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8.光のほうへ
13話
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ピュウという高い音が鳴り、大鎌があたり一帯を切り裂く。
血飛沫が舞うと、まるでそれを吸うかのように鎌がぼうっと光り、振るわれる度に線を描いた。
鎌を避けようとして体勢を崩した獣人の服を掴み、レヴィアスが後ろへと放る。
そのまさにすぐ側を、死神の鎌が疾風のよう駆け抜けた。
「……ナナリーさん、あれっ!」
シオンはある異変に気づき、声を上げる。
ジャケットを脱いだヴァルターの体を黒い靄が覆い、肌を焼くように侵食していく。
体は大きく膨れ上がり、黒く変色した肌を這う血管が蛇のようにめりめりと浮き出ていた。
あまりに異様な光景に、シオンとナナリーは言葉を失う。
これではまるで――変異ではないか。
「へえ。変異体を使うだけじゃ物足りなくなった?」
バルドラッドが冷たい瞳でその姿を見つめている。
不快感を、まるで隠そうともせずに。
「ああ、いえ。目的が違いますから。変異体は商品です。私の体は、私が使うものですからね」
いつも通りのヴァルターの声がする。
しかしその声の主は、闇に同化するかのような黒衣に身を包んだ、まさに死神の姿に変貌していた。
「商品は金になります。金は力でもありますが……持つものに力が無ければ、奪われる」
穏やかな声でそう言いながら、ヴァルターは鎌を握りなおした。
「退避!!」
空気を鋭く揺らすレヴィアスの声が響いた。
その声に反応し、魔物たちが一斉にヴァルターから距離をとる。
「ああそう、その判断が正解ですね」
歌うような調子で言いながら、ヴァルターは死神の腕で鎌を振る。
刃の軌道が見えないほどの速度で、転がっていたモンスターたちの体を巻き込みながらそれらを薙ぎ払う。
飛び散る血を合図としたように、魔物たちは再び戦いへと身を投じていく。
狩り残したモンスターへ再び立ち向かう者、ヴァルターを狙い飛びかかる者。
鎮圧しかけていたはずの戦場が、一気に血に染まり、地獄絵図と化していく。
しんしんと降る雪と、それを深紅に染めていく血飛沫のせいで状況も良く見えない。
それでも確実に、ヴァルターの持つ鎌はあらゆる命を刈り取っていた。
「シオン、無理をしてくれる?」
こちらを見ずに、ナナリーが尋ねる。
蒼白な彼女の顔を一目見て、事態の深刻さを共有する。
「もちろんです」
シオンが大きく頷くと、ナナリーはふっと笑って蔓を操り始めた。
地を這うように、四方八方勢いよく蔓が広がっていく。
倒れ伏している魔物達の手足に蔓が巻き付き、引きずるようにして戦いの中心地から離脱させる。
転がり、その体に雪が積もりはじめている彼らの状態をここから窺い知ることはできなかった。
「蔓を通じて魔力を送ってほしいの。足りない分は私の魔力を分けるから」
それを聞いて、シオンはそっとナナリーの手を取り、緑の蔦を脈打たせるように魔力を流し込んだ。
蔦の中には、魔力を飲むように脈動するものと、微動だにしないものがあった。
それが何を意味するのか、今は考える事はできない。
必死に、祈るような気持ちで力を込める。
体温がすっと下がっていくのを感じると、背中からナナリーの魔力の温もりを感じた。
供給された分も余さず、蔓へと流し込む。
ナナリーの蔓は傷ついた魔物を探しながら、冷たい雪の中をひたすらに這っていた。
「おや……シオンさん、いつの間にか面白い力をお持ちですね」
姿が変貌しても掛けたままの金縁眼鏡がきらりと光る。
視線がこちらに向いただけで、身を凍らせるような威圧感が放たれた。
その視線を断ち切るように、レヴィアスが放った炎がヴァルターを包んだ。
間髪入れずに跳躍し、炎ごと断つように剣を払う。
が、長い鎌の柄に阻まれてヴァルターの漆黒の肌を傷つけることはかなわない。
「君のことは商売相手として高く買ってたんだけどね。残念だけどここまでだ」
バルドラッドがそう言いながら腕に向けて力を集中させ、高密度の魔力の塊を形成する。
素人目にもわかる、当たればひとたまりもない代物だ。
バルドラッドはそれをためらいなくヴァルターへと打ち込んだ。
レヴィアスの炎を巻き上げるようにして炸裂し、火柱が天に向かって立ち上る。
何かが焼ける、不快な匂い。
渦巻く炎の中からは、叫び声一つ聞こえなかった。
「そう……。欲張ってはいけません、何事も……それが、商売ですから」
宙を舞う雪を一瞬でかき消すような熱風の中、静かな声が響く。
火柱が揺らめいたかと思うと、炎の壁の中から黒い靄が突き出した。
どろりと体が溶けるように、ヴァルターの体を覆う黒い靄があたりへと流れ出る。
まるで、人の形を維持することが出来ないかのように。
「最後に、やることがあります」
その言葉を合図に、城壁の外から一頭の夢喰鳥が現れ、勢いよくヴァルターのもとへと降下する。
重たい何かを落とすような音。
ヴァルターは、どろどろに溶けて何かが滴る腕で、地面に転がるものを掴み上げる。
