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5.魔王城アカデミー
9話
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小柄で幼い雰囲気から一変し、ノイルは激しい殺気をエリオルに向けて放っていた。
まるで人形のように無表情であるものの、その裏には確かに怒気を感じる。
突然、シオンはやんわりと腕を引かれた。
腕に触れたのは、エリオルだ。
「あのっ……?」
驚いて距離を取ろうとするが、いつの間にかがっちりと手首をつかまれていて身動きが取れない。
「大丈夫、言ったでしょ?連れ去ったりしないって」
「そ、そういう問題じゃないですよ」
視線はじっとノイルに注いだまま、エリオルが妖しく微笑んだ。
その笑みに対して、いかにも不愉快、というようにノイルが顔を歪ませた。
「人質でも取ったつもりなのかなあ? 僕、殺せるよ?」
(私ごといく気ですかっ!?)
ノイルの言葉を聞き、シオンは声にならない恐怖におびえながら、青ざめる。
見れば、ノイルの右手には青白い光が集中し、小さな渦を巻いている。
魔法に疎いシオンにも、ピンときた。
あれは、当たったら死ぬやつだ。
「まあまあ、ほら、あの時休戦したじゃないですか。僕も別に、今日はあなたに用事無いですから」
おどけたようにそう言うエリオルも、じわじわと体の周りに魔力の壁を構築している。
まさに一触即発、という状況にシオンは心の中で頭を抱えた。
「休戦は終戦じゃないってこと。シオンをこっちに返して」
ノイルが左手を差し出し、シオンに手招きをする。
しかしエリオルは少し考えるような素振りをしてからシオンの体を勢いよく引き寄せた。
「あっ……!?」
バランスを崩したところを、後ろから軽く羽交い絞めにされる。
触れられている個所に痛みは無いが、身動きが取れない状況にシオンは表情をこわばらせた。
「僕の気が変わって、君を連れ去ったとしたらどうなるのかな」
耳元でささやかれて、思わず身が震える。
そうしたいならすぐにでも出来るはずなのに、エリオルはまるでこの問答を楽しんでいるように見えた。
「一番手っ取り早く、レヴィアスを傷つけられそうだよね?」
くすくす、と漏らした笑い声はいたって優美だった。
こんなにも歪んだ感情を思わせるのに、それでも彼は余りにも天使然としている。
強烈な違和感に戸惑いながら、シオンはぎゅっと口を引き結んだ。
ここでおびえてしまっては、彼の思うツボなのだろう、と。
シオンはそう悟って、あくまでも冷静でいようとする。
「お前、本当に執念深いやつだね」
呆れた様子でノイルがため息をつく。
その間、わずかにも殺気は揺るがない。
「……『僕と同じ気持ち』を味わわせたら、レヴィアスはどうするんだろうね?」
どきり、とシオンの心臓が跳ねる。
『同じ気持ち』とは一体、どういう事なのだろうか。
「大切なひとりを、永遠に失ったとき……あいつ、狂わずにいられるのかな?」
「なに……」
その言葉が意味するところを確かめようと、シオンがエリオルを振り返ろうとしたとき。
ドン、と背中を押され、シオンは転げるように解放された。
バサッ、と背後で大きな鳥が飛び立つような音が聞こえる。
振り向くと、そこには既にエリオルの姿は無く、上空へと大きく舞い上がった小さな人影が見えるばかりだった。
「どういうこと……」
頭の中の整理がつかず、シオンはその場に座り込んだまま小さく呟いた。
エリオルの大切な人を、奪った……?
以前エリオルの口からきいた『同族殺し』の声が何度も頭の中をこだました。
ぼんやりと、目を見開いたままシオンはこれまでのことを反芻する。
(……あまりにも知らないことが多すぎる)
ようやく温まったはずの体が、また一瞬にして冷えていくような感覚。
震えそうになる肩に、ふわりと何かが触れた。
「大丈夫? シオン」
いつもの、のんびりと間延びしたノイルの声。
ノイルは、座り込んだシオンを支えるように肩に触れていた。
先ほどまでの肌を刺すような殺気は鳴りを潜め、いまは気怠そうな空気を纏っている。
「はい……すみません、驚いてしまって」
草の上に座り込んだせいで、膝のあたりが水で濡れている。
パンパン、と抜けた草と水を軽く払って、シオンはゆっくり立ち上がった。
「エリオルさんと、お知り合いなんですね」
ぴしり、と再び一瞬空気が凍ったような気がしたが、ノイルはため息をひとつついてから頷いた。
「むかーし、ちょっとね。それこそ、レヴィが魔王城に来る少し前」
「……エリオルさんは、レヴィアスさんの古い友人と言っていたんですが」
わずかに迷うような顔をしてノイルは少しだけ考え込んだ。
言いにくいことを聞いてしまった自覚は、シオンにもある。
さらさらと、風が吹いて草が鳴る音がする。
先ほどまで赤々と草木を染めていた夕日が、だんだんと厚い雲にその姿を隠されていき、辺りがうっすらと暗くなった。
「友人……ではあったのかもね。僕は、レヴィが『こっち』に来てからのことしかよく知らないから」
ぽつり、ぽつりと、微かに雨粒が落ちる音がする。
「僕は、レヴィが『こっち』に来た時に最初に出会った悪魔でねえ。その時、あの天使はレヴィのことを追っていたんだ」
「なぜ、追っていたんでしょうか」
「殺すため、だよ」
にわかに強くなった雨足も気にならないほどに、シオンは呆然とその言葉を聞いていた。
「んー……、何となくね、僕はレヴィがあいつに殺されるのが癪だった。だから、結果として敵対した。それだけ」
これ以上話すつもりはない、と優しく突き放されたような感覚。
シオンはそれを受け止めて、わずかに俯いた。
本格的に再び降り出した雨が、シオンとノイルをしとどに濡らしていく。
「魔塔で傘、貸すよ」
手招きするノイルに小さな声で礼を言い、シオンはただ、足元を見つめながら雨の中を歩いて行った。
まるで人形のように無表情であるものの、その裏には確かに怒気を感じる。
突然、シオンはやんわりと腕を引かれた。
腕に触れたのは、エリオルだ。
「あのっ……?」
驚いて距離を取ろうとするが、いつの間にかがっちりと手首をつかまれていて身動きが取れない。
「大丈夫、言ったでしょ?連れ去ったりしないって」
「そ、そういう問題じゃないですよ」
視線はじっとノイルに注いだまま、エリオルが妖しく微笑んだ。
その笑みに対して、いかにも不愉快、というようにノイルが顔を歪ませた。
「人質でも取ったつもりなのかなあ? 僕、殺せるよ?」
(私ごといく気ですかっ!?)
ノイルの言葉を聞き、シオンは声にならない恐怖におびえながら、青ざめる。
見れば、ノイルの右手には青白い光が集中し、小さな渦を巻いている。
魔法に疎いシオンにも、ピンときた。
あれは、当たったら死ぬやつだ。
「まあまあ、ほら、あの時休戦したじゃないですか。僕も別に、今日はあなたに用事無いですから」
おどけたようにそう言うエリオルも、じわじわと体の周りに魔力の壁を構築している。
まさに一触即発、という状況にシオンは心の中で頭を抱えた。
「休戦は終戦じゃないってこと。シオンをこっちに返して」
ノイルが左手を差し出し、シオンに手招きをする。
しかしエリオルは少し考えるような素振りをしてからシオンの体を勢いよく引き寄せた。
「あっ……!?」
バランスを崩したところを、後ろから軽く羽交い絞めにされる。
触れられている個所に痛みは無いが、身動きが取れない状況にシオンは表情をこわばらせた。
「僕の気が変わって、君を連れ去ったとしたらどうなるのかな」
耳元でささやかれて、思わず身が震える。
そうしたいならすぐにでも出来るはずなのに、エリオルはまるでこの問答を楽しんでいるように見えた。
「一番手っ取り早く、レヴィアスを傷つけられそうだよね?」
くすくす、と漏らした笑い声はいたって優美だった。
こんなにも歪んだ感情を思わせるのに、それでも彼は余りにも天使然としている。
強烈な違和感に戸惑いながら、シオンはぎゅっと口を引き結んだ。
ここでおびえてしまっては、彼の思うツボなのだろう、と。
シオンはそう悟って、あくまでも冷静でいようとする。
「お前、本当に執念深いやつだね」
呆れた様子でノイルがため息をつく。
その間、わずかにも殺気は揺るがない。
「……『僕と同じ気持ち』を味わわせたら、レヴィアスはどうするんだろうね?」
どきり、とシオンの心臓が跳ねる。
『同じ気持ち』とは一体、どういう事なのだろうか。
「大切なひとりを、永遠に失ったとき……あいつ、狂わずにいられるのかな?」
「なに……」
その言葉が意味するところを確かめようと、シオンがエリオルを振り返ろうとしたとき。
ドン、と背中を押され、シオンは転げるように解放された。
バサッ、と背後で大きな鳥が飛び立つような音が聞こえる。
振り向くと、そこには既にエリオルの姿は無く、上空へと大きく舞い上がった小さな人影が見えるばかりだった。
「どういうこと……」
頭の中の整理がつかず、シオンはその場に座り込んだまま小さく呟いた。
エリオルの大切な人を、奪った……?
以前エリオルの口からきいた『同族殺し』の声が何度も頭の中をこだました。
ぼんやりと、目を見開いたままシオンはこれまでのことを反芻する。
(……あまりにも知らないことが多すぎる)
ようやく温まったはずの体が、また一瞬にして冷えていくような感覚。
震えそうになる肩に、ふわりと何かが触れた。
「大丈夫? シオン」
いつもの、のんびりと間延びしたノイルの声。
ノイルは、座り込んだシオンを支えるように肩に触れていた。
先ほどまでの肌を刺すような殺気は鳴りを潜め、いまは気怠そうな空気を纏っている。
「はい……すみません、驚いてしまって」
草の上に座り込んだせいで、膝のあたりが水で濡れている。
パンパン、と抜けた草と水を軽く払って、シオンはゆっくり立ち上がった。
「エリオルさんと、お知り合いなんですね」
ぴしり、と再び一瞬空気が凍ったような気がしたが、ノイルはため息をひとつついてから頷いた。
「むかーし、ちょっとね。それこそ、レヴィが魔王城に来る少し前」
「……エリオルさんは、レヴィアスさんの古い友人と言っていたんですが」
わずかに迷うような顔をしてノイルは少しだけ考え込んだ。
言いにくいことを聞いてしまった自覚は、シオンにもある。
さらさらと、風が吹いて草が鳴る音がする。
先ほどまで赤々と草木を染めていた夕日が、だんだんと厚い雲にその姿を隠されていき、辺りがうっすらと暗くなった。
「友人……ではあったのかもね。僕は、レヴィが『こっち』に来てからのことしかよく知らないから」
ぽつり、ぽつりと、微かに雨粒が落ちる音がする。
「僕は、レヴィが『こっち』に来た時に最初に出会った悪魔でねえ。その時、あの天使はレヴィのことを追っていたんだ」
「なぜ、追っていたんでしょうか」
「殺すため、だよ」
にわかに強くなった雨足も気にならないほどに、シオンは呆然とその言葉を聞いていた。
「んー……、何となくね、僕はレヴィがあいつに殺されるのが癪だった。だから、結果として敵対した。それだけ」
これ以上話すつもりはない、と優しく突き放されたような感覚。
シオンはそれを受け止めて、わずかに俯いた。
本格的に再び降り出した雨が、シオンとノイルをしとどに濡らしていく。
「魔塔で傘、貸すよ」
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