【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

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番外編

弟、来たる①

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 「「「兄貴ッ!! お勤めお疲れっしたーーッ!!!」」」

 玄関先でずらりと並んだチビーズが、見事なハモりで礼をする。
 ……うん、もういつもの光景だ。チビたちは俺の足音で帰宅がわかるらしく、玄関を開ける頃には、まるで犬みたいに尻尾を振って待ち構えている。

 そんなカオスにもすっかり慣れた俺の横で、弟のリセルがピタリと固まっていた。

 王都内にある俺の新居に、「連休中、泊まりで遊びに来ないか?」と誘ったところ、喜んで行くというので、魔法学院の講義が終わったあと、リセルを連れて帰宅したのだが――。

 「いや、言わなくてごめんな。でも説明するより見てもらったほうが早いと思ってさ」
 「……兄さん、ちょっと」
 「……へ?」

 リセルは俺の腕をぐいっと掴むと、そのまま玄関の外へ引きずり出し、ドアをピシャリと閉めた。

 「なんなんですかアレ!?!?
 なんでマッスル獣人が増えてるんですか!?
 兄さんから聞いてた話と全然違うのは何故なんですか!?」

 開口一番、怒涛のツッコミ。
 リセルは、この世の終わりみたいな顔で俺の肩をガクガク揺さぶった。
 「兄さん、どういうことなんですか!? 本当にどういうことなんですか!?」
 (うん、わかるよ。その反応、めっちゃわかる。俺も最初そうだった)

 「いや、あのな、ちょっと落ち着け……」
 俺は両手を上げて、なだめるように言う。
 「それを知りたいのは、むしろ俺のほうなんだよ。ショタ獣人を保護してただけなのに――
 なんでか知らないけど、気づいたらあんな感じで……」

 リセルは頭を抱えた。
 「“あんな感じ”で済ませないでくださいよ!!」

 この調子じゃ、獣人進化のトリガーを話した瞬間にリセルが卒倒しかねない。
 ……うん、命のためにも黙っておこう。

 「ま、まぁ! そういう細かい話は後だ! ほら、入れよ、な? みんなリセルが来るの楽しみにしてたんだしさ!」
 「ちょ、兄さん!? 本当に大丈夫なんですか!? 身体はなんともないんですか!? 酷いことされたり、嫌なこと強要されたりしてないですよね!? 風呂も寝室も無法地帯とかになってないですよね!?!?」

 「……………………」

 ――俺の頭の中、ここから――  
 
 『……ユーマ、ここ気持ちいいの?♡』
 『あ♡ そこ、気持ちいぃの♡♡ ……あぁッ♡』  
 『ご主人様……もっとイジメていいですか……?』
 『……やぁっ、許して……も、イかせて……♡♡』
 『……まだイけるだろ?』
 『……も、むり……だ、め……ア――ッ♡♡』
 
 ――俺の頭の中、ここまで――

 「……そ、そんなことに……なって……ねぇよ?」 
 「ちょッ! 今の沈黙ってなに!? なんで疑問形なんですか!! 兄さん!! ちゃんと僕の目を見て否定してくださいよッ!!」

 「……お前なぁ。兄さんの貞操心配する前に、想像力の暴走止めろ!」
 「え!? 原因作ってるの兄さんの方でしょ!?」
 「だから不可抗力なんだって……!!」

 ――カチャ。

 「あ、あの……」

 玄関のドアがそっと開き、リィノが申し訳なさそうに顔を出した。
 「……ユーマさん、大丈夫……ですか?」

 「あ、ああ! 大丈夫、大丈夫! ちょっとリセルのやつが混乱しちゃってさ~」
 俺は慌てて笑いながら、背後でまだ何か言おうとしてた弟を手で制した。

 「……おい。なにモタモタしてる。さっさと入れ」

 リィノの背後からガウルが姿を現すと、リセルは目をパチパチさせながら、二人の顔を交互に見ている。

 いや、完全に弟のリアクションが正しい。以前“ミニガウル”だったリィノは、進化後すっかり“ガウル化”していたのだ。

 「……ご兄弟……?」

 「…………違う」
 「……あの、違います」

 二人揃って否定されて、思わず苦笑い。まあ、見た目だけなら確かに“兄弟”に見えなくもないけどな。

 「兄さん、見分けつくんですか?」
 「は? 全然違うだろ。ほら、よく見ろ。目つきが悪くて眉間に皺が寄ってる方がガウルで、こっちの、おっとり優しい雰囲気の方がリィノだ」

 「…………」

 リセルは目を丸くしたまま、しばらく二人を交互に見比べていたが、やがて深いため息をつき、肩の力が抜けた。
 「……兄さん、もう考えるのを放棄していいですか……?」
 「おう、それが正解だ。まぁ、入れよ」

 俺はリセルの肩を軽くポンと叩き、改めて二人を眺める。
 そう、この世界は考えたら負けなのだ。
 かつて“合法ショタ”を生み出したに違いないこの世界の神に、無知だった俺は全力で感謝し、そして握手を求めた。
 今なら、神を正座させて小一時間説教し、ついでにケツバット100回も加えたい気分だ。
 (返しやがれ、俺の純情……!! そして童貞!!)
 (――いや待て、俺まだ童貞じゃねぇか!!!)

 そんなセルフツッコミをかましつつ、再び開け放たれた玄関の敷居をまたぐと、変わらず待機していたチビーズが、ビシッと姿勢を正した。

 「「「改めて、お帰りなせえ、ユーマの兄貴!! そしてリセルの兄貴!! よくお越し下すってぇ!!」」」

 「……はは、どうも。こんばんは」

 俺は若干死んだ目のリセルを家に招き入れ、そのまま食堂へと案内する。

 今日の“カオス歓迎会”は、まだ始まったばかりだ。
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