないといけませんね」

「いや誤解だから!! ほんとにピュアで、純情で、やましい意味ゼロなんだって!!!」

必死に否定しても、アヴィの手は俺の肩を強く掴んだまま離さない。
冷たい視線に射抜かれて、心臓が縮み上がる。

――頼む、酒もタバコもギャンブルもやらないから!
せめて俺に、平和にショタを愛でる自由だけは保証してくれ……!!

そんな必死の願いも届くはずもなく。
俺はアヴィに“物理拘束”されたまま、地下から連行されていった……。




俺は、なぜかアヴィに手を引かれ、庭の奥にひっそりと建つ温室――ガラス張りのドームの中へと足を踏み入れていた。
むせ返るように濃厚な花の香りが鼻腔を突き、湿り気を帯びた空気がまとわりつくように肌を覆う。

アヴィは振り返りもせず、ただしっかりと俺の手を握ったまま歩を進めていく。
その背中は妙に落ち着いていて、けれど俺の胸は落ち着かない。

――こんな誰も来ない空間に連れ込まれた時点で、嫌な予感しかしなかった。
頬は勝手に熱を帯び、繋いだ掌にはじんわりと汗が滲む。

「……ア、アヴィ?」

思わず声をかけた瞬間、アヴィがふいに立ち止まり、こちらを振り向いた。

「……ご主人様」

短く呼ばれただけなのに、胸の奥が跳ねる。
真剣すぎるその瞳には揺らぎがなく、感情の色さえ掴めない。
まるで心の奥底まで覗き込まれているみたいで、視線を逸らそうとしても――釘付けにされて離れられなかった。

次の瞬間、不意に手を強く引かれる。
繋いだままの掌はそのまま、アヴィの服の裾へ。
「え……?」と戸惑う間もなく、俺の指先は布の隙間をくぐり抜け、熱を帯びた肌と、硬く引き締まった脇腹へ触れていた。

直に伝わる筋肉の弾力に一瞬ドキリとした――が、その下の包帯の感触に指先が触れた瞬間、思わず反対の手でアヴィの服をガバッとめくり上げた。

「……おい、この傷っ。昨日、ちゃんと治療してもらったんじゃ――」

「治したフリをしてました」

「……はああ!? なにやってんだお前!!」

予想外すぎる告白に、俺の声は裏返る。
けれどアヴィは真顔のまま、俺の手をその脇腹に押し当て続けた。

「……ご主人様に治してほしかったので」

「バカか! そんなことしたら命に関わるだろ!」

「ふふ。でも、ご主人様の魔力が戻ったかどうかも確認できますし……一石二鳥です」

さらっと言い放つアヴィに、俺は開いた口が塞がらなかった。

「……じゃあ、この温室に来たのも、そのためってわけか?」
「いえ。それは単純に、ご主人様と二人きりになりたかっただけです」

微笑みながら言い切るアヴィに、頭を抱えたくなる。

「……おまえなー……」

ああ、もう……無駄に変な汗かいてる自分が、一番恥ずかしいんだけど!?

