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戦禍足利
アパトサウルスモドキ
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市場跡から足利市民プラザまではそこまで離れていない。先ほど探索した病院と方向は違うが距離は同じくらいだ。
だが…
「モドキの数、多すぎだろ…どうなってるんだ、これ」
遭遇率は桁違いだった。
交差点を通ろうとすると複数かたまっている。
相手にしてられんと路地を行こうとするとその路地からぬっと出てくる。
倒そうとして少しでも時間をかけるとどこからか寄ってくる。
どうしてここまでモドキが密集しているのか。
考えても原因がわかるものでもないが、臨次はモドキを斬り飛ばしながらふと思った。
しかし、これだけ多く出てきてくれたおかげで、功績ポイントはそれなりに溜まってきていた。
もっとも、臨次は功績ポイントをQ.Mの強化だけに使っているわけではないので、あまり無駄遣いは出来ないのだが…
とりあえず、無駄な思考はせずに足利プラザへと進む。
モドキを斬りまくる。
交差点を曲がる。
一軒家と同じサイズの大型モドキがいた。
目が合う。
しかも距離は10メートルと離れていない。
「…は?」
気が抜けた反応をした臨次に対して、大型モドキは首を振り上げ、叩きつけてきた!
我に返った臨次はその場を飛びのいて回避するが、首を叩きつけて砕かれたアスファルトの破片が飛んでくる。
あまり恐竜に詳しくない臨次だが、それなりに興味はあったので、小学生の図鑑に載っている程度のことは知っている。今、目の前にいる大型モドキはアパトサウルス、もしくはブロントサウルスと呼ばれるものに近い。と、思う。一軒家程度の大きさに長い首。その特徴からして間違いないはず。
臨次は足利に到着する以前に、このアパトモドキを倒したことはある。あるのだが、それは国道4号線上の開けた場所で動きやすかったこと、そしてラプトルモドキの密度が今の足利ほど高くなかったことがあったからだ。
それとは真逆の状況、狭い、近い、多い。アパトモドキを相手にするのに悪い条件が多い。
近い、だけはそれほど悪い条件とも言えないのだが、それは周囲に他のモドキがいない時の話だ。
アパトモドキ単体なら、取り付いてしまえばそこまでの脅威ではなくなるからだ。脅威でなくなるといっても、それで首を落とせるかどうかは別問題だが。
再度振り回された首を、今度は左腕のブレードを展開して受ける。
が、弾き飛ばされて壁に打ち付けられる。ダメージはそれほどでもない。
「取り付いて首を落としたいのに! 建物が! 邪魔!」
続く叩きつけの連続はさすがにブレードで受けずに転がるようにしてかわす。
「っ!! ラプ! トル!?」
そこへ、壁を越えてラプトルが襲い掛かってきた。
体制が悪い、左腕のブレードで攻撃を受けて、右腕のブレードを展開する。それでラプトルモドキの首を、としたところで更にもう一匹!
気を取られた隙に出てきた一匹が臨次の脇腹へ噛みついてくる!
突然のことに対応出来ず、思い切り歯を立てられ顔を顰める。
右腕のブレードで二匹目の首を両断して、そのままの勢いで一匹目の足を斬り飛ばす。
驚いた一匹目が左腕のブレードを離したところで、首を振りかぶるアパトモドキの姿が見えた。
今にも振り下ろされようとしているソレは、スローモーションに見えた。
このままでは、回避が間に合わない。
咄嗟に横に転がる。
直後にすぐ真横で巻き起こる轟音と土埃。臨次の身体が衝撃で一瞬浮いたほど。
「こ、このッ!」
体制不完全な状態だが、手の届く範囲にアパトモドキの首がある!
右腕のブレードを一閃!
