【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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253. 再び命を狙われる俺

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 学園に通う必要がなくなり、第二王子は事故死してしまって、卒業までの間、第一王子ミカエルの日常は虚無に陥っている…と思いきや、そうではなかった。
 
 表面的には、唯一の家族と言って良かった第二王子を喪い、悲しみに暮れるミカエルは、平日昼間は第二王子の宮で、静かに時間を過ごしている、…ということに、なっていた。
 アルヴィスの王子宮は、喪に服す為、しばらくの間は残される。
 その後は遺品を整理され、いつか使われる日が来るまで、閉ざされる予定だった。
 実際の所は、ミカエルは平日昼間、国を出た後に過ごす予定の拠点の進捗確認をしたり、カゲロウ族の里に顔を出したり、魔族領でアルヴィスと二人、レベル上げをしたりしていた。
 アルヴィスの宮に使用人はいなくなったが、故人を偲びたい、というミカエルの意志を尊重し、宰相は鍵を預けてくれていた。
 なので、転移で外出し放題である。
 とはいえ、誰かが訪ねて来ないとも限らない為、外出中はノアを宮に残していた。 
 
 何かあれば、すぐ知らせてくれる。

 週末になると勇者パーティーに加わって、ダンジョンに潜る。
 皆いつもと変わらぬ態度で接してくれ、ミカエルも普段通りに過ごすことが出来た。
 ただ、やはりというべきか、聖女のご友人は鬼門だった。
「ミカエルぅ…悲しいよね…残念だよね…泣いていいんだよ?姫、いくらでも慰めてあげるから…!」
「…お気持ちだけ、ありがたく。元々、婚姻の為に遠くへ行く、と決まった時点で、別れは済ませていましたから」
「無理しちゃダメ!ミカエルがどれだけ辛いか、姫にはわかってるんだから!」
「…そ、そうですか…」
「泣いていいのよ!思いっきり!」
「…だ、大丈夫です」
「泣きたくなったら、いつでも姫のテントに来てね。待ってるから…!」
「…お気持ちは、ありがたく」
 ご友人の言う「慰め」は、ボディランゲージによるものなのだな、と思えば、絶対に近づきたくはなかった。
 「泣いていいのよ」はありがたいお言葉であるが、それは喪った当日でなければ陳腐なものだった。
 ミカエルを慰めてあげる健気で優しい姫、という役どころで本人は悦に入っているようなので、わざわざ指摘することもない。

 どうぞ気持ち良く、夜はお眠り下さい。 
 邪魔はしません。

 聖女とご友人は相変わらず参加はしていても、見ているだけである。
 Aランクのダンジョンの魔獣はすでに、勇者パーティーの敵ではなくなっていた。
 八十一階から百階までを、行ったり来たり。
 勇者アベルと王太子ロベルトは、咄嗟の危険時にすぐ防御陣の魔道具が発動できるよう、練習していた。
 
