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前編
しおりを挟む大学の構内で見知った二人組を見つけ、真翔は足を止めた。
二人組の一人は、小柄で線の細い中性的な外見の美青年だ。明るい色の髪はサラサラで、くりんとした大きめの瞳に長い睫毛、艶やかな唇。愛嬌たっぷりの愛らしい顔立ちをした彼の名前は璃葵。名前も可愛らしい。
その隣を歩くもう一人は、璃葵とは対照的に長身でガッチリとした体つき。切れ長の瞳に、スッと通った鼻にシュッとした輪郭。精悍に整った容姿をしている。名前は修一という。
彼らはまさに、BLでいう受けキャラ攻めキャラだった。しかも二人は幼馴染みという美味しいオプションまで付いている。
仲が良くて常に一緒にいる。幼馴染みという間柄だからこその親密な距離感。
そんな二人を、BL漫画に出てくるカップルのようだと真翔は思っていた。
そして二人がBL漫画のメインカップルだとしたら、真翔は二人の友人ポジションという目立たない平凡モブキャラだった。キラキラと輝く彼らをより引き立たせる為の地味な存在。
本来なら友人ポジションにすらなれないだろう真翔だが、偶然璃葵の落とし物を拾い、それがきっかけで顔見知りになり、最寄り駅が一緒だったり講義で一緒になったり、色々と顔を合わせる機会が重なって徐々に親しくなり彼らと行動を共にする事が増えていった。
璃葵の性格が人懐こく面倒見がいいというのもある。人見知りで引っ込み思案な真翔を気にかけて、彼はいつも笑顔で声をかけてくれるのだ。
そんな璃葵に真翔は何度も救われた。
そして今も、真翔の存在に気づいた彼は顔を綻ばせてすぐに駆け寄ってきてくれる。
「真翔、今から修一とカフェ行くんだけど一緒に行こうよ」
こうしていつも、彼の方から真翔を誘ってくれる。
嬉しくてすぐに頷きそうになるが、遅れて近づいてきた修一の姿が目に入り一瞬躊躇う。思わず窺うように彼を見上げた。
修一は特に何も反応しなかった。それを見て、真翔は漸く頷いた。
「うん。一緒に、行く」
「やった。早く行こ。僕、新作のパンケーキ食べたいんだ」
ニコニコと笑顔を振り撒く璃葵につれられ、三人で構内にあるカフェへと向かう。
四人席のテーブルに真翔と璃葵が並んで座り、璃葵の正面に修一が座った。
「見て見て、真翔。すっごく美味しそう!」
パンケーキを前にはしゃぐ璃葵はとても可愛い。一口食べてパッと顔を輝かせる彼も一際可愛い。
「んん~! すっごく美味しい!」
「よかったね、璃葵くん」
「ね、ね、真翔も食べて! ホントに美味しいから」
そう言って彼はパンケーキを一切れ刺したフォークを真翔の口元へ寄せる。
途端、鋭い視線が注がれるのを感じた。チラリと横目で窺えば、案の定、修一が射殺すような勢いでこちらを睨み付けていた。
怖い。でも、折角の璃葵の好意を無下にはしたくない。
「あ、ありがとう……」
修一の視線にビクビクしながらも、差し出されたパンケーキをパクリと食べた。口の中に柔らかい食感と甘さが広がる。
「うん、美味しいね」
「でしょ! コレって期間限定なんだよね。終わる前にまた食べに来よーっと」
璃葵は無邪気な笑顔でパンケーキを食べ進める。
こちらを睨んでいた修一は、今は何食わぬ顔でコーヒーを飲んでいた。
真翔はそっと溜め息を零す。
二人は、恋人ではない。らしい。BL漫画に出てくるお似合いカップルに見えるけれど、付き合っているわけではないようだ。
けれど、少なくとも修一の方は璃葵が好きなのではないかと真翔は思っている。修一はただの幼馴染みではなく、恋愛的な感情を璃葵に抱いているのではないかと。
璃葵は他人との距離が近い。先ほどのように何の照れもなく純粋な好意で「あーん」などしてくる。よく腕を組んでくるし、ぴったりと身を寄せてくる事もある。
そんな璃葵のスキンシップを真翔が受けていると、修一はめちゃくちゃ睨んでくるのだ。あれは絶対、嫉妬している。
彼に睨まれるたび、真翔は怯えた。
やましい気持ちがないのなら、修一に向けられる嫉妬も受け流す事ができたのだろう。
でもできなかった。何故なら真翔は璃葵の事が好きだったから。やましい気持ちで溢れていたから。
修一に睨まれると、彼に自分の恋心を見透かされているようで怖かった。罪悪感から恐れ戦いてしまう。
何せ真翔は毎夜璃葵の事を考えながら自慰に耽っているのだ。しかも真翔は璃葵に抱かれる妄想をしながらアナルにディルドを突っ込んでいる。可愛い璃葵に組み敷かれ、後孔を犯され、快楽に溺れる。そんなあり得ない妄想を何度も繰り返している。
もしそれがバレたら、真翔は修一に殺されるんじゃないかと思う。もちろん、璃葵にもキモがられ軽蔑され二度と口もきいてもらえなくなるだろう。
だから、真翔はこの気持ちを伝えるつもりはない。璃葵と修一が恋愛関係になるのなら、それを邪魔するつもりもない。二人の間に割り込もうなんて考えてもいない。
叶わぬ恋だとわかっているから、せめて妄想するくらいは許してほしい。
絶対に高望みはしない。璃葵の友人でいられるだけで真翔は満足だった。
「あのね、真翔。お願いがあるんだ」
それは珍しく修一が傍を離れていて、真翔と璃葵が二人でいる時の事だった。内緒話をするように身を寄せて、璃葵がそう言ってきたのだ。
「お願い? 何?」
「もうすぐ僕の誕生日でしょ? 真翔にお祝いしてほしいの」
「え……それは……」
既に彼の誕生日は修一と二人で祝う予定になっている。店も予約済みだ。それは璃葵も知っている。
「違うの。修一と三人でじゃなくて、それとは別の日に僕の家で、二人きりでお祝いしてほしいんだ」
璃葵はじっと、上目遣いに見つめてくる。
ドキドキして、真翔の頬は赤くなった。
「も、もちろん、いいよ……」
「ホント? やったぁ」
璃葵は子供のように瞳をキラキラさせて喜んでいる。
しかし、二人きりで、なんて珍しい。今までどこへ行くにも何をするにも修一と三人でだったのに。
修一には言えない話をするのだろうか。
たとえば、恋愛相談とか。璃葵も修一の事が好きで、どうすればいいのか悩んでいるのかもしれない。
幼馴染みというのは、現実では恋愛に発展させるのはなかなか難しいのかもしれない。好きになっても、その気持ちを伝えるには勇気がいるのではないか。幼馴染みという関係が壊れてしまうのが怖い、とか。
恋愛経験などないから真翔に恋愛相談なんてされても……という感じだけれど。
でも璃葵と修一の二人なら、カップル成立するのは目に見えている。
だから璃葵には告白するよう背中を押そう。きっとうまくいく。応援してる。そう言って精一杯彼を勇気づけてあげよう。
「楽しみだなぁ。詳しい日にちはまた後で決めようね」
ニコニコと上機嫌な璃葵を見つめ、真翔は切ない気持ちを押し殺し笑顔を浮かべた。
そしてその日はあっという間にやってきた。
璃葵の誕生日当日、予約した店で真翔と修一で彼の誕生日を祝った。
それから一週間後の今日、璃葵の暮らす部屋に真翔はやって来た。彼の望み通り、今度は二人きりで彼の誕生日を祝うために。
「今日は来てくれてありがとう、真翔。折角二十歳になったんだからお酒飲もうね。店じゃないから潰れちゃっても大丈夫だよ。泊まっていっていいからね」
そう言って璃葵はローテーブルに缶チューハイを並べる。
テーブルの上に真翔が持ってきた小さなケーキや惣菜も置いて、二人だけの誕生日パーティーがはじまった。それぞれお酒を飲み、惣菜をつまむ。
璃葵とこうしてガッツリ二人きりになる事は今までなかったので、真翔は緊張してしまう。ドキドキする心臓を落ち着かせ、自分はただの友達なのだと言い聞かせながら璃葵と他愛ない言葉を交わす。
すぐにでも恋愛相談されるのではないかと心の準備をしていたが、一時間経過してもまだその気配はない。
真翔の思い過ごしなのかもしれない。だが、まだ可能性は捨てきれない。油断せずにいた方がいい。
改めて心の準備を整えておく。
そこで真翔は持ってきたプレゼントの存在を思い出した。鞄から取り出し、璃葵に差し出す。
「璃葵くん、改めて、誕生日おめでとう」
「生まれてきてくれてありがとう。璃葵くんという存在に出会えて俺は本当に幸せです」という言葉を心の中で付け加える。口にすれば重すぎて引かれるだろう。ただの友達でしかない真翔がそれを言ってはいけないのだ。
「わあ! ありがとう、真翔!」
璃葵はにっこり微笑んでプレゼントを受け取ってくれる。
「開けてもいーい?」
「あ、うん、でも、あの、期待はしないで……」
「ふふふ。真翔がくれたものなら何でも嬉しいよ?」
あざと可愛い笑みを浮かべ、あざと可愛い事を言いながら璃葵は丁寧に包装の中からプレゼントを取り出す。
出てきたのは柔らかく肌触りのいい生地のモコモコパジャマだ。パーカータイプのそれはフードにウサギの耳が付いている可愛らしいデザインだ。
「コレ、前に僕が見てたやつ?」
「う、うん。璃葵くん、可愛いって言ってたから……。こういうの好きなのかなって……」
前に店で璃葵は可愛いと言ってこのパジャマを手に取っていたのだ。その時購入はしていなかったので、真翔はプレゼントとしてこれを選んだ。
璃葵は満面の笑顔を真翔に向ける。
「覚えててくれたんだ! すっごく嬉しい! ありがとう、真翔」
喜んでもらえた事に真翔は心から安堵した。誰かにプレゼントなんて滅多にしないので、自分のプレゼントセンスに全く自信がなかったのだ。
安心感に顔を綻ばせる。
「うん。喜んでもらえて、俺も嬉しい」
気持ちが浮き立ち、酒を飲むペースが上がる。缶チューハイは甘くて飲みやすくて、ついセーブせずに飲み進めてしまった。
璃葵と二人きりの状況が嬉しくて、楽しくて、恋愛相談されるかも……なんて考えていた事もいつの間にか忘れていた。
頭も心もふわふわして、体もぽかぽかして、どんどん眠くなっていく。
そして気づけば真翔は眠りに落ちていた。
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