【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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181. 特に意味もなくピンチに晒される俺2

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 目を開けていられない程の光の奔流から解放された時には、ミカエルとご友人は知らない場所にいた。
 真っ暗な洞窟の中、ヒカリ苔と水晶が光源として蒼く光り、幻想的な風景を作り出している。
 蛍が飛んでいるのか、光の粒子が空気中に舞い、どこからか漏れ入る陽光が斜線となって、洞内へと降り注ぐ。
 どこかに水場があるのか、水の流れる音もする。
 美しい場所だった。
「あービックリしたぁ!うわぁでもゲーム通り!ゲーム通りだよぉ!すごいすごいぃ!」
「……ご友人殿、静かに」
「ここ!素敵だよねぇ!まさかゆずるんがここに来る方法探し当てちゃうなんて、ビックリだよぉ!」
「……」

 ゲームに、出てくる?

 第四王子ルシュディーの攻略チャートには、こんな場所の記述はなかった。
 正規ルートには関係のない場所なのか。
 隠しステージなのか。
 一体、彼女は何を知っているのか。

「ご友人殿。ここを、知っているのですか?」
 出来る限り冷静に、優しく、聞いた。
 ずっと腕にしがみついているご友人を離し、両肩に手を置いて、そっと顔を覗き込む。
 至近に見つめられたご友人は、頬を染めて目を閉じた。
「キス、していいんだよ、ミカエル…!」
「……」

 しねぇよ。

「ここが、どんな場所か、教えて欲しいな」
 嫌悪を押さえ込み、ご友人の頬を撫で、髪を撫でた。
 うっとりとした表情で目を開けたご友人は、ミカエルの首に抱きついた。
 鳥肌の立つ腕の震えを堪えつつ、ミカエルは笑みの形に表情を作った。
「素敵な場所だね。どうやって見つけたの?」
 耳元に囁くと、ご友人は瞳を潤ませながら熱い息を吐いた。

 ミカエルの背筋には、悪寒が走った。

「…えっとぉ、ここ、ホントは崖の途中から繋がってるのぉ…。でもぉ、危ないでしょ?どうしよっかなって思ってたら、ゆずるんが」
「…聖女殿が?」
「もしかしたら、スキルを使えば行けるかもってぇ…」
「…そうなんだ。ここがどんな場所かは、知ってたの?」
「ねぇミカエルぅ、キスして…。姫、ミカエルのことが、好きなの!」
「……」

 吐きそうなので、やめて下さいお願いします。

 質問の答えがまっすぐ返って来ないことに苛立ちながら、ミカエルは渾身の演技で微笑んだ。
「僕は、君にふさわしい男になりたいんだ。返事は、魔王を討伐するまで、待ってくれないか」
「…み、ミカエル…!待つ、待つよぉ!でも、ミカエルはそのままで、十分カッコイイよ!」
「…ありがとう」
「ビジュ良すぎるよぉ…もう姫、濡れてきちゃった…」
「……」

 やめて下さい本当に勘弁して下さい他を当たって下さいお願いします。

 似たような台詞は、聖女に対して、第一王子が決意表明をする時に言っていた、らしい。
 スイートエンディングルートとやらに入ったら、第一王子が言うのだそうだ。
 聖女が魔王討伐をして戻ってきたら、王になって迎えてくれるというパターン。
 ご友人が乙女ゲームバージョンをやっていたとしても、似たような台詞はあるだろうと推測した。 
 どうやら当たっていたようで、ご友人は感激して泣いていた。

 …ごめん、どうでもいいです。

「…わざわざ、こんなに素敵な場所を選んでくれたんだね。大変だったでしょう」
「ううん…だってここさえ見つければ、ミカエルとイチャラブ確定だって、わかってたから…!」
「……」
 
 ツッこまないぞ。
 知らないフリを通すからな。

 ご友人がやったゲームでは、ここはデートスポットだったらしい。

 だが。
 そんな生ぬるい場所ではなかった。

 殺意を、感じていた。

 距離はある。
 攻撃範囲内には入っていない。

 でも。
 感知されている。

 魔法陣で入ってしまった時点で、おそらく、逃げられない。
 石碑を読んでしまった。
 古代語…日本語だった。
 最後までは読む時間がなかったが、内容は把握できた。





 『資格持つ者は、挑むが良い。
 聖なる印を持つ者よ、唱えよ。
 さすれば扉は、開かれん。
 朽ちる幹と、噛み減らす絶望の下
 挑みし者は、何を見るか
 
 ※このフィールドは、下限レベルが設定されています。
 ……
 ……
 ……』





 隠しボス確定じゃないですか、ヤダー!!
 

 


 ソロで入れるって、おかしいでしょ!
 どう考えても、スキルを使った聖女も一緒でいて初めて、ワープ出来る仕様じゃないとダメでしょ!
 不具合すぎるでしょ!
 今すぐ修正して下さい!!

