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前編
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「うん、ありがとう」
裕亜は千紘を自分の部屋へ招き入れた。
既に何度も来ているので、千紘は気兼ねなく中に入りクッションの上に座る。ここに来たときの彼の定位置だ。
「じゃあ、早速勉強しようか」
「う、うん……」
裕亜は緊張を隠して笑みを浮かべる。
自分の部屋で彼と勉強するなんて、もう何度もしてきたことだ。
けれど今日は、勉強が裕亜の目的ではなかった。
千紘とは家が隣で、所謂同い年の幼馴染みだ。幼稚園から高校生になった今もずっと同じ学校に通っている。
人見知りが激しい内向的な裕亜を、人懐こく社交的な千紘が引っ張ってくれた。自分から声をかけられない裕亜に声をかけて、いつも一緒に遊んでくれた。
そんな彼が、裕亜は幼い頃から大好きだった。
千紘は時間が経つにつれ、どんどんカッコよく魅力的に成長していった。成績も優秀で、爽やかな甘い風貌持ち誰もが憧れる存在だった。
一方裕亜は、彼とは反対に全くパッとしない地味な存在だ。相変わらず内気で友達も少なく、成績だけは上位に入っているが全く目立たないいてもいなくてもわからないような。
そんな状態なので、裕亜は中学に上がった頃から学校ではあまり千紘に近づかないようになった。気づかれれば千紘に声をかけられてしまうので、寧ろ避けることが多くなっていた。
千紘は明るく、大勢に囲まれ賑やかに過ごすのが似合っている。
自分とは正反対だから。自分なんかと親しいと周りに思われたら迷惑になる、ネガティブな裕亜はそんな風に考えてしまうのだ。だから、極力人前では彼に近づかないようにしている。
裕亜は自分を卑下し、昔のように彼の後をついて回ることはなくなった。
けれど、千紘は昔と変わらず裕亜を親友として接してくれる。
学校では話さないが、今でもこうしてお互いの家に招きゲームで遊んだり勉強をしたり、交流はずっと続いていた。
面倒見がよくて優しい千紘に、裕亜は幼い頃から憧れを抱いてきた。そしてその憧れの気持ちは、いつしか恋心へと変化していった。
もちろん告白なんてするつもりはなかった。千紘と自分ではあまりにも釣り合いがとれない。自分なんか千紘には相応しくない。
千紘は自分を大切な親友と思ってくれているのに、それを壊すようなことはしたくない。今の関係を続けていければそれでいい。
裕亜は自分の気持ちを一生隠し通すつもりでいた。
けれど、学校で千紘が特定の女子生徒と親しげに話しているのを見て。そのマドンナ的な存在の生徒と付き合っているのではないかという噂話を耳にして。
自分の知らない顔を恋人には見せるのだろうか。
恋人にはどんな風に接するのだろうか。
そんなことが気になって、知りたくて。
千紘の恋人になる人が堪らなく羨ましくなって。
小さな欲が生まれてしまった。
ほんの少しの時間でいいから、恋人として扱ってほしい。
恋人に見せる顔を見せてほしい。
そんな願望が生まれた時だった。
催眠アプリなんて怪しいものを見つけてしまったのは。
こんなの本当に効くわけない。
でも、一度くらい試してみてもいいのではないかと、半信半疑のままアプリをダウンロードした。
効果がなければ別にそれでもよかった。
目の前で勉強する千紘から見えないように、こっそりとスマホを操作しアプリを起動する。
ゴクンと喉を鳴らし、裕亜はローテーブルにスマホを置いた。画面を上に向け、千紘に差し出す。
「千紘くん、これ、ちょっと見てほしいんだけど……」
「うん?」
彼は怪しむこともなく、すんなりとスマホの画面を見た。変な模様のようなものがぐるぐると動いている映像が画面いっぱいに映し出されている。
千紘の瞳は徐々に焦点が合わなくなり、表情もぼんやりとしてきた。
「ち、千紘くん……?」
「ん、なぁに?」
「千紘くんはだんだん、ね、眠くなーる……」
「ん……」
千紘の瞳がとろんとなる。うとうとと瞼を閉じそうになる彼を見て、催眠にかかっているのだと確信した。
「ま、待って、寝ないでっ」
「うん」
止めれば、千紘はすぐにぱっちりと目を開けた。
催眠は成功したのだ。
裕亜はごくりと喉を鳴らし、震える声で言った。
「この部屋の中にいる間は、僕達は恋人同士。僕は、千紘くんの、恋人だよ」
「うん」
「この部屋から出たら、催眠にかかってた時のことは全部忘れて」
「うん」
裕亜は千紘をじっと見つめた。
「千紘くん、僕は千紘くんの何? 僕達は、どういう関係?」
「裕亜は俺の恋人だよ。俺達は、恋人同士でしょ」
千紘はスラスラと答える。
完璧だ。本当の本当にできてしまった。
今は。今だけは、自分は彼の恋人なのだ。
「あ、あのね、近くに行ってもいい……?」
「もちろんいいよ」
千紘は優しい笑顔で頷いてくれた。
心臓をドキドキさせながら、裕亜は彼の傍に移動する。
横に座りぴったり身を寄せれば、千紘はにっこり微笑んだ。
「千紘くん、手、握ってもいい……?」
笑顔に見惚れつつ尋ねれば、「もちろん」と返された。
そっと彼の手を引き寄せ、両手でぎゅっと握ってみる。幼い頃は手を握ることもあったが、今はこんな風に触れることなどない。
手を握っただけで幸せで、胸が高鳴った。
「あ、あのね、千紘くん……」
「うん?」
「……す、好き……」
顔を真っ赤にしながら、その言葉を口にする。決して伝えることのできない気持ちだ。これが最初で最後だと決めて、彼の目を見て言った。
途端に、千紘の瞳が甘く蕩けた。
「うん。俺も好きだよ」
もちろん本心ではないとわかっているが、嬉しくて胸がきゅんとなった。
はにかみ、へにゃりと笑う裕亜の頭を千紘が優しく撫でてくれる。
「千紘くん、あ、甘えても、いい……?」
おずおずと頼めば、千紘は柔らかい笑みを漏らし「いいよ」と頷く。
「おいで」
両腕を広げる彼の胸に抱きつく。するとしっかりと背中に腕を回され、抱き締められた。
思い切り息を吸い込み、千紘の匂いを堪能する。
千紘の腕の中は甘くていい香りがして、温かくて心地いい。
裕亜は彼の胸に頬擦りし、とろんと瞳を細める。
彼はこんな風に恋人を甘やかすのだ。ほんの一時でも、それを体験できて裕亜は満足だった。
これ以上は申し訳ないのでそろそろ離れようと顔を離すと、頬を撫でられた。
こちらを愛しげに見下ろす千紘と目が合い、距離の近さに今更ながらどぎまぎしてしまう。
顔を赤くしわかりやすく照れる裕亜を見て、千紘は笑みを深めた。
「可愛い、裕亜」
「え……?」
ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。
何をするつもりなのか気づいた裕亜は咄嗟に両手で口を覆った。
千紘はピタリと動きを止める。
「裕亜? 手、どけて?」
「え、な、なんで……?」
「キスしたいから」
やっぱりキスされそうになっていたのだ。未遂で済んでよかったと胸を撫で下ろす。
「き、キスは、ダメ……」
「どうして? もう何回もしてるのに」
「えっ……!?」
もちろんしていない。裕亜と恋人同士だという催眠にかかっている千紘の頭の中では、どうやら既に何度もキスを済ませているようだ。
「ね、キスしよう?」
「だ、ダメ……っ」
裕亜はふるふるとかぶりを振る。
恋人として扱ってほしい。だから催眠をかけたけれど、キスとか、そういう性的な接触は一切望んでいない。したくないわけではないが、さすがにそこまでは出来ない。してはいけない。
抱き締めてもらい、好きだと言ってもらえただけで充分だ。
「どうして? 俺とキスしたくない? 俺のこと嫌いになった?」
「まさか! 違うよ! でもあの、今日はキスはダメ……ぎゅってするだけ」
「もしかして、俺のこと焦らして楽しんでるの?」
「ええっ!? ち、違……っ」
「裕亜がそういう意地悪するなら、俺だって意地悪するからね」
「えっ、わっ……!?」
ニヤリと笑った千紘は裕亜の体を抱き上げベッドに下ろした。
「千紘くんっ……?」
「キスさせてくれないなら、悪戯しちゃうよ」
「んひゃっ」
千紘は裕亜をベッドに押さえつけ、ふーっと耳に息を吹きかける。
擽ったさに、びくんっと肩が跳ねた。
「んやっ、やだ、千紘くん、だめっ、んぁあっ」
ぬるりと耳の内側に舌を這わされ、甲高い声が漏れる。
「やっ、だめっ、だめっ、待って、あぁっあっ、千紘くぅ、まってぇっ」
「だーめ」
ちゅうちゅうと耳朶をしゃぶられ、甘い快楽に脳が痺れる。
「千紘く、あっあんっ、やめ、ひうぅっ」
千紘の手が胸の上を這い、ワイシャツの上からカリッと乳首を引っ掻いた。
強い刺激に、裕亜は目を見開き背中を浮かせる。
「ひっ、やっ、やだぁっ、やめっ、んあっあっ」
「ふふ、裕亜の乳首ぷっくり勃ってる。ほら、シャツの上からでもわかるよ。やらしーね」
「んゃぁああっ」
乳首をカリカリ刺激され、耳元で囁かれる言葉でも攻められて、裕亜は羞恥と快感に身悶えた。
乳首は裕亜の性感帯だ。中学生の頃から、何故かオナニーの時にむずむずするようになって、我慢できずに性器と一緒に触ってしまう。
すっかり感じてしまうようになった乳首をシャツの上から擦られ、すぐに性器も反応しはじめた。
「やっ、やあぁっ、千紘くぅぅっ、らめっ、ちくびやめてぇっ」
「じゃあ、キスしていい?」
耳を舐め上げながら尋ねられ、裕亜は緩く首を横に振る。
「だめ、だめぇっ、んあっあぁっ、キスは、しちゃだめっ」
「ふぅん。じゃあ、やめてあげなーい」
「ひゃぅぅぅんっ」
きゅうっと摘ままれ、ツンと突き出た乳頭を爪の先で優しくカリカリカリカリと掻かれる。
「んゃぁぁあっ、それらめぇっ、あっあっああぁんっ」
ピリピリと痺れるような鋭い快感に襲われ、ビクビクと体が跳ねた。
性器は完全に勃起し、ズボンの前が膨らんでいる。
「ダメなの? そんなに気持ちよさそうな声出してるのに」
「ごめっ、ひんぅぅっ、変なこえ、あっんぁあっ、聞かないでぇっ」
裕亜は震える手で口を塞ぐ。
「変じゃないよ。すごーくエッチで可愛い声」
「ひゃんんんぅっ」
耳を舌先でつう……とねぶりながら甘い囁きを吹き込まれると、ぞくぞくぞくっと快感が背中を駆け抜ける。
千紘の声と耳と乳首への愛撫で、全身がどろどろに溶けてしまいそうだ。
腰がはしたなくガクガクと揺れる。下着は漏らした先走りでぬるぬるだ。
「んひぁっんんんっ、やめ、もうっ、んっんっんっんん~っ、おねがっ、あっんっ、らめっ」
「ふふ、腰カクカクしてるのエロいね。もうイきそう?」
「やっやっ、やぁああんんっ、やめへっ、ちくびぃっ、もっ、あっあっあっあっ」
ピンピンピンピンと乳首を弾かれ、勝手に腰が浮き上がる。裕亜はぎゅうっと爪先を丸め、きつく目を瞑った。
「可愛いなぁ。乳首だけでそんな蕩けた顔しちゃって……」
「んひぃんんんっ、んっんっんっんんっぁあんんっ」
「もう辛いでしょ、裕亜。ほら、イッていいよ」
「っ……」
耳元で囁かれた瞬間、頭で考えるより先に体が彼の言葉に反応した。
「あっ、あ~~~~~~っ」
気づけば裕亜は大きく脚を広げ、腰を突き出すような恥ずかしいポーズで射精していた。
びくんっびくんっとペニスが下着の中で跳ねて体液を吐き出す。じわりと濡れる股間を、裕亜は半ば放心状態で見つめた。
「あっ……? へぁあ……?」
自分の体が信じられなかった。確かに乳首で気持ちよくなってしまうことはあったが、さすがに射精に至るほどの快感を得たことなどなかった。
だというのに、こうもあっさり射精してしまうなんて。
「あっ、あっ……ぼく、なんで……」
「どうしたの? こんなのいつもしてるのに」
「ええっ……!?」
にこにこ笑う千紘は、軽蔑することも嘲笑することもない。今の千紘の頭の中では自分は物凄い淫乱で、これが普通のことなのだろうか。
困惑している間に、ズボンと下着を脱がされてしまう。
「下着ぬるぬるになっちゃったね。精液でとろとろに濡れてるおちんぽ、エッチで可愛いよ」
「っ、っ……」
とても卑猥なことを言われ、羞恥に声にならない声を上げる。爽やかで穏やかな幼馴染みから放たれる言葉に裕亜は戸惑いを隠せなかった。
恋人相手には、そんないやらしいことも言うのか。知らなかった彼の一面に裕亜は幻滅することもなく、寧ろ興奮してしまう。
すっかり抵抗を忘れていた裕亜は、ワイシャツの前を開かれ直接肌に触られて、漸くハッと現状を思い出す。
こんなこと、千紘にさせてはいけないのだ。
「ち、千紘くん、ダメだからっ」
「どうして?」
「ど、どうしても! 今日はもうダメ! ね、今日はもう帰った方がいいよ!」
部屋から出れば催眠は解ける。そして千紘は先程の事は全て忘れ何もなかったことになる。
裕亜は千紘を部屋から出そうとした。しかしそれは逆効果だった。
「まだそんな意地悪言うの? そんなに俺を部屋から追い出したい?」
「ち、違っ……そういうわけじゃ、なくて……っ」
「だったら俺も、もーっと意地悪しちゃおうかな」
千紘の満面の笑みに、ぞくりと悪寒が走った。
「ま、待って、違うから、意地悪とかじゃなくて……んひっ」
「んー?」
「ひっ、あんっ」
千紘の指が、くるくると乳輪を撫でる。ぷくりと膨らんだ乳首には触れず、その周りだけを指の腹が辿る。
「あっ、あっ、やだぁっ」
「嫌がってもやめてあげないよ。これは意地悪してるんだから」
「んやっぁあっ、やめっ」
「裕亜の乳首、触ってほしそうに勃起してて可愛いね。ああ、おちんぽもまた勃ってきたね」
「やあぁっんんっ、だめ、だめぇっ、やめてぇっ」
「乳輪だけじゃ可哀想だから、耳もいじめてあげるね」
「ひゃぁんっ」
にゅぷっと耳の中に舌を差し込まれ、甘い悲鳴が上がる。
「ひっあっあっあっ、やめぇっんんんっ、らめぇっ、みみ、ひはぁあんんっ」
にゅぽっにゅぽっにゅぽっと舌で耳を犯される。
耳の奥まで舐められ、乳輪を指で執拗に撫で回され、気持ちよさと焦れったさに裕亜は身を捩った。ペニスはすっかり勃ち上がり、身動ぐ度にぷるぷると揺れる。
「んひっひんぅっんっ、あっあっ、やらぁっ」
刺激を求め、乳首とペニスが疼く。
へこへこと情けなく腰を振るが、それで射精できるわけもない。先走りを飛び散らせながらぷるんっぷるんっと揺れるだけだ。
触ってもらえない乳首もじんじんと熱を持ち、愛撫を待ちわびている。ねだるように背中を反らし胸を突き出すけれど、千紘は笑みを漏らすだけで決して触れてはくれない。
耳だけは熱心に性戯を施され、堪らなく気持ちいいのに、それだけではあまりにも物足りない。
蓄積していく熱が、吐き出せずに裕亜を苦しめた。
「はひぁああっ、やっ、やぁあっ、も、おちんち、つらいぃっ」
駄々を捏ねるように腰を揺する。
自分でペニスを擦ってしまえばいいだけなのに、そんな考えが浮かぶこともなく、裕亜が助けを求めるのは自分を苦しめている張本人だった。
「千紘く、やあっあっ、千紘くぅんっ、おちんちんんっ、いきたいぃっ、いかせてっ、あっあっあっ、おねがいぃっ」
「ふふっ……腰へこへこさせて射精のおねだり可愛いね」
「やっやっ、いじわるしないれっ、もぉおねがいぃっ、いけないのやあぁっ」
涙を流し懇願する裕亜を見て、千紘は恍惚とした笑みを浮かべた。
「じゃあ、キスしてもいい?」
「んぇっ……?」
「キスさせてくれたら、おちんぽイかせてあげる。乳首コリコリしながらおちんぽぐちゅぐちゅ擦って、気持ちよーく射精させてあげるよ」
「ぉっ……んふぅぅぅっ」
いやらしく魅惑的な言葉を吹き込まれ、それだけでペニスから新たな蜜がとぷりと溢れた。
射精したい。この熱を吐き出したい。思い切りいってしまいたい。もうそれしか考えられなくなる。
「…………いい、からぁっ」
「うん?」
「キス……キスしてぇっ……いっぱい、きもちいいのしてぇっ」
そう自らねだれば、千紘は唇の端を吊り上げた。
「いいよ。いーっぱい、気持ちよくしてあげる」
「はっんっ……んんぅっ」
千紘の綺麗な形の唇が近づいてきて、裕亜のそれとぴったりと重なる。
キスしてしまった、という罪悪感はすぐに快楽に塗り潰された。
唇を割られ差し込まれた舌で口内をねぶられ、乳首を指でくりくりと捏ね回され、ペニスを握られ扱かれて、身も心もあっという間に快感で埋め尽くされる。
「んぁっ、んっ、きもちぃっ、んっんっんっ」
「とろとろの顔、かーわいい。ほら、ちゃんと舌出して」
「はひっんっんっ、んんんっ」
じゅるっと舌を吸い上げられる。転がされる乳首も、上下に擦られるペニスも、何もかも堪らなく気持ちいい。
「んはっ、んっぁっんっ、~~~~~~っ」
裕亜は呆気なく絶頂を迎えた。陶酔したような顔で全身を痙攣させ、射精の快感に浸る。
唇はキスで塞がれたまま、ふーっふーっと鼻で息を繰り返す。息苦しさと気持ちよさで頭がくらくらした。
「んっんっ、んぁぁっ……」
ねっとりと上顎を舌で舐め上げ、漸く唇が離れていく。