「……廃品回収ですよ。親切でしょう?」
――それは、拘束具に身を包まれたカイレンだった。
血飛沫が舞うと、まるでそれを吸うかのように鎌がぼうっと光り、振るわれる度に線を描いた。
鎌を避けようとして体勢を崩した獣人の服を掴み、レヴィアスが後ろへと放る。
そのまさにすぐ側を、死神の鎌が疾風のよう駆け抜けた。
「……ナナリーさん、あれっ!」
シオンはある異変に気づき、声を上げる。
ジャケットを脱いだヴァルターの体を黒い靄が覆い、肌を焼くように侵食していく。
体は大きく膨れ上がり、黒く変色した肌を這う血管が蛇のようにめりめりと浮き出ていた。
あまりに異様な光景に、シオンとナナリーは言葉を失う。
これではまるで――変異ではないか。
「へえ。変異体を使うだけじゃ物足りなくなった?」
バルドラッドが冷たい瞳でその姿を見つめている。
不快感を、まるで隠そうともせずに。
「ああ、いえ。目的が違いますから。変異体は商品です。私の体は、私が使うものですからね」
いつも通りのヴァルターの声がする。
しかしその声の主は、闇に同化するかのような黒衣に身を包んだ、まさに死神の姿に変貌していた。
「商品は金になります。金は力でもありますが……持つものに力が無ければ、奪われる」
穏やかな声でそう言いながら、ヴァルターは鎌を握りなおした。
「退避!!」
空気を鋭く揺らすレヴィアスの声が響いた。
その声に反応し、魔物たちが一斉にヴァルターから距離をとる。
「ああそう、その判断が正解ですね」
歌うような調子で言いながら、ヴァルターは死神の腕で鎌を振る。
刃の軌道が見えないほどの速度で、転がっていたモンスターたちの体を巻き込みながらそれらを薙ぎ払う。
飛び散る血を合図としたように、魔物たちは再び戦いへと身を投じていく。
狩り残したモンスターへ再び立ち向かう者、ヴァルターを狙い飛びかかる者。
鎮圧しかけていたはずの戦場が、一気に血に染まり、地獄絵図と化していく。
しんしんと降る雪と、それを深紅に染めていく血飛沫のせいで状況も良く見えない。
それでも確実に、ヴァルターの持つ鎌はあらゆる命を刈り取っていた。
「シオン、無理をしてくれる?」
こちらを見ずに、ナナリーが尋ねる。
蒼白な彼女の顔を一目見て、事態の深刻さを共有する。
「もちろんです」
シオンが大きく頷くと、ナナリーはふっと笑って蔓を操り始めた。
地を這うように、四方八方勢いよく蔓が広がっていく。
倒れ伏している魔物達の手足に蔓が巻き付き、引きずるようにして戦いの中心地から離脱させる。
転がり、その体に雪が積もりはじめている彼らの状態をここから窺い知ることはできなかった。
「蔓を通じて魔力を送ってほしいの。足りない分は私の魔力を分けるから」
それを聞いて、シオンはそっとナナリーの手を取り、緑の蔦を脈打たせるように魔力を流し込んだ。
蔦の中には、魔力を飲むように脈動するものと、微動だにしないものがあった。
それが何を意味するのか、今は考える事はできない。
必死に、祈るような気持ちで力を込める。
体温がすっと下がっていくのを感じると、背中からナナリーの魔力の温もりを感じた。
供給された分も余さず、蔓へと流し込む。
ナナリーの蔓は傷ついた魔物を探しながら、冷たい雪の中をひたすらに這っていた。
「おや……シオンさん、いつの間にか面白い力をお持ちですね」
姿が変貌しても掛けたままの金縁眼鏡がきらりと光る。
視線がこちらに向いただけで、身を凍らせるような威圧感が放たれた。
その視線を断ち切るように、レヴィアスが放った炎がヴァルターを包んだ。
間髪入れずに跳躍し、炎ごと断つように剣を払う。
が、長い鎌の柄に阻まれてヴァルターの漆黒の肌を傷つけることはかなわない。
「君のことは商売相手として高く買ってたんだけどね。残念だけどここまでだ」
バルドラッドがそう言いながら腕に向けて力を集中させ、高密度の魔力の塊を形成する。
素人目にもわかる、当たればひとたまりもない代物だ。
バルドラッドはそれをためらいなくヴァルターへと打ち込んだ。
レヴィアスの炎を巻き上げるようにして炸裂し、火柱が天に向かって立ち上る。
何かが焼ける、不快な匂い。
渦巻く炎の中からは、叫び声一つ聞こえなかった。
「そう……。欲張ってはいけません、何事も……それが、商売ですから」
宙を舞う雪を一瞬でかき消すような熱風の中、静かな声が響く。
火柱が揺らめいたかと思うと、炎の壁の中から黒い靄が突き出した。
どろりと体が溶けるように、ヴァルターの体を覆う黒い靄があたりへと流れ出る。
まるで、人の形を維持することが出来ないかのように。
「最後に、やることがあります」
その言葉を合図に、城壁の外から一頭の夢喰鳥が現れ、勢いよくヴァルターのもとへと降下する。
重たい何かを落とすような音。
ヴァルターは、どろどろに溶けて何かが滴る腕で、地面に転がるものを掴み上げる。
「……廃品回収ですよ。親切でしょう?」
――それは、拘束具に身を包まれたカイレンだった。
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