最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。

冬木ゆあ

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第13話 魔王、地図を所望する

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 リリトヴェールは宿屋の食堂でミートボールを食べながら言った。

「勇者のオーブはフィッツロイ山、ユーナ岬、リスゴーの谷にあるとスーラの村長は言っていたね。アランはどの辺りか知っている?」

 アランは首を横に振った。

「知らないなぁ。ヴァロワ王国じゃないと思うよ」

 リリトヴェールは腕を組んだ。

「うーん。地理がわからない。地図が欲しいな」

 アランは首を傾げた。

「地図ってなに?」
「アランは地図を知らない? 紙に街の位置とか記されているんだ」

 アランは納得したようにうなずいた。

「それは便利だね。どこで手に入るの?」

 リリトヴェールは腕を組んだまま首を傾けた。

 ――地図ってそもそも売っているのか? アランの様子からするとそんなに普及しているものではないのかもしれない。

 リリトヴェールは隣の卓で飲んでいる冒険者に声をかけた。

「すまない。ひとつ聞きたいんだけど、地図って持っている?」

 冒険者の男性はリリトヴェールの問いに答えた。

「冒険者なら地図なんかなくても、自由気ままに行き先を決めればいいじゃないか」
「私たちは行き先が決まっているんだよ」
「どこに行きたいんだ?」
「フィッツロイ山、ユーナ岬、リスゴーの谷だよ。けど、場所が分からなくて困っているんだ」

 男性冒険者は少し考えてから答えた。

「フィッツロイ山はデランジェール王国にあるのは知っている。ユーナ岬、リスゴーの谷は聞いたことないな」

 仲間の冒険者たちも知らないようで首を傾げていた。
 リリトヴェールは微笑みうなずいた。

「フィッツロイ山の場所が分かっただけでも助かったよ」
「地図が欲しいなら、ラングザンに行ってみたらいい。大きな街だから売っているかもしれないぞ」

 リリトヴェールは男性冒険者にお礼を言った。

 部屋に戻ったリリトヴェールはアランに言った。

「ラングザンには寄る予定はなかったけど、行ってみる? ここから先、地図はあった方がいいと思う」
「いいんじゃない? アンヌさんがラングザンには冒険者ギルドがあるって言っていたよね。魔石も溜まってきたし、換金するのもいいかも」

 そうして、二人は地図を求めてラングザンに向かうことにした。


 ラングザンの街は、ヴァロワ王国の王都と比べると少し小さい街だったが、繁栄しているようで、街は綺麗に整備されている。
 人も多く行き交っていた。
 リリトヴェールとアランはさっそく冒険者ギルドに向かい、受付の女性に魔石を鑑定してもらい、代金をもらった。
 そして、リリトヴェールは地図について情報を得ようと尋ねた。

