【完結】前世ハイスペックブサメンの俺、今世ではイージーモードを歩みたい

影清

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182. 特に意味もなくピンチに晒される俺3

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 その日、第二王子アルヴィスは、ミカエルの頼みを叶えるべく、各国の資料をラダーニエに届けさせていた。
 
 この国を出てから、拠点にする場所探し。

 アルヴィスは、どんな国を見ても、どんな場所を見ても、「気に入った」と思ったことがなかった。
 かつては「美しい」と感じた景色も、月日が経てばどうでも良くなる。
 だが、ミカエルと過ごす拠点、となれば、そうも言っていられない。

 ミカエルが気に入りそうな国。
 ミカエルが過ごしやすい場所。

 アルヴィスにとっての拠点は、「ミカエル」であるので、場所にこだわりはなかった。
 ミカエルがいる場所に、自分がいられればそれで良かった。
 だがそれではミカエルが納得しないので、仕方がない。

「我が君。同盟を結んでいる五国間ですと、どうしてもしがらみはついて回ります。同盟国以外も、検討の余地はあるかと」
「例えば?」
「ホルンガルド公国などはいかがでしょうか。大森林を挟んで西に位置する小国です。農業国家ですが、長閑な景色で避暑地として有名です。長らく戦争もありませんし、対立国家もありません。山間部から見下ろす見渡す限りの草原は、絶景との評価が高いです」
「へぇ」
「大きなダンジョンもなく、瘴気のたまり場もなく、国民性は穏やかでおおらかと言われております」
「ド田舎ということか」
「左様でございます。ミカエル様は自然がお好き、ということですし、いかがかと」
「…そうだな」
「資料はこちらに。帝国領でなければ、カノスズも良い場所があるのですが」
「…帝国は…」
「心得ております。皇帝に出しゃばられても困りますので、帝国領は除外致します」
「…ああ」
 アルヴィスよりも熱心に、ラダーニエは拠点探しを手伝っていた。
 自分の情報が役に立つのだからと、張り切っている。
「同様の理由で、北方大陸も一旦、除外致します」
「……」

 皇帝の番がミカエルであることは、ニーデリアから報告を受けて知っていた。

 知っていたが、アルヴィスは奪ったのだ。
 ニーデリアは、忠実な配下である。
 皇帝が浚ってきたミカエルを見て、アルヴィスの意図に気づいたことだろう。
 いつだったか、ミカエルに「マーキング」と言ったが、あれは嘘ではなかった。
 ニーデリアに知らせ、皇帝の本能から隠す為に、「繋いで、隠した」のだ。
 自分の魔力で染めてしまえば、未熟な龍に気づかれることはない。
 とはいえ、誓約を結ぶまでは、完全ではないのが欠点だった。
 あちらに先に番契約を結ばれてしまえば、壊れる「繋がり」でしかない。
 神の定めたシステムは、厳格に出来ているのだ。
 
 出来るだけ、近づけたくない。

 主の意図を汲めるラダーニエもニーデリアも、有能だった。
「南方大陸ですと、カノラド連邦の南、ハーエイ諸島もよろしいかと。海に浮かぶ島々を見渡せる海岸沿いの都市は、温暖な気候でも風が吹きますので、比較的過ごしやすいと思います」
「ふむ。…海は好きだと言っていた。大型帆船が行き来するのを見るのが楽しいと」
「おお。では候補に入れて良さそうですね。資料はこちらです」
 アルヴィスよりもうきうきしながら資料を見比べているラダーニエは、アルヴィスよりも先にミカエルを見初めていたはずだった。
 その時にはまだ王妃を愛していたのかは不明だが、ミカエルをずっと見守って来ただろうことは、理解している。
 
 ラダーニエ自身が、ミカエルを望んでいたのではないか。
 …そんなこと、今までの自分ならば、気にかけることすらなかっただろう。

「…おまえは、それでいいのか?」
「…何が、でございましょう?」
「ミカエルは、俺が手に入れる。それで、いいのか?」
「…何をおっしゃるかと思えば」
 主の問いに、ラダーニエは目を瞬き、嬉しそうに微笑んだ。
 胸に手を当て、頭を下げた。
「私の第一は、我が君でございます。出来れば、同列にミカエル様を並ばせて頂きたいと考えておりますが。…お許し頂けるのであれば」
「…それは好きにすればいい」
「ありがとうございます。私の愛する我が君とミカエル様を、心からご祝福申し上げます。私は、見ているだけで幸せになれる性分ですので」
「……?」

 あからさまに怪訝な表情を見せる主など、ラダーニエは今まで見たことがなかった。
 だから、嬉しいと思う。 

 主には自覚がないかもしれないが、ミカエル様に出会うまでの主には、感情も表情もなかった。
 何にも興味を持てず、必要とせず、ただ最後の日を待っていた。
 ラダーニエにも、ニーデリアにも、感情一つ見せてくれることはなかった。
 
 それが。
 変わった。

 ミカエル様には、感謝してもしきれない。
 是非とも、お二人には幸せに暮らして頂きたい。

 世界中の情報を集めているのは、仕事だった。
 それが、主の為に役に立つ日が来たのだ。

 これを至福と言わず、なんと言う。

「…そういえば、王妃も見ているだけだったな」
「はい。そういう性分なのです。なんと申せばいいのか…人の物であることに興奮する、と申しますか…手を出してはいけないもどかしさに興奮する、と申しますか…」
「…そ…そうか」
 何とも言えない、という表情をする主もまた、貴重であった。
「他にもいくつか候補がございますので、ミカエル様とご覧頂き、実際に見に行かれるといいかもしれません。同盟国内の景勝地も、こちらにございます」
 ラダーニエが話を戻し、まとめた資料をテーブルに置くと、アルヴィスはそれを受け取り一枚ずつ確認し始めた。
「そうしよう。…ご苦労だった」
「光栄に存じます。…恐れながら、一番手間がかからないのは、我が君の城ではないでしょうか?」
「……考えておこう。…だがあそこは」
「ミカエル様ならば、問題ないかと」
「…まぁ、そうだな」
「景観はよろしくありませんが、拠点としての役割は十分かと思われます」
「ああ…邪魔も入らないな」
「左様でございます。それが一番の利点かと」
 真剣に検討に入ったアルヴィスに一礼し、ラダーニエは立ち上がった。
「それでは、私はこれで…」
「待て」
「はい」
「……」
「……?我が君?」
 呼び止めたまま、時間が止まったように動きを止めたアルヴィスに、ラダーニエは声をかける。
 手にした資料をぐしゃりと握りつぶし、立ち上がったアルヴィスの表情は、消えていた。
「…我が君、どうなさいましたか?」
「…ミカエルの気配が、切れた」
「は…?」
「…従魔とも繋がらない」
 ラダーニエはその言葉が示す深刻さに、血の気が引いた。

 我が君でも追えない気配、ということは、死んだ、ということになる。 
 主人と命を共にする従魔とも、繋がらないのなら、それは。
 
 ビキ、と、凄まじい音を立ててテーブルがひしゃげた。
 椅子も窓も床も、罅が入り、パラパラと砕けていく。
 アルヴィスは顔を手で覆い、漏れ出る魔力に苦しみ出した。

 …なぜ。
 
 ラダーニエもまた、足先から急速に冷えていく心地で、己の主を見つめることしか出来なかった。
 が、すぐに我に返った。

 いけない。
 主の身体は、まだ本来の魔力に耐えられない。

 居室に結界を張り、主の魔力を相殺するべく、自身の魔力を流し込んだ。
 破壊衝動に振り切った主の魔力と、戻そうとするラダーニエの魔力の衝突は、一瞬だった。
 部屋を元通りに戻し、主の魔力を抑え込んだラダーニエは息を吐き、立ち尽くす主の両肩を揺さぶった。
「我が君、どうか冷静に。本当に、切れたのですか。どこで、切れたのですか?」
「……、……」
 アルヴィスは眉を寄せ、唇を噛んだ。
 魔族領の「どこ」、なんて、目印でもなければわかるはずもない。
 こんな事態になるとは思っていなかったから、監視もしていなかった。
「ミカエル様が、助けを求めていらっしゃるかもしれません。すぐに、参りましょう!その為に、私を引き留められたのですよね!」
「…聖女の、」
「はい」
「聖女のレベル上げを、手伝うと、」
「!…それでしたら、場所が絞れるかもしれません」
「……」
 顔を上げたアルヴィスは、見たこともない程青褪めていた。
 ラダーニエは痛ましい思いを心に仕舞い、地図を取り出し元に戻したテーブルの上へと置いた。
「ご覧下さい。聖女の友人が、デートスポットに良い場所を教えてくれと言ってきたので、三カ所、ピックアップしました。ですがこれらの場所は、魔獣が少なく、ミカエル様が命の危険に晒されるような場所ではございません」
「…ではなぜ、」
「我が君。本当に、気配は切れたのでしょうか?だとしたら、思いもかけぬ事故や暗殺などは…」
「暗殺ごときに…」
 言いながら、アルヴィスは地図を凝視していた。
 三カ所に印のついた、地図。
 その、周辺。
 記憶の底を刺激する、何かがあった。
「…我が君、まずはこの三か所を中心に…」
「…下限レベルが設定された場所…」
「…はい?」
「神の仕掛けがある所」
「…我が君、それは?」
「……」

 勇者の魔王退治、が始まってから、まだ一度も使われたことのない、所。
 誰も見つけられず、見つけたとしても資格がなくて、入れなかった場所。
 意味のない墓碑扱いされ、歴史に埋もれていった場所。

「…ニーズヘッグの住処…」
「まさか、…ミカエル様が?」

 それなら従魔の気配が切れたことにも、頷ける。
 そこは、神が設定した領域だった。
 
「ここだ」
 地図の一点を指さし、アルヴィスは顔を上げた。
「連れて行け」
「御意」
 ラダーニエはすぐさま立ち上がり、アルヴィスと共に転移した。

 『レベル』という謎の概念を最初に持ち込んだのは、神だった。
 鍛える程に強くなることを、『レベル上げ』と呼んだのは、聖女だった。
 数値化されるわけでもない強さの指標であり、この世界に生きる者にとっては、曖昧でよくわからない概念だった。
 「下限レベル」の意味すらも、最初は誰も理解できなかった。
 それを解き明かしたのは、何代目の聖女だったか。

『一定のレベル以上ないと、ダメってことだよな』

 そう、何代目かの聖女の時まで、その石碑は監視対象だった。
 勇者一行が近づけば、そのやりとりを監視した。
 
『じゃぁレベルを上げて、また来ればいいってこと?』
『そうなるな』

 だが、戻って来て挑戦する者はいなかった。 
 忘れ去られ、気づかれることすらもなく、魔王は復活し、倒されてはまた復活する。
 
 偶然に見つけたのか。
 そして、聖女はスキルを発動し、ミカエルが召喚されてしまったのか。
 
 下限レベルに達していない者に、入る資格はない。

 この世界に、ミカエル以上に強い者が、一体どれ程いるのだろう。
 少なくとも、勇者パーティーの中にはいない。
 聖女は論外だ。

「……」
「…これは…」

 転移したアルヴィス達が見たものは、天幕を張りのんびり昼寝する聖女と、護衛する冒険者と、木陰で休憩する、魔術師と司祭達の姿だった。

 
 


 ミカエルと、友人の姿は、なかった。 
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