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戦禍足利
織姫神社への道
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その日の報告の場には、何故か巫女さんも同席してきて、比呂の目線がとてつもなく鋭かった。
だが、モドキ…巫女さんや比呂の言葉で言うならトカゲをそれなりに狩ってきたことを伝えると、感謝された。その直後にアパトモドキのことを伝えたらやたら驚いていた。
…驚いていたのは、アパトモドキの皮膚が硬かく固体の性能が強化されていた、ことではなく、臨次が一人で倒したことについてだったが。
翌日、臨次は早朝からキャンプを出て、足利市民プラザを目指して歩き始めた。
モドキを見つけやすく、身を隠しやすい道順を確認しながらだった為、移動そのものはゆっくりだが、確実に進んでいく。
そのまま市民プラザから北上して足利市駅だった場所を目指していく。平時ならそのまま道を進んでいくだけで良いが、今そんな進み方をしようものならモドキの群れに絡まれるのが目に見えている。
細かく脇道に入ってモドキがいるか建物の状態を見て、織姫神社までの道として使えるか確認していく。
臨次が今目指しているのは、渡良瀬橋手前にある男浅間山と呼ばれる場所にある、男浅間神社。そこからならば、織姫神社を正面にしてよく見える。
この男浅間神社と織姫神社は位置関係的に、織姫神社への向かう途中にあるので偵察をする場所としてとても利用価値が高いと臨次は思っている。
この男浅間神社、臨次は生まれてから一度しか訪れたことはない。
足利では初山祭り…地元民からはペタンコ祭りと呼ばれているものがあり、一年の間に生まれた赤ん坊の無病息災、開運を祈願して額に御朱印を押してもらう、という内容だ。他に何かあるわけではないが、何百年かの歴史があるらしく、臨次は生まれた直後に連れていかれたのだが、そのときに大泣きしたようだった。
…そんな幼い頃の記憶などあるわけないのだが、ぼんやりと、額に何かを押し付けられて泣いたような記憶があったのだ。
そんなことを思い出していたら民家の脇からモドキが飛び出してきた。即座に右腕のブレードを展開して一刀両断。このモドキの皮膚は強化されているようには感じなかった。
「やはり、昨日のアパトモドキが何か特殊な強化をされていたのか?」
やがて足利市駅前の交差点へたどり着き、左折する。
ここまでの主な襲撃相手はラプトルモドキ。単体での襲撃ばかりなので脅威ではなかったが、回数が多いのがやはり気になる。国道4号を南下していたときでも、これほどではなかった。
といはいえ、考えても結論が出るものでもない。周囲に注意しながら進み、左側にぼろぼろになった石階段が出てきた。
男浅間神社への石段だ。
石段へ足を踏み出し、不安定な足元へ注意しながら登っていく。
途中、何度もモドキに遭遇しつつ順調に進む。
神社には、強力なモドキが配置されている。
それは臨次が郡山から足利まで移動してきた際の経験から、モドキ共の行動特性か何かだと思っていた。
そのため、この男浅間神社にもかなり強力なモドキが存在しているのだろうと思っていたのだが…この場所にいたのは、ラプトルモドキだった。
ただ、普通のラプトルモドキではない。
街を徘徊し、今日も臨次を何度も襲撃してきた固体よりも5割増し程度大きな固体。
ラプトルモドキのボス、みたいなものだろうか。
確かに、早かったしパワーもあったし時折ラプトルモドキを呼び寄せて面倒だとも感じた。だが、それだけだった。皮膚は昨日戦ったアパトモドキの方が数段硬く感じたし、いくら大きくてももっと巨大なのと戦った経験がある臨次からしたら、恐怖に感じるほどではなかった。
慎重に立ち回り、囲まれないよう敵の数を減らして、ボスの身体へ少しづつ攻撃を与えて削り、そして首を落とした。
「…昨日のやつと比べるとどうしても、そこまでって感じがするな…」
粒子になって消えていく首と身体。そしてキューブが残された。
消えていく粒子を見ながらなんとなく空を見上げると、淡く光る緑色の帯が見えたような気がした。
それも一瞬のこと。すぐにキューブを回収して増えたポイントを確認する。
おかしい。
スマホに表示されていた回収ポイントは、昨日倒したアパトモドキの八割近い数値だった。
臨次が今までに倒した一番多いモドキは、ラプトルモドキである。ソレから回収出来るポイントは一定ではない。だいたいが右腕のブレードの一撃で首を落としているのでそこまで何が違うとかは感じ取れないことのほうが多いが、時折、他の固体に比べて入手出来るポイントが多いヤツがいた。今までに手に入れた情報からすれば、より強力な固体ほど手に入るポイントが多い、ということなのだとは思うが…
今回倒したボスにようなやつもそういったことなのだとしても、手に入ったポイント量的にアパトモドキ並みに苦戦してもおかしくないと思うのだ。
臨次が戦いなれたとか相性の問題といったものもあるかもしれない。
だが、それにしては…
腕に装着されているスマホで、Q.Mの強化数値を確認してみるが、昨日と変わりはない。
「うーん…」
少し考えたがわからないものはわからないとすっぱり諦め、見晴らしの良い場所に移動して織姫神社を遠目に見てみる。
織姫神社は小高い山の中腹にあり、参道である石階段を昇り、境内にたどり着くと鮮やかな赤を基調とした本殿が目に飛び込んでくる。
つまり、離れた場所から見ても赤い本殿はしっかりと見えるはずなのだ。
その赤い本殿は、ぼんやりとした赤黒い何か、にしか見えない。
よくあるRPGでは結界が貼られていて見通せない、なんてこともあるが、ここはゲームの世界ではなく現実。結界なんてものはない。それなのにぼんやりしてはっきり見えない、ということなのは…
「…織姫神社の周囲に光の反射を妨げるものがある、ってことか…」
普通に考えれば、そんなものがあるなんて聞いたことがない。
しばらくこの場所に留まって、織姫神社を観察することにした。
織姫神社から飛び立つ翼竜型を複数確認した。
翼竜型を見るのは、臨次は初めてだ。メガネウラモドキとは遭遇したことはあるが、あれはまた別のものだろう。巨大なトンボが飛翔しながら迫ってくるのはなかなかの恐怖だったが。
参道である石階段には大量のモドキが蠢いているのが見えた。ラプトル型等の小型だけではない、一回り大きい中型が数多くいる。
昨日戦ったアパトモドキは大型に入る。中型はそれよりも小さいが、パワーでは大型に引けを取らない。主に四脚のトリケラトプス型や二脚のサウルス型が当てはまる。臨次はサウルス型に遭遇したことはないが、大型を越えるパワーに狂暴さを持っているらしく、今までに情報収集した中では倒したという話は聞いたことがない。
ともあれ、あの急な石階段を昇りながら小型の相手をして中型をどうにかするのは絶対に無理だ。生き残れる気がしない。
どうにかして五体満足で織姫神社の境内にたどり着きたいが、他に手は何かないものか…
昼過ぎまで様子を見ていたが、正面から突撃するのは無し、ということがわかっただけでその日は引き返した。
キャンプへの帰り道に半壊した民家やボロボロのマンションをいくつか確認してまわったが、生存者は発見できなかった。
その日の報告ではまたもや巫女さんが乱入してきてアレコレと会話をして、やはり同じように比呂からの目線が鋭かった…どころかもっとヤバい感じがした。
翌日。やや曇っている。
臨次は昨日と同じように、男浅間神社へ向かう。織姫神社を観察する為だ。
道中、モドキからの襲撃はかなりの回数になったが、大型や集団とは鉢合わせすることなく、目的の男浅間神社んへと到着する。
またボスがいるか?とも思ったが、再配置はされていないようで、数匹のラプトルモドキがいただけだった。
速攻で片付けてすぐに織姫神社の観察を始める。
やはり昨日と同じ見え方で、ぼんやりとしか見えない。
さてどうやって攻めるべきか。
参道である石階段を再度確認してみる。小型に加えて中型が見える。数が多い。平坦な場所で少数と戦うならまだしも、常にモドキに上を取られた状態で数はお話にならないのでは選択肢にも入らない。
では石階段ではなく斜面を登るのはどうか?