だらしなく口を開き唾液を零す裕亜を見下ろし、千紘はにっこり微笑んだ。
「裕亜、気持ちよかった?」
「は、はひ……」
こくりと頷けば、千紘は笑みを深める。
「今度は一緒に気持ちよくなろうね」
「はへ……?」
千紘は呆ける裕亜の体を引っくり返し、腰を持ち上げる。
うつ伏せで腰を上げ、剥き出しの臀部を千紘の目の前に晒すような体勢にされ、遅ればせながら裕亜は焦った。
「やっ、なに、なにして……っ」
「裕亜のお尻、すべすべで柔らかくて気持ちいいね」
「やっ、揉まないでっ、あっ、やめ、あっひぁあっ……!?」
ぬるりとした感触が後孔の上を這い、裕亜は驚き後ろへ顔を向ける。すると、裕亜の臀部に顔を埋める千紘の姿が目に入った。舐めてはいけない箇所を舐められているのだと気付き、裕亜は必死に声を上げ彼を止めようとする。
「ひっ、やだ、やめてぇっ、千紘くん、そんなことしちゃだめっ」
「どうして? 裕亜、ここ舐められるの好きでしょ?」
「ひはぁあっあんっ、やあっ、ぬるぬるって……あっあっ、だめっ、だめだよぉっ」
懸命に身を捩り逃げようとするけれど、ガッチリと腰を掴まれ抜け出せない。
千紘にとんでもないことをさせてしまっている。罪悪感と羞恥に涙が溢れた。
「お願い、やめてぇっ、あっあぁんっ、うそ、やぁあっ、舌、入れちゃだめぇっ」
いやいやとかぶりを振ってやめてと訴えるけれど無視され、千紘は後孔の中まで舐め回してくる。
こんなつもりじゃなかったのに。ただちょっと恋人気分を味わいたかっただけなのに。千紘にこんなことまでさせてしまうなんて。
後孔を唾液でぐちょぐちょにされながら、裕亜は安易に催眠アプリなんて使ってしまったことを後悔した。
「んひぁぁあっあんんっ、なか、舐めちゃらめぇっ」
「んっ、はあっ……美味しいよ、裕亜のおまんこ」
「っ、っ……!!」
千紘から放たれる卑猥な言葉の数々に、信じられない気持ちでいっぱいだった。
千紘が恋人をどんな風に扱うかなんて、知りたいと思ってはいけなかった。自分は知ってはいけない千紘の顔を覗き見てしまったのだ。
沸き上がる罪悪感と後悔も、後孔をねぶられる快楽に薄れていく。舌を抜かれ代わりに指を差し込まれ、何も考えられなくなっていく。
「んあぁっ、だめっ、ゆび入れちゃぁっあっあっあぁっ」
後孔も乳首と同じで、何故かオナニーの時に無性にむずむずして自分で弄る事があった。だが指を少し入れてみるけれど快感を得るわけでもなく、ただ疼くような感覚が強くなっただけで、余計にもどかしくなって終わるだけだった。
それなのに。
「ひあっんぁあっあっんっああぁっ」
千紘の指が自分では触れたことのない箇所を撫でた途端、強い快感を感じた。
「んぁああっあっ、なんで、ぇあっあっ、やめっ、ちひろく、そこぉっ、だめっ、あっあっんひぁあっ」
「気持ちいいんだね、おまんこきゅんきゅんっして悦んじゃって」
「ひあっあっあっああぁっ、らめぇっ、そこっ、おっ、そんなにいっぱい、こすっちゃぁっ、ぁひあああっ」
千紘の指がこりゅこりゅとそこを擦る度に、全身が快感に震える。
「あっあっあっ、やあぁっ、きもちぃっ、ひはぁんっ、だめぇっ」
「気持ちよくなってくれて嬉しいよ。もっともっと気持ちよくなろうね」
「んくぅぅぅんっ、やっやあっ、ゆび、ふやしちゃ、やぁっああぁっ」
指を増やされ、中をぐちゅぐちゅと掻き回される。