 マジックバッグから取り出して、発動。
 発動したら足下に置いて、回復などのインターバル。

 Aランクの魔獣の攻撃なら、Sランク防御陣が壊れることはないので、安心して練習することが出来た。
「防御陣が張れると、考える余裕が生まれるので嬉しいです」
「うん。まぁ相手がSランクだとそんなに保たないけど、次の一手を考えられるのは大きい」
 アベルとバージルの会話に、ロベルトが頷いていた。
「回復の魔道具を取り出すも良し、ポーションを使うも良し。詠唱してもいい。選択肢が広がるな」
「ミカエル様が当たり前のようにやってらっしゃるのを見て、すごく勉強になりました」
 ちょうど一戦終えたところでアベルに笑顔を向けられ、ミカエルもまた笑みを返した。
「私は魔力がなくて、魔術は使えないから。代わりに魔道具を自在に使えるように、練習したんだよ」
「…あ、申し訳ありません…!」
 魔力がないということは、今では世界的にも偏見の対象ではなくなっていた。
 ミカエルは魔力を持たない、ということを公表したが、ドラゴンスレイヤーとなり、勇者パーティーのメンバーとなったことで、マイナスイメージは払拭されたのだった。
 皮肉なことだが、今ではミカエルのことを、「魔力なしの顔だけ王子」と呼ぶのは、自国の人間だけである。
 それでもデリケートな問題だ、という認識はあったのだろうアベルに謝罪されたが、ミカエルは笑って首を振った。
「気にしないで。私も気にしてないから。魔道具は詠唱が必要ないから、むしろ便利だなって思ってるんだ」
「…た、確かに」
「やりやすい方を、選べばいいんじゃないかな。攻撃魔術の魔道具も、最近は普及してきていることだし」
「そうですよね…!ミカエル様が、時代の先駆者です」
「いやそんな、褒めても何も出ないよ」
 攻撃や、デバフの魔道具をミカエルが使っているのを映像で見て、同盟四国と帝国が、自国での取り扱いを始めたのは、つい最近のことだった。
 高ランクの物は犯罪に使われては困る為、一般流通はしない予定だ。
 低ランクの物は冒険者ギルドで取り扱われており、魔術師の成長を妨げない範囲で、前衛職の者達の補助として使用されることが目的だった。
 シャリエルやジーンも、詠唱の時間を稼ぐのに有効であることから、アベル達と同じように、一人で一体の魔獣に相対しては、防御陣を張る、を繰り返している。
 生命線である彼ら自身の安全も、重要だ。
 ミカエルとバージルはその間暇なので、邪魔にならない場所で魔獣狩りをしていた。
 ダンジョンにはAランク冒険者はついて来ていないので、聖女とご友人は自分で椅子を出し、飲み物を入れて、端の方で暇そうにしている。
 無論、結界は常時張られていた。
 ダンジョンのレベル上げに初参加であるミカエルは、未だに慣れないのだが、バージル達はもはや、彼らを視界に入れることすらなかった。
 移動の際、声をかけるだけである。
 皆のレベルが上がったせいで、移動は頻繁であり、聖女達は随分と面倒くさそうな顔をしていた。
 何とか出来るものならしたい所だが、こればっかりは仕方がない。
 
 ダンジョンは、進むものである。

 聖女達は魔王討伐に向けて、体力増強に励んでいるかと思いきや、そんな様子は全くなかった。
 彼らは全く変わろうとしないので、もう誰もが諦めてしまい、何も言わなくなっていた。

 それでいい。

 ミカエルは、内心で呟く。

 彼らは変わらないままで、いいのだ。
 そのまま元の世界に帰って、今まで通り暮らしてくれたら、それでいい。
 ミカエルと交わらない人生を、生きてくれたら、それでいいのだ。
 下手に改心されてしまったら、許さないといけない気がするから。
 今更だった。

 許さないよ。
 前世は過去のこと、じゃないんだよ。
 君達が生きて目の前にいるから、ずっとずっと、過去に出来ないんだ。
 忘れたくても、忘れられないんだ。

 俺だって、幸せに暮らす権利はある。
 君達だけがのうのうと生きていける世界になんて、させない。

 絶対に。


 
 
 
 ダンジョンから戻ると、またミカエルはアルヴィスの宮で過ごす。

 その日は誰もいない宮で一人、ミカエルは居室のソファに腰掛けて、読書をしていた。
 外は雨であり、芯まで冷えるような風と合わさって、骨身に染みる寒さだった。
 足元に暖房の魔道具を置いているので室内の寒さは問題なかったが、時折窓に打ち付ける雨粒が、時間と共に激しくなって来ていた。
 ミカエルがページをめくる音と、壁掛け時計の秒針が動く音だけの静かな空間に、見知らぬ気配が混じった。
 