これも話にならない。石階段を昇る寄りのリスクが高い。足元がより危険になり、木という障害物まであるのでは、臨次の戦える距離に近づくことも出来ないのではないだろうか。
他にルートはないのだろうか。
昔の記憶を辿りながら考える。
街並みを見ていると、半ば廃墟となっている建物の間をモドキが徘徊していた。
道幅は比較的広い。あれだけあれば大型との戦闘になっても先日のような窮屈な展開にはならないだろう。
…何かを忘れている気がする。
改めて街並みを眺める。
織姫神社から東には足利学校や市役所や足利駅、私立高校等があり、渡良瀬川北側の中心街と言ってもいい場所だった。西側にはそこまで目立つ施設はなく、真っすぐ行けばやがて桐生市に行きつく。中心街は川を挟んで南側に存在する足利市駅からもアクセスが良く、近隣都市からも電車で遊びに来る人は多かった。逆に車を利用している人からは、川の北側の移動はそれなりに不便だった。古い街なのもあって脇道や信号付きの交差点が多く、なかなか進まないことも多かったからだ。そのため、車を利用する人は国道293号を利用して南から北へ抜け、市役所は足利駅周りの施設を利用することはそこまで多くない。駐車場もそこまで多くなく、小型の店舗も多いので有料駐車場を使わざるを得ないことも多く…
臨次は思い出した。
織姫神社には確か、車を利用する人の為の駐車場があった。それは正面側の石階段すぐ傍にもあるが、そこではない。神社の裏側から車で登り、本殿の比較的近い場所に停める。そして参拝をする。
そうだ、確かにあった。本殿裏の駐車場。
そして、そこへ至るための車が侵入する坂道。確かアレは…!
ざわり。
視界の端に複数の黒い何かが動くが見えた。
その方向へ意識を向けると、織姫神社本殿から複数の翼竜型が一斉に飛び立ったところだった。
かなりの数だ。あれだけの数に襲われたらひとたまりもない。
じっと見ていて気付いたが、何か違和感がある。一番大きい翼竜型の形が何かおかしい。まるで、背中に何かを載せているような…
「ッ!!」
距離があるせいではっきり見えない。が、あの形は…!
「まさか…そんな、人型!? 織姫神社にいるのは人型のモドキ…ってことか!?
まずいまずいまずい…!
ッ!? は、土埃…なんだ?」
視線を下に向けると、街並みの中から立ち昇る土埃。それが建物の間を縫うように川のほうへ向かっていく。いや、翼竜型の後を追うように移動しているようだ。
その移動方向は南。
ふと、思い当たった。それは、最悪の内容。
臨次の顔色がさっと青ざめる。
できればはずれてほしい予想。だが、方角的にそれは間違いないだろう。
すなわち、市場跡。キャンプへ向けてモドキの大群が進軍を開始したのだ。
だが、モドキ…巫女さんや比呂の言葉で言うならトカゲをそれなりに狩ってきたことを伝えると、感謝された。その直後にアパトモドキのことを伝えたらやたら驚いていた。
…驚いていたのは、アパトモドキの皮膚が硬かく固体の性能が強化されていた、ことではなく、臨次が一人で倒したことについてだったが。
翌日、臨次は早朝からキャンプを出て、足利市民プラザを目指して歩き始めた。
モドキを見つけやすく、身を隠しやすい道順を確認しながらだった為、移動そのものはゆっくりだが、確実に進んでいく。
そのまま市民プラザから北上して足利市駅だった場所を目指していく。平時ならそのまま道を進んでいくだけで良いが、今そんな進み方をしようものならモドキの群れに絡まれるのが目に見えている。
細かく脇道に入ってモドキがいるか建物の状態を見て、織姫神社までの道として使えるか確認していく。
臨次が今目指しているのは、渡良瀬橋手前にある男浅間山と呼ばれる場所にある、男浅間神社。そこからならば、織姫神社を正面にしてよく見える。
この男浅間神社と織姫神社は位置関係的に、織姫神社への向かう途中にあるので偵察をする場所としてとても利用価値が高いと臨次は思っている。
この男浅間神社、臨次は生まれてから一度しか訪れたことはない。
足利では初山祭り…地元民からはペタンコ祭りと呼ばれているものがあり、一年の間に生まれた赤ん坊の無病息災、開運を祈願して額に御朱印を押してもらう、という内容だ。他に何かあるわけではないが、何百年かの歴史があるらしく、臨次は生まれた直後に連れていかれたのだが、そのときに大泣きしたようだった。
…そんな幼い頃の記憶などあるわけないのだが、ぼんやりと、額に何かを押し付けられて泣いたような記憶があったのだ。
そんなことを思い出していたら民家の脇からモドキが飛び出してきた。即座に右腕のブレードを展開して一刀両断。このモドキの皮膚は強化されているようには感じなかった。
「やはり、昨日のアパトモドキが何か特殊な強化をされていたのか?」
やがて足利市駅前の交差点へたどり着き、左折する。
ここまでの主な襲撃相手はラプトルモドキ。単体での襲撃ばかりなので脅威ではなかったが、回数が多いのがやはり気になる。国道4号を南下していたときでも、これほどではなかった。
といはいえ、考えても結論が出るものでもない。周囲に注意しながら進み、左側にぼろぼろになった石階段が出てきた。
男浅間神社への石段だ。
石段へ足を踏み出し、不安定な足元へ注意しながら登っていく。
途中、何度もモドキに遭遇しつつ順調に進む。
神社には、強力なモドキが配置されている。
それは臨次が郡山から足利まで移動してきた際の経験から、モドキ共の行動特性か何かだと思っていた。
そのため、この男浅間神社にもかなり強力なモドキが存在しているのだろうと思っていたのだが…この場所にいたのは、ラプトルモドキだった。
ただ、普通のラプトルモドキではない。
街を徘徊し、今日も臨次を何度も襲撃してきた固体よりも5割増し程度大きな固体。
ラプトルモドキのボス、みたいなものだろうか。
確かに、早かったしパワーもあったし時折ラプトルモドキを呼び寄せて面倒だとも感じた。だが、それだけだった。皮膚は昨日戦ったアパトモドキの方が数段硬く感じたし、いくら大きくてももっと巨大なのと戦った経験がある臨次からしたら、恐怖に感じるほどではなかった。
慎重に立ち回り、囲まれないよう敵の数を減らして、ボスの身体へ少しづつ攻撃を与えて削り、そして首を落とした。
「…昨日のやつと比べるとどうしても、そこまでって感じがするな…」
粒子になって消えていく首と身体。そしてキューブが残された。
消えていく粒子を見ながらなんとなく空を見上げると、淡く光る緑色の帯が見えたような気がした。
それも一瞬のこと。すぐにキューブを回収して増えたポイントを確認する。
おかしい。
スマホに表示されていた回収ポイントは、昨日倒したアパトモドキの八割近い数値だった。
臨次が今までに倒した一番多いモドキは、ラプトルモドキである。ソレから回収出来るポイントは一定ではない。だいたいが右腕のブレードの一撃で首を落としているのでそこまで何が違うとかは感じ取れないことのほうが多いが、時折、他の固体に比べて入手出来るポイントが多いヤツがいた。今までに手に入れた情報からすれば、より強力な固体ほど手に入るポイントが多い、ということなのだとは思うが…
今回倒したボスにようなやつもそういったことなのだとしても、手に入ったポイント量的にアパトモドキ並みに苦戦してもおかしくないと思うのだ。
臨次が戦いなれたとか相性の問題といったものもあるかもしれない。
だが、それにしては…
腕に装着されているスマホで、Q.Mの強化数値を確認してみるが、昨日と変わりはない。
「うーん…」
少し考えたがわからないものはわからないとすっぱり諦め、見晴らしの良い場所に移動して織姫神社を遠目に見てみる。
織姫神社は小高い山の中腹にあり、参道である石階段を昇り、境内にたどり着くと鮮やかな赤を基調とした本殿が目に飛び込んでくる。
つまり、離れた場所から見ても赤い本殿はしっかりと見えるはずなのだ。
その赤い本殿は、ぼんやりとした赤黒い何か、にしか見えない。
よくあるRPGでは結界が貼られていて見通せない、なんてこともあるが、ここはゲームの世界ではなく現実。結界なんてものはない。それなのにぼんやりしてはっきり見えない、ということなのは…
「…織姫神社の周囲に光の反射を妨げるものがある、ってことか…」
普通に考えれば、そんなものがあるなんて聞いたことがない。
しばらくこの場所に留まって、織姫神社を観察することにした。
織姫神社から飛び立つ翼竜型を複数確認した。
翼竜型を見るのは、臨次は初めてだ。メガネウラモドキとは遭遇したことはあるが、あれはまた別のものだろう。巨大なトンボが飛翔しながら迫ってくるのはなかなかの恐怖だったが。
参道である石階段には大量のモドキが蠢いているのが見えた。ラプトル型等の小型だけではない、一回り大きい中型が数多くいる。
