【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

文字の大きさ
81 / 86
番外編

仔竜の贈り物⑧ ※挿絵あり

しおりを挟む
(※本文には作者の超絶自己満足が爆発している挿絵が含まれます。生ぬるい気持ちで流し見してください)





 「「「ユーマの兄貴! ガウルの旦那! お疲れっしたァァ!!」」」
 「あー! ガウルおかえりぃ~♡ 大変だったね~?」
 「あ、……生きてたんですね。おかえりなさい」

 ガウルと並んで帰宅すると、チビたちを筆頭に個性の濃すぎる面々が入り乱れて玄関ホールになだれ込んできた。

 「ガウルさんお疲れさまでした」
 「……おかえり……なさい」
 「なあ、お土産あるか?」

 リィノ、リーヤ、ライトはその背後から控えめに顔を覗かせている。

 「……このうるささ、久しぶりだな」
 「……だろ?」

 ガウルは眉間に皺を寄せて苦笑しつつも、どこか悪い気はしていない様子だった。長い尻尾をわずかに揺らすガウルを、俺は肘で軽く小突く。

 「ちっとばかし早ぇですが、晩飯にしやしょうかね? もう仕込みは終わってるんでさぁ」

 チビの提案に、俺はあらためてガウルを振り返った。

 「ガウル、腹減ってるか?」
 「……ああ。今日は朝から、なにも食べてない」 
 「え? なんでだよ?」

 俺が理由を問うと、ガウルはバツが悪そうに口を噤み、視線を逸らした。

 その瞬間、クーがニヤリと笑い、俺とガウルの肩に背後から腕を回して、強引に割り込んでくる。

 「ユーマに早く会いたかったんでしょ~?♡」
 「それしか考えられませんね。家に帰るより先に、ご主人様のいる魔法学院へ会いに行くくらいですから」
 「……黙れ」

 どこか棘を含んだアヴィの追撃に、ガウルは鋭く睨み返した。

​ 「さあさあ! 立ち話もなんなんでぇ、ここらでひとつ乾杯といきやしょうかね! 今日は旦那の帰還祝いってことで、これから大急ぎで特上ミノタウロス肉のステーキ、こしらえますんでさぁ!!」

 チビたちの野太い号令とともに、俺たちはダイニングテーブルへと雪崩れ込んだ。
 テーブルの上には、樽ごと置かれたエール。
 杯を傾けながら待っていると、次々と料理が運ばれてくる。
 山と積まれた肉の塊。脂を滴らせる丸焼き。大皿からはみ出すほど盛られた豪快なサラダ。ぐつぐつと音を立てる濃厚シチュー。そして、無造作に転がされたチーズと、籠いっぱいの果物。

 男所帯らしい豪快さの塊のような光景だが、今の俺たちには、それがなにより魅力的だった。

 ガウルは、目の前に置かれた巨大な肉塊をナイフで大雑把に切り分けると、躊躇なく口へと運んだ。

 咀嚼し、喉を鳴らして飲み込む。
 空っぽの胃袋に染み渡るのがはっきりと分かるほど、美味そうに、そしてどこか野性的に食らうその横顔を、俺は思わず見つめてしまう。

 「……どうした、食べないのか?」
 「あ、いや……食うよ。ガウル、美味いか?」
 「……ああ。悪くない」

 素っ気ない返事だったが、その尻尾が椅子の背もたれの後ろで、満足げにゆらりと揺れているのが見えた。
 それを見て、俺も自然と口元が緩んでしまう。

 「兄貴! こっちのシチューも自信作っすよ! 精がつきます!」
 「あーもう、わかったから! 自分の皿に入れろって!」
 「おかわりー!」
 「ご主人様、口元にソースがついていますよ」
 「……このお肉、おいしいね」
 「リーヤ肉ばっかだな!」
 「そう言うライトも、肉しか食べてないじゃない」

 飛び交う怒号と、食器が触れ合う音。
 肉の焼ける匂いと、誰かの笑い声。

 ――騒がしい。
 本当に、耳が痛くなるほど賑やかだ。

 スープを口に運びながら、俺は胸の奥に、じんわりと温かい何かが広がっていくのを感じていた。

 ガウルがいないだけで、この喧噪すらどこか物足りなかった。
 今は、隣に彼がいる。

 いや、ガウルだけじゃない。
 きっと誰が欠けても、ダメなんだ。

 みんなが揃っているから、飯がうまい。
 この騒がしい声さえ、心地よいBGMのように聞こえてくる。

 ふと、ガウルが食事の手を止め、視線だけで俺を捉えた。

 「……なんだ、ニヤニヤして」
 「……べっ、別に。なんでもねぇよ」

 俺は照れ隠しに肉を頬張り、咀嚼して飲み込む。
 腹の底から湧き上がる満腹感とは違う、もっと深い場所が、満たされていく感覚。

 (……おかえり、ガウル)

 言葉にせず、俺は心の中でそっと呟く。
 この騒がしくて、愛おしい日常が、ようやく帰ってきたのだと――噛み締めるように、俺はもう一口、スープを飲んだ。



 ***

 食事が終わったあと、俺は一人きりで自室にこもっていた。
 ベッドの上に置かれた黒い鞘の剣を見下ろしながら、何度目かもわからないため息を吐く。

 (……渡しそびれた)