 …マジで…どうすんのこれ…。 

「…ご友人殿、今から大切なことを言うので、聞いてもらえますか」
「…え、なぁにぃ?」

 あの聖女は、面白がってやったに違いない。
 だが、親友だというご友人まで道連れにして、いいわけがないだろう。
 このご友人は、戦えない。
 ほんの少しの風圧ですら、死んでしまいそうなくらいに、殺気を向けてくる敵は、恐ろしく強かった。

 計り知れない。

 下限レベルが設定されている、ということは、ミカエルは戦う資格のあるレベルには達しているということだった。
 
 だが、無理だ。
 ソロでは、絶対に。

 特殊フィールドなら、ミカエルが死んだら、死体はどうなるのだろうか。
 地上に戻されるのか、それともここに放置されるのか。
 「資格」のある者が大勢で突入すれば、死体を回収することも可能かもしれないが、そうでなければ死体はどうなるのか。
 エリア内には、ダンジョンで見るような境界を示す結界が張られており、倒すまでは外に出られそうにない。
 今はまだ敵は様子を窺っているが、いつ動き出すか、わからない。

「…ボイル侯爵からもらったSS級防御陣は、持ってますか?」
「え?…えっとぉ…あ、マジックバッグに入ってるよ!」
「良かった。それを発動させて、ここから出来るだけ離れていて下さい」
「…え?どういうこと?」
「結界の外には出られないと思いますが。今すぐに」
「…何?ミカエルが何言ってるか、わかんないんだけど…」
「敵が、います。…ものすごく、強い敵が」
「…へ?や、やだぁ、まっさかぁ…」
 タイミングを計っていたかのように、洞窟内が大きく振動した。
 地を這うように低く、地響きにも似た、敵の唸り声が聞こえた。
 耳にした瞬間、泣きながら逃げ出したくなる程の、恐怖が走った。
「ひ、…っ…な、なな、なに…っ」
 敵の強さなどわからないご友人が、まるで幽霊でも出たかのようにミカエルに縋りついた。
 だがミカエルに、守ってやる余裕はない。
「ご友人殿、魔道具を出して、発動して、離れて下さい」
「…っ、み、ミカエルも、一緒に、」
「無理です。捕捉されているので、私が逃げたらあなたも死にます」
「ひ、…ッ」
 動揺と恐怖からか、ご友人は青ざめて震えるだけで、動こうとはしなかった。
 ミカエルはもう一度、ご友人の両肩に手を置いて、正面から至近で瞳を覗き込んだ。

「君を、死なせるわけにはいかない。僕が戦っている間、離れて安全な場所にいてくれないか」

 自分の言葉に虫酸の走る思いを堪えて、必死に言った。
 余裕のなさは伝わったのか、ご友人は何度も無言で頷いた。
「いい子だね。さぁ、走って!」
「み、ミカエル…っ…」
 悲壮な表情でご友人は走り出し、通路と思しき曲がり角を曲がって姿を消した。
 
 ご友人を巻き込んだ所で、気分が悪くなるだけだ。
  
 恐怖で震え出す身体を深呼吸でやり過ごしながら、ミカエルは後ろを振り返った。
 生温かな風のように吹き付けてくる殺意は、それだけでミカエルを殺せそうな程に痛い。
「…ノア」
 ずっと主人を守ろうと、出てこようとしていたのを押さえつけていたが、それももう必要ない。
 名を呼べば、従魔はすぐさま影から飛び出し、ミカエルを守るように前へと立った。
 全身の毛が逆立っており、ノアもまた、敵の強さを理解しているかのようだった。
  
 怖い。
 近づきたくない。

 でも、逃げられない。
 バトルフィールドに入ってしまったからなのか、転移は出来なかった。
 
「…これ、時間稼ぎしたら、助かる…のかな…?」
 見込みは、あるのだろうか。
 それなら逃げ回って、なんとか時間を作ることは出来るかもしれなかった。

 勇者アベルはまだ、成長途中だった。
 バージルがいてくれれば、盾役として頼もしい味方になったかもしれない。
 ロベルトも、まだ成長途中だった。
 ジーンは…支援と回復なら、レジストされることはない。

 ミカエルが生きていられたら、…そして助けが間に合ったら、何とかなるかもしれない。

「…ここまで来るのに何時間…?…はは、無理ゲー…」
 Aランク冒険者が、北方都市まで知らせに走ってくれたと仮定しての、話だった。

 そんなに、もたないよ。

 敵の姿が見えるぎりぎりまで、近づいた。
 殺意が膨れ上がっており、ほんの少しのきっかけで破裂しそうな緊張感があった。
 唾を飲み込む音すらも、刺激になりそうだった。

 見えた敵の姿に、身体が震えるのを自覚した。

 黒く、洞窟を埋め尽くす程に巨大な、龍、に見えた。
 瞳は紅く、魔獣であることが窺えた。

  



 目が合い、ミカエルは死を覚悟した。
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