5 / 18
本編
04 心の変化
しおりを挟む
出された食事を出来る限り食べ、薬湯もきちんと飲んだ結果、一ヶ月程するとルイシャは固形物も少しずつ食べられるようになった。
(お肉もお魚も、こんなに美味しかったのね)
肉や魚も嫌いだと思っていたが、どうやら弱過ぎる胃腸が受け付けなかっただけのようだ。肉や魚だけではない。はじめは「生きるため」と無理して食べていたスープも、今では美味しいと感じるようになっていた。それはルイシャの体調が良くなった事による変化だった。
(「美味しい」って伝えたら、すごく喜んでくれたわ)
毎回、ルイシャが美味しく食べられるようにと工夫を凝らしてくれている料理人たちには、とても感謝している。
また、以前はすぐに疲れてしまい、一日の大半をベッドの上で過ごしていたが、少しずつ起きていられる時間も増えていた。陽当たりの良い窓辺に揺り椅子を置いてもらい、本を眺めるのがルイシャの日常になっている。
あの日の訪問以降も、カインは度々ルイシャに会いに来てくれていたが、ここ二週間は学園の行事が忙しいようで、会えない日が続いていた。それでも数日おきに贈り物をジェイスに預けてくれている。
以前から会えない日が続く時は、花やぬいぐるみを贈ってくれていたが、最近ではキャンディをはじめ、体に良い食材など、色々な物を贈ってくれる。今、ルイシャの膝の上にある不思議な動物たちが登場する絵本もカインからの贈り物だ。
貰ってばかりで申し訳ないと思うが、ジェイスいわく「選んでいるときのカインはイキイキしてるから良いんじゃないか」らしい。
カインがルイシャのために贈り物を選んでくれていることが、とても嬉しかった。
(こんなに良くして頂いて、私は幸せだわ……)
以前は、そう考える余裕もなかった。
あの指切りの日から、カインの事を考えると、ルイシャの心は温かくなる。
今でも、こんな病弱な婚約者で申し訳ないという気持ちは大きいが、体調が良くなるに連れて、ルイシャの心境も少しずつ変化してきていた。
(もっとカイン様と一緒に過ごしたい、カイン様の事を知りたい)
思えば、カインの事は『いつもお見舞いに来てくれる優しい婚約者』としか知らないのだ。カインの好きな物や苦手な物が何なのか、休日はどんな風に過ごしているのか……ルイシャは知らない。
だから知りたかった。
ジェイスから聞くカインではなく、ルイシャ自身が彼と過ごして知って行きたいと思った。
(そのためには、体力をつけなくちゃ)
暖かくなったら一緒に庭園を散歩してくれると約束を交わしたのだ。少し体力は付いたが、それはまだ部屋の中で座って過ごすことが出来る程度である。少し歩いただけで、すぐに疲れてしまう体だ。ルイシャは、まだ部屋の外に出たことがなかった。庭園を散歩するには、まだまだ遠い道のりである。
前世を思い出した当初は、食事が一番の試練だったが、美味しさを感じるまで克服することが出来た。あとは、食べる種類や量を増やしていきたいが、「食事」が試練だと思うことはなくなっていた。
(あの薬湯だけは、いつまでも慣れそうにないけど)
あの味と食感に慣れる日は来ない気がしている。はやく薬湯が要らなくなるくらい健康になりたい。
(体力を付けるために、薬湯以外にも何か頑張れないかな?)
しかし、これまで寝ることが仕事のような生活をしてきたルイシャに、よい方法が思い浮かぶはずもなかった。
(そうだ、お兄様に相談してみようかしら)
ルイシャは、毎日訪ねてくれるジェイスに、何か良い方法がないか尋ねることにした。
(お肉もお魚も、こんなに美味しかったのね)
肉や魚も嫌いだと思っていたが、どうやら弱過ぎる胃腸が受け付けなかっただけのようだ。肉や魚だけではない。はじめは「生きるため」と無理して食べていたスープも、今では美味しいと感じるようになっていた。それはルイシャの体調が良くなった事による変化だった。
(「美味しい」って伝えたら、すごく喜んでくれたわ)
毎回、ルイシャが美味しく食べられるようにと工夫を凝らしてくれている料理人たちには、とても感謝している。
また、以前はすぐに疲れてしまい、一日の大半をベッドの上で過ごしていたが、少しずつ起きていられる時間も増えていた。陽当たりの良い窓辺に揺り椅子を置いてもらい、本を眺めるのがルイシャの日常になっている。
あの日の訪問以降も、カインは度々ルイシャに会いに来てくれていたが、ここ二週間は学園の行事が忙しいようで、会えない日が続いていた。それでも数日おきに贈り物をジェイスに預けてくれている。
以前から会えない日が続く時は、花やぬいぐるみを贈ってくれていたが、最近ではキャンディをはじめ、体に良い食材など、色々な物を贈ってくれる。今、ルイシャの膝の上にある不思議な動物たちが登場する絵本もカインからの贈り物だ。
貰ってばかりで申し訳ないと思うが、ジェイスいわく「選んでいるときのカインはイキイキしてるから良いんじゃないか」らしい。
カインがルイシャのために贈り物を選んでくれていることが、とても嬉しかった。
(こんなに良くして頂いて、私は幸せだわ……)
以前は、そう考える余裕もなかった。
あの指切りの日から、カインの事を考えると、ルイシャの心は温かくなる。
今でも、こんな病弱な婚約者で申し訳ないという気持ちは大きいが、体調が良くなるに連れて、ルイシャの心境も少しずつ変化してきていた。
(もっとカイン様と一緒に過ごしたい、カイン様の事を知りたい)
思えば、カインの事は『いつもお見舞いに来てくれる優しい婚約者』としか知らないのだ。カインの好きな物や苦手な物が何なのか、休日はどんな風に過ごしているのか……ルイシャは知らない。
だから知りたかった。
ジェイスから聞くカインではなく、ルイシャ自身が彼と過ごして知って行きたいと思った。
(そのためには、体力をつけなくちゃ)
暖かくなったら一緒に庭園を散歩してくれると約束を交わしたのだ。少し体力は付いたが、それはまだ部屋の中で座って過ごすことが出来る程度である。少し歩いただけで、すぐに疲れてしまう体だ。ルイシャは、まだ部屋の外に出たことがなかった。庭園を散歩するには、まだまだ遠い道のりである。
前世を思い出した当初は、食事が一番の試練だったが、美味しさを感じるまで克服することが出来た。あとは、食べる種類や量を増やしていきたいが、「食事」が試練だと思うことはなくなっていた。
(あの薬湯だけは、いつまでも慣れそうにないけど)
あの味と食感に慣れる日は来ない気がしている。はやく薬湯が要らなくなるくらい健康になりたい。
(体力を付けるために、薬湯以外にも何か頑張れないかな?)
しかし、これまで寝ることが仕事のような生活をしてきたルイシャに、よい方法が思い浮かぶはずもなかった。
(そうだ、お兄様に相談してみようかしら)
ルイシャは、毎日訪ねてくれるジェイスに、何か良い方法がないか尋ねることにした。
1,044
あなたにおすすめの小説
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる