【完結】ヒールで救った獣人ショタがマッチョに進化!? 癒しが招く筋肉のカタチ

たもゆ

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「明日みんなで花火、見に行こうな」

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五日後、俺たちは西方の森の入り口でオロと合流することになっている。

不安がないと言ったら、嘘になる。
国家に逆らうことになるかもしれない――それは、冗談でも軽口でも済まされない覚悟だ。
下手をすれば、反逆と見なされる。捕まるのは、俺だけじゃ済まない。
アヴィも、クーも、ガウルも……巻き込むことになる。

それでも、誰一人として文句を言わなかった。
俺のために、ただ黙って隣を歩いてくれる。

みんながいるから、大丈夫――そう思いたいのに、胸の奥にこびりついた不安は、まだ拭いきれない。

本当は、怖くて仕方ない。
それでも、いつもの笑顔で「行こう」って言ってくれる仲間がいる。

そんな仲間に恵まれた俺が、立ち止まっていられるはずがなかった。



夜。夕食を終えた後も、明かりの灯るダイニングに、俺たちは静かに集まっていた。
温もりの残る食卓を囲みながら、それぞれの想いを胸に、言葉を探している。

「うまくいくといいけど、最悪、もうこの家にいられなくなるかもしれない。国外逃亡、とか、放浪の旅とか……」

俺が笑ってみせても、心の奥は冗談で済ませられるほど軽くなかった。

そのとき、隣にいたガウルが無言で俺の手に、自分の手を重ねる。

「……それでも、いいんだ」

一拍置いて、ふっと笑う。

「どこへ逃げても、俺はあんたの隣にいる。それだけは決めてる」

その言葉に息を呑んだ瞬間、向かいの席でクーが椅子の背もたれにぐでっともたれかかる。

「そっかー。でもさ、そうなったら、また新しい家、みんなで探せばいいじゃん」

くいっと身を起こすと、そのままテーブルに前のめりになり、頬杖をついた。ニカッといたずらっぽく笑いながら、続ける。

「今度はさ、ちゃんとベッド三つ置ける部屋にしようね! ……あ、ユーマはオレの上ね♡」

「いや俺のベッドも用意してくれ!」

思わずツッコむと、クーは楽しそうに肩をすくめた。
その軽やかな口調とは裏腹に、その目はどこか優しくて。
――まるで、俺を安心させようとしてるみたいだった。

アヴィはカップをそっとテーブルに戻し、まっすぐ俺を見た。

「……僕も“伴侶”として、当然ご一緒しますよ。これ以上、ご主人様を勝手に伴侶認定する輩が増えないよう、僕が見張っていなければ」

「って、いやいやいや!! 勝手に伴侶認定したの、まずお前らだからな!? 棚にあげるな??」

クーがふっと笑い、指をひとつ立てる。

「オレは父親公認だから♡」

「いや、勝手に既成事実つくるな!?」

そして、隣のガウルが妙な圧とともに、静かに確信めいた一言を落とす。

「……言っておくが、最初に唾をつけたのは俺だからな」

「いや、縄張りみたいに、俺にマーキングするな……!?」

相変わらず俺の人権は行方不明だけど――
たとえこの家を出ることになっても、きっと俺は一人じゃない。

胸の奥に、じんわりとあたたかい灯がともった気がした。




***

魔法省管轄の施設から獣人ショタを救出する作戦決行まで、あと四日。
(……いや、我ながらこの作戦名、もうちょっとなんとかならなかったの!?)

