2 / 10
序章
一話
しおりを挟む
小鳥の囀ずりと陽の光が窓越しに部屋に入り込んでくる。
この名も無き村に暮らす人々の朝は早く、まだ太陽が登りはじめてから一時間足らずであるというのに、村の中心では村民がそれぞれに畑を耕し、かたや鍛冶打ちといった仕事をし始めていた。
名も無き村の片隅にある古びた民家。どこからかやって来た二人の男女がその民家を買い取り暮らしていた。
「もう朝だから、起きて。遅刻すると親方に怒られちゃうよ?」
「もう少し寝かせてくれぇ……昨日の疲れがぁ……」
特徴的な赤色の髪をした青年はそう言いながら布団を深く被り頑なに起きようとしなかった。
それをどうにかして起こそうと、青年とは真反対な青色の髪をした少女は馬乗りになって、青年の頭をその小さな手でペシペシと叩く。それでも青年は起きようとしない。
「起きないなら……こうする」
少女は青年の布団の中にその細身で小さい体を潜り込ませ、青年に抱きつく形で布団から顔を出した。
「起きて?」
少女の顔は、青年の顔に触れる一歩手前まで近づいていた。その少女の整った顔を見つめ、動揺することなく青年は一言呟いた。
「……今日も今日とて、可愛いな」
「すぐそういうこと言う……もう……」
青年の言葉に、少女は顔を赤面させた。
「ねぇ、これ以上言って起きないっていうなら、襲っちゃうぞ?」
少女の翡翠色をした瞳がまるで獲物を見つけた気高き獣のようにギラリと輝いた。
「お前にだったら、俺はいくらでも抱かれてもいいよ」
青年はそんな少女の言葉に、冗談半分で返答した。
「なーんてな。わかった、起きるよ。だから退いてくれるとありがた……」
「私、あなたのそういう潔さ大好き。それじゃあ、据え膳喰わぬは乙女の恥じというわけで」
「え、ちょっと!? おまっ、本当にするのかよ! まて早まるな、ほら俺はもうしっかりと起きてるし、見ろよ、目パッチリだろ? だからさ落ち着いてく……」
「いただきます」
―三十分後。
「うぐぅ……朝一で心身共に汚されたぁ……もう婿にいけない……」
「えっと、ごちそうさま、でした?」
「お粗末様でしたよコノヤロウ! ……相変わらず容赦ねえんだからさぁ」
「婿には私が貰ってあげるよ?」
「そういうこと言ってるんじゃねぇんだよ! まったくもう、いつもああ言えばこう言うな」
「ああ言えばアイラブユー?」
「朝から壮大な聞き間違いと愛の告白どうもありがとう!」
「早く行かないと親方にしばかれるよ?」
「誰のせいだと!?」
「起きなかったのが悪い」
「ごもっともです!」
布団から這い出た青年は、壁にかけてあった黒のレザーベストと皮のズボンを気だるそうに背伸びをしながら着始めた。
そのすぐ横で少女は青年の鍛えられた体をじっと見つめていた。
「……ガン見されると恥ずかしいんだけど」
「大丈夫、私は恥ずかしくない」
「どういうこと!?」
「ほら、急いで急いで」
「わかってるって……よし!」
ズボンのベルトを締め、青年は自身の顔に渇を入れた。
「それじゃあ、カレン。行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。シルド」
シルドはカレンの頬にキスをして、二人の愛の巣を後にした。
赤の国最強の魔法騎士、シルド。シルド・ローシュタイン。
青の国最強の魔法騎手、カレン。カレン・フェイリア。
この二人は殺し合う運命にある永遠のライバル、それが青の国、赤の国、そして両国に滅ぼされた他国の認識だった。
誰がこんなことを予想しただろうか。
最後の戦争以来、行方を眩ましていた二人は、名も無き村の片隅で、イチャイチャしながらスローライフを満喫していただなんて。
この名も無き村に暮らす人々の朝は早く、まだ太陽が登りはじめてから一時間足らずであるというのに、村の中心では村民がそれぞれに畑を耕し、かたや鍛冶打ちといった仕事をし始めていた。
名も無き村の片隅にある古びた民家。どこからかやって来た二人の男女がその民家を買い取り暮らしていた。
「もう朝だから、起きて。遅刻すると親方に怒られちゃうよ?」
「もう少し寝かせてくれぇ……昨日の疲れがぁ……」
特徴的な赤色の髪をした青年はそう言いながら布団を深く被り頑なに起きようとしなかった。
それをどうにかして起こそうと、青年とは真反対な青色の髪をした少女は馬乗りになって、青年の頭をその小さな手でペシペシと叩く。それでも青年は起きようとしない。
「起きないなら……こうする」
少女は青年の布団の中にその細身で小さい体を潜り込ませ、青年に抱きつく形で布団から顔を出した。
「起きて?」
少女の顔は、青年の顔に触れる一歩手前まで近づいていた。その少女の整った顔を見つめ、動揺することなく青年は一言呟いた。
「……今日も今日とて、可愛いな」
「すぐそういうこと言う……もう……」
青年の言葉に、少女は顔を赤面させた。
「ねぇ、これ以上言って起きないっていうなら、襲っちゃうぞ?」
少女の翡翠色をした瞳がまるで獲物を見つけた気高き獣のようにギラリと輝いた。
「お前にだったら、俺はいくらでも抱かれてもいいよ」
青年はそんな少女の言葉に、冗談半分で返答した。
「なーんてな。わかった、起きるよ。だから退いてくれるとありがた……」
「私、あなたのそういう潔さ大好き。それじゃあ、据え膳喰わぬは乙女の恥じというわけで」
「え、ちょっと!? おまっ、本当にするのかよ! まて早まるな、ほら俺はもうしっかりと起きてるし、見ろよ、目パッチリだろ? だからさ落ち着いてく……」
「いただきます」
―三十分後。
「うぐぅ……朝一で心身共に汚されたぁ……もう婿にいけない……」
「えっと、ごちそうさま、でした?」
「お粗末様でしたよコノヤロウ! ……相変わらず容赦ねえんだからさぁ」
「婿には私が貰ってあげるよ?」
「そういうこと言ってるんじゃねぇんだよ! まったくもう、いつもああ言えばこう言うな」
「ああ言えばアイラブユー?」
「朝から壮大な聞き間違いと愛の告白どうもありがとう!」
「早く行かないと親方にしばかれるよ?」
「誰のせいだと!?」
「起きなかったのが悪い」
「ごもっともです!」
布団から這い出た青年は、壁にかけてあった黒のレザーベストと皮のズボンを気だるそうに背伸びをしながら着始めた。
そのすぐ横で少女は青年の鍛えられた体をじっと見つめていた。
「……ガン見されると恥ずかしいんだけど」
「大丈夫、私は恥ずかしくない」
「どういうこと!?」
「ほら、急いで急いで」
「わかってるって……よし!」
ズボンのベルトを締め、青年は自身の顔に渇を入れた。
「それじゃあ、カレン。行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい。シルド」
シルドはカレンの頬にキスをして、二人の愛の巣を後にした。
赤の国最強の魔法騎士、シルド。シルド・ローシュタイン。
青の国最強の魔法騎手、カレン。カレン・フェイリア。
この二人は殺し合う運命にある永遠のライバル、それが青の国、赤の国、そして両国に滅ぼされた他国の認識だった。
誰がこんなことを予想しただろうか。
最後の戦争以来、行方を眩ましていた二人は、名も無き村の片隅で、イチャイチャしながらスローライフを満喫していただなんて。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる