【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波

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本編

00 プロローグ

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 ある日ルイシャは夢を見た。

 それは、この世界とは別の世界を生きる自分の夢だった。
 その夢のなかでルイシャは 乙女ゲームというものに熱中していた。仕事の息抜きに初めたそのゲームは、疲れ果てた現実を忘れさせてくれる心のオアシスとなっていた。仕事で嫌なことがあったときには、そのゲームの好きな場面を繰り返し再生し癒されていた。

 そのゲームは、魔法学園を舞台に、主人公の少女が恋や友情を育み成長する物語だった。
 タイトルだけ見たときは、巷に存在する数多くの乙女ゲームと同じ系統だと思い、あまり興味を持ていなかったし、乙女ゲームは若い子たちがするもので、自分のようにとっくの昔に青春時代を終えた女がプレイすることに抵抗があった。
 そんな風に乙女ゲームに対し距離感があったが、そんなことは全く気にしないタイプの友人から熱心に薦められ「まぁ、息抜きに少しやってみるか」と軽い気持ちで始めてみることにした。
 その結果、見事にハマってしまったという訳である。

 魔法学園が舞台ということもあり、魔法の授業に参加して経験値を上げることができ、その経験値に応じてルートが分岐したり、ライバルキャラとの友情ルートがあったり、温室を自由に模様替えができ、セットした物によってそこに訪れる攻略キャラが変わったりと、やりこみ要素満載のため飽きが来ないのだ。
 気がつけば、寝る間を惜しんでプレイする日々を送っていた。

(ここは、ゲームの世界なのかしら……?)
 夢から覚めたルイシャは、今見た夢を思い返しながら考え込んむ。おそらく今の夢は前世の自分ではないかと思った。ゲームに関すること──内容や登場人物についてや、ゲームに対する感想などは結構鮮明に覚えているのに対し、その他の記憶はかなり曖昧だが……何となくそうではないか、と本能的な何かでそう感じた。
 前世の記憶があるということは、その自分は既に死んでいるということであるが、それに関しては他人事のようだった。実際、今ここに在るのはルイシャとして生を受け、ルイシャとして生きている自分であり、前世の自分がどんな人生を生きていても、それは別の人物である。
 しかし、ルイシャは気になることがあった。
 ルイシャ・コルトンという名前には聞き覚えがあった。
 主人公や悪役令嬢ではない。
 ルイシャは、攻略対象者であるカインの元婚約者として登場するのだ。立ち絵すらない名前だけ登場する令嬢として。
 学園入学直前に亡くなった婚約者を想い悲しみは暮れるカインを、ヒロインが慰めるシーンを覚えている。

 つまり、ルイシャは数年後には死ぬ運命ということである。

 実際、ルイシャは生まれつき体が弱く、度々寝込んでいた。いや、度々というよりも、ほぼ寝込んでおり、ベッド上で生活していると言ってもよい。今だって、高熱で寝込んでいる真っ最中なのだ。

(そんな……まだ死にたくないっ)

 熱で再び意識か朦朧としながら、ルイシャは心の中でそう叫んだ。
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