そんなツッコミを脳内でかましつつ、いつものようにギルドへ向かっていると、街全体がやけにざわついているのに気づいた。

「なんかさ、最近やたら人が多くない?」

俺の問いに、隣を歩いていたガウルが周囲を一瞥し、軽く頷く。

「ああ。明日から三日間、建国記念の祭りがある。他所の街からも人が集まってきてるらしい。しばらくは賑やかになるぞ」

「へえ、建国記念日……」

聞き覚えのある響き。でも、俺には縁遠い言葉だった。親に連れられて祭りに行った記憶なんて、一度もない。
いつも他人事みたいに過ぎていっただけで――だから、すっかり忘れてた。

そんな俺の顔をじっと見ていたガウルが、不意にぽつりと呟いた。

「行ってみるか?」

「えっ、いいの? ……って、いやちょっと待って!? これから国家に喧嘩売ろうとしてる俺たちが、建国記念日祝ってていいの!?」

自分で言って自分でツッコむ俺に、アヴィがくすっと笑って言った。

「いいじゃないですか、ご主人様。どうせなら気晴らしに、しっかり楽しみましょう」

「そうだよユーマ! こういうのは“楽しんだもん勝ち”って言うでしょ~♡」

なんだそのポジティブな乗り方……と思いつつ、浮かれた二人の顔を見ていると、なんだか悪い気もしてこない。

「……そっか。うん。じゃあ、明日はギルドの仕事は休みにして――みんなでお祭り、楽しんじゃおっか」

「やったー! ユーマとデートだ♡」

はしゃぐクーの声にかぶせるように、前を歩くガウルがちらりと視線を寄越した。

「祭りの期間中、夜には花火も上がるぞ」

その言葉にアヴィが小首を傾げる。

「花火……とは?」

俺は思わず笑って、アヴィの方を振り返る。

「そっか。アヴィは、花火を見たことなかったんだな。じゃあさ――明日、みんなで一緒に見よう。すっごく綺麗だからさ」

アヴィはほんのわずかに目を細め、口元に淡い微笑みを浮かべた。

「……本音を言えば、ご主人様と“二人きり”が理想でしたけどね。
まあ、今回は――妥協してあげます」

ふふ、と冗談めかすように口元をゆるめたアヴィに、すかさず「性格が悪い」「なんか上から目線!」と軽口が飛ぶ。

そんな何気ないやり取りに、俺は肩の力を抜いて笑った。

“建国記念日”なんて、俺たちにとってはただの賑やかな日常の一部で――
それでも、このひとときがどこか愛おしくて。
束の間の平和を、ぎゅっと胸の奥に抱え込むようにして、俺はみんなを順に見やりながら、そっと目を細めた。




***

その日の午後。
ギルドで依頼達成の報告と、討伐したモンスターの素材を納品し終えた俺たちは、
帰り道ついでに街の市場へ立ち寄り、夕食用の食材を調達してから家路につくことにした。

「祭り本番前って感じの賑わいだなー……朝より明らかに人増えてる」

市場のある大通りは、朝以上の人出で賑わいを見せていた。通り沿いの家々や店先には、建国祭を祝う花飾りや色とりどりのランタンが揺れていて、街全体がどこか華やいで見えた。

