親友の距離感って僕には面倒臭い。

殿と殿

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 「や、やんでれって、なに?この手紙おかしいよね、あいつどうしちゃったの?」

 とりあえず手紙をメロスに託し、近くにいたファストに縋りついた。誰かに抱き着いてないと恐怖で落ち着かない。

 「精神的に病んでて『デレ』はー・・・いや、その説明は今はいいや。ちょっと放置しすぎて心が不安定になってるかな。何度もこの島に阻まれてやきもきしてるだろうし、限界だったんだね」

 「・・・・・・阻まれて?」

 「近づくと嵐起こすからさぁ。ファスト!そろそろ解いてやれよ、可哀想だろ」

 ファストは溜息を吐き渋々頷く。
 それを見てメロスは「これ以上焦らすと完全にストーカーと化すからな」と言ってジェノの頭を安心させる様に撫でた。
 「もう手遅れでは」とファストがこぼし、ひょいっとジェノを持ち上げ抱っこしてくれる。一体どういうことなのかジェノには全く分らないが、二人に甘やかされていると大丈夫かな?という気持ちになってきた。

 「次カルシェンツ君に会ったら優しくしてあげな。ジェノが悪いわけじゃないけどファストが意地悪したからさ、かなり焦れてると思うんだよねー。 あ、ちなみにジェノとファストはツンデレだよ!」

 「では貴方は何なのです?バカデレですか」

 ひどっ!とメロスは叫び、笑いながら「僕はヤンデレ属性かなー」と言う。
 そのヤンデレ、ツンデレって本当になに?
 メロスは誰もわからない言葉を当たり前の様に使うことがある。自分が考えた言葉じゃないよって言うが、どこでそんな言葉覚えてきたんだろう?なぞだ。

 「もう二時か、今日七時になったら玄関前集合だぞジェノ!全員参加だからなー」

 「なにやるの?」

 「まだ内緒、楽しみにしてなー」



 なんだそれ!結局教えてくれずに去って行ったメロスを思い出し、ジェノは頬を膨らませた。どうせくだらないこと企画してんだろうなメロスの奴。

 時計を見ると四時半を過ぎている、昼寝をしたのだがあまり寝付けなかった。あの手紙のせいか? 見るのがこわい手紙は引き出しの奥にしまってある。

 カルシェンツの奴は大丈夫なのかな・・・次会うのが少し怖いが、もっと寄り添ってみようと決心したところで旅行に行ってしまったから、かなり気になっていたのだ。

 ・・・そういえば、あいつって仕事とかしてるのか?

 思えばカルシェンツの事を何も知らないことに気付く。
 『王子様で天才で見た目が完璧』
 そんなみんなが知っていることしか知らない。

 好きなものは?嫌いなものは?何をしたら楽しいと感じるのか、そんなことすらジェノは思いつかなかった。

 あれだけ一緒に居て、僕は何をしていたんだろう。
 ・・・わかっている『何もしてなかった』んだ。

 彼が色々ジェノに質問してきてもちゃんと答えず適当にはぐらかしていた。
 それでもカルシェンツはジェノを喜ばそうと好きなものをプレゼントしてくれたり、色々考えて連れ出したりしてくれた。

 ・・・最低だ。
 その人自身をみるとか偉そうなこと言っておきながら、自分は彼の事をずっと無視していたんだ。
 何様のつもりだったんだ、僕。

 外で頭を冷やそうと部屋をでようとするが、机の上の紙に目が留まる。
 忘れてた!茶色い封筒はまだ読んでない。急いで封を開け確認すると、

 『ベリオン・タベリット』

 ベリオンさんからきた――!やった、思い切って手紙出して良かった!
 毎日届くカルシェンツには5日に一度返信していたジェノだが、この間ずっと気になっていた執事にも手紙を出してみたのだ。
 名前だけ知っててまだ話したことないけど、お世話になってたんだしおかしくないよね?聞いてみたいこといっぱいあったし!

 ジェノの出した手紙には
 「どうしてカルシェンツは僕と友達になりたがるのかわかりません」
 「ベリオンさんの鍛え抜かれた肉体を今度触ってもいいですか?」
 「武術や剣術を僕に教えてください!」
 「素敵なあごひげですね、男らしくて憧れます。たくさんお話したいです!」

 などなど質問した。
 急に手紙が届いて迷惑だったかな?と不安だが、かなり楽しみだ。

 『ジェノ・モーズリスト様。
 突然のお手紙、驚きましたがとても嬉しかったです。私などを気にかけて頂き、ありがとうございます。拙い文しか書けませんが、ひとつひとつ答えていきますね』

 やった、迷惑じゃないっぽい! お願いします。

 『特殊な存在であるカルシェンツ様の周りには、利用しようと企んだり取入ろうとして来る輩が数多くいます。同年代の子供達も親御さんに言われているのか、へりくだった態度で近づいて来るのです。そのことでカルシェンツ様はまともな友達がいませんでした。しかし、ジェノ様だけは違います。ジェノ様は彼を特別扱いしない・・・ただの少年として普通に接してくれます。様々なしがらみに縛られているカルシェンツ様が、普通の子供に戻れることを私はとてもうれしく思います。
 ジェノ様には、表現しきれないほどに感謝しております』

 ベリオンさん。ちがう、ちがうんです・・・僕はそんな出来た人間じゃない、感謝される資格なんてないんだ。
 たしかに特別扱いはしてないけど、真剣な彼に一度だってきちんと向き合った事が無い、ひどい奴だ。

 今度会ったら、面倒がらずに会話をしよう。

 『あぁそれと、カルシェンツ様はジェノ様と以前会ったことがあり、知っている様子でしたが覚えていらっしゃいますか?詳しいことは教えてくれませんが、そのことが仲良くなりたいと思った起因のようです』

 え、そうなの?会ったこと・・・ない、と思うんだけどなあ。
 あの見た目ならそうそう忘れないだろうし、いつのことだろ?

 そのあとは筋肉を触ってもいいし、自分に出来ることならなんでも教えます。と書かれていた、ただ。

 『お話はこちらもしてみたいと思っているのですが、実は私聴覚に障害がありまして、会話が筆談になってしまいます』

 そうだったの!?全然気が付かなかった。
 普通に見えたし、カルシェンツの言葉に反応して動いていた気がするけど・・・見間違いかな?今度実際にいろいろ聞いてみよう。

 『PS、最近カルシェンツ様の精神状態がかなり不安定で、恐ろしい事態になっております。近々そちらに向かう準備を始めました。今度行く手を阻まれたらカルシェンツ様の心がどうなるか、心配でなりません。次こそは上陸出来ることを切に願っております』

 ええ、精神状態の異常さはあの手紙で察知していますよ。
 やっぱり何度かこっちに来ようとしたんだな。しかしどうして失敗してるんだ?手紙は届いてるのに、彼に何があったんだろう。

 う――ん  考えてもわかんないや。 



 
 夕飯を食べ終えると、いそいそと準備をしに行くメロスとババ様。
 もう7時か、一体なにをする気なんだろう。
 アイスをほうばっていると外から集合がかかった。
 はいはい、そんな大声出さなくても行きますよ。


 「では、これよりー『恐怖!無人島肝試し、参加拒否は絶対認めません大会!』を開催いたしまーす」

 「・・・はあ!?なに言って―」

 「異論は認めませーん。はいジェノくじ引いて」

 「いや引かないし、絶対やんないし!」

 「もー 我儘言わないのぉ」

 むかつくな、おい!なんだ我儘って!
 睨むとそっぽを向いて口笛を吹く姿に、更に苛つきを募らせる。

 「僕がそうゆうの嫌いって知ってんだろ」

 「知ってるけどやります!他に反対の人は?・・・じゃあ賛成のひとー」

 賛成でババッと上がる手。使用人全員が挙手している。
 普段こういう企画を面倒がるメンツも真っ直ぐに手を上げ、何故かやる気満々だ。

 「――っ何で!?」

 はい決定っ!と強引に進めていくメロス。
 いつのまにかジェノは5番目にスタートすることになってしまっていた。

 なんか今回のメロスかなり強引じゃないか?
 使用人もおとなしく従順だし、まさか何かに操られてるんじゃ? お化けとか、悪魔とかっ!  ひぃー 怖いよぉ。


 一人目のライヴィが岩場の方へと進んでいき、ジェノはうろうろと落ち着きがなくなる。

 「真っ暗で危ないよ!何も見えないし、怪我したらどうすんの」

 「ちゃんと対処はばっちりしてるから心配ないよー、地図通りに行くんだぞ?」

 ババ様に貰ったざっくりとした地図をみるが、こんな広い島で肝試しなんて馬鹿げている。昼間歩いても30分はかかる道のりだぞ、おそろしすぎるわ!

 震えあがっていると、カンバヤシが髪をくしゃっとかき混ぜてくる。

 「懐かしいなぁ肝試し。ガキの頃よくやったぜ、墓地で」

 「日本って国だよね、広いの?お化けでた?」

 「日本はせめぇよ。俺は江戸って所の生まれでな、江戸っ子はお化けなんか怖がんねぇもんだ!」

 懐かしむように目を細め「田んぼばっかで何も無いが、いいとこだぞー」と言うカンバヤシに、いつか連れて行ってもらう約束をした。
 日本は家が全て木で出来ているらしい、『モー銭湯』みたいな感じかな?すごい行ってみたい!

 


 そうこうしている間にジェノの順番が回ってきてしまった。
 散々だだをこねたがメロスは笑って取り合ってくれず、渋々スタートすることとなる。
 嫌だ・・・なんで一人ずつなんだよ。行かないと明日からご飯抜きってひどすぎるっ、鬼ぃ!

 もう大分小さくなった別荘の明りを振り返りながら、ジェノは半泣きで歩いて行く。
 朝元気よく駆け回っている場所なのにまるで知らない場所の様だ。
 こっちに曲がって・・・この川を上って真っ直ぐで第一チェックポイントか。
 何度か恐怖で止まったり引き返したりしながら進んでいくが、持たされたランプひとつだけじゃ心細すぎる。

 すぐそこでガサッと物音がし、飛び上がりつつランプを向けるが暗くて何も見つけることが出来ない。
 一体なんで肝試しなんてやらされてるんだろう?もう嫌だ。

 「この変な石がチェックポイントかな?うわっ、顔がある!」

 それは地蔵というカンバヤシが持ち込んだありがたいモノだが、ジェノが知る由もなく、顔がある石にとてつもない恐怖をおぼえる。
 これに御供え物をしろ?むりむり無理っ、近づけないもん!

 恐怖の指示に尻込みしていると、急に何かの気配を背中に感じた。
 いやいや、気のせいだってー 何もいるわけないよ絶対。うん、いない!いないけど僕は絶対振り向かないもんねっ!ホラー映画で振り返ったり、確かめに行ったりするのはバカだと思うよ。大人しくしてればいいんだよ、まったくもう!

 いつもメロスが開くホラー映画鑑賞会で
 『駄目だよ行ったら、なんで行くんだよ絶対出るって!じっとしとけよ、来るだろお化け・・・ぎゃああああぁぁ――!』
 と常に言っているジェノは、気配を感じても振り向いたりしない。

 いないいないいない、いないけど・・・これでもう引き返せなくなっちゃったな。
 退路を断たれ、精神的にかなり追い込まれていたジェノは、


 「ぐぅうおおおおぉぉ――!」
 すぐ真後ろから聞こえる低い唸り声と、背中に走るパシッという不可解な痛みに・・・完全に我を忘れた。

 「ぎぃゃややゃややあああああぁぁあ―――!!」

 いままで出したことのない悲鳴を上げ全力で走りだし、真っ暗なジャングルを無我夢中で駆け抜け植物に引っ掛かりながら何かから逃げ続ける。
 暗闇に目が慣れていたからまだ良かったが、デコボコな斜面は転びやすいし鋭い枝は大怪我の元だった。

 だから息が切れて立ち止まったジェノに、僅かなかすり傷しか無かったことは不幸中の幸いだったろう。
 その場に座り込み、しばらく放心状態で空を見上げ月を眺めた。

 綺麗な月は煌々と青白く地上を照らした。
 あの声は一体・・・お化け?変な感触したし、本物に遭遇したのかも。
 自分の身体を抱きしめ、恐怖で泣きそうになる。
 帰りたい。早く皆の所に戻って温かいミルクが飲みたい。

 「はぁ、もう帰ろう・・・・・・ん?」

 弱々しく立ち上がり周囲を見回したところで、自分の置かれている状態にやっと気が付いた。
 此処、どこ?

 「いや- ほら、来た道戻れば大丈夫だよ、うん」
 僕、どっちから来たっけ?
 ランプはどこにいった?

 背中を大量の汗が流れおち、息が荒くなっていく。
 どうしよう、こんなジャングルで迷子になったら、死んじゃうよ!

 どんなに大声を出しても、ザワザワという葉の茂る音と虫や鳥、何かわからない獣らしき鳴き声が返ってくるだけだ。
 喉も枯れ、座り込んだ瞬間――

 コツンッ!と、すぐそばの木に何かがぶつかる。 
 石だ。鳥の仕業? 

 それは30秒に一度くらいだったが、徐々に回数が増え。10分が経過する頃には、こつんこつん、こつん・・・こつこつん、こつんこつんこつん。
 と連続で木にぶつけられる様になる。

 「うわぁっ、なんなんだよー!」
 どう考えても不自然な事態に、更に奥へ進み続けた。


 もうジェノは限界だった。
 恐怖に恐怖が積み重なり、頭が朦朧とする。
 このまま戻れなかったらどうしよう、みんなに二度と会えなかったら!
 まだカルシェンツとも話してないのに、こんな所で死ぬなんてっ。

 
 「いやだ・・・そんなの、そんなの絶対嫌だっ!」

 その瞬間、大地が震えた気がした。
 ジャングルの鳥や動物が激しい鳴き声をたてながら飛び去って行く。

 空気が変わった気もするが、身を守るので精いっぱいで確認出来ない。
 地震だろうか?とおさまってから顔を上げ、ジェノは目を疑った。
 不自然に周りだけ木がなぎ倒され、ジェノを中心に約半径10Mほどの円の形に、視界がひらけているのだ。

 不可解な事柄が次々に起こり、もう理解出来る範囲を超えている。 
 もしかしてこれ『精霊』の仕業なの?
 静まり返った場所に呆然と立ち尽くすジェノ。

 だが、実際には立っておらず、ふわふわとした感覚。

 ・・・・・・? 
 次の瞬間、足元を見て硬直した。
 地面には大きく亀裂が入り、大きなスプーンですくった様にへこんでいる。
 いや、それよりも異常なのは妙に安定感のない己の感覚。

 「僕・・・浮いてる」

 1Mほど地面から浮いた足はぶらぶらと揺れ、徐々に体が浮上していっている。

 ―――っ!?
 声にならない悲鳴を上げ思考が一瞬停止するが、3Mの地点まで上がったところで「これはまずい」と気が付いた。つかまれる木などが無いから上がって行くのを止められない!ジェノは恐怖でパニックを起こし叫び声を上げる。

 誰でもいい、助けてっ!このままじゃ空まで行っちゃう!!

 「いやだ! 誰かぁあ――」

 「ジェノ君!」

 突然響いた声と共に重みが加わり、浮上を続けていた身体はガクッと降下していった。

 足が地面を捉え、尻餅をつく。
 湿った地面は冷たさを伝え、瞬きを繰り返して凹んだ部分の土を撫でた。
 その大地の安心感に張りつめていた糸がぷつりと切れ、ジェノは自分を支える人物に無我夢中で抱き付く。

 理解を越えた現象に消耗しきった少女は、そのまま泣きじゃくったのだった。
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