 腹は満たされたのに、胸の奥が落ち着かない。
 ガウルの隣で笑っていたくせに、肝心なことだけが、どうしても言えずに終わってしまった。

 「……何やってんだよ、俺」

 剣の柄に指をかけ、そっと抱きしめる。
 胸に押し当てると、冷たいはずの鞘が、妙にぬくもりを持ったように感じられた。

 ――コンコン。

 静かなノックの音が、部屋に響く。
 一瞬、ガウルかと思い、身を固くした。

 「……はい」

 だが、戸を開けた先に立っていたのは、ガウルではなかった。

 「……失礼します、ユーマさん」

 穏やかな声。
 柔らかく笑う、リィノだった。

 「あ……リィノ……」

 視線が、俺の腕の中の剣に落ちる。

 「……やっぱり、まだだったんですね」

 責めるような響きは、まるでない。
 ただ、静かに状況を受け取った、という調子だった。

 「……情けないよな。あんなに意気込んでたのにさ」
 「いいえ」

 即答だった。
 リィノは少し首を振って、俺をまっすぐ見る。

 「……大切なものだから、でしょう。だから、簡単に差し出せないんです」

 胸の奥を、やさしく指でなぞられたみたいな言葉だった。

 「怖くても、いいんですよ。ちゃんと“決めたい”って思っている証拠ですから」

 リィノはそっと剣に視線を送り、静かに微笑んだ。その言葉が、俺の背中を優しく押してくれる。

​ 「……そうだよな。ありがとう、リィノ」

 俺が勇気づけられ、顔を上げた、まさにその瞬間だった。背後の廊下の闇から、一際大きな影が滑り出てきた。

 そこに立っていたのはガウルだった。
 夜の廊下の闇を背に立つ彼は、いつも通り無表情……のはずなのに。

 金の瞳だけが、まっすぐに俺と、リィノを見ていた。
 鋭い、刃みたいな視線。

 けれど、リィノは動じなかった。
 何も言わず、同じ温度の目でまっすぐ見返す。

 沈黙は短かった。
 先に口を開いたのは、リィノだった。

 「……それでは、俺はこれで」

 俺にだけ、ほんの少しだけ柔らかな視線を向ける。

 「おやすみなさい。ユーマさん、また話を聞かせてくださいね」

 そう言って、静かに一礼し、ガウルの横をすり抜けて廊下へと消えていった。

 俺は剣を抱きしめたまま、リィノの背中が闇に消えるのを見送った。そして、ドアの前に立つ、重苦しい空気を纏ったガウルに、恐る恐る顔を上げた。

 ガウルは、リィノが消えた暗がりから視線を戻し、俺を見下ろす。
 その瞳には、まだ獲物を狙うような鋭い光が残っていた。

 「……あいつと、随分仲が良くなったようだな」
 「……は? バカ、違うって! あいつはただ、俺がうじうじしてたから背中を押してくれただけで……」

 俺の弁解など聞こえていないのか、ガウルは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、一歩踏み込んで俺との距離を詰めた。
 圧倒的な体格差。彼の影が俺をすっぽりと覆い隠す。

 「……で? そいつはなんだ」

​ ガウルの視線が、俺が抱きしめている剣に落ちる。
 もう、後戻りはできない。俺は観念して、それを彼に突き出した。

 「……これ、やるよ。お前のために、用意した……剣だ」

 沈黙。

 空気が張り詰める。
 ガウルは、すぐには手を伸ばさなかった。
 ゆっくりと視線を落とし――黒い鞘を見る。

 そして。
 ガウルは大きな手でそれを受け取った。
 ずしり、とした重みを感じたのか、彼の眉がわずかに動く。
​ ガウルは静かに柄を握り、ゆっくりと少しだけ鞘から引き抜いた。

​ シャラッ……

 澄んだ金属音が静寂な廊下に響く。
 夜を閉じ込めたような漆黒の刃。
 鱗の文様が、淡く光を受けて浮かび上がる。

​ ガウルが息を呑むのがわかった。
 彼は刃を光にかざし、その輝きと、鍛え上げられた波紋を食い入るように見つめた。

 「お前の剣……直ったって聞いたけど。でも、予備くらいにはなるだろ。……俺が、お前のために工房に頼んで打ってもらったんだ」

 俺がボソボソと言うと、ガウルは長い沈黙の後、剣を鞘に納めた。
 そして、信じられないほど愛おしげに、その鞘を指で撫でる。

 「……なるほどな」

 ガウルの口元から、先ほどのリィノへの苛立ちは完全に消え失せていた。
 代わりに浮かんでいるのは、獰猛なほどの独占欲と、歓喜。

 「……隠してたのは、これか」
 「わ……悪いかよ。い、要らなきゃ他の奴にやれよ。言っとくけど、それ、めちゃくちゃ高ぇんだからな……!」



 言い終わるより早く、ガウルは空いた片腕で俺を力強く抱き寄せた。
 逃げ場のない抱擁。彼の体温と匂いが、一気に俺を包み込む。

 「……馬鹿。誰が他の奴にやるか」

​ ガウルは俺の髪に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

 「……これはあんたが俺のために用意した剣だ。俺が貰う」

 耳元で囁かれる低い声が、甘く溶けるように俺の芯を揺さぶる。
 その声色だけで、彼がどれほど喜んでいるかが伝わってきて、俺の胸も熱くなった。

 「……そ、そうかよ……」
 「ああ……」

 俺が顔を上げると、ガウルは俺の手を取った。
 至近距離で輝く金の瞳が、熱っぽく、どこか妖艶に揺れている。

​ 「……俺も、あんたに渡すものがある」

​ ガウルは俺の手を引き、顎で階段のある廊下の奥をしゃくった。

​ 「来てくれ」

 有無を言わせない声。
 俺は頷き、言われるがまま、二階の突き当たりにある――もはやガウルの私室と化した部屋へついていくのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

呪いで猫にされた騎士は屈強な傭兵に拾われる

結衣可
BL
呪いで猫にされた騎士は屈強な傭兵に拾われる

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...