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8.光のほうへ
14話
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飛び出しそうになるシオンの体を、ナナリーが強く押さえつける。
わかっている。
今飛び出したところで何が出来る。
それでも、ヴァルターの手に首元を掴まれて力なくぶら下がる彼女の姿を、ただ見ていることはできなかった。
「随分な働きをしてくれたよ」
バルドラッドが吐き捨てる。
眼鏡の奥で、ヴァルターの瞳が笑んだ気がした。
「そうでしょう。ゆくゆくはうちの看板娘です」
バルドラッドが再び腕に力を込める。
それに合わせて、レヴィアスも剣を握りなおした。
ヴァルターはまるで降参、とでもいうように肩をすくめ、空いている方の手を小さく上げる。
「ああ、そうそう。この子のことは嫌いにならないであげてくださいね。実によく働いたこの子は、なあんにも知らないのですから」
シオンは初めて、その笑顔に醜悪さを感じて身震いする。
……その時、ヴァルターに抱えられていたカイレンの目が、薄く開いた。
「……カイレン……? カイレン!!」
喉が裂けそうな程の大きな声で、シオンはカイレンに向かって叫ぶ。
声が届いたのだろうか。
カイレンのうつろな瞳に光が戻る。
驚いたような彼女の顔が、一瞬にして絶望に塗り替わっていく。
「パ……パ?」
変わり果てたヴァルターの姿と、その周りに転がる無数の体。
カイレンの瞳はそのすべてを映していた。
「カイレン! こっちに来て! 帰ろう!!」
カイレンを掴むヴァルターの手には、力が込められていないように見えた。
――彼女が力いっぱい振り切れば、逃げ出すことができるかのように見えたのだ。
「シオンさん……私……」
カイレンの目から、大粒の真珠のような涙がぽろぽろと零れた。
バルドラッドが振りかぶり、ヴァルターめがけて魔法を放つ。
そのほんのわずかな瞬間に、レヴィアスはカイレンに向かって手を伸ばした。
大丈夫……大丈夫だから。
あなたの夢を一緒にかなえよう。
またあの執務室で。
シオンの瞳には、両手を広げて父をかばうカイレンの姿が焼き付いていた。
ヴァルターは背面からゆっくりと地面に倒れていく。
無数の蛇の舌のように揺らめく漆黒の靄が現れ、その体を包み込む。
カイレンはヴァルターに抱かれるようにして、その靄の中へと引きずり込まれていく。
一瞬、何かに光が反射した。
カイレンのポケットから転がり出て、宙を舞う。
――銀色の、櫛だ。
カイレンはその光に手を伸ばして掴み取り……
ふたり分の影は、闇の中へ溶けて消えた。
わかっている。
今飛び出したところで何が出来る。
それでも、ヴァルターの手に首元を掴まれて力なくぶら下がる彼女の姿を、ただ見ていることはできなかった。
「随分な働きをしてくれたよ」
バルドラッドが吐き捨てる。
眼鏡の奥で、ヴァルターの瞳が笑んだ気がした。
「そうでしょう。ゆくゆくはうちの看板娘です」
バルドラッドが再び腕に力を込める。
それに合わせて、レヴィアスも剣を握りなおした。
ヴァルターはまるで降参、とでもいうように肩をすくめ、空いている方の手を小さく上げる。
「ああ、そうそう。この子のことは嫌いにならないであげてくださいね。実によく働いたこの子は、なあんにも知らないのですから」
シオンは初めて、その笑顔に醜悪さを感じて身震いする。
……その時、ヴァルターに抱えられていたカイレンの目が、薄く開いた。
「……カイレン……? カイレン!!」
喉が裂けそうな程の大きな声で、シオンはカイレンに向かって叫ぶ。
声が届いたのだろうか。
カイレンのうつろな瞳に光が戻る。
驚いたような彼女の顔が、一瞬にして絶望に塗り替わっていく。
「パ……パ?」
変わり果てたヴァルターの姿と、その周りに転がる無数の体。
カイレンの瞳はそのすべてを映していた。
「カイレン! こっちに来て! 帰ろう!!」
カイレンを掴むヴァルターの手には、力が込められていないように見えた。
――彼女が力いっぱい振り切れば、逃げ出すことができるかのように見えたのだ。
「シオンさん……私……」
カイレンの目から、大粒の真珠のような涙がぽろぽろと零れた。
バルドラッドが振りかぶり、ヴァルターめがけて魔法を放つ。
そのほんのわずかな瞬間に、レヴィアスはカイレンに向かって手を伸ばした。
大丈夫……大丈夫だから。
あなたの夢を一緒にかなえよう。
またあの執務室で。
シオンの瞳には、両手を広げて父をかばうカイレンの姿が焼き付いていた。
ヴァルターは背面からゆっくりと地面に倒れていく。
無数の蛇の舌のように揺らめく漆黒の靄が現れ、その体を包み込む。
カイレンはヴァルターに抱かれるようにして、その靄の中へと引きずり込まれていく。
一瞬、何かに光が反射した。
カイレンのポケットから転がり出て、宙を舞う。
――銀色の、櫛だ。
カイレンはその光に手を伸ばして掴み取り……
ふたり分の影は、闇の中へ溶けて消えた。
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