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235. 新年を迎えた俺
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「新年、明けましておめでとうございます」
このファンタジーな世界にあっても、新年の挨拶は日本と同じだった。
この世界を造った神は、日本人なのだろう。
知らんけど。
朝食の手伝いの為、ミカエルは少し早めにテントを出たが、結界の半円形の天井は、真っ白な雪で覆われており、まるで雪で作ったかまくらの中にいるような錯覚に陥った。
外の様子が全くわからなかったものの、見回りに出ていたらしいバージルが、結界の中へと戻って来た所で、視線が合った。
「あ、新年おめでとうミカエル。今年もよろしく」
今日の給仕担当は、シャリエルだった。
アベルやロベルト、ジーンも手伝う為にテントを出て来たが、肝心のシャリエルはまだだった。
「すぐ来るだろう」
バージルの言葉に皆はひとまず椅子に座り、外の様子を聞くことにした。
外は快晴であり、一面に降り積もった雪が地面のみならず、森全体を白に染め、きらきらと煌めいていて、美しい光景が広がっているらしい。
「後で見るのが楽しみです!」
「我が国では雪が降るのは、ハイ・エンバー山脈の頂上付近位だからな」
アベルの弾んだ声にロベルトも頷きながら答えており、一年を通して比較的温暖な西方大陸にあるウルテイワズ王国では、降り積もった雪は馴染みのないものであるようだ。
「今日は、移動出来そうですか?」
ミカエルが問うと、バージルは難しい顔をしつつも頷いた。
「日が出ているから、雪も解けると思う。深さは十センチくらい」
「思ったよりは、積もっていませんね」
「明け方に、雪は止んだみたいだ」
「そうなんだ」
「日程的に、もう引き返さなければなりませんし、一日潰れずに済んで良かったですね」
ジーンが安堵のため息を漏らし、皆も頷いた。
予定の半分しか進まなかったものの、もう帰らなければならなかった。
元々の予定では、もっと進めているはずだったのだが、仕方がない。
ミカエルはまた時間を作って、アルヴィスと二人で来て、先を見ておこうと思っている。
少しでも経験を積んでおけば、本番で皆の役に立てるのだから、いいことだ。
「今回で色々と必要な物もわかったし、本番では大丈夫だろう」
「そうですね」
馬。
忍耐強い馬が、必要。
皆の意見は一致していた。
「…それにしてもシャリエルさん、遅くない?寝坊?」
もう朝食の用意を始めなければならない時間だったが、シャリエルはまだ、テントから出てこなかった。
冒険者三名もテントを出てきており、挨拶をしてくれた後は、結界の境界の見回りに行ってくれている。
「俺、ベル鳴らしてきます!」
アベルが一番に立ち上がって、シャリエルのテントへと駆けて行くのを見守って、ミカエルも立ち上がった。
「僕が今日、担当しましょうか。次回の僕の担当とシャリエルさん、交替ということで」
「お手伝い致します」
「ありがとう、ジーン」
「じゃぁそうして。俺も手伝う」
「私も手伝おう。すぐ終わるだろう」
「はい。ありがとう、バージル、ロベルトも」
朝食は数種類のパンとコーヒーとサラダに、ベーコンや薄切り肉を盛った物だった。
スープもついており、肉体労働をするので量は多めである。
人によって食べる量に差がある為、テーブル中央にパンを盛った大皿を置いて、好きなだけ取って食べられるようにしていた。
出来るだけ料理は無駄にしないように配慮していたし、冒険者のみならず野営経験のある者は、食料の大切さを身に染みて理解している為、バイキング形式でも文句は出なかった。
夜はディナーとして、各国の料理長が用意してくれた形式で出していた。
シャリエルは、聖女とご友人も席に着いた頃に、結界の外から戻ってきた。
「すまん、遅れたか」
「え…シャリエルさん!?怪我してるんですか!?」
シャリエルの装備は、雪と血で汚れていた。
思わず立ち上がったミカエルが駆け寄ったが、怪我ではなく、魔獣の血のようだった。
「問題ない。戦闘が長引いてしまった」
「戦闘って」
自分で浄化魔術を使い、全身を綺麗にしたシャリエルが何でもないように言った言葉に、バージル達も反応した。
「シャリエルさん、魔獣と戦ってたんですか?」
「ああ、結界外に出た瞬間、目が合ってしまってな」
テーブルへと歩み寄るシャリエルに怪我はないようで、何よりである。
「呼んでくれたら良かったのに」
ミカエルが言えば、シャリエルは躊躇うように口ごもり、首を振った。
「さすがに自業自得で、朝の四時に起こすのは気が引けた」
「早っ」
「…三時間も一人で戦っていたと?いや、それよりいつの間に外に?気づかなかった」
着席するシャリエルを目で追っていたバージルが呟いたが、シャリエルはまた首を振った。
「見張りの邪魔をするつもりはなかった。雪も止んでいたし、結界も壊してはいかんと、引っ張りつつ戦っていたのだが。倒した所に、歩いて来た別の魔獣と鉢合わせて」
「……」
「戦って倒し、死骸を回収して戻ろうとした所に、血を見つけた飛行タイプの魔獣に見つかり…ようやく戻って来た所だ」
「猛者すぎない?」
ミカエルのツッコミに、皆が頷いた。
複数に囲まれなかったことは幸運だったが、それにしても下位とはいえ、Sランク魔獣とタイマン張れる程強くなっているとは、思わなかった。
さすが選ばれし者。
成長度合いが、半端ない。
「なんにせよ、ご無事でようございました。朝食に致しましょう」
「ああ、もう腹ぺこだ」
ジーンがまとめてくれて、シャリエルが腹を押さえながらため息をつく。
「シャリエルさん、食事をしながらでいいので聞いて欲しいんですけど」
バージルが改まって話しかけるのを、パンを齧りながらシャリエルは聞いていた。
「見張りの意味がなくなるので、勝手に外には出ないで下さい。今回は無事だったから良かったものの、知らない内に味方が死んでた、なんてことになったら、洒落にならないのでやめて下さい。心配します」
「…す、すまない」
「あなたがお強いことは理解しました。でも、やめて下さい。もしミカエルがそんなことをしていたら、あなた心配しませんか?」
「するに決まっている。…すまない。二度としない」
「わかって頂けたなら結構です」
シャリエルが叱られて、素直に謝罪していた。
ミカエルは、自分が引き合いに出されたことは複雑だったが、それでシャリエルが無茶をしなくなるなら、有効なのだろうと納得した。
朝食の席であるので、ご友人は勇者パーティーの中に混ざっている。
今聖女の隣に座っているのはアベルだったが、真面目にバージルの話に頷いていた。
好青年である。
聖女は眠そうに欠伸をしながらサラダにフォークを突き刺しており、聞いているのか不明であるが、いつものことだった。
ミカエルの正面に座るご友人は、ご機嫌かと思いきや、眉を顰めて難しい顔をしていた。
「ご友人殿、朝食が口に合いませんか?」
声をかけると顔を上げ、首を振った。
「ううん!ご飯は美味しいよ!今日は、ミカエルが作ってくれたんでしょ?」
「温めて並べただけですが」
「でもぉ、ミカエルが作ってくれたんだもん!愛情いっぱい入ってるから、美味しいよぉ!」
「そ、そうですか」
「あ」
さらに何かを言おうと口を開けたご友人を遮って、シャリエルが声を上げた。
「どうしたの?シャリエルさん」
「すまん。今日は私が当番だったのでは?」
「気にしないで下さい。次回の僕の当番と、交替ということで。今日は僕がやりますから」
「…ありがとう。次はないよう気をつける」
「はい」
シャリエルは、ちょっとうっかりしているだけで、いい人なのだ。
真面目な人なので、今後はこんなことはないだろう。
基本的に、攻略対象者と思しきメンバーは皆、真面目である。
属性、偏ってない?
ゲームとして大丈夫なの?
チャラ男とか、いませんけど。
……。
……あ、もしかして、俺…?
ヤリチンビッチな王子様って、普通に考えたらチャラ男枠じゃん。
チャラ男枠、潰しているの、俺だった。
それはさておき、常識を弁えた真面目属性の人達の集まりであることは、とてもありがたいのだが。
ご友人とは、致命的に相性が悪い。
攻略できていないのが、いい証拠だった。
これからの予定を話し合いつつ朝食を終え、片づけに入ったが、ご友人は浮かない顔をしたままだった。
下手に優しく接すると絡まれる為、誰もが腫れ物に触るように接しているのだが、このまま機嫌が悪くなられても気まずくなってしまう。
どうしたものかと思っていると、ジーンがさりげなく、ご友人の向かいに腰掛けた。
「新年早々、何か悩みごとでしょうか?わたくしでよろしければ、お聞き致しますよ。神に一年の平穏を願う、お祈りも致します」
最高司祭であるジーンに個人的に祈ってもらおうとすると、莫大な金銭を要求されるものだった。
金銭を積んでも、都合によってはお断りもされてしまう。
それくらい、最高司祭という立場の人は、この世界では貴重な存在だ。
「わぁ、いいなぁ」
「アベルも、後で祈ってもらえばいいよ」
アベルは純粋に羨ましがっているが、彼が頼めば、いくらでも祈ってくれることだろう。
「えっでも、俺、ジーン様にお布施できるだけの金、ないです…」
「勇者様が何言ってるの。仲間なんだから、タダで祈ってくれると思うよ」
「ええっ…!いやでも、そんな、」
「じゃぁ後で、一緒に頼んでみようよ。金かかるなら、僕が払ってあげよう」
「いやいや、いやいやいやそんな、できません!」
浄化魔術で綺麗にした皿を手に振りながら、申し訳なさそうにするアベルに、思わず好感度が上がってしまう。
いい子だなぁ。
このまま素直でいて欲しい。
「皿片づけるからこっちにもらう。じゃぁ魔王討伐してお金持ちになったら、返してくれたらいいから」
「あ、そ、それまで待って頂けるなら…!」
「あっはは。律儀だなぁ」
「なに、楽しそう。俺も混ぜて」
自分のテントを片づけたバージルが合流し、アベルの肩に手を回して覗き込む。
「最高司祭殿に新年の祈りを頼むと、仲間でも金はかかるか、っていう話をしてました」
ミカエルが言えば、バージルは少し考えて、首を振った。
「あの守銭奴も、さすがに俺達から金取ったりはしないと思う」
「しゅせんど」
「えっジーン様って、守銭奴なんですか…?」
「知らなかった?あいつが最高司祭になったのも、金が大好きだからだよ」
「そうなんだ…」
「わぁ…」
神聖なる聖教の最高司祭とは…?と考えていると、本人が後ろからツッコミを入れてきた。
「失礼なことをおっしゃっている方がいますね。わたくしが愛するものは、平穏、でございます。平穏、すなわち暇、でございます。金があって暇がある。最高司祭という役職は、わたくしにとっての天職なのですよ」
「認めちゃってるし」
「公子殿下はお暇でいらっしゃるご様子。タープとテーブルの片づけを、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あれ?もう話終わった?」
後ろを振り返ると、ご友人は聖女と共に、暖房の魔道具のそばの椅子に座っていた。
彼女達のテントの片づけは、冒険者達が行っている最中だった。
「終わりました。意味の分からぬ話でした」
「どんな?」
ジーンとバージルの会話を、ミカエルとアベルも一緒に聞いた。
「『なんでミカエルなの?そこは姫でしょ?姫が危険な目に遭ってたらどうなの?でしょ?』と」
「どういう意味?」
「さぁ?」
ミカエル以外の三人が首を傾げていたが、ミカエルは眉を顰めた。
それも、イベントだったのか。
聖女の好感度が高ければ、あの時の会話で引き合いに出されたのは、ミカエルではなく聖女の名前になるはずだったのだろう。
だが残念ながら、ご友人は聖女ではないし、本物の聖女はそもそも好感度も何もない。
だから、ミカエルの名が出てきたのだろう。
