魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

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8.光のほうへ

11話

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 医務室のドアは不自然にひしゃげ、その隙間から樹木の根が這い出している。
 人工物が自然の力に飲み込まれるかのような光景に恐怖を覚える。
 しかし、その強靭な木の根はどうやら医務室への侵入者を拒み、その空間を守っているらしいことに気がついた。

「ナナリーでしょう」

 そう言ってレヴィアスが剣を構える。
 こちらに気づいた怪鳥が、けたたましい雄叫びをあげた。
 ……おそらくこれが、カイレンが最後に調査したという夢喰鳥なのだろう。

 城内の廊下に大きな翼を広げ、恐ろしいほどの身のこなしでこちらに向かって襲いかかる。
 猛獣を思わせる鋭く太い鉤爪がレヴィアスの顔めがけて突き出された。

 素早くそれを剣で弾き、レヴィアスは怪鳥の翼に向かって切り上げる。
 切先が掠った部分から血が噴き、床に赤い染みを作っていく。

 そこに間髪入れず、レヴィアスは大きく斜めに切りつける。
 夢喰鳥はしゃがれた声で大きな叫びをあげ、鮮血を滴らせながら硬い床へと墜落した。

 むせかえるような血の匂いに口元を押さえながら、シオンはもう一度医務室の様子を見る。
 パイロリザードはこちらに興味を持つこともなく医務室を覆う木の根をその爪で穿ち、炎の息を吐いて執拗にそのドアの奥にいる獲物を狙っていた。

 あたりに焦げたような匂いが広がる。
 強靭な木の根も、繰り返し炎で焼かれて爪で削り取られては、長持ちしそうにない。

「シオン、入り口を守れますか」

「はい、やってみます!」

 シオンはリボンを取り出して魔力を込め、黒い煙を立ち上らせはじめているドア目掛けてそれを放った。
 硬さを持ったリボンがパイロリザードの大きな爪を弾き返す姿を見て、シオンはほっと息を吐く。

 が、突然現れたリボンのシールドに気づいたパイロリザードがぎろりとこちらを睨み、苛立たしげに口の端から炎を漏らしている。

 身体が竦むが、魔力を流し続けるリボンの端は離さない。
 視界の端で、レヴィアスが血で濡れた剣を握り直すのが見えた。



「ナナリーさんっ、大丈夫ですか!」

 焦げた傷だらけになったドアを叩き、呼びかける。
 足元には剣で貫かれたばかりのパイロリザードがごろりと転がっていた。

 やがて木の根がふっと力を失い、床にぼたぼたと落ちる。
 姿を現した歪んだドアは、体重を乗せて押すと悲鳴のような音をあげてゆっくりと開いた。

「ナナリーさん、皆さん……!」

 ドアの近くで待機していたガルオンとナナリーがこちらを見る。
 ドアを破られた時に応戦しようとしていたのだろう。
 シオンとレヴィアスの姿を見て、緊張感が解れたのを感じる。

「ありがとう、なんとか中は無事よ」

 シンシアの姿に加えて、城外の銭湯で怪我を負ったものが既に運ばれていたのだろう魔物と、その治療にあたる医療班の姿が見えた。

「どうやら……あの変異モンスターたちは、この魔王城の内部で発生したみたい」

 ナナリーの言葉にレヴィアスが頷く。

「転移装置が仕掛けられていた可能性が高いでしょう」

「それにしても随分大掛かり。……カイレンがひとりで出来ることじゃないわ」

 ちらりとシオンの表情をうかがいながら、ナナリーがそう言って顔を顰めた。
 城内のあちこちで、大きな足音が響く。
 
 ――まるでモンスターが、一斉に移動しているようだ。

「あいつら、ただ暴れ回ってる訳じゃなさそうよ」

 窓の外を見ながら、シンシアが苦々しげに呟いた。
 つられて外を眺めると、城壁の内側で発生したとみえるモンスターたちは城内へ雪崩れ込み、あるいは城壁を登り、ある一点を目指しているようだった。

「まさか、飛竜の発着場……?」

 広い面積が確保でき、城内外へ攻め入るための拠点としては最適だ。
 そしてそれを誰かが指揮し、確実に事態を進行させているのだ。

「屋上へ向かいます」

 レヴィアスの言葉を聞いて、ナナリーが動き出す。
 医療班に指示をして、窓とドアを徹底的に塞ぐ準備を始めたのだ。

「ナナリーは医務室を守ってください」

「嫌よ。……どうせこの調子じゃ新しい怪我人を運んでここまで辿り着けやしない。だったら私が出なくちゃ」

 その瞳には強い意志が宿っており、レヴィアスはそれ以上何も言わなかった。
 シオンも、声を懸命に落ち着かせながら宣言する。

「私も行かせてください。いざとなったら……こんな時だから、私に使える力は全部使いたいんです」

 レヴィアスとナナリーは頷くだけで何も言わない。
 シオンは首元の魔法石をぎゅっと握った。


 階段を駆け上がった先の、冷たい外気を感じる開けた場所。
 すっかり出払った飛竜の鳴き声の代わりに、集まったモンスターたちの荒く湿った唸りが響いている。

 近くにいるもの同士で睨み合い、気が立った個体が大きく叫んで牙を向く。
 統率ができているわけでは決してない。

 ただ、そこに立つひとつの人影に縛られ、強引に操られているようだった。

「……あれは……」

 レヴィアスの呟きと、握りしめた剣の柄が小さくなる音がする。

 シオンは呆然としながらも、どこか冷静にその人影を見つめていた。

 ……その姿はよく見慣れた、仕立ての良いジャケットを身に纏っていた。
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