しかし、首に少し切り込んだだけで弾かれた。
臨次は転がりながら身体を起こし、弾かれた右腕のブレードを確認する。刃こぼれはしていない。
今までに、モドキに右腕のブレードを弾かれたことはなかった。
「今までに経験したことのない硬度…モドキも強化されていくってことなのか」
気になる事柄ではあるが、これ以上時間をかけてはほかのラプトルモドキが寄ってくる可能性が高い。
…さきほど、臨次が足を斬り飛ばしたモドキは、アパトモドキの振り下ろした首の直撃を受けて粒子に還り、キューブとなっていた。
トドメを差す必要がなくなっただけでだいぶ助かる。
「…どうにかして身体に取り付いて、首を落とすのが一番早いか」
アパトモドキがぐっと身体を屈めた。
…なにか、力をため込んでいるように見える。
そして一歩踏み出してきた。身体を回転させてくる。
「まさか!?」
それは、遠心力が加え垂れた尻尾による回転攻撃、アパトモドキが繰り出してくる攻撃で最も破壊力が高い!
軽自動車並みの太さを持つ尻尾が、建物を破砕しながら迫る!
間一髪だった。臨次は身体を伏せて攻撃を回避した。
周囲に土煙がもうもうと立ち込め、視界を遮る。
臨次は体制を整えて追撃に備えるが、こない。
「ひょっとして、今の自分の攻撃でこちらを見失ったのか…?
なら、今がチャンスか…」
音を立てないように距離を詰めて、一気に身体へと飛びついた!
それに反応したアパトモドキがその巨体を思い切り揺らして臨次を引きはがそうとしてくる。無理やりよじ登って首元まで到達した途端、今度は首も思い切り揺さぶり始めた。
更に、大地に転がり始めた。まるで、身体に取り付いた虫を無理やりこそげ落とすかのように。
「…ッ!!」
瓦礫と巨体に挟み込まれながらもQ.Mの頑強さで耐え、アパトモドキが体制を戻した一瞬に、右腕のブレードを首元へ思い切り切り込んだ!
「硬い! なんだこいつ!」
臨次は何度も切りつけるが、どうしてもブレードが深く切り込めない。
アパトモドキが身体を揺すって、付近の建物へ叩きつけた!
「がっ…」
その予想を超えた衝撃に、意識を失いかける。
「こっ…こいつ…!」
臨次は再度アパトモドキの首元にブレードを叩き込む。やはり、食い込むだけで切断出来ない。そこに、左腕のブレードで思い切り叩き込んだ!
その衝撃に押されて、右腕のブレードが首へと深く切り込み、そして、首を切り落とした!
身体部分がビクン!と硬直し、少しの間を置いて瓦礫の山に倒れこんで臨次をそこへ放り落した。首はそのまま地面に落ちてしばらく蠢いていたが、やがてそれも止まって、淡い粒子となって消えた。
身体部分が消えて、キューブが残された。
場を、静けさが支配する。
そこで四つん這いになって、荒く呼吸をする臨次。
一瞬、あの時以来の死を覚悟した。
額には脂汗が浮かび、身体の芯が冷たい。
ちらりと左腕のスマホを見ると、ポイントがごっそりと削られていた。
もう少し手間取っていたら、死んでいたかもしれなかった。
戦いにくい地形と障害物と邪魔者がいると、ここまでやりにくくなる。わかっていたことだが、やはり一人では限界がある。
汗をぬぐい、立ち上がった。
そしてキューブへ近づいて回収すると、削られた以上のポイントを入手した。しばらく前にアパトモドキを倒した時よりもだいぶ多い。
その時のヤツと今回のヤツ。明らかに違っていたのは装甲…皮膚の硬さが段違いに硬かった。臨次は首を一気に落としたのでそれ以外の変化はあまり気が付かなかったが、ひょっとしたら、全体的な性能も上だったのかもしれない。速さやパワーやタフさ。
臨次は一つの可能性に思い至った。
もし、もしだ、人間を捕食すればするほどその性能が強化されていく。
これがもし真実だったら?
