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一字違いなら問題ナシ!

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 ボクは泣いた!
 ボクらの愛のために!

「いいのです殿下。わたしはそれで。
 一瞬だけおぞましく醜い夢を見てしまったのです。見てはいけない夢を。
 殿下の側女でさえ、今のわたしには過分な地位なのです。
 本来なら、わたしは王家の方をたぶらかした罪人として女の身に生まれたのを後悔するような末路をたどる筈だったのです。それを許してくださると言うのですから……。
 ゲルドリング伯爵令嬢様の言葉に従いましょう」

「いやだぁぁ。ボクは、テレーズが奥さんになってくれるのがいいのにぃぃぃぃ!」

 ボクだって判っていた。
 判ってしまってはいたんだ。
 こうしないと悪と化した弟が国をめちゃくちゃにする。
 それに、ボクもテレーズも一緒にいられる。
 テレーズがいてくれるなら、ボクはなんでもいいんだ。

 だけど、それでも―― 

「殿下。テレーズ嬢の地位は単なる側女ではありません。
 王妃に準ずる権威を持つ特別な地位を設けます。
 既に用意は出来ていますよね?」

 初老の男がマリアンヌの前にひざまずいた。

「テレーズ・ドモエンヌ嬢一代限りの地位を創設します。
 政治的な権力以外は王妃と同等の格を持つ、準王妃という新たな位です。
 王の裁可の証である玉璽を押せばすぐにでも発効します」

 政府のえらいひとっぽいけど、しらないひとですね。

「……だれ?」

 ボクが思わずつぶやいたのが聞こえてしまったのか、 

「王太子殿下。お初におめにかかります。宮内次官のミュラー・ダンメルン男爵でございます。
 王太子妃殿下に才を見いだされ、不肖のこの身を捧げさせていただいております」

 男爵かー。
 そりゃボクが知ってるわけないよね。
 ただでさえ人の顔を覚えるのって苦手なんだもの。

 とか考えてる間に、マリアンヌはドレスの襞の中に隠されたポケットから何かを取り出した。

「をいをいっ!? それって王家の玉璽じゃないよなっっ!?」
「王家の玉璽です」

 ぽん。

 いつのまにか運ばれてきた小机の上で、玉璽が無造作に押されちゃった。
 マジで父上、仕事してないんだなー。

「テレーズ嬢。これで貴女は将来の準王妃です。
 権力以外は、私と同等の存在となるのです」

 テレーズは倒れそうに真っ青になって。

「そ、そんな! ゲルドリング伯爵令嬢様とほとんど同じ地位なんて、お、おそれおおすぎます! わたしは単なる平民で――」

「だから可能だったのです。貴族でない貴女が王妃になったとしてもカドが立ちます。ですが、そこに準とついただけで、不思議なことに物事は解決するのです。
 一字違いなのに面白いものです」

「一字しか違わないのか! ならほとんど王妃だ!
 テレーズ! これからはずっと一緒だね♪」

 ボクは倒れそうなテレーズを励まそうと、そっと手を握った。
 強く握り返してくれる。震えがおさまっていく。

「……そうですね。ずっと一緒です」

 テレーズは顔をあげて、マリアンヌを見た。

「ゲルドリング伯爵令嬢。これでわたしは殿下のお側にいられるのですね?」
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