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後日談
友達との過ごし方
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「お兄様、『友達』って何をすれば良いんでしょうか?」
クロエと友達宣言して数日経つが、ルイシャは今までと変わらない日々を送っていた。
放課後、生徒会室でクロエと顔を合わせれば挨拶を交わすが、それ以外はクラスも違うので会うことがない。
(属性別の授業が始まったら、同じ光属性だから一緒になれるけど)
属性別授業は二年生からなので、まだ半年以上先の話である。
なので接点が生徒会室しかない。
会えば笑顔で話しかけてくれるし、その笑顔を見ると、ルイシャも嬉しくて笑顔になる。
しかし『友達』とは何か、どう接すれば良いのか、考え始めると正解が分からなくなり思考が迷子になってしまった。
(前世の記憶って、ゲームのこと以外はうっすらとしか覚えていないから、友達ってどんなものかとか、どう過ごしていたのかってよく分からないわ)
乙女ゲームに関する記憶以外は曖昧なのだ。その曖昧な部分についても、ルイシャ自身ではなく、別の人物が歩んだ、別の人生なのであまり実感はない。
つまり前世の記憶は当てにならなかった。
一人で悩んでいても拉致があかないと思ったルイシャは、帰りの馬車でジェイスに尋ねてみることにした。
(お兄様はずっと昔からカイン様と友達ですし、きっと分かるはず)
幼少の頃からカインと友達のジェイスなら、ルイシャの悩みを解決してくれるのではないかと思った。
「クロエ・ルーキンからも昨日同じ質問をされたよ」
ルイシャの質問に、ジェイスが苦笑しながら答える。
クロエも同じ事に悩んでいたらしい。確かにお互い初めての友達だ。同じ事を悩んでいても不思議ではない。
「お兄様とクロエさんは仲が良いのですね……羨ましいです」
同じ事を悩んでいた事実は嬉しいが、その悩み相談をしたは兄のジェイスだという事に何となく羨ましさを感じた。
悩み相談するくらい仲が良いということである。
「仲が良いというか、僕がクロエ・ルーキンの指導をする事が多いから、その流れで聞いてきたんじゃないかな?」
確かに生徒会室でも、ジェイスがクロエに色々と教えている場面をよく見掛ける。
「そうでしたか。ところで、どうしてお兄様はクロエさんの事をフルネームで呼ぶんですか?」
ずっとジェイスがクロエを呼ぶ度に、気になっていた。
「え?えー、はじめは何となく呼びやすくてフルネームで呼んでたんだよ。今さらさん付けで呼ぶのも……でも名前だけ呼び捨てにするのは抵抗があるしで、もうフルネーム呼びで良いかってなってる」
名前ではなく姓で呼び捨てでも良いのでは?と思ったが、クロエもフルネームで呼ばれて嫌そうにはしていないので、「まあ、良いか」と思い「そういう理由でしたか」と頷く。
「ところでクロエさんの質問に、お兄様はなんと答えたんですか?」
フルネーム呼びの謎が溶けたてスッキリしたので、ルイシャは気になる本題に戻った。
「『友達だからって特別なにかをしないといけないわけじゃない。まあ、強いていうなら、一緒に過ごす時間を作ったら?』って言ったよ」
「一緒に過ごす時間ですか……」
「近々、声をかけて来ると思うよ。あとは、お互いの事を知っていくのも大切だよね。あ、でも、いきなり踏み込んだことを聞くのはダメだよ。ルイシャは大丈夫だと思うけど、もしクロエ・ルーキンから嫌なことを聞かれたり言われたりしたら、きちんと「嫌だ」って伝えるんだよ」
クロエの思った事をすぐ口にする性格を知っているため、ジェイスが言い足す。
「まあ、まずは趣味が何かとか当たり障りのないところから話していって、お互いを知っていったら良いんじゃないかな?」
「趣味……わかりました。ありがとうございます、お兄様」
ジェイスの助言を活かせるよう、ルイシャは屋敷に帰って、クロエと何を話そうか考える事にした。
その翌日。
朝の教室で静かに本を読んでいるとクロエが訪ねて来た。
「あの、ルイシャさん、もし良かったらなんだけど、今日一緒にお昼ご飯を食べない?」
少し緊張した面持ちで尋ねられる。
ジェイスが言っていた「近々声をかけて来る」とはこの事だったのだろう。
勿論、ルイシャの返事は「はい」だ。
「はい。喜んで」
そう返事をすると、クロエはパッと花が咲いたような笑顔になった。
「じゃあ、お昼休みになったら迎えに来るね。お天気も良いから、中庭で食べましょう?」
そう言って、クロエは嬉しそうに手を振って自分の教室に戻っていった。
ルイシャは振っていた手を頬に当てる。
自分が笑顔になっているのが分かる。
(嬉しい)
ランチに誘われた事もだが、ルイシャが返事をした時のクロエの反応も嬉しかった。
午前中の授業は、早く昼休みにならないかと、何度も時間を確認してしまうルイシャだった。
そして、昼休み。
約束通り迎えに来たクロエと、お弁当を持って中庭に向かう。
広い中庭には、いくつかベンチやテーブルが設置されており、既に何人かの生徒が楽しそうにランチをしていた。
「天気が良い日は、中庭は穴場だよって副会長が教えてくれたの」
ルイシャを誘うために、クロエは生徒会の先輩たちに色々と教えて貰ったようだ。
それから、授業の事だったり、生徒会の仕事の事だったりと他愛のない会話をしながら、お弁当を食べる。
(何を話そうか、ちゃんと話せるかな?って思ってたけど、心配なかったわ)
食後、何だかクロエがソワソワしているように見えた。
「どうしたんですか?」
「あ、えっと……食後にね、デザートを作って来たんだけど……」
「え、クロエさんが作ったんですか?」
コクコクとクロエが頷く。
「わぁ、是非、食べてみたいです」
「一応味見はしたから、大丈夫だと思うんだけど」
そう言いながら、クロエはバスケットの中から、プリンを取り出した。
(お弁当だけにしては大きいなって思ってたけど、デザートを入れていたからだったのね)
小さなスプーンと一緒にプリンを受け取る。
「いただきます」
優しい甘味と卵のコクがフワッと口の中に広がる。手作りならではの素朴な味わいが、とても美味しかった。
「……どう?」
心配そうにクロエが尋ねてくる。
ルイシャの口に合ったか気になるのだろう。
「とても、美味しいわ!クロエさんは、お菓子をよく作るの?」
「うん、昔からよく作ってたの」
昔と言うのは伯爵家の養子になる前も含めてのことだろう。
「いつもは家族に食べて貰うだけだったから、ルイシャさんに食べて貰えて嬉しい。また作ったら、食べてくれる?」
「勿論!!あ、そうだ、私もクロエさんに渡したいものがあるの」
実はルイシャもお弁当の袋の中に忍ばせていたものがあったのだ。
「これなんだけど、受け取って貰えるかしら」
ルイシャが、クロエの手にちょんっと乗せたのは小さなクマの編みぐるみだった。
「か、可愛い!!」
「編み物とか刺繍をするの好きなの」
「えっ、手作り?これルイシャさんが編んだの?すごい!」
すごい、すごいとクロエが褒めてくるので、ルイシャは照れ臭くなる。
幼少期、少し体力は付いたけど動き回れる程じゃない頃に、侍女に勧められて始めたのがキッカケだった。
カインやジェイスに、マフラーや刺繍入りのハンカチを贈った事もある。
ジェイスに趣味の話をしたら良いと助言を貰って、クロエに編みぐるみを渡そうと思って鞄に忍ばせていたのだ。
それから、どんなお菓子をよく作るのかとか、今まで何を編んだのかなど、会話が盛り上がっていると、予鈴の鐘が鳴った。
「あら、もうお昼休み終わっちゃうのね」
楽しい時間は、すぐに経ってしまう。
「あの、ルイシャさんが良ければ、明日も一緒にお昼ご飯食べない?」
クロエの提案に、ルイシャの答えは決まっている。
「明日と言わず、これから一緒に食べましょう」
そう答えると、クロエは「嬉しい」と笑顔になった。
「じゃあ、また放課後に」
「ええ、また後で」
中庭から校舎に戻った二人は、互いの教室に戻る。
友達との、初めてのランチはとても楽しかった。
(一緒に食べる約束も出来たし、これから楽しみだわ)
ルイシャは、これからの学園生活が、もっと楽しくなる予感がした。
クロエと友達宣言して数日経つが、ルイシャは今までと変わらない日々を送っていた。
放課後、生徒会室でクロエと顔を合わせれば挨拶を交わすが、それ以外はクラスも違うので会うことがない。
(属性別の授業が始まったら、同じ光属性だから一緒になれるけど)
属性別授業は二年生からなので、まだ半年以上先の話である。
なので接点が生徒会室しかない。
会えば笑顔で話しかけてくれるし、その笑顔を見ると、ルイシャも嬉しくて笑顔になる。
しかし『友達』とは何か、どう接すれば良いのか、考え始めると正解が分からなくなり思考が迷子になってしまった。
(前世の記憶って、ゲームのこと以外はうっすらとしか覚えていないから、友達ってどんなものかとか、どう過ごしていたのかってよく分からないわ)
乙女ゲームに関する記憶以外は曖昧なのだ。その曖昧な部分についても、ルイシャ自身ではなく、別の人物が歩んだ、別の人生なのであまり実感はない。
つまり前世の記憶は当てにならなかった。
一人で悩んでいても拉致があかないと思ったルイシャは、帰りの馬車でジェイスに尋ねてみることにした。
(お兄様はずっと昔からカイン様と友達ですし、きっと分かるはず)
幼少の頃からカインと友達のジェイスなら、ルイシャの悩みを解決してくれるのではないかと思った。
「クロエ・ルーキンからも昨日同じ質問をされたよ」
ルイシャの質問に、ジェイスが苦笑しながら答える。
クロエも同じ事に悩んでいたらしい。確かにお互い初めての友達だ。同じ事を悩んでいても不思議ではない。
「お兄様とクロエさんは仲が良いのですね……羨ましいです」
同じ事を悩んでいた事実は嬉しいが、その悩み相談をしたは兄のジェイスだという事に何となく羨ましさを感じた。
悩み相談するくらい仲が良いということである。
「仲が良いというか、僕がクロエ・ルーキンの指導をする事が多いから、その流れで聞いてきたんじゃないかな?」
確かに生徒会室でも、ジェイスがクロエに色々と教えている場面をよく見掛ける。
「そうでしたか。ところで、どうしてお兄様はクロエさんの事をフルネームで呼ぶんですか?」
ずっとジェイスがクロエを呼ぶ度に、気になっていた。
「え?えー、はじめは何となく呼びやすくてフルネームで呼んでたんだよ。今さらさん付けで呼ぶのも……でも名前だけ呼び捨てにするのは抵抗があるしで、もうフルネーム呼びで良いかってなってる」
名前ではなく姓で呼び捨てでも良いのでは?と思ったが、クロエもフルネームで呼ばれて嫌そうにはしていないので、「まあ、良いか」と思い「そういう理由でしたか」と頷く。
「ところでクロエさんの質問に、お兄様はなんと答えたんですか?」
フルネーム呼びの謎が溶けたてスッキリしたので、ルイシャは気になる本題に戻った。
「『友達だからって特別なにかをしないといけないわけじゃない。まあ、強いていうなら、一緒に過ごす時間を作ったら?』って言ったよ」
「一緒に過ごす時間ですか……」
「近々、声をかけて来ると思うよ。あとは、お互いの事を知っていくのも大切だよね。あ、でも、いきなり踏み込んだことを聞くのはダメだよ。ルイシャは大丈夫だと思うけど、もしクロエ・ルーキンから嫌なことを聞かれたり言われたりしたら、きちんと「嫌だ」って伝えるんだよ」
クロエの思った事をすぐ口にする性格を知っているため、ジェイスが言い足す。
「まあ、まずは趣味が何かとか当たり障りのないところから話していって、お互いを知っていったら良いんじゃないかな?」
「趣味……わかりました。ありがとうございます、お兄様」
ジェイスの助言を活かせるよう、ルイシャは屋敷に帰って、クロエと何を話そうか考える事にした。
その翌日。
朝の教室で静かに本を読んでいるとクロエが訪ねて来た。
「あの、ルイシャさん、もし良かったらなんだけど、今日一緒にお昼ご飯を食べない?」
少し緊張した面持ちで尋ねられる。
ジェイスが言っていた「近々声をかけて来る」とはこの事だったのだろう。
勿論、ルイシャの返事は「はい」だ。
「はい。喜んで」
そう返事をすると、クロエはパッと花が咲いたような笑顔になった。
「じゃあ、お昼休みになったら迎えに来るね。お天気も良いから、中庭で食べましょう?」
そう言って、クロエは嬉しそうに手を振って自分の教室に戻っていった。
ルイシャは振っていた手を頬に当てる。
自分が笑顔になっているのが分かる。
(嬉しい)
ランチに誘われた事もだが、ルイシャが返事をした時のクロエの反応も嬉しかった。
午前中の授業は、早く昼休みにならないかと、何度も時間を確認してしまうルイシャだった。
そして、昼休み。
約束通り迎えに来たクロエと、お弁当を持って中庭に向かう。
広い中庭には、いくつかベンチやテーブルが設置されており、既に何人かの生徒が楽しそうにランチをしていた。
「天気が良い日は、中庭は穴場だよって副会長が教えてくれたの」
ルイシャを誘うために、クロエは生徒会の先輩たちに色々と教えて貰ったようだ。
それから、授業の事だったり、生徒会の仕事の事だったりと他愛のない会話をしながら、お弁当を食べる。
(何を話そうか、ちゃんと話せるかな?って思ってたけど、心配なかったわ)
食後、何だかクロエがソワソワしているように見えた。
「どうしたんですか?」
「あ、えっと……食後にね、デザートを作って来たんだけど……」
「え、クロエさんが作ったんですか?」
コクコクとクロエが頷く。
「わぁ、是非、食べてみたいです」
「一応味見はしたから、大丈夫だと思うんだけど」
そう言いながら、クロエはバスケットの中から、プリンを取り出した。
(お弁当だけにしては大きいなって思ってたけど、デザートを入れていたからだったのね)
小さなスプーンと一緒にプリンを受け取る。
「いただきます」
優しい甘味と卵のコクがフワッと口の中に広がる。手作りならではの素朴な味わいが、とても美味しかった。
「……どう?」
心配そうにクロエが尋ねてくる。
ルイシャの口に合ったか気になるのだろう。
「とても、美味しいわ!クロエさんは、お菓子をよく作るの?」
「うん、昔からよく作ってたの」
昔と言うのは伯爵家の養子になる前も含めてのことだろう。
「いつもは家族に食べて貰うだけだったから、ルイシャさんに食べて貰えて嬉しい。また作ったら、食べてくれる?」
「勿論!!あ、そうだ、私もクロエさんに渡したいものがあるの」
実はルイシャもお弁当の袋の中に忍ばせていたものがあったのだ。
「これなんだけど、受け取って貰えるかしら」
ルイシャが、クロエの手にちょんっと乗せたのは小さなクマの編みぐるみだった。
「か、可愛い!!」
「編み物とか刺繍をするの好きなの」
「えっ、手作り?これルイシャさんが編んだの?すごい!」
すごい、すごいとクロエが褒めてくるので、ルイシャは照れ臭くなる。
幼少期、少し体力は付いたけど動き回れる程じゃない頃に、侍女に勧められて始めたのがキッカケだった。
カインやジェイスに、マフラーや刺繍入りのハンカチを贈った事もある。
ジェイスに趣味の話をしたら良いと助言を貰って、クロエに編みぐるみを渡そうと思って鞄に忍ばせていたのだ。
それから、どんなお菓子をよく作るのかとか、今まで何を編んだのかなど、会話が盛り上がっていると、予鈴の鐘が鳴った。
「あら、もうお昼休み終わっちゃうのね」
楽しい時間は、すぐに経ってしまう。
「あの、ルイシャさんが良ければ、明日も一緒にお昼ご飯食べない?」
クロエの提案に、ルイシャの答えは決まっている。
「明日と言わず、これから一緒に食べましょう」
そう答えると、クロエは「嬉しい」と笑顔になった。
「じゃあ、また放課後に」
「ええ、また後で」
中庭から校舎に戻った二人は、互いの教室に戻る。
友達との、初めてのランチはとても楽しかった。
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