悪役令嬢は断罪されたい

よしゆき

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 正気に戻り、衣服を整えたオリヴィアはシオンに何度も謝った。
 授業はとっくに終わり、静まり返る食堂の個室に二人はまだとどまっていた。
 オリヴィアはとんでもない失態を犯してしまったと、自分の行動を深く反省する。
 そんなつもりはなかったのだが、媚薬を飲んで理性を飛ばし身分的に逆らうことのできないシオンに無理やり体を触らせたり触ったり、オリヴィアのしたことは完全に痴女の行いだ。

「本当にごめんなさい……」
「もう謝らないでください、オリヴィア様。私の方こそ、馴れ馴れしくオリヴィア様に触れてしまって申し訳ありません」

 シオンはすっかり恐縮している。
 媚薬を飲ませたことは言っていない。だからシオンは自分の身になにが起きたのかわかっていない。
 いっそ自首するべきか。媚薬を飲まされたと知ったら、シオンはオリヴィアを訴えるだろうか。断罪イベントには早すぎるけれど、オリヴィアとしては別に今すぐでも構わない。しかし、媚薬を飲ませた罪で高級娼館送りになるのだろうか。相手に媚薬を飲ませ自分でも媚薬を飲み淫行に及んだ罪というのはどれくらい重いのだろう。
 そんなことを考えていると、シオンがおずおずと声をかけてきた。

「あの、それよりもオリヴィア様……」
「どうしたの?」
「訊かないのですか? 私のこと……」
「ああ」

 正気に戻り、冷静になってからオリヴィアは思い出した。あのゲームのBL版の存在を。ストーリーも登場キャラクターもほぼ同じ。ヒロインのシオンは男であることを隠し、女として学園に通う主人公へと変わる。道理でオリヴィアと比べると体つきがしっかりしているはずだ。
 オリヴィアはBL版でも悪役令嬢だ。シオンをいじめまくり、ハッピーエンドルートでは断罪され高級娼館行き。それはなにも変わらない。
 BL版もしっかりクリア済みなので、シオンが女装してる理由も知っている。単にシオンを学校へ入学させるための手続きをした人物が女顔のシオンを女性と勘違いし、完全に女性だと思い込まれた気弱なシオンはそれを否定できなかった。届いた制服は当然女子のもので、今更男だと言い出せなくなってしまったシオンは仕方なく女として学校に通うことになる。そんなしょうもない理由だ。
 攻略対象者に男だとバレたシオンは、恥ずかしそうにその理由を話していた。恥じらう様子が可愛くて、攻略対象者は漏れなくきゅんとしていた。
 オリヴィアとしても生でそれを拝みたい気持ちはあるが、悪役令嬢であるオリヴィアがきゅんとしてもどうしようもない。ここはスルーするべきだろう。
 怯えるシオンに、優しく微笑みかける。

「心配しないで、誰にも言わないから。シオンにはシオンの事情があるでしょうし、詮索はしないわ」
「え、で、でも……」
「いいのよ。さ、もう帰りましょう」

 笑顔でシオンを促す。
 なぜか媚薬を使ってオリヴィアとシオンのエロイベントを発生させてしまった。攻略対象者が一切関わっていないエロイベントなんて意味がない。今回のことはなかったことにしよう。
 自分のいる世界がゲームのBL版だとわかったが、オリヴィアのするべきことは変わらない。今度こそ、攻略対象者とシオンのエロイベントを発生させるのだ。
 シオンと並んで歩きながら、次こそは、とオリヴィアは気合いを入れた。






 それから数日が過ぎた。ストーカーのように張り付いて観察しているが、変わらずシオンが攻略対象者と接触している様子はない。
 次はどんな手でいこうかと考えながら学校の廊下を歩いていると、声をかけられた。

