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本編
02 家族
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ルイシャが出されたスープと薬湯を全て飲んだという話は、すぐに報告されたようで、人の気配で目を覚ましたルイシャの枕元には、いつの間にか両親が付き添ってくれていた。
「頑張って食べたわね、ルイシャ」
目を覚ましたルイシャに気が付いた母は、優しい笑顔で抱き締めてくれた。母の目元は少し赤くなっていた。
母の後ろに立つ父も、若干涙ぐみながら頷いている。
(おおげさ過ぎる気もするけど……)
そう思ったが、今まで食事もほとんど摂らず、薬も拒否し、すぐに寝込んで死にそうになる娘を見てきた両親にとって、今日のルイシャの行動は嬉しいの一言なのだろう。
「心配かけて、ごめんなさい」
今のルイシャが両親に今言えるのはこれくらいだった。
まだ一回食事をきちんと摂っただけだ。それも野菜のスープだけである。すぐには胃に負担が掛かるため沢山食べることはできないが、少しずつ食べる量を増やしていかなくてはならない。それに、あの薬湯も……一回まともに飲んだだけで効果が現れるわけではない。一回飲んだだけで、心は折れそうだったが。
「いいのよ、あなたが元気になってくれるのなら、私たちは何だってするわ」
温かい言葉と抱き締められた温もりに、ルイシャの視界が涙で歪んだ。
母の背に腕を回し、ルイシャもぎゅっと抱き締め返す。
(お母様やお父様のためにも、私は死にたくない……そのためなら、頑張れるわ)
婚約者がルイシャの死を悲しんでくれるということは夢の記憶で視たが、それは訪れるであろう未来の出来事──それに乙女ゲームとしての記憶のため実感がなかった。しかし、両親の様子をみて【自分が死ぬことで悲しむ人がいる】ことが現実味を帯びてルイシャの心を揺さぶった。
両親だけではない、近くで食事を見守っていた侍女も、ルイシャを心配してくれているからこそ、食事を摂った姿を見て涙を浮かべてくれたのだ。
「これからは、元気になれるように頑張ります」
そう言葉にすれば、より一層死にたくない、健康になりたいという意思が固まった。
翌日、二つ年上の兄ジェイスもルイシャの様子を見に来てくれた。
「これなら食べられるだろう?カインと一緒に選んだんだ」
そう言って渡されたのは、小さな可愛い小瓶に入ったキャンディだった。
カインはルイシャの婚約者であり、ジェイスの友人でもあった。
「ルイシャが少し食べるようになったと話したら、自分も何かルイシャのためにしたいと言って……薬湯がまずいだろうから、口直しになるものをと思ったんだ」
昨日ルイシャがスープを完食したと聞いたジェイスは、すぐにカインにその事を伝え、今日学園の帰りに買ってきてくれたのだ。
兄と婚約者がルイシャのためにと選んでくれた気持ちが、なによりも嬉しかった。
「ありがとうございます、お兄様。カイン様にもお礼をお伝え下さい」
「近いうちに会いに来ると言っていたから、その時に直接伝えたら良いよ。その方がカインも喜ぶ」
そう言いながら、優しい表情でルイシャの頭を撫でたジェイスは、眉を潜める。
「まだ、少し熱っぽいじゃないか」
「今日は、調子が良い方なんですよ」
度々高熱を出すルイシャは、微熱が平熱となっているため、あまり自覚はなかった。寧ろ、二日連続で薬湯を残さず飲んだからか、少し体が軽くなった気がしているくらいだった。
「確かに以前より表情は良いけど、油断は大敵だ。もう、寝ておいた方が良い」
心配そうな表情のままジェイスは、ルイシャの枕の上の氷枕に手を翳した。時間が経って中の氷が溶けかけていたが、ジェイスの氷魔法で、氷枕は再び冷たさを取り戻した。
「ほら、横になって」
言われるままベッドに横になると、ジェイスがふわりと優しく布団を首もとまで掛けてくれた。
冷たい氷枕がひんやりと微熱を吸い取ってくれる感覚が気持ちいい。
「ありがとうございます、お兄様」
微笑んでお礼を言うと、ジェイスは目を丸くしたあと、少し頬を赤くしながら「どういたしまして」と笑い返してくれた。
「頑張って食べたわね、ルイシャ」
目を覚ましたルイシャに気が付いた母は、優しい笑顔で抱き締めてくれた。母の目元は少し赤くなっていた。
母の後ろに立つ父も、若干涙ぐみながら頷いている。
(おおげさ過ぎる気もするけど……)
そう思ったが、今まで食事もほとんど摂らず、薬も拒否し、すぐに寝込んで死にそうになる娘を見てきた両親にとって、今日のルイシャの行動は嬉しいの一言なのだろう。
「心配かけて、ごめんなさい」
今のルイシャが両親に今言えるのはこれくらいだった。
まだ一回食事をきちんと摂っただけだ。それも野菜のスープだけである。すぐには胃に負担が掛かるため沢山食べることはできないが、少しずつ食べる量を増やしていかなくてはならない。それに、あの薬湯も……一回まともに飲んだだけで効果が現れるわけではない。一回飲んだだけで、心は折れそうだったが。
「いいのよ、あなたが元気になってくれるのなら、私たちは何だってするわ」
温かい言葉と抱き締められた温もりに、ルイシャの視界が涙で歪んだ。
母の背に腕を回し、ルイシャもぎゅっと抱き締め返す。
(お母様やお父様のためにも、私は死にたくない……そのためなら、頑張れるわ)
婚約者がルイシャの死を悲しんでくれるということは夢の記憶で視たが、それは訪れるであろう未来の出来事──それに乙女ゲームとしての記憶のため実感がなかった。しかし、両親の様子をみて【自分が死ぬことで悲しむ人がいる】ことが現実味を帯びてルイシャの心を揺さぶった。
両親だけではない、近くで食事を見守っていた侍女も、ルイシャを心配してくれているからこそ、食事を摂った姿を見て涙を浮かべてくれたのだ。
「これからは、元気になれるように頑張ります」
そう言葉にすれば、より一層死にたくない、健康になりたいという意思が固まった。
翌日、二つ年上の兄ジェイスもルイシャの様子を見に来てくれた。
「これなら食べられるだろう?カインと一緒に選んだんだ」
そう言って渡されたのは、小さな可愛い小瓶に入ったキャンディだった。
カインはルイシャの婚約者であり、ジェイスの友人でもあった。
「ルイシャが少し食べるようになったと話したら、自分も何かルイシャのためにしたいと言って……薬湯がまずいだろうから、口直しになるものをと思ったんだ」
昨日ルイシャがスープを完食したと聞いたジェイスは、すぐにカインにその事を伝え、今日学園の帰りに買ってきてくれたのだ。
兄と婚約者がルイシャのためにと選んでくれた気持ちが、なによりも嬉しかった。
「ありがとうございます、お兄様。カイン様にもお礼をお伝え下さい」
「近いうちに会いに来ると言っていたから、その時に直接伝えたら良いよ。その方がカインも喜ぶ」
そう言いながら、優しい表情でルイシャの頭を撫でたジェイスは、眉を潜める。
「まだ、少し熱っぽいじゃないか」
「今日は、調子が良い方なんですよ」
度々高熱を出すルイシャは、微熱が平熱となっているため、あまり自覚はなかった。寧ろ、二日連続で薬湯を残さず飲んだからか、少し体が軽くなった気がしているくらいだった。
「確かに以前より表情は良いけど、油断は大敵だ。もう、寝ておいた方が良い」
心配そうな表情のままジェイスは、ルイシャの枕の上の氷枕に手を翳した。時間が経って中の氷が溶けかけていたが、ジェイスの氷魔法で、氷枕は再び冷たさを取り戻した。
「ほら、横になって」
言われるままベッドに横になると、ジェイスがふわりと優しく布団を首もとまで掛けてくれた。
冷たい氷枕がひんやりと微熱を吸い取ってくれる感覚が気持ちいい。
「ありがとうございます、お兄様」
微笑んでお礼を言うと、ジェイスは目を丸くしたあと、少し頬を赤くしながら「どういたしまして」と笑い返してくれた。
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