与えられる快感に抵抗もままならず、ただはしたなく喘ぐことしかできなかった。
触れられずにペニスは勃起し、先走りを滴らせる。
「ひっぉっ、んあぁんんんっ、やぁっ、きもちい、のぉっ、おっ、も、こわいぃっ」
味わったことのない強烈な快楽に襲われ裕亜は怯えた。頭も体もおかしくなってしまいそうだった。
「大丈夫、怖くないよ」
優しく声をかけ、千紘は後孔から指を抜く。
「ひんっ」
「はい、こっち向いて」
また体を引っくり返され、仰向けにされる。穏やかに微笑む千紘の顔を見て、裕亜の不安は薄れた。 けれど、両脚を抱えられ後孔にぐりっと固く熱いものを押し付けられ安心感は掻き消えた。
「はひっ……?」
視線を下肢へ向ければ、取り出された千紘の陰茎がそこにあった。
裕亜はひくりと喉を引きつらせる。
「な、に、して……千紘、く……」
「一緒に気持ちよくなれば、怖くないよね」
にこりと綺麗な笑顔を浮かべ、千紘は躊躇いなく腰を進めた。
ぬぐ……っと、太い亀頭がめり込んでくる。
「ひっ!? あっ、や、めっ……はっ、はいって……くひっ、っ、あっあっあっあ────っ」
裕亜の意思とは裏腹に、後孔は柔軟に剛直を受け入れ飲み込んでいく。
「ひぁあああっ、っ、──~~~~ぉおっ」
散々指で弄られた敏感な箇所を雁でごりゅんっと抉るように擦られ、頭のてっぺんから爪先まで快感が突き抜ける。
「メスイキしちゃったの? 裕亜は本当にここ、ちんぽで擦られるの好きだね」
「んぉっ、おっ……はっひっ、くひぃんんんっ」
メスイキ? 何それ? 何を言われているのかもわからず、強すぎる快楽にガクガクと体を震わせる。
「ひっはっあっあっ、まってぇっ、ぉおっおっ、ちんち、うごかさないでぇっ、ひっぁああっ、なか、こすれて、きもちぃっの、とまらなぁっあっあっあっ」
「うん、俺も気持ちいいよ。一緒に気持ちよくなれて嬉しいね」
じゅぽじゅぽと激しく腸壁を擦り上げながら、千紘は蕩けるような甘い笑みを浮かべ裕亜を見つめる。
彼に愛おしむような視線を向けられて、心と体がきゅんきゅんしてしまう。そんな場合ではないのに嬉しくて堪らなくなってしまう。
咥え込んだ剛直をぎゅーっと締め付け、ペニスからぴゅっぴゅっと体液が漏れた。
「あはっ、嬉しくて精液漏らしちゃって……可愛いね、裕亜」
「やあぁあっ、ひっくふぅんっ、んっゃああっ、とまらな、ひはあっあっあっ、とめてぇっ」
ぶちゅんっぶちゅんっと胎内を突き上げられる度に、少量の精液が噴き出す。
胸元にまで飛び散ったそれに、千紘はうっとりとした顔で舌を伸ばした。
ぴちゃぴちゃと音を立てて舐められ、裕亜は涙を流して止めようとする。
「ひゃぅぅぅっんっあっ、らめっ、なめちゃやあぁっ、あっあっ、やめてぇっ」
「んっ、はあっ……美味し、裕亜の味……」
裕亜の声など聞こえていないかのように、千紘は熱心に舌を這わせてくる。精液を舐め取り、今度は乳首までねぶりはじめた。
「ひっやっ、やめっ、ちくび、らめぇっ、あっあっ、んゃっぁああっ、ちゅってぇっ、すわれたら、ひんぅぅぅっんひっ、きもちいっ、あっあっあぁっ、やめてぇっ」
「んっんっ、乳首も、美味しいよ……」
ちゅっぢゅぅっと乳首に吸い付かれ、快感に背筋が震える。
剛直に犯された後孔もどうしようもなく気持ちよくて、抗う事ができない。
千紘とこんなことをしているなんて信じられなかった。
