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誰か、俺に休みをくれえええええ!!④―日曜日の俺―
しおりを挟む腰が……!!マジで!!ヤバイ……!!!
ああほんと、ヒール魔法が存在しててよかったって、心の底から思った……。
なかったら死んでた。俺の尊厳が。完全に。
いや、何がとは言わない。言えない。けど察してほしい。
だって――
ガウルはとにかく激しいし!
アヴィはもう……しつこいの極みだし!!
クーに至っては……デカいんだよ……!!!
スズメバチに囲まれたミツバチの心境って、こんな感じなんだろうな。
抵抗する間もなく丸め込まれた理性が、まるで餌みたいに食われていく感覚だった。
誰か頼むから、俺に休みを……!!!
人権という名のふかふかの布団で、三日三晩寝かせてくれえええええ!!!!
そう思っていた、ある日曜日の昼下がり。
ガウルが分厚い手で俺の肩を揉み、アヴィが丁寧に淹れた香り高い茶を差し出し、クーは団扇で一定のリズムで涼を送ってくれる。
――なんだこの状況。どう考えてもおかしい。
普通に考えたら、筋肉×3による過剰なホスピタリティは“カオス”のはずなのに。
それを今、俺は“平和”とすら感じている。
……いや、待て。
その感覚、たぶんもう末期。
「……え、なんか今日は……平和?」
静かな時間。
誰も襲ってこないし、押し倒されないし、妙に優しい。
「……え、ちょ、なにこれ……
もしかして、俺の人権、ようやく認められた……!?」
満面の笑みで茶をすすり、のびをする俺。
──幸せってこういうことなんだなぁ。
これが……筋肉ハーレム……ってやつか?
いや、いやいや、なんだよそれ。
肩はガッチガチ、茶を淹れる手つきすら無駄に男前、団扇の風圧がちょっと強ぇんだわ!
違うんだよ、俺が本当に求めてたのは――
もちもちふわふわショタハーレムだろうがァアアアア!!!
返してくれよ俺の安らぎ!! 砂糖菓子みたいな日々をッ!!!
ちょっと前まで――俺の家は、
ちいさな可愛い子たちが集まる「保育所」みたいな場所だったはずだろ!?
ギルドの依頼をこなしながら、皆で食卓を囲み、夜はくっついて一緒に眠る。
小さな手、小さな寝息、小さな幸せに包まれていた……はずだったのに。
それがなんで今、軍人の詰所みたいになってんの!?!?
甘え声はすっかりバリトンになり、筋肉の圧で空気が揺れる。
かつて「おんぶ~」とせがまれた背中に、今は「担がれる」状態でベッドへ運ばれ、
耳元で「今日は下半身、集中して鍛えようか♡」なんて囁かれたとき、悟った。
――ここはもう、平和じゃない。
筋肉による支配が始まっている……。
それなのに。
ガウルにお姫様抱っこされ、
アヴィに手を優しく握られ、
クーの分厚い胸板にぎゅっと包まれるたび、
俺の中の“乙女回路”が、思わず「……ちょっと良いかも」なんて誤作動を起こしてしまう。
おい待て俺。
この状況を“心地いい”とか思ってる時点で、たぶん一番ヤバいの、俺じゃないか?
なんでこうなった、俺の人生。
回復術士のはずが、なんでこんなにも筋肉に包囲されてるんだ。
でも。
ほんの少しだけなら……
もう少しだけなら……この筋肉に、甘えてもいいですか。
そして夜になった。
「……ふぁぁ……今日はみんな優しかったな……。家事も全部やってくれたし、さすがにもう……普通に、寝ていいよな……?」
ふかふかの布団に沈み込む幸せに浸っていたそのとき。
背後で「カチャリ」とドアの閉まる音がした。
「……え?」
振り返った瞬間――その闇の中、三対の光が浮かび上がる。
まるで夜行性の獣のように、鋭く、光る瞳。
姿ははっきり見えないのに、筋肉の圧だけは確かに感じる。
“準備万端”なマッチョ獣人3人組が、俺を見下ろしていた。
ガウルが枕元にしゃがみ込み、低く囁く。
「ユーマ、今日は……」
アヴィがすかさず、俺の手を取りながら言う。
「“全員で”癒しますよ」
クーは団扇をそっと置き、ニッコリと微笑んだ。
「優しさの本番はこれからだよ♡」
空気が……重い。いや違う。筋肉の密度が高いだけだ。
「ま、待て! さっき肩揉んだだろ!? 茶も飲んだし、団扇の風も受け取った!! もういいだろ!? ヒーリングは完了したよな!?」
ガウルがムキッと腕を鳴らす。
「今度は心のコリをほぐしてやる」
アヴィがベッドの縁に手をかける。
「身体と心はセットです。分離不可です。異論は認めません」
クーが俺の足をつついてくる。
「まずは下半身から整えようね♡」
「だ、だれかぁああああああ!!! 俺に!!! 休みをくれええええええええええ!!!!」
そして俺は、
今日もまた願うのであった。
すべてが終わったあとには――
ヒールじゃなくて、リザレクションを施してくれ……と。
お願いだ……俺を、生き返らせてくれ。
\\\ 完 ///
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