昨日戦ったアパトモドキは大型に入る。中型はそれよりも小さいが、パワーでは大型に引けを取らない。主に四脚のトリケラトプス型や二脚のサウルス型が当てはまる。臨次はサウルス型に遭遇したことはないが、大型を越えるパワーに狂暴さを持っているらしく、今までに情報収集した中では倒したという話は聞いたことがない。
ともあれ、あの急な石階段を昇りながら小型の相手をして中型をどうにかするのは絶対に無理だ。生き残れる気がしない。
どうにかして五体満足で織姫神社の境内にたどり着きたいが、他に手は何かないものか…
昼過ぎまで様子を見ていたが、正面から突撃するのは無し、ということがわかっただけでその日は引き返した。
キャンプへの帰り道に半壊した民家やボロボロのマンションをいくつか確認してまわったが、生存者は発見できなかった。
その日の報告ではまたもや巫女さんが乱入してきてアレコレと会話をして、やはり同じように比呂からの目線が鋭かった…どころかもっとヤバい感じがした。
翌日。やや曇っている。
臨次は昨日と同じように、男浅間神社へ向かう。織姫神社を観察する為だ。
道中、モドキからの襲撃はかなりの回数になったが、大型や集団とは鉢合わせすることなく、目的の男浅間神社んへと到着する。
またボスがいるか?とも思ったが、再配置はされていないようで、数匹のラプトルモドキがいただけだった。
速攻で片付けてすぐに織姫神社の観察を始める。
やはり昨日と同じ見え方で、ぼんやりとしか見えない。
さてどうやって攻めるべきか。
参道である石階段を再度確認してみる。小型に加えて中型が見える。数が多い。平坦な場所で少数と戦うならまだしも、常にモドキに上を取られた状態で数はお話にならないのでは選択肢にも入らない。
では石階段ではなく斜面を登るのはどうか?
これも話にならない。石階段を昇る寄りのリスクが高い。足元がより危険になり、木という障害物まであるのでは、臨次の戦える距離に近づくことも出来ないのではないだろうか。
他にルートはないのだろうか。
昔の記憶を辿りながら考える。
街並みを見ていると、半ば廃墟となっている建物の間をモドキが徘徊していた。
道幅は比較的広い。あれだけあれば大型との戦闘になっても先日のような窮屈な展開にはならないだろう。
…何かを忘れている気がする。
改めて街並みを眺める。
織姫神社から東には足利学校や市役所や足利駅、私立高校等があり、渡良瀬川北側の中心街と言ってもいい場所だった。西側にはそこまで目立つ施設はなく、真っすぐ行けばやがて桐生市に行きつく。中心街は川を挟んで南側に存在する足利市駅からもアクセスが良く、近隣都市からも電車で遊びに来る人は多かった。逆に車を利用している人からは、川の北側の移動はそれなりに不便だった。古い街なのもあって脇道や信号付きの交差点が多く、なかなか進まないことも多かったからだ。そのため、車を利用する人は国道293号を利用して南から北へ抜け、市役所は足利駅周りの施設を利用することはそこまで多くない。駐車場もそこまで多くなく、小型の店舗も多いので有料駐車場を使わざるを得ないことも多く…
臨次は思い出した。
織姫神社には確か、車を利用する人の為の駐車場があった。それは正面側の石階段すぐ傍にもあるが、そこではない。神社の裏側から車で登り、本殿の比較的近い場所に停める。そして参拝をする。
そうだ、確かにあった。本殿裏の駐車場。
そして、そこへ至るための車が侵入する坂道。確かアレは…!
ざわり。
視界の端に複数の黒い何かが動くが見えた。
その方向へ意識を向けると、織姫神社本殿から複数の翼竜型が一斉に飛び立ったところだった。
かなりの数だ。あれだけの数に襲われたらひとたまりもない。
じっと見ていて気付いたが、何か違和感がある。一番大きい翼竜型の形が何かおかしい。まるで、背中に何かを載せているような…
「ッ!!」
距離があるせいではっきり見えない。が、あの形は…!
「まさか…そんな、人型!? 織姫神社にいるのは人型のモドキ…ってことか!?
まずいまずいまずい…!
ッ!? は、土埃…なんだ?」
視線を下に向けると、街並みの中から立ち昇る土埃。それが建物の間を縫うように川のほうへ向かっていく。いや、翼竜型の後を追うように移動しているようだ。
その移動方向は南。
ふと、思い当たった。それは、最悪の内容。
臨次の顔色がさっと青ざめる。
できればはずれてほしい予想。だが、方角的にそれは間違いないだろう。
すなわち、市場跡。キャンプへ向けてモドキの大群が進軍を開始したのだ。
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