 エントランスの扉を開けて、入って来る。

 ノアも、影の中で反応していた。
 誰かがミカエルを呼びに来たのなら、扉の向こうから声かけがあるはずだった。

 なかった。

 ミカエルは本を閉じ、マジックバッグに収納した。
 足を組み、ソファに凭れてしばし待てば、許可を得ることなく、廊下から居室へと続く扉が開いた。
 
 無断で入室した無礼者は、侍女の格好をしていた。

「…誰の許しを得て、入って来たのか」
 ミカエルが不快を滲ませると、侍女はその場で一礼した。

 が、礼がなっていなかった。

 角度も適当なら、足も揃っていなかった。
 一目見てわかる、こいつは侍女の格好をしただけの、不審者だった。
「無礼者。出て行け」
 ミカエルは命令したが、女は頭を下げたまま動かなかった。
「あ、あの、申し訳、ございません。わ、私は、今日配属になったばかりで…」
 上擦った声は演技とは思えなかったが、何らかの意図を持ってここに来たことは確かだった。
 ミカエルは答えることなく、黙っていた。
 女はしばし待っていたが、返答がないことに慌てたように付け足した。
「こ、ここの、ミカエル殿下の、宮に…!その、ご、ご挨拶に、」
「……」

 ここは、ミカエルの宮ではない。
 
 エントランスから居室までの通路に、明かりは灯していた。
 まぁ、明かりがあるから、迷いはしなかったのかもしれないが。

 どう考えても、言い訳に無理があった。
 
 ミカエルが一言も発していないことに気づいたようで、女はちらっと顔を上げた。 
 許しも得ずに発言し、許しも得ずに顔を上げるとは、命知らずもいいところだった。
 冷たく見下ろすミカエルの視線に気づくと、女は慌てて顔を伏せ、また勝手に喋り出す。
「その、ミカエル殿下に、色々と教えて頂け、と言われました。わ、私は、何をすれば良いでしょうか?」
 ツッコミどころしかなく、ミカエルは思わずため息をつきそうになったが、耐えた。
 無言を貫くと、いたたまれなくなったのか、姿勢が辛くなったのか、女は勝手に頭を上げた。
 無表情のミカエルを見て、女は頬を染めたが、慌てて頭を振って、一歩こちらへと踏み出した。
 
 アウトですよ。

 ミカエルは、もう一度、言った。
「無礼者。出て行け。三度目はない」
「ま、待って下さい!わたし、家に借金があって!どうしても、やらなきゃいけないことがあるんです!」
「……」

 いや、知らんし。

「話を、聞いてくれませんか!?一生懸命頑張ります!!」
 何を、と聞く必要はなかった。
 哀れっぽく同情を誘うように目に涙を浮かべて歩み寄って来た女は、手の中に持っていた折りたたみ式のナイフを取り出して、ミカエルに向かって突き出した。

 舐められてる。

 ミカエルは、その場から動く必要すらなかった。
「バインド」
「い、いやぁあぁああ…っく、くるしい…った、たすけて…ッ!!」
 魔道具で女を床に拘束し、ミカエルはため息をつきながら立ち上がった。
 無数の枝に巻き付かれ、女はナイフを取り落として床に転がっている。
 ナイフには、紫色の液体が塗られていた。
 
 毒だった。
 
 ナイフを女の手が届かない部屋端へと蹴とばして、ミカエルはため息をつく。
 
 護衛騎士、主の危機に、仕事せず。
 十七音ぴったり。

 冗談で紛らわせなければ、やっていられなかった。
「一族郎党死罪の覚悟があって、挑んで来たのだろうな」
「…、ま、…っ、まって、まってください…ッ、ちがう、ちがうんです、これは、…っ」
 近くで見る女は、二十代前半くらいと思われた。
 所作から見るに、上位貴族ではなさそうだった。
「三度目はない、と言った。聞いていなかったのか?」
「…ち、ちがうんです、だって、ころさないと、わたし…っ」
「殺すことに失敗したのだから、自らと一族が死ぬだけだ。当然だろう」
「…っひ、…っそ、そんな……!」
 なおも言い募ろうとするので眠らせて、ミカエルは護衛騎士の控え室までわざわざ出向いた。

 騎士達は、酒を飲んで寝ていた。

 女と護衛騎士達をまとめて第二騎士団に突き出して、ミカエルは自分の宮へと帰った。  





 お粗末な暗殺は、その後も続いた。 
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