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ボクは将来名君になる! といいなぁ……。

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 すべてうまくいっちゃったよ!

 すっかり興奮して、なんだか自分がすごい王太子みたいな気がしてきて。
 陰謀全部知っていたような気までしてきちゃった。
 裏の事情を知らない貴族達がボクを見る目は、ちょっと前とは大違い。

 もしかしてオレってすごい!?
 いけてる王太子?

 いっいかんいかん。いかんぜよ!
 こんなことじゃいつか『ざまぁ』されるほうになっちゃうぞ。 

 ボクは舞踏会場のベランダに出た。

 卒業と共に冬は終わり春になるけれど、まだ寒い。
 でも頭が冷えてちょうどいいや。

 ……うん。思い出してきた。

 マリアンヌがボクに叩きつけた『ざまあ』を。
 ボクってどっちかと言えばダメな王太子かもしれないってことを。
 もう少しでテレーズと一緒に破滅するところだったことを。

 わかってる。わかってるとも。
 よーくわからされたとも!

「殿下、ここにいたのですか」
「殿下は主賓なのですから、中にいていただかなければ困ります」

 振り返ると、テレーズとマリアンヌがいた。
 ふたりは全然タイプがちがうけど、仲が良い姉妹みたいに見えた。

「いや、なんかさー。あそこにいると、自分がすごい王太子みたいな気がしてきちゃって。なんかそれ、まずいだろ」

 うん。ボクも成長したよね。
 はじめて人生のほろ苦さを知ったからな。
 人間の渋みってやつ?

 テレーズは、やさしくほほえんでくれながら、

「殿下は素晴らしい方です」

 お世辞とか言わない彼女にそんなこと言われると、顔がにやけてしまうじゃないですか。

「えへへー。テレーズぅ。だめだよぉ。そんなこと言ったら。
 今度こそ『ざまぁ』されるほうになっちゃうよ」

 マリアンヌがメガネを光らせ。

「素晴らしい王太子だ、と言わないあたりがテレーズ嬢の正直さですね……。
 まぁ、その辺は、私がうまく手を打ちますから安心してください」
「安心より、怖さのほうが上なんだマリアンヌは」

 テレーズが楽しそうに笑った。

「そう感じていらっしゃる限り、殿下は大丈夫ですよ」
「テレーズがそう言ってくれるなら、だいじょーぶかも」

 マリアンヌがふぅっと息を吐いて、

「それにしても、殿下にあのような芸があるとは……驚きました」
「芸? ああっ! ボクの決めポーズのことかっ。
 生まれて初めて練習っていうのをしたからなっ」
「違います。あれはよほど洗練しないと恥ずかしいだけです」
「ええっ!? 鏡の前で一生懸命練習したんだけど……」

 全否定にしょんぼりしてると、テレーズが手を握ってくれて、

「殿下! 今度わたしと一緒に練習しましょう!
 わたしは実家の仕事を手伝っていた関係で、
 モデルさんの立ち方とか色々コツがあるって知ってますから」
「流石はテレーズ! 色々教えてくれるとうれしいな! でも、あれじゃないとすると芸って?」

 マリアンヌが呆れたように、

「グスタフ殿に『臣下でなく、ボクの友になってくれ、友と呼ばせてくれ』と言ったではないですか」
「あー……」

 そういえばノリで言った。

「予定になかったあの演技には驚きました。
 かなりの人が感動し、殿下は素晴らしい方だとささやいておりましたよ。
 よく思いついたモノですね」

 ボクは目をぱちくり。

「そ、そうか台詞になかったのかっ。すまん!」

 テレーズとマリアンヌは、顔を見合わせた。

「マリアンヌ様。わたしが言った通りでしたね」
「なるほど……素ですか。流石テレーズ嬢はよくお判りでいらっしゃる」

 なぜかマリアンヌはひどく感心したようで、

「殿下。貴方は名君になれるかもしれませんね」

 とまで言ってくれた。

「まさかー。本気にさせてから落とすとかしないでくれよ」



 この時のボクは知らなかった。

 この予言とも言えない予言は成就して、

 ボク、オットー3世が名君と呼ばれるようになるなんてさ!

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