「……じゃあ、やってみるからな。もしヒールがうまく発動しなかったら、ちゃんと他の治癒師に頼めよ?」

「はい……お願いします」

息をひとつ整えて、俺はアヴィの脇腹に手を添えた。
心臓がいやにうるさい。集中しろ、俺。

小さく詠唱を口にすると、足元から光の魔法陣が浮かび上がり、柔らかな光がふんわりと俺たちを包み込む。
指先から温かな流れが伝わっていくのを感じる。

「……戻ってる」

なるほど。一晩休めば、とりあえずエクストラヒール一発ぶんくらいの魔力は回復するってわけか。
思案に沈む俺の横で、アヴィがふっと目を細め、安堵の吐息をもらす。

「やっぱり……ご主人様の魔力で癒やされるのが一番、ですね」

俺は額に手を当て、呆れ半分でため息をつく。
「あのなぁ、二度とこんな真似するな。治療サボってまで俺にやらせるとか、アホか……死んだらどうすんだよ」

アヴィは何も答えず、ただ小さく肩をすくめて、楽しげに微笑んでいた。

「ご主人様の頬の傷も、もう消えましたね」

そう言いながら、親指の腹で俺の頬をなぞってくる。ひやりとした指先に思わず肩がすくむ。

「ん……ああ。もうほとんどカサブタになりかけてたけどな」

気恥ずかしさに視線を逸らそうとした瞬間、アヴィの指先が顎をそっと持ち上げた。
「っ、おま――」言いかけた唇を、柔らかな感触が塞ぐ。

一瞬で、思考が飛んだ。
かすめるだけのはずが、甘く深く、逃げ場を奪うように重ねられる。
胸の奥で鳴り響く鼓動が、アヴィに聞こえてしまいそうで怖い。

腰に回された腕は、まるで檻のように強く俺を抱き込んで、隙間を許さない。
布越しに伝わる熱と心臓の鼓動が混ざり合い、息が苦しいのに、抗う気力がどんどん削られていく。

「お、おい……誰か来たら……」
かろうじて声を絞った耳元に、低い囁きが落ちる。

「……こんなところ、誰も来ませんよ。それに、ほら……ね? 次に二人きりになれるのは、いつか分かりませんから……」

その言葉に、背筋をかすめるような甘い戦慄。
唇を離す間もなく、さらに深く口づけが重ねられて、抗議は声にならない。

「ま、待っ……ぅんっ……」

思わず手を伸ばして抗おうとするも、アヴィの腕がしっかりと俺を押さえ込み、体はびくとも動かない。

「……んっ、ふ……」

声にならない吐息だけが、温室のガラスに淡く反響する。
指先が頬から首筋へ、さらに背へと辿り――抱きすくめられるたびに、意識はずるずると深みに沈んでいく。

抗えば抗うほど、敏感な部分がじわじわと疼き、息が詰まる。
必死に堪えても、理性の輪郭はあっけなく崩れ落ちて――。
温室の蒸し暑い空気が肌にまとわりつき、甘ったるい花の香りと混じり合い、意識はぼんやりと霞んでいく。

アヴィの腕に捕らわれ、指先が触れるたびに、身体の奥が反応し、甘く蕩けていくのが手に取るようにわかる。

奪われているのか、与えられているのか。
いや、もうそんな区別さえどうでもいい。
ただ、アヴィの腕の中で溶け落ち、甘い敗北を噛み締めるしかなかった。

気づけば俺のほうから、「もっと……」なんておねだりしてしまっていて――。
その瞬間、アヴィの瞳が細められ、静かに勝ち誇ったような微笑を浮かべる。

(ああ……俺はただショタを愛でていただけなのに……)

結局、徹底的に可愛がられてしまったのは、俺のほうだった。

……そして。
体力ゲージが見事にゼロになった俺は、ふらふらになりながら部屋へ戻った。

案の定、待ち構えていたのはガウルとクーだ。
扉を開けた瞬間、二人同時にピクリと耳を立て、鼻をひくつかせた。

ガウルがアヴィをギロリと睨みつけ、深々とため息を吐いた。
「……やっぱりな。そんなことだろうと思った」

隣でクーが頬をふくらませて小さく叫ぶ。
「アヴィだけずるい……!」

「っ!!」
俺は思わず後ずさった。やばい。絶対バレた。いや、バレるに決まってる。
(……獣人の嗅覚、ほんとに侮っちゃいけない……!!)

「ユーマ、お風呂いこ♡ オレがぜんぶ洗ってあげるからね」
「……ただし、アヴィ。お前はついてくるなよ」

「ふふ。どうぞ、お好きに」


――あとはもう、察してくれ。俺の理性ゲージは赤ランプ全点滅中だ。

まったく、愛というやつは恐ろしい。

温室、風呂、ベッドの上と、耐久レースのように繰り広げられたこの18禁愛のトライアスロン――完走できる猛者は、きっと俺くらいしかいないだろう。

誰か……金メダル、いやせめてトロフィーでもいいからくれ。
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