ご友人が浮かない顔をしていたのは、自分の好感度が予想よりも高くないことに、気づいたのではないだろうか。
…暴走しなければいいのだが。
やはりジーンに、一年の平穏を祈ってもらう必要がありそうだった。
その後ちゃんと無料で祈ってくれたので、ジーンもいい人だった。
このファンタジーな世界にあっても、新年の挨拶は日本と同じだった。
この世界を造った神は、日本人なのだろう。
知らんけど。
朝食の手伝いの為、ミカエルは少し早めにテントを出たが、結界の半円形の天井は、真っ白な雪で覆われており、まるで雪で作ったかまくらの中にいるような錯覚に陥った。
外の様子が全くわからなかったものの、見回りに出ていたらしいバージルが、結界の中へと戻って来た所で、視線が合った。
「あ、新年おめでとうミカエル。今年もよろしく」
今日の給仕担当は、シャリエルだった。
アベルやロベルト、ジーンも手伝う為にテントを出て来たが、肝心のシャリエルはまだだった。
「すぐ来るだろう」
バージルの言葉に皆はひとまず椅子に座り、外の様子を聞くことにした。
外は快晴であり、一面に降り積もった雪が地面のみならず、森全体を白に染め、きらきらと煌めいていて、美しい光景が広がっているらしい。
「後で見るのが楽しみです!」
「我が国では雪が降るのは、ハイ・エンバー山脈の頂上付近位だからな」
アベルの弾んだ声にロベルトも頷きながら答えており、一年を通して比較的温暖な西方大陸にあるウルテイワズ王国では、降り積もった雪は馴染みのないものであるようだ。
「今日は、移動出来そうですか?」
ミカエルが問うと、バージルは難しい顔をしつつも頷いた。
「日が出ているから、雪も解けると思う。深さは十センチくらい」
「思ったよりは、積もっていませんね」
「明け方に、雪は止んだみたいだ」
「そうなんだ」
「日程的に、もう引き返さなければなりませんし、一日潰れずに済んで良かったですね」
ジーンが安堵のため息を漏らし、皆も頷いた。
予定の半分しか進まなかったものの、もう帰らなければならなかった。
元々の予定では、もっと進めているはずだったのだが、仕方がない。
ミカエルはまた時間を作って、アルヴィスと二人で来て、先を見ておこうと思っている。
少しでも経験を積んでおけば、本番で皆の役に立てるのだから、いいことだ。
「今回で色々と必要な物もわかったし、本番では大丈夫だろう」
「そうですね」
馬。
忍耐強い馬が、必要。
皆の意見は一致していた。
「…それにしてもシャリエルさん、遅くない?寝坊?」
もう朝食の用意を始めなければならない時間だったが、シャリエルはまだ、テントから出てこなかった。
冒険者三名もテントを出てきており、挨拶をしてくれた後は、結界の境界の見回りに行ってくれている。
「俺、ベル鳴らしてきます!」
アベルが一番に立ち上がって、シャリエルのテントへと駆けて行くのを見守って、ミカエルも立ち上がった。
「僕が今日、担当しましょうか。次回の僕の担当とシャリエルさん、交替ということで」
「お手伝い致します」
「ありがとう、ジーン」
「じゃぁそうして。俺も手伝う」
「私も手伝おう。すぐ終わるだろう」
「はい。ありがとう、バージル、ロベルトも」
朝食は数種類のパンとコーヒーとサラダに、ベーコンや薄切り肉を盛った物だった。
スープもついており、肉体労働をするので量は多めである。
人によって食べる量に差がある為、テーブル中央にパンを盛った大皿を置いて、好きなだけ取って食べられるようにしていた。
出来るだけ料理は無駄にしないように配慮していたし、冒険者のみならず野営経験のある者は、食料の大切さを身に染みて理解している為、バイキング形式でも文句は出なかった。
夜はディナーとして、各国の料理長が用意してくれた形式で出していた。
シャリエルは、聖女とご友人も席に着いた頃に、結界の外から戻ってきた。
「すまん、遅れたか」
「え…シャリエルさん!?怪我してるんですか!?」
シャリエルの装備は、雪と血で汚れていた。
思わず立ち上がったミカエルが駆け寄ったが、怪我ではなく、魔獣の血のようだった。
「問題ない。戦闘が長引いてしまった」
「戦闘って」
自分で浄化魔術を使い、全身を綺麗にしたシャリエルが何でもないように言った言葉に、バージル達も反応した。
「シャリエルさん、魔獣と戦ってたんですか?」
「ああ、結界外に出た瞬間、目が合ってしまってな」
テーブルへと歩み寄るシャリエルに怪我はないようで、何よりである。
「呼んでくれたら良かったのに」
ミカエルが言えば、シャリエルは躊躇うように口ごもり、首を振った。
「さすがに自業自得で、朝の四時に起こすのは気が引けた」
「早っ」
「…三時間も一人で戦っていたと?いや、それよりいつの間に外に?気づかなかった」
着席するシャリエルを目で追っていたバージルが呟いたが、シャリエルはまた首を振った。
「見張りの邪魔をするつもりはなかった。雪も止んでいたし、結界も壊してはいかんと、引っ張りつつ戦っていたのだが。倒した所に、歩いて来た別の魔獣と鉢合わせて」
「……」
「戦って倒し、死骸を回収して戻ろうとした所に、血を見つけた飛行タイプの魔獣に見つかり…ようやく戻って来た所だ」
「猛者すぎない?」
ミカエルのツッコミに、皆が頷いた。
複数に囲まれなかったことは幸運だったが、それにしても下位とはいえ、Sランク魔獣とタイマン張れる程強くなっているとは、思わなかった。
さすが選ばれし者。
成長度合いが、半端ない。
「なんにせよ、ご無事でようございました。朝食に致しましょう」
「ああ、もう腹ぺこだ」
ジーンがまとめてくれて、シャリエルが腹を押さえながらため息をつく。
「シャリエルさん、食事をしながらでいいので聞いて欲しいんですけど」
バージルが改まって話しかけるのを、パンを齧りながらシャリエルは聞いていた。
「見張りの意味がなくなるので、勝手に外には出ないで下さい。今回は無事だったから良かったものの、知らない内に味方が死んでた、なんてことになったら、洒落にならないのでやめて下さい。心配します」
「…す、すまない」
「あなたがお強いことは理解しました。でも、やめて下さい。もしミカエルがそんなことをしていたら、あなた心配しませんか?」
「するに決まっている。…すまない。二度としない」
「わかって頂けたなら結構です」
シャリエルが叱られて、素直に謝罪していた。
ミカエルは、自分が引き合いに出されたことは複雑だったが、それでシャリエルが無茶をしなくなるなら、有効なのだろうと納得した。
朝食の席であるので、ご友人は勇者パーティーの中に混ざっている。
今聖女の隣に座っているのはアベルだったが、真面目にバージルの話に頷いていた。
好青年である。
聖女は眠そうに欠伸をしながらサラダにフォークを突き刺しており、聞いているのか不明であるが、いつものことだった。
ミカエルの正面に座るご友人は、ご機嫌かと思いきや、眉を顰めて難しい顔をしていた。
「ご友人殿、朝食が口に合いませんか?」
声をかけると顔を上げ、首を振った。
「ううん!ご飯は美味しいよ!今日は、ミカエルが作ってくれたんでしょ?」
「温めて並べただけですが」
「でもぉ、ミカエルが作ってくれたんだもん!愛情いっぱい入ってるから、美味しいよぉ!」
「そ、そうですか」
「あ」
さらに何かを言おうと口を開けたご友人を遮って、シャリエルが声を上げた。
「どうしたの?シャリエルさん」
「すまん。今日は私が当番だったのでは?」
「気にしないで下さい。次回の僕の当番と、交替ということで。今日は僕がやりますから」
「…ありがとう。次はないよう気をつける」
「はい」
シャリエルは、ちょっとうっかりしているだけで、いい人なのだ。
真面目な人なので、今後はこんなことはないだろう。
基本的に、攻略対象者と思しきメンバーは皆、真面目である。
属性、偏ってない?
ゲームとして大丈夫なの?
チャラ男とか、いませんけど。
……。
……あ、もしかして、俺…?