時間が経てば経つほどモドキを手に負えなくなっていく。
それは、人が生存する可能性が限りなくゼロに近づいてしまうということ。
たとえ、Q.Mを手にしていたとしても。
軽く頭を振ってその考えをいったん消した臨次は、外套の埃をはたいて歩き始めた。
市民プラザの建物の方へではなく、キャンプの方へ。今来た道とは別の道順で。
今のアパトモドキ並みに厄介なのがそこまでの数いるとは思えないが、だとしても自分のブレードの強化はしておかねばならないと感じたからだ。
「この先の確認は明日、今日はここまでにして、モドキでも狩りつつ戻ろう…」
道すがらモドキを倒して増えたポイントは全部ブレードへ割り当てよう。
そう強く思った。
だが…
「モドキの数、多すぎだろ…どうなってるんだ、これ」
遭遇率は桁違いだった。
交差点を通ろうとすると複数かたまっている。
相手にしてられんと路地を行こうとするとその路地からぬっと出てくる。
倒そうとして少しでも時間をかけるとどこからか寄ってくる。
どうしてここまでモドキが密集しているのか。
考えても原因がわかるものでもないが、臨次はモドキを斬り飛ばしながらふと思った。
しかし、これだけ多く出てきてくれたおかげで、功績ポイントはそれなりに溜まってきていた。
もっとも、臨次は功績ポイントをQ.Mの強化だけに使っているわけではないので、あまり無駄遣いは出来ないのだが…
とりあえず、無駄な思考はせずに足利プラザへと進む。
モドキを斬りまくる。
交差点を曲がる。
一軒家と同じサイズの大型モドキがいた。
目が合う。
しかも距離は10メートルと離れていない。
「…は?」
気が抜けた反応をした臨次に対して、大型モドキは首を振り上げ、叩きつけてきた!
我に返った臨次はその場を飛びのいて回避するが、首を叩きつけて砕かれたアスファルトの破片が飛んでくる。
あまり恐竜に詳しくない臨次だが、それなりに興味はあったので、小学生の図鑑に載っている程度のことは知っている。今、目の前にいる大型モドキはアパトサウルス、もしくはブロントサウルスと呼ばれるものに近い。と、思う。一軒家程度の大きさに長い首。その特徴からして間違いないはず。
臨次は足利に到着する以前に、このアパトモドキを倒したことはある。あるのだが、それは国道4号線上の開けた場所で動きやすかったこと、そしてラプトルモドキの密度が今の足利ほど高くなかったことがあったからだ。
それとは真逆の状況、狭い、近い、多い。アパトモドキを相手にするのに悪い条件が多い。
近い、だけはそれほど悪い条件とも言えないのだが、それは周囲に他のモドキがいない時の話だ。
アパトモドキ単体なら、取り付いてしまえばそこまでの脅威ではなくなるからだ。脅威でなくなるといっても、それで首を落とせるかどうかは別問題だが。
再度振り回された首を、今度は左腕のブレードを展開して受ける。
が、弾き飛ばされて壁に打ち付けられる。ダメージはそれほどでもない。
「取り付いて首を落としたいのに! 建物が! 邪魔!」
続く叩きつけの連続はさすがにブレードで受けずに転がるようにしてかわす。
「っ!! ラプ! トル!?」
そこへ、壁を越えてラプトルが襲い掛かってきた。
体制が悪い、左腕のブレードで攻撃を受けて、右腕のブレードを展開する。それでラプトルモドキの首を、としたところで更にもう一匹!
気を取られた隙に出てきた一匹が臨次の脇腹へ噛みついてくる!
突然のことに対応出来ず、思い切り歯を立てられ顔を顰める。
右腕のブレードで二匹目の首を両断して、そのままの勢いで一匹目の足を斬り飛ばす。
驚いた一匹目が左腕のブレードを離したところで、首を振りかぶるアパトモドキの姿が見えた。
今にも振り下ろされようとしているソレは、スローモーションに見えた。
このままでは、回避が間に合わない。
咄嗟に横に転がる。
直後にすぐ真横で巻き起こる轟音と土埃。臨次の身体が衝撃で一瞬浮いたほど。
「こ、このッ!」
体制不完全な状態だが、手の届く範囲にアパトモドキの首がある!
右腕のブレードを一閃!
しかし、首に少し切り込んだだけで弾かれた。
臨次は転がりながら身体を起こし、弾かれた右腕のブレードを確認する。刃こぼれはしていない。
今までに、モドキに右腕のブレードを弾かれたことはなかった。
「今までに経験したことのない硬度…モドキも強化されていくってことなのか」
気になる事柄ではあるが、これ以上時間をかけてはほかのラプトルモドキが寄ってくる可能性が高い。
…さきほど、臨次が足を斬り飛ばしたモドキは、アパトモドキの振り下ろした首の直撃を受けて粒子に還り、キューブとなっていた。
トドメを差す必要がなくなっただけでだいぶ助かる。
「…どうにかして身体に取り付いて、首を落とすのが一番早いか」
アパトモドキがぐっと身体を屈めた。
…なにか、力をため込んでいるように見える。
そして一歩踏み出してきた。身体を回転させてくる。
「まさか!?」
それは、遠心力が加え垂れた尻尾による回転攻撃、アパトモドキが繰り出してくる攻撃で最も破壊力が高い!
軽自動車並みの太さを持つ尻尾が、建物を破砕しながら迫る!
間一髪だった。臨次は身体を伏せて攻撃を回避した。
周囲に土煙がもうもうと立ち込め、視界を遮る。
臨次は体制を整えて追撃に備えるが、こない。
「ひょっとして、今の自分の攻撃でこちらを見失ったのか…?
なら、今がチャンスか…」
音を立てないように距離を詰めて、一気に身体へと飛びついた!
それに反応したアパトモドキがその巨体を思い切り揺らして臨次を引きはがそうとしてくる。無理やりよじ登って首元まで到達した途端、今度は首も思い切り揺さぶり始めた。
更に、大地に転がり始めた。まるで、身体に取り付いた虫を無理やりこそげ落とすかのように。
「…ッ!!」
瓦礫と巨体に挟み込まれながらもQ.Mの頑強さで耐え、アパトモドキが体制を戻した一瞬に、右腕のブレードを首元へ思い切り切り込んだ!
「硬い! なんだこいつ!」
臨次は何度も切りつけるが、どうしてもブレードが深く切り込めない。
アパトモドキが身体を揺すって、付近の建物へ叩きつけた!
「がっ…」
その予想を超えた衝撃に、意識を失いかける。
「こっ…こいつ…!」
臨次は再度アパトモドキの首元にブレードを叩き込む。やはり、食い込むだけで切断出来ない。そこに、左腕のブレードで思い切り叩き込んだ!
その衝撃に押されて、右腕のブレードが首へと深く切り込み、そして、首を切り落とした!
身体部分がビクン!と硬直し、少しの間を置いて瓦礫の山に倒れこんで臨次をそこへ放り落した。首はそのまま地面に落ちてしばらく蠢いていたが、やがてそれも止まって、淡い粒子となって消えた。
身体部分が消えて、キューブが残された。
場を、静けさが支配する。
そこで四つん這いになって、荒く呼吸をする臨次。
一瞬、あの時以来の死を覚悟した。
額には脂汗が浮かび、身体の芯が冷たい。
ちらりと左腕のスマホを見ると、ポイントがごっそりと削られていた。
もう少し手間取っていたら、死んでいたかもしれなかった。
戦いにくい地形と障害物と邪魔者がいると、ここまでやりにくくなる。わかっていたことだが、やはり一人では限界がある。
汗をぬぐい、立ち上がった。
そしてキューブへ近づいて回収すると、削られた以上のポイントを入手した。しばらく前にアパトモドキを倒した時よりもだいぶ多い。
その時のヤツと今回のヤツ。明らかに違っていたのは装甲…皮膚の硬さが段違いに硬かった。臨次は首を一気に落としたのでそれ以外の変化はあまり気が付かなかったが、ひょっとしたら、全体的な性能も上だったのかもしれない。速さやパワーやタフさ。
臨次は一つの可能性に思い至った。
もし、もしだ、人間を捕食すればするほどその性能が強化されていく。
これがもし真実だったら?
時間が経てば経つほどモドキを手に負えなくなっていく。
それは、人が生存する可能性が限りなくゼロに近づいてしまうということ。
たとえ、Q.Mを手にしていたとしても。
軽く頭を振ってその考えをいったん消した臨次は、外套の埃をはたいて歩き始めた。
市民プラザの建物の方へではなく、キャンプの方へ。今来た道とは別の道順で。
今のアパトモドキ並みに厄介なのがそこまでの数いるとは思えないが、だとしても自分のブレードの強化はしておかねばならないと感じたからだ。
「この先の確認は明日、今日はここまでにして、モドキでも狩りつつ戻ろう…」
道すがらモドキを倒して増えたポイントは全部ブレードへ割り当てよう。
そう強く思った。
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