「やあ、オリヴィア」
「ファウスト殿下、ごきげんよう」

 こちらに向けられる柔らかな微笑みは、完璧な王子様スマイル。攻略対象者の一人である、王太子のファウストだ。もちろん美形である。
 今のところオリヴィアは彼の婚約者候補だ。彼が王子様ではなく普通のサラリーマンとかだったら喜んで結婚したのだが。
 彼とは何度も顔を合わせていたが、オリヴィアはあまり親しくならないよう距離を保って接している。間違っても婚約者候補から正式な婚約者へと昇格しないように。

「放課後、久しぶりに一緒にお茶でも飲まないかい?」

 ファウストからの誘いに、これはチャンスだとオリヴィアは思った。

「でしたら、私のお友達も一緒によろしいですか?」
「もちろんいいよ」

 ファウストの承諾を得て、オリヴィアは心の中で喜んだ。
 これでシオンと攻略対象者を引き合わせられる。
 ファウストと別れ、オリヴィアは早速約束を取り付けるためにシオンのもとへ向かった。
 シオンは平民の私なんかが王太子と一緒にお茶なんて恐れ多いと顔を青くしていたが、オリヴィアとしては絶対にこの機会を逃したくない。シオンには可哀想だがやや強引に約束させた。





 そして放課後。校内のカフェテリアでオリヴィアはファウストにシオンを紹介した。

「彼女が私のお友達のシオン·カルネヴァーレさんです」
「は、はじめまして、シオン·カルネヴァーレと申します。お会いできて光栄です、ファウスト殿下」
「よろしく、シオン嬢」

 三人で紅茶を飲みながら、他愛のない会話をする。
 オリヴィアはなんとしてもシオンをファウストに売り込みたかった。

「シオン嬢の噂は聞いているよ。人並み外れた魔力を有しているのだと」
「そ、そんな……」

 王太子を前に、シオンは完全に恐縮しきっていた。無理やり来させてしまって申し訳ないと感じてしまうほど蒼白になっている。

「まさかオリヴィアの友人だなんて、驚いたよ。でも、どうして? なにかきっかけがあって親しくなったのかな?」
「私からシオンに声をかけました」

 オリヴィアはここぞとばかりにシオンのアピールポイントを並べ立てる。

「シオンはとても可愛らしいのです。控えめで清楚で可憐でお淑やかで優しく、とても綺麗な心の持ち主です。強大な魔力を持ちながら驕らず、謙虚で、努力を怠らない。ひたむきで、とても素晴らしいと思いませんか?」
「お、オリヴィア様……」

 力説するオリヴィアに、シオンは顔を真っ赤に染めている。瞳を潤ませ羞恥に震えるシオンは絶品だ。
 心の中で涎を垂らしながら、オリヴィアはファウストの反応を窺った。

「君達はとても仲がいいんだね」

 そう言って、ファウストはにっこりと微笑む。
 可愛いとは思っているかもしれないが、シオンに対してきゅんと心を動かされたという様子は見られない。
 初対面でいきなり恋心を芽生えさせるのは無理だったようだ。それとも、オリヴィアの存在が邪魔をしているのだろうか。
 BL版のシオンとファウストの二人がどのように恋に落ちたのか、細かいところが思い出せない。
 やはり、ゲームのストーリーをなぞらずにエンディングを目指すのは難しいのだろうか。ゲーム通りにシオンと親しくならず、嫌がらせを繰り返さなければ断罪イベントは発生させられないのか。
 しかし、今更どうにもならない。シオンをいじめたくはないので正規のルートは選べない。
 オリヴィアはオリヴィアの方法で断罪イベントを目指すしかない。この学校でシオンは攻略対象者と結ばれ、オリヴィアは高級娼館送りになる。それだけを目標に頑張るだけだ。
 それから当たり障りのない会話を楽しみ、お開きとなった。シオンは終始緊張していて全く楽しめてはいないようだったが。
 とりあえずシオンとファウストを引き合わすことができたのだから、進展したと言っていいだろう。


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