けれど結合部からはぐちゅぐちゅと生々しい水音が絶えず鳴り続け、全身を蹂躙するような快感は確かに現実のものだ。
涙を流し汗でべとべとで口から涎を垂らす見るに耐えないような酷い顔を晒す裕亜を、千紘は愛しげな瞳で見つめる。
「可愛い裕亜、好きだよ」
頬を染め、恍惚とした顔で愛を囁き口付けてくる。
彼のキスを受け止めながら、自分はとんでもない過ちを犯してしまったのだと新たな涙を流す。
罪悪感に苛まれながらも、体は快楽に飲まれ溺れていく。
「んんぁっんっ、ひっんぅぅううっ、きもち、いいぃっ、あっあっあっ、いくっいくっ」
「んっ……はあっ……俺もイきそう。一緒にイこう」
「ひっぉっぉっ、あっ、い、くぅっ、んっんっんっん゛~~~~~~っ」
激しい抽挿に促されるまま、裕亜は絶頂を迎えた。
同時に、胎内にどぷどぷ……っと熱い体液を注がれる。
彼の精液を胎内で受け止め、喜びを感じてしまっている自分に自己嫌悪した。
それから数週間が過ぎた。あの後、母親が家に帰ってきて慌てて身支度を整え、裕亜の部屋を出れば千紘は全て忘れていた。「全然勉強した記憶ないのにもうこんなに時間経ってる」と不思議そうに首を傾げつつも、特に気に留める事もなく帰っていった。
裕亜は深く後悔し反省した。もう二度と使うまいと、すぐにアプリを消去した。
あの事は一生胸に秘めて、この罪悪感を抱えながら生きていく。それが自分への罰なのだ。
裕亜は痛む胸を押さえ、どうにか今までと変わらず千紘と接していた。本当は合わせる顔もないけれど、いきなり避けたりすれば千紘を傷つけてしまうかもしれない。千紘からすれば理由もわからずいきなり避けられることになるのだ。
だから裕亜は彼の幼馴染みの親友として、これまで通りの関係を続けていた。
今日は千紘の家に招かれて、促されるまま彼の部屋に足を踏み入れる。
綺麗に片付けられたこの部屋にも、もう何度も訪れている。けれど千紘の匂いがする室内に入ると、どうしてもドキドキと胸が騒いだ。
「早速勉強しようか」
ドキドキを誤魔化すように笑う裕亜に千紘が言った。
「裕亜、勉強の前にこれ見てくれる?」
「え?」
顔を上げると、眼前にスマホの画面が差し出されていた。奇妙な模様がぐるぐると回る映像が視界いっぱいに広がる。
あれ? と違和感のようなものを感じるけれど、すぐに何も考えられなくなっていく。
画面を凝視したまま立ち尽くしていると、やがて千紘はスマホを引っ込めた。
「裕亜? 俺の声が聞こえる?」
「うん」
「俺の顔見て」
頭で考えるよりも先に、彼の言葉に反応して視線が動く。
うっそりと満足そうに微笑む千紘がこちらを見ていた。
「うん。いい子だね」
「…………」
「裕亜、俺と裕亜はどんな関係?」
「かん、けい……」
頭の中に靄がかかっているような感覚だった。
裕亜と千紘の関係なんてはっきりしているはずなのに。
するりと、千紘の手が頬を撫でる。すりすりと肌を滑る彼の指の感触に、ぞくんと体が反応した。
甘く蕩ける彼の瞳を見つめながら、裕亜は口を開く。
「僕達は……僕は、千紘くんのお嫁さんで、千紘くんは、僕の旦那さん、だよ」
裕亜は目をとろんとさせて答えた。
千紘は褒めるように笑みを深めた。
応援ありがとうございます!
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