ヤリチンビッチな王子様って、普通に考えたらチャラ男枠じゃん。
チャラ男枠、潰しているの、俺だった。
それはさておき、常識を弁えた真面目属性の人達の集まりであることは、とてもありがたいのだが。
ご友人とは、致命的に相性が悪い。
攻略できていないのが、いい証拠だった。
これからの予定を話し合いつつ朝食を終え、片づけに入ったが、ご友人は浮かない顔をしたままだった。
下手に優しく接すると絡まれる為、誰もが腫れ物に触るように接しているのだが、このまま機嫌が悪くなられても気まずくなってしまう。
どうしたものかと思っていると、ジーンがさりげなく、ご友人の向かいに腰掛けた。
「新年早々、何か悩みごとでしょうか?わたくしでよろしければ、お聞き致しますよ。神に一年の平穏を願う、お祈りも致します」
最高司祭であるジーンに個人的に祈ってもらおうとすると、莫大な金銭を要求されるものだった。
金銭を積んでも、都合によってはお断りもされてしまう。
それくらい、最高司祭という立場の人は、この世界では貴重な存在だ。
「わぁ、いいなぁ」
「アベルも、後で祈ってもらえばいいよ」
アベルは純粋に羨ましがっているが、彼が頼めば、いくらでも祈ってくれることだろう。
「えっでも、俺、ジーン様にお布施できるだけの金、ないです…」
「勇者様が何言ってるの。仲間なんだから、タダで祈ってくれると思うよ」
「ええっ…!いやでも、そんな、」
「じゃぁ後で、一緒に頼んでみようよ。金かかるなら、僕が払ってあげよう」
「いやいや、いやいやいやそんな、できません!」
浄化魔術で綺麗にした皿を手に振りながら、申し訳なさそうにするアベルに、思わず好感度が上がってしまう。
いい子だなぁ。
このまま素直でいて欲しい。
「皿片づけるからこっちにもらう。じゃぁ魔王討伐してお金持ちになったら、返してくれたらいいから」
「あ、そ、それまで待って頂けるなら…!」
「あっはは。律儀だなぁ」
「なに、楽しそう。俺も混ぜて」
自分のテントを片づけたバージルが合流し、アベルの肩に手を回して覗き込む。
「最高司祭殿に新年の祈りを頼むと、仲間でも金はかかるか、っていう話をしてました」
ミカエルが言えば、バージルは少し考えて、首を振った。
「あの守銭奴も、さすがに俺達から金取ったりはしないと思う」
「しゅせんど」
「えっジーン様って、守銭奴なんですか…?」
「知らなかった?あいつが最高司祭になったのも、金が大好きだからだよ」
「そうなんだ…」
「わぁ…」
神聖なる聖教の最高司祭とは…?と考えていると、本人が後ろからツッコミを入れてきた。
「失礼なことをおっしゃっている方がいますね。わたくしが愛するものは、平穏、でございます。平穏、すなわち暇、でございます。金があって暇がある。最高司祭という役職は、わたくしにとっての天職なのですよ」
「認めちゃってるし」
「公子殿下はお暇でいらっしゃるご様子。タープとテーブルの片づけを、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あれ?もう話終わった?」
後ろを振り返ると、ご友人は聖女と共に、暖房の魔道具のそばの椅子に座っていた。
彼女達のテントの片づけは、冒険者達が行っている最中だった。
「終わりました。意味の分からぬ話でした」
「どんな?」
ジーンとバージルの会話を、ミカエルとアベルも一緒に聞いた。
「『なんでミカエルなの?そこは姫でしょ?姫が危険な目に遭ってたらどうなの?でしょ?』と」
「どういう意味?」
「さぁ?」
ミカエル以外の三人が首を傾げていたが、ミカエルは眉を顰めた。
それも、イベントだったのか。
聖女の好感度が高ければ、あの時の会話で引き合いに出されたのは、ミカエルではなく聖女の名前になるはずだったのだろう。
だが残念ながら、ご友人は聖女ではないし、本物の聖女はそもそも好感度も何もない。
だから、ミカエルの名が出てきたのだろう。
ご友人が浮かない顔をしていたのは、自分の好感度が予想よりも高くないことに、気づいたのではないだろうか。
…暴走しなければいいのだが。
やはりジーンに、一年の平穏を祈ってもらう必要がありそうだった。
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完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
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BL
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