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毒のリンゴが実る木
ブランシュは思い出しました。
『──ダメよ! このリンゴに触っては!!』
それは、王妃さまが嫁いできてすぐの出来事でした。王妃さまと仲良くなりたくて、ブランシュが王妃さまの部屋にこっそりと訪れたときのことです。
お庭で摘んだ花を贈ろうと思ったのです。
王妃さまの部屋の中には、まるで宝石のような赤いリンゴが実った木をを見つけました。
ブランシュは、あまりにも美しいリンゴに、思わず手を伸ばします。
しかし、ブランシュの指が赤い果実に触れる前に、王妃さまの鋭い声が聞こえました。
そのあと、ブランシュはすぐに王妃さまの部屋から出されてしまいました。
「だめ」と言われただけなら、記憶に残らなかったかもしれません。
でも、あのときの王妃さまの目は、怒りとも恐れともつかぬ色を帯びていて、ブランシュの記憶に焼き付きました。
それ以来、ブランシュが王妃さまの部屋に入ることは禁止されて、あの木の存在は記憶の奥底に沈んでいました。
でも、森に来る少し前。
図書室で、偶然開いた一冊の本の挿絵を見た瞬間、思い出したのです。
《──毒のリンゴが実る“宝石のような赤いリンゴの木”。見た目は普通の果実と変わらないが木の幹が黒い。熟すと毒を宿す》
挿絵に描かれたその木は、あの木とまったく同じ見た目をしていました。あの時は美しいリンゴの果実ばかり見ていましたが、確かに木の幹は黒でした。
そして、あの美しくて禍々しいリンゴの木は、まだ王妃さまの部屋にあります。
魔法の鏡の隣に。
(王妃さまは、あの毒リンゴを何に使う気なのかな……)
森の中。
ブランシュは、机に並べた小瓶と草の束を前に、静かに考え込みます。
目の前にあるのは、乾燥させた毒草。
すり潰した毒のある木の実の種。
ブランシュは、毒草や木の実を水に溶かして、香りと色を確かめていきます。
毒、と聞くと恐ろしいもののように思えますが、知識があれば薬にもなり、使い方次第で命を守る力になることを、ブランシュは知っています。
「もしかしたら、もう私の居場所は、どこにもないかもしれないから……」
誰に言うでもなく、そう呟きます。
王妃さまがライに告げた「追い出して」という言葉。
それは、ブランシュが森の中にいることが、もう王妃さまに“知られてしまった”ということです。
──だから、備えなくちゃいけないのです。この静かな日々が、終わる前に。
ブランシュは心の中で気を引きしめました。
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