露店で豆と野菜を買い終えたところで、店主が人懐っこい笑顔を向けてきた。

「兄ちゃん、こっちの芋もどうだい? 今年は豊作でね、安くしとくよー」

「なにこれ、ジャガイモもどきじゃん! おじさん、それください! たくさん買います!」
「まいどっ!」

俺が元気よく返事をして麻袋を受け取ったその横で、ガウルが微妙な顔をしていた。

「なに、ガウル。芋嫌いなの?」

「……食感が、どうにもな」

「揚げて食べたことある? フライドポテト的なやつ」

「いや。スープに入ってるのしか食べたことない」

「人生損してるって! フライドポテトは正義。油と塩の魔力だよ。子供にも大人気」

「……誰が子供だ」

不機嫌そうに唇を引き結ぶガウルに、俺はふっと笑った。

「じゃあ今日、揚げてやるよ。大人向けに、カリッと仕上げたやつな」

そこへ、クーがぴょんっと俺の背後から顔をのぞかせてきた。

「オレ、大盛りでお願いね♡ ユーマのごはん、なんでも美味しいもん!」

「はいはい。クーの分は“お子様ランチ”仕様にしといてやるからな」

「ほんとー? やったぁ♡」

デカい図体に似合わず“お子様ランチ”で大喜びするクーに、思わず苦笑いしてしまう俺。
そこへアヴィが、涼しい顔でふっと微笑んだ。

「それより――ご主人様の手料理という時点で、既に全メニューがご馳走ですよ。
……もしよければ、作り方を教えてくれませんか? 僕もお手伝いします」

「うん、ありがとな。でも適当に切って素揚げするだけなんだけどな、これ」

くだらない話で盛り上がっていたその時――

「おっとっと!?」

不意に、足元に小さな何かがぶつかってきた。
下を見ると、転びそうになった俺を見上げる、小さな女の子がいた。

「ごめんっ、大丈夫?」

「うん! あのね、お兄ちゃんに、これあげる!」

女の子はにこっと笑って、何かを差し出してきた。
それは、小さく二つ折りにされた紙切れのようなものだった。

受け取って開いてみると――
中には、まるで魔法陣のような、見たことのない文様が描かれていた。

「……? これ、何?」

女の子がくるりと振り向いて、広場の向こう側――民家の壁際を指さした。

「あのね、あそこにいるおじちゃんが、お兄ちゃんに『これ渡してきて』って……」

俺は思わず、指さされた方を目で追った。
人々が行き交う喧騒の向こう――
その中に、白いローブをまとった男が、一人だけ浮くように静かに立っていた。

「じゃあね」
女の子がぽつりとそう言って、俺の手に紙切れを渡すと、そのまま人混みの中へと消えていった。

(……誰、あれ)

目が合った、と思った。その瞬間だった。

視界が、ぐにゃりと歪んだ。
まるで、自分だけ時間の流れから切り離されたみたいな――そんな感覚。

(……なにこれ……)

心臓の音が、一拍遅れて聞こえる。
足元から、感覚がすうっと抜けていく。

その時――
アヴィとクーが、俺の名を叫んだ気がした。





ドサッ。


ガウルが振り向くと、そこにユーマの姿はなかった。
代わりに、アヴィとクーが言葉を失ったまま立ち尽くしている。
その視線の先――足元には、さっきまでユーマが手にしていた麻袋と、そこから飛び出した芋が無残に転がっていた。

「……ユーマ?」

呼びかけても返事はない。

耳の奥で、何かがザァッと音を立てた気がした。
理解が追いつかない。手足はじわじわと熱くなるのに、心臓だけがスッと冷えていく。
身体の中心が、どんどん空っぽになっていくような錯覚。

「――ユーマ!?」

もう一度声を上げた。今度は怒鳴るように。

だが、空気を打った声は虚しく弾け、返ってくるのは沈黙だけ。

焦りが喉を焼く。言いようのない不安が胸を締めつけ、ガウルはぐしゃっと麻袋を掴み上げた。
そこにあるのは、確かにユーマの持っていた袋だ。
間違いない――でも、肝心の本人だけが、どこにもいない。

「どういうことだ……どこに行った……!?」

拳を強く握る。すでに呼吸は乱れている。目の奥が熱く、頭の中がうるさくなってきていた。

「クソッ……なんで気づけなかったッ!!」

「ガウルさん! さっき、あそこに白いローブの男が……っ」

「ダメだよアヴィ、もういない……姿が消えてる」

(まさか……連れていかれた?)

アヴィは震える指先で、地面に落ちていた紙切れを拾い上げた。
そこには、見覚えのない、歪な文様の魔法陣。

「ガウルさん、これ……!」

アヴィの声に、ガウルは紙をひったくるように受け取り、素早く目を走らせる。

「その紙を子供から受け取った、ほんの一瞬後なんです。ご主人様が……霧のように、掻き消えて……っ」

――転移魔法か?
しかも、周到に仕組まれた――!

考えるよりも先に、体が動いていた。

「どこへ行くんですか、ガウルさん!?」

「……決まってるだろ。魔法省だ。ユーマを、取り返す」

「一人で行く気ですか!? いくらガウルさんでも、単身で魔法省に踏み込むのは危険ですよ……!  一度、落ち着いて――」

「落ち着いていられるか!!」

怒鳴ったガウルの声は、確かに荒れていた。
だがその奥にあるのは怒りではない。“焦り”――それも、自分を責めるような色が滲んでいた。

「ユーマが……ユーマが攫われたんだぞ……!」

振り返った彼の目は血走り、握り締めた拳がわずかに震えている。

「……お前は、悔しくないのか!? 目の前でユーマを攫われて、なんでそんなに冷静でいられるんだよッ!!」

ガウルの怒声が響き、通行人たちは驚いたように足を止める。
「……なんか怖そうな人達が揉めてる」「関わらないほうがいいよ」と小声が飛び交い、誰もが距離を取るように足早に通り過ぎていく。

そんな視線の中で、アヴィはわずかに瞼を伏せた。
そして――低く、鋭く、吐き捨てるように言う。

「……僕が“冷静”に見えるのなら、それは――あなたが、僕の中を見ていないからです」

その声は淡々としていながら、張り詰めた糸のように危うかった。
皮膚のすぐ下で燻る激情が、今にも爆ぜそうな気配を孕んでいる。

「取り乱すだけでご主人様が戻ってくるなら、今すぐ叫んで、暴れてみせますよ」

アヴィの視線がガウルを真っ直ぐに射抜く。
その瞳は氷のように冷たく――けれど、奥底には焼け付くような熱が潜んでいた。

「ご主人様を取り戻すために。無駄な一秒すら、今は惜しい」

今にも掴みかからんばかりの勢いで詰め寄るガウルに、アヴィも一歩も引かず、真っ直ぐにその眼差しをぶつけ返した。

――その二人の間に割って入るように、クーの声が響く。

「やめてよっ!! 今は、そんなこと言い合ってる場合じゃないでしょ!?
そんなのしても、ユーマは戻ってこないんだから!!」

クーの瞳が揺れている。
きっと、いちばん怖いのはクーだ。
けれど、それでも――彼は震える声を、必死に振り絞っていた。

ガウルはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと息を吐き出し、顔を伏せたまま、額を押さえる。

「……悪い。俺が、一番冷静じゃなかった」

苦しげにそう呟いたとき、アヴィがそっとガウルの肩に手を添えた。

「……いえ。僕も同じです。
冷静でいろという方が――無理な状況でした。ですが……今は、ご主人様を取り戻すために、最善の策を考えましょう」

その言葉に、場の空気が少し落ち着きを取り戻す。

「うん……そうだよ」

クーが、ぽつりと呟いた。

「喧嘩してる場合じゃないし……ユーマを見つけるために、今できることをやらなきゃ」

彼は不安げに視線を落としながらも、しっかりと前を向いた。

「まずは、ご主人様がどこにいるのか、可能性を一つずつ絞り込みましょう。痕跡や手がかりを丹念に洗い出して――必ず見つけ出します」

アヴィのその言葉に、ガウルが顔を上げた。
その目には、さっきまでとは違う、獣のような鋭い光が宿っている。

「……奪われたんなら、取り返すだけだ」




3人は一度、家に戻った。
ダイニングテーブルの中央には、さっき拾った紙切れがぽつんと置かれている。
そして、その隣――いつもならユーマが座っているはずの椅子が、ぽっかりと空いたままだ。
ただの空席であるはずのそれが、今はやけに胸を締めつけた。

「……ユーマ」

ガウルは祈るように手を組み、そのまま額を預ける。
深く息を吐きながら、こぼれるようにその名を呼んだ。

「大丈夫。ユーマは……きっと戻ってくるよ」

根拠なんて、どこにもない。
でもそれは、ガウルを励ますためというより――
クー自身が、そう信じていたかっただけなのかもしれない。

アヴィが、静かに口を開いた。

「……あの広場にいた、白いローブを纏った男。これまでの使者とは……明らかに“格”が違いました。
気配も足音も感じさせず、まるで空気のようにそこに現れ、僕たち獣人の勘をも欺くほどの手練れ――並の者ではありません」

魔法省の手先は、ユーマの弟を帰したあとも、しばらくあとを絶たなかった。
恐らく、弟が兄を庇ってついた嘘が、すでに見抜かれていたのだろう。
その度に“始末”して――ようやく諦めたように姿を見せなくなった矢先の出来事だった。

「……転移魔法というのは、魔法使いなら誰にでも使えるものなのか?」

「いいえ。あれを扱える魔法使いは、ごく一部です。たいていは、魔法省の上層部か……もしくは、宮廷魔導師クラスのはず」

「宮廷魔導師……。じゃあ、今回の計画がどこかから漏れて、ユーマだけ狙って攫われたって可能性は?」

「……否定はできません。十分ありえます」

「クー。嗅覚ならお前の方が上だ。この紙切れから、何か分からないか?」

「うん、やってみるね」

クーはテーブルに置かれた紙片に手を伸ばし、そっと拾い上げて鼻先に近づけた。

「紙とインク……それに、ユーマの匂いも少しだけ残ってる。あと……なんだろう、花みたいな、ふわっとした香り。……でも、ごめん。オレ、この匂い、覚えがないや」

ガウルが無言で手を差し出す。 紙片を受け取ると、クーと同じように鼻先へ。

クーが言っていた、“もうひとつ”の香り。 ほのかに立ちのぼるその香は、確かにどこかで――

「……この匂い……どこかで……」

ガウルの眉がわずかに動いた。
記憶の奥を探るように、瞳に微かな戸惑いが宿る。

どこだ……この香り、記憶のどこかに引っかかってる。
確かに、一度は感じた匂いだ。

思い出せ。焦るな……
きっと、これがユーマの居場所の手がかりになる。

いつだ? いつの匂いだ……?
香のような匂い。それを嗅ぐ機会があるとしたら……。

……そうだ。この匂い、思い出した。

まだ俺が、プラチナランクに上がる前のこと――
王都まで行く行商人の護衛依頼を受けた時だ。

積み荷の中に、この匂いとそっくりなものがあった。
鼻に残る、微かに甘く、どこか香のような匂い。

依頼人の男は、荷の上で誇らしげに胸を張って言っていた。
「これは特別な品だ。王城に納めるんだよ」と。


ユーマを狙ったとなれば、真っ先に疑わしいのは魔法省だ。
だが――もし“宮廷魔導師”が関与しているのだとしたら、話はまるで別になる。
王族に連なる立場の者が、なぜユーマを?
たとえ計画が漏れていたとしても、“ユーマだけ”を狙って攫ったことには、やはり違和感がある。
……いや、最初から“ソウルリターナー”として、王家の意向で確保しようとしていた可能性も考えられる。

いずれにせよ、魔法省も、そして宮廷も王都にある。
ならば――王都へ行けば、何かしらの手がかりは掴めるはずだ。

そして、ユーマがそこにいるのなら――この匂いを辿って、必ず見つけ出す。

「……何か、分かりましたか?」

アヴィの静かな問いに、ガウルは短く息を吐き、視線を真っ直ぐに返す。

「……王都へ行く。ユーマがそこにいる可能性が高い」

「王都には検問があります。正面から行く気ですか?」

「……バカ正直に門をくぐるほど、間抜けじゃない。夜のうちに壁を越える」

「ねぇ、ユーマ……生きてるよね……?」

クーがうつむいたまま、かすれた声でつぶやく。指先が不安げに揺れていた。

アヴィが視線を逸らさず、冷静に言った。

「……命が狙いなら、もっと直接的な手段をとっていたはずです」

「そうだな」
ガウルが低く頷く。

「ユーマみたいな力を持つやつを、わざわざ攫って殺す理由がない」

「……行きましょう。みんなで、ご主人様を迎えに」

「……うん」

その一言で、迷いは断ち切られた。

焦る気持ちを、ぐっと押し殺す。
不安や悔しさに呑まれそうな心を、ただ一つの想いで支えていた。

ユーマを、取り戻す。
今度は、必ず――あいつの手を離さない。
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