「地図がどこで売られているか知っている?」

 受付の女性は予想外の質問だったのか目を丸くしてから、少し考えるようにした。

「本屋はどうかしら? 行ってみた?」
「まだ行っていないから、行ってみるよ」

 二人は冒険者ギルドを出てから商店街で本屋を探し、一軒見つけて二人は入店した。
 カウンターに座るおじさんにリリトヴェールは話しかけた。

「地図を売っている?」

 おじさんは眼鏡を直しながら答えた。

「地図? 売っていないよ、そんな貴重なもの。領主様とかお貴族様なら持っているかもしれないが……」

 リリトヴェールは困惑したように尋ねた。

「そんなに貴重なものなの?」
 
 おじさんはうなずいた。

「地形が描かれた地図は重要な情報になりえる。そうやすやすとは売れないんじゃないかな?」
 
リリトヴェールはそれを聞いて、納得したようにうなずいた。

 ――なるほど。領地争いともなれば、地理の情報は喉から手が出るほど欲しい情報だからな。人類も安易には流通させないわけか……。

 リリトヴェールはおじさんにお礼を言ってから店を出た。
 リリトヴェールの隣を歩きながらアランが尋ねた。

「今度はどこに行くの? リリー」
「領主様のところだよ。地図を買えないか尋ねてみる」

 アランは目を丸くした。

「そこまでして地図が欲しい?」
「欲しいよ。私とアランは土地勘がない。街の位置が把握できるのは、旅をするうえで有利だ」

 アランは首を傾げながらも、

「そっかぁ」

 と言って、リリトヴェールについて行くことにした。

 
 領主邸は街の中心部にあり、ひときわ大きな建物だった。
 門の前で立番をしていた衛兵に、リリトヴェールは声をかけた。

「勇者アランが会いに来たと領主様に伝えてくれない?」

 衛兵はリリトヴェールとアランを交互に見た。

「冗談は寝て言え」

 アランは大きなため息を吐いた。

「はぁ。またかぁ。この剣を抜いてみてよ」

 アランは勇者の剣を地面に突き刺し、衛兵はそれを抜こうとやっきになった。

「なんだこの剣、全然抜けないじゃないか」
「勇者の剣だよ」

 アランはいとも簡単に地面から勇者の剣を抜いて見せた。
 衛兵はやっと納得したようで、領主に取り次いでくれた。


 案内された応接室にはラングザンの領主が待っていて、両手を広げて勇者アランを歓迎した。

「勇者殿! ようこそラングザンへ。どうぞお掛けください」

 領主は二人に向かいのソファーを勧め、自分もソファーに座った。

「して、ご用向きはご挨拶のみですかな?」

 リリトヴェールは単刀直入に言った。

「私たち、地図が欲しいんです。お持ちでしたら、お譲りいただくことはできませんか?」

 領主は顎髭を撫でながら、少し考えて答えた。

「地図ですか。お譲りすることは可能ですよ」

 リリトヴェールは茶色の瞳を輝かせた。

「本当ですか! おいくらで譲っていただけますか?」
「地図は高価ですからなぁ。大銀貨一枚といったところでしょうか……」

 リリトヴェールはそれを聞いて、高額のあまり目を丸くした。

 ――ダンジョン攻略の成功報酬を山分けした大銀貨四枚が余っているから出せないこともないけど……。

 その様子を見ていた領主が笑った。

「まさか勇者殿に売りつけようとは思っていません。差し上げますよ。そこでご相談なのですが、実は我々、困っていまして……。街道の近くにオオトカゲの群れが住み着いていましてね……」

 リリトヴェールは目を瞑って、天を仰いだ。
 それから、覚悟を決めて瞳を開いた。

「そのオオトカゲの群れ、私たちが退治してきましょう」

 二人は領主から場所を詳しく聞き、街道に向かった。


 アランは街道に向かいながらも不満げだった。

「オオトカゲの群れの退治をなんで俺たちが……」

 リリトヴェールは溜息を吐きながら答えた。

「大銀貨一枚もする地図をタダでもらうんだから、これくらいお安い御用でしょう。それに勇者なんだから困っている人を助けるのも仕事の内だよ」

 そう自分にも言い聞かせながら、街道を進んで行った。

 途中で脇道に逸れて、真っすぐに進んで行くと、オオトカゲが根城にしている場所に行き着いた。
 アランは剣を抜き、リリトヴェールは杖を構えた。
 二人は顔を見合わせてうなずいた。
 先行してリリトヴェールが攻撃をした。

「ダークサンダー」

 黒い雷がオオトカゲに直撃した。
 それを見ていたアランが隣で興奮したように言った。

「おお! 初めて見る魔法だ。黒い雷、かっこいい!」
「闇魔法が混ぜてあって、たまに動きが遅くなる呪いが発動するんだ。だから、今のうちだよ。さっさとやっちゃお!」

 呑気に話しているアランの背中をリリトヴェールは軽く叩いた。

「おう」

 アランはそう軽く返事をし、オオトカゲの群れに飛び込んだ。
 突然の襲撃におろおろとしているオオトカゲをアランは斬っていく。
 リリトヴェールはアランを援護するように魔法で攻撃した。

 しばらくするとオオトカゲたちは大方リリトヴェールとアランに退治されたようだ。
 アランはリリトヴェールの元に戻ってきた。

「数は多かったけど、そんなに強くはなかったね」
「アランのレベルが上がってそう感じるようになったんだよ」

 アランはリリトヴェールに言われて、きょとんとしたあとにどこか嬉しそうに頷いた。

「そっか。俺、ちゃんと強くなっているんだね」

 リリトヴェールは踵を返して、アランに言った。

「領主に報告しに行こう」


 リリトヴェールがオオトカゲを退治したことを報告すると、ラングザン領主は手放しで喜んだ。

「さすがは勇者殿御一行ですな! さて、ご所望の地図をご用意しておきましたよ」

 ラングザン領主は机に地図を広げて見せた。
 それは周辺諸国まで描かれた地図だった。
 リリトヴェールは地図を指差しながら尋ねた。

「ここがラングザンで、こっちがデランジェール王国か。ここはデランジェール王国との国境が近いね。フィッツロイ山はどの辺りかご存じですか?」

 ラングザン領主は指差した。

「この山脈の辺りですよ。まずは、デランジェール王国の王都を目指すといい」

 リリトヴェールは地図を丸めながらお礼を言った。


 領主邸を出て、街へ戻った二人は宿を取った。
 部屋ではリリトヴェールが机に地図を広げ、楽しげに見ている。

 ――人間の国の地図を見るのははじめてだな。この辺りが海に面しているのか。すると、ユーナ岬はデランジェール王国かルグラン王国にありそうだな。リスゴーの谷は山の方か? 情報を集めながら旅を進めないと。

 ベッドで勇者の剣を磨いていたアランがリリトヴェールに視線を向けた。

「リリーはさっきからずっと地図を眺めているね。そんなに楽しい?」
「楽しいよ。地図は情報の宝庫だからね。色々見えてくる」

 アランは「ふーん」と言って、あまり興味はなさそうだ。

「まぁ。地図が手に入って、リリーが嬉しそうだからいいけど」

 そう言ってアランは